悪役令嬢に転生したけど物理で世界最強になった件   作:Rosen 13

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公爵家やアレクシード側からみた事カサンドラについての説明があります。

長くなったので分けます。


旅立ちの裏側

「そうか、報告ご苦労」

 

 侍従からカサンドラ達が屋敷を出発したと報告を受けたアレクシードは自室の窓からカサンドラが向かっただろう街の方向をじっと見つめていた。

 

(カサンドラがただの冒険者として生きることになったことでキルシュバウム家は本当の最期を迎えたか。建国以来続く名家も終わりは呆気ないものだ。…………いや、終わらせたのは儂が原因か)

 

 今更なにを、とアレクシードが自嘲する。

 キルシュバウム家断絶はアレクシードの息子であったバートンが引き金だったが、アレクシードの中には息子の暴走を止めることができなかったという自責の念が常にあった。

 

(思えばバートンがあんな風になったのもまた儂のせいだった)

 

 

 元々アレクシードは公爵家の人間ではない。ハミルトン伯爵の次男として生まれたアレクシードは十代半ばで騎士団に入隊し、その武勇を大いに発揮していた。特にアレクシードが入隊した先々王時代は外敵の侵攻に内乱、その次代の先王時代も貴族間の対立と政情不安が絶えない時期で、その中で戦果を上げて出世したアレクシードは史上最年少となる二十代前半で騎士団長に上り詰めた。勿論就任に反対する意見もあったが、度重なる戦争で先代騎士団長など有能な人材を相次いで失った騎士団にアレクシードを登用しない余裕などない。幸いアレクシードは戦略家としても優れていたのですぐさま結果を出して一部の懐疑派を黙らせることができた。

 

 そしてようやく騎士団長として周囲から認められはじめたアレクシードに一足早く接触してきたのが当時政争に敗れて勢力を弱体化させていたキルシュバウム公爵だった。

 当初アレクシードは乗り気ではなかったが公爵が武人であるアレクシードを正当に評価していたこと、また前々から兄であるハミルトン伯爵に結婚を打診されていたこともあり、一人娘である公爵令嬢レイアと婚約、婚姻し婿養子として公爵家入りした。

『ミリムの夜叉』と畏れられてた騎士団長を味方につけたことでキルシュバウム公爵家は勢力を盛り返し、先々王から先王の時代になると公爵家は軍部で絶大な権力を握るほどまでとなった。

 

 

 

 しかしキルシュバウム公爵家の栄光はここまでだった。

 

 

 

 後の公爵家凋落の原因はアレクシード夫妻の不仲とアレクシードの政務能力の無さ、そして――

 

 

 アレクシードの義理の父だった公爵家前当主の急死だった。

 

 

 

 

 

(妻のレイアは義父殿と違い、武人の儂を好ましく思っていなかった。騎士団長として手一杯だった儂の代わりに領地の政務をこなしてくれた義父殿の死は一番痛かった)

 

 アレクシードも自分を評価してくれてた前公爵の死を悲しんだが、それ以上にレイアは父親の死を嘆き、父に仕事を放り投げたアレクシードをとても憎んでいた。実際は仕事に関しては公爵自身が進んでやっていたのだが、そうとは知らない妻からの憎悪にアレクシードは苦悩し、結局仕事を理由に家に帰ることは少なくなった。思えばこのときアレクシードが家庭と向き合うことができていたら、後の悲劇は避けられたのかもしれない。

 

 しかしアレクシードは妻と向き合うことをせず、そうこうしてるうちに再び内紛や王位継承争いが勃発した。その影響で騎士団長のアレクシードは内乱の鎮圧などでますます忙しくなり、気づけば家に帰ることがほとんどなくなっていた。

 

 だからこそアレクシードは知らなかった。妻がアレクシードの部下とデキていたこと、そして息子のバートンに歪んだ教育を施してアレクシードを憎ませるように仕組んでいたことを。

 

 全てを知ったときにはすでに手遅れだった。アレクシードは成人になったバートンに家督を奪われ、騎士団長も世代交代という理由で辞した。そして自分を憎むレイアとも離縁し、故郷に隠居することにした。アレクシードを憎悪の目で睨む妻と息子の姿を見て、仕事と言い訳して家族と向き合わなかった己の行いを後悔した。

 特に武人を好まなかった以外はできた妻だったレイアをあそこまで歪ませてしまったことへの後悔は大きい。お互い愛こそなかったが、アレクシードはレイアを妻として愛そうと努力をしてきた。しかし公爵の死を責められたことに動揺した彼は彼女から向けられる憎悪に耐えきれず拒絶してしまったことでその関係は完全に破綻してしまったのだ。

 

 

 それから十数年間、甥やその子供に武芸を教えていたりと隠居生活を送っていたアレクシードに中央の情報は入ってくることはなかった。レイアの死もバートンの暴走も。

 

 事態が動いたのは国王からバートンが自分の娘に不正を告発されたことでアレクシードを呼び出されたときだ。このときアレクシードは国王から初めて事件の概要、そして孫娘であるカサンドラの存在を知らされた。しかもその孫娘が王城に忍び込み資料を片手に陛下に直訴してきたと聞かされ、思わず頭痛に襲われる。どうやらその孫娘はかなり型破りらしい。しかも手練れであるはずの影の者を倒すなんてありえない。ちなみにアレクシードはこの事件や公爵家とはほぼ無縁だったのでお咎めはなかった。

 色々情報が飲み込めないアレクシードに陛下からある打診を受ける。

 

『そこでだ。アレクシード、このカサンドラ嬢を引き取る気はないか? 』

『……この老いぼれにですか? 』

『その通り。どうやら告発によると公爵家だけでなく随分と多くの貴族が関わっていたようだ。貴族内の勢力図が変わってしまうほどにな』

『なんと!? 』

 

 貴族内の勢力図が一変する。

 

 それはつまり関与したのが数人どころの話ではないことを意味していた。そこでようやくアレクシードは陛下の意図に気づく。

 

『なるほど、勢力や派閥が白紙になる貴族達にとってカサンドラは劇薬というわけですか。それなら貴族とのしがらみのない隠居中の私が引き取る方が混乱が少ないと。ですがそういう理由でしたら私より修道院へ行かせるべきでは? 』

『悪いがそのつもりは毛頭ない。アレクシードも彼女を見れば分かるさ。あれは修道院に収まるようなモノじゃない』

 

 事実、陛下の言葉に偽りはなかった。

 断罪の場での振る舞いもそうだがアレクシードがカサンドラを只者ではないと確信したのは執務室で彼女と顔合わせしたとき。

 泣かせるつもりで向けた殺気を彼女は一瞬驚くだけでいとも容易く受け流した。それだけでなく逆に嘲笑うかのように自分に向けられた倍の殺気をアレクシードに浴びせたのだ。それも同じ部屋にいた陛下達に気づかせることなくだ。

 

 断罪の場でみせた歳不相応の冷徹さ、アレクシードの殺気に動じない胆力、影の者を倒す戦闘スキルの高さ。そしてバートンと似つかぬその美貌。なるほど強欲な貴族なら多少の犠牲を払ってでも才色兼備で将来性豊かなカサンドラを求めるだろう。もし修道院に送ろうとしたら移動中の彼女を狙う可能性は捨てきれない。

 

 タチが悪いことに陛下はここまで分かっていながら家庭を蔑ろにしたことを後悔しているアレクシードに保護を提案したのだ。結果、陛下の思惑通りアレクシードは自身の不始末の贖罪と過去の過ちを繰り返さないため唯一の孫娘を受け入れることを決意した。

 

 

 

 

 まんまと陛下の掌で踊らされはじまった孫娘との生活は思いの外充実していた。

 好奇心旺盛なカサンドラはよくアレクシードに魔物や植物、世間の一般常識についてなどさまざまな質問をしてくる。最初は小さい子供でも分かることも質問してきたカサンドラの無知さを哀れんでいたが、彼女はスポンジのようにどんどん知識を吸収していく。気づけばアレクシードがまるで軍の参謀や高名な学者を相手してるように錯覚するほど高度な会話がカサンドラとのあいだで成り立っていた。これだけでもアレクシードはカサンドラを『劇薬』以上の存在と再認識するが、彼女は武芸でもまた常軌を逸していた。

 事実、カサンドラとレーニャの組み手は長年戦場に身を置いたアレクシードすら言葉を失うレベルに達していた。驚くのはとても十代前半とは思えない戦闘技術と巧さを身につけてるカサンドラはともかく、そこそこ手練れだと思ってたメイドのレーニャの実力もアレクシードの予想を大きく超えていたことだ。特に彼女の成長スピードはカサンドラすら感嘆する。

 既に騎士団の上位レベルと同等だったレーニャだが屋敷にきた当初はカサンドラとの差はとても大きく組み手もせいぜい三分もてばいい方だった。だが次第に四分、五分と少しずつ時間を長引かせ、最終的には三十分継続しても支障がないくらいに成長していた。互いに本気でないとしても元騎士団長が言葉を失うレベルの戦闘を三十分間続けるなど人外としかいいようがない。

 

 

 常人ならそんな彼女達の異常性に怖気づき、化け物と罵るだろう。アレクシードも彼女達の異常性は認識していた。だが同時に予想の斜め上を突っ走るカサンドラ達の姿は耄碌しかけたアレクシードには、かつて夜叉と呼ばれた自分を取り戻すには最高の刺激だった。

 

 

 

 

 

 

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