悪役令嬢に転生したけど物理で世界最強になった件 作:Rosen 13
なんやかんやあって私とレーニャは無事に屋敷を抜け出して街に辿り着いた。ちなみに2人は平民用の服とローブという格好だ。特にレーニャは獣人であるためこの辺はしっかり対策している。
「ここが公爵領最大の都市イリンピア。あんな屑が当主なのに結構賑わってるのね」
街は人通りが多く、それぞれの店からは客寄せの声が聞こえる。予想以上の活気が満ち溢れている。
「イリンピアは先代当主様の時代からこの地域の経済の中心らしいですからね。王都ほどではありませんが地方では有数の規模を誇りますよ。もっとも、昔ほど治安は良くないみたいですが」
「表通りは賑わっているけど、裏路地は駄目なようね。皆、裏路地を避けてるみたいだし」
表通りは活気溢れる感じだけど、裏路地のある場所は空気が死んでるような鬱々した感じがする。
「裏路地は浮浪児の溜まり場ですので、お嬢様もそこには近づかないでください。お嬢様のような方は服で誤魔化そうとしても奴らの目は誤魔化せません。間違いなく狙われます」
最初は淡々と話していたけど、、だんだんレーニャの語りが熱くなり始めた。
「そうです! 絹のようになめらかなではじけるような瑞々しい白い肌、銀糸のようなきめ細やかで美しい髪、人形のように可憐で上品な美しい顔、そしてなにより不遇の立場にも悲観せず前向きに生きるその生き方と気高き魂! まるで女神の如きお嬢様を狙わない輩なんているはずがありません!」
「あー……うん……とりあえず私についての説明ありがとう?」
どーしたんかねレーニャは。ここまで変態じゃなかった気がするんだけどなー。私のことを心配してくれてるのは分かるんだけど。
「うん、裏路地には気をつけるわ。とりあえず辺りを見てみるかしら」
レーニャと手を繋ぎながら大通りを一通り回ってみる。ちなみにお金はレーニャが持っている。本人曰く、「自分の金でお嬢様が喜ぶならお金も幸せ」らしい。なんて良い子なの・゚・(ノД`)・゚・
「らっしゃい! お嬢ちゃん達、オークの串焼きはどうだい? 1つ石貨5枚だよ」
私達に声をかけてきたのは屋台のおじさん。屋台にあるオーク串焼きが良い匂いで、私達の食欲を刺激する。石貨5枚かあ。
この世界の貨幣は価値が低い順に石貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。前世の価値に換算すると石貨1枚で百円、銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円、白金貨が百万円くらいらしい。
そう考えるとオークの串焼きは五百円か。屋台の品物と考えると妥当かな。ちらりとレーニャの方を見てみる。二人分だと銅貨1枚だ。序盤で安くない出費になるなら諦めるつもりだったが、
「ダラダラダラダラ……ッハ! ど、どうしますか?」
レーニャ、涎がふけてないよ……
「食べましょう。おじ様、串焼き2つお願い」
「お、おじ様? なんだかよくわからねえけどイイ響きだ。よし! 2つで石貨7枚にまけよう。可愛いお嬢ちゃん達にサービスだ」
「ありがとうございます、おじ様♪(にぱぁ」
「「ゴフッ!」」
ファッ!?
「い、いいってもんよ……ガクッ」
「お嬢様は……天、使……ガクッ」
「???」
いきなりおじ様とレーニャが吐血したんだけど、何がおきたのかしら? レーニャに関しては膝から崩れ落ちてるし。
「ねえ大丈夫?」
心配になって覗き込むと、レーニャと目が合う。彼女の顔は真っ赤だ。
「ブ……」
「ブ?」
「ブッハァァァァア!!!」
「えええええ!? レーニャアアアア!?」
は、鼻血が! レーニャの鼻血が噴水みたいなことにいいいい!?
「はあ……なんで街に着いて早々疲れないといけないのよ」
「……申し訳ありません」
流石に2日連続で粗相したのはショックだったのか、レーニャは落ち込んでいた。変態化は収まったけど、テンションが低くてなんか調子が狂うな。
「……あっ!」
テンションが低かったせいか、注意散漫になっていたレーニャは財布をスリに奪われてしまった。
「ちょ! 待ちなさい!」
「え!? お嬢様?」
あの財布には汗水垂らして働いたレーニャのお金が入っている。そのまま奪われてたまるか!
スった犯人はやや小柄で、追いかけてきた私に気づいて走り出した。私は早く捕まえたかったが、人混みと体格差のせいでなかなか追いつけない。体力は鍛えていたおかげで問題なかったけど、足幅とかの体格差は大きかった。犯人はこの道に慣れているらしくさっさと裏路地に入ってしまう。一瞬レーニャの忠告を思い出すが、その時には私は犯人を追いかけて裏路地に入っていた。今頃になって忠告を思い出したことを後悔するけど、このまま諦めるつもりはない。それに人混みのない細い路地は私にとっても好都合だった。
走るスピードを落とさないまま三角蹴りで壁に飛びつき、その反動を利用してジグザグと壁の間を飛び交う。壁を蹴る瞬間に脚部に気を流し込むことで爆発的なスピードを生み出しているから、どんどん犯人との距離が詰まっていく。
「捕まえたぁぁぁぁ!!!」
手をクロスにして相手にそのままダーイブ!
「へ?……へぶっ!!」
ズザザザザァァァァ
背中に私のダイブを食らった犯人は顔面から地面へダイブ。そのまま数メートルすっ飛んだ。
「アアアアアアアア!!」
小柄だったから子供かと思ったら犯人はおっさんだった。顔面を押さえつけながら断末魔の叫びで悶えていた。なんか痛そう(小並感)。
だけど傷口に塩を塗るのがカサンドラクオリティー。
「ほらさっき盗んだ財布返しなさい!」
犯人の背中を踏みつけながら髪を掴む。この時、何度も顔を地面に叩きつける。無害な幼女にいいようにやられるとかなんて無様。
「わ、わかった。わかったから髪を離してくれええ!」
財布を投げながら幼女の私に泣いて懇願する犯人。……なにこれ情けないなあ。
このまま解放するのは癪なので最後に思いっきり顔面を地面に叩きつけて終了。グシャって音したけど問題ないよね。無事財布も回収したし、あとは……
「あっるぇ? ここどこお?」
辺りを見回しても壁、壁、壁。しかも初めてこの街来たからどこに何があるなんて分からない。これって、つまりーー
「迷子ですか、そうですか」
いや洒落になんねえ! 財布回収しても迷子になっちゃ世話ないよ! どうすんの、どうすんの!
ガサガサ
「っ!?」
何処からか物音が聞こえた。おかげでパニックは沈静化したけど、レーニャの忠告もあって周囲への警戒度がMAXだ。
ガサガサ
また聞こえた。物音が聞こえる方へ目を向けるとそこには、
「こ、子供?」
ジッとこちらを見ている小さな男の子がいた。身長からして私と同じくらいの年齢だろうか。綺麗で可愛い顔をしているけどこの子は一体何者なんだろうか。着てる服は汚れているが、よく見ると生地は上等なものを使っているようだ。
(考えられるとしたら貴族の子息の線。でもそれだったら何でこんなところに?)
裏で繋がりがある貴族ならこんなところに来る可能性はありそうだが、それなら子供を連れてくるわけがない。しかもこの子の周りに人の気配がないことから、護衛も近くにいないことがわかった。普通なら護衛もなしに放置なんてありえない。それにこんなに小さいこの子が護衛を振り切った可能性は極めて低い。もし本当に振り切られたなら護衛として失格だ。
となると可能性が高いのは誘拐かな。誘拐ならこの子がここにいることや汚れていることの説明がつく。とにかくこの子に話しかけて事情を聞いてみる必要がありそうだ。
「ねえ君、何でこんなところにいるのかな?」
男の子は私に話しかけられてビクッとしたが、特に警戒する様子もなく素直に話しだす。
「わかんない。朝に俺を捕まえたおっさん達がいなくなってたから、逃げ出してきたらここにいた」
「捕まえた? どういうこと?」
「なんか屋敷の外に出てたらいきなり連れていかれた」
「その捕まえた人ってどういう人か覚えてる?」
「うーん、髭がいっぱい!」
髭がいっぱい? 山賊っぽい感じかな? でもこれだけだとどういう人間か分からないなあ。
(誘拐犯から逃げ出してここにいるってことは長居は危険ね。でもここの土地勘なんてないからどうしよう)
「お嬢様〜! お嬢様〜!」
途方に暮れていると、何処からかレーニャの声が聞こえてきた。しかも段々とこっちに近づいてくる。声の方向を見てみるとそこには爆走しているレーニャが。
「お嬢様!」
「レーニャ!」
よくここが分かったわね――
パァン!
「……え?」
衝撃とともにカッと頬に熱が集まる。しばらくしてジンジンと痛みが私を襲ってきた。そして目の前には手を振ったレーニャ。もしかして私、叩かれた……?
「お嬢様は自分が何をしたか分かっていますか?」
背筋が凍りそうな冷たく低い声。彼女の顔は怒ってもなく、泣いているでもなく、ただただ無表情だった。普段の彼女からは想像できないほど冷酷な表情をするレーニャは見たことなかった。
「……スリの犯人を追いかけた」
私は素直に自分のしたことを話した。自分でも忠告を無視して裏路地まで追いかけたのは悪かったと思っていた。
私から全ての話を聞いたレーニャはこめかみを押さえながら呆れていた。
「お嬢様に常識が通用しないことは分かっていましたがここまでとは……最初は私が原因とはいえ、お嬢様がいかに無謀な行動をしたかを叱ろうと思っていたのに……」
「心配かけて本当にごめんなさい」
レーニャに心配かけた今回は全面的に私が悪いのでしっかり謝った。
「いえお嬢様が無事で何よりですよ。でも下手したら誘拐されたかもしれませんでしたから、二度とこんなことはないようにお願いしますね。……ところで先程から気になっていましたが、お嬢様の後ろにひっついている子供は何者でしょうか」
はっ! レーニャに指摘されるまでこの子の存在を忘れてた。
「あー、この子多分誘拐された貴族の子供……かな?」
「え?」
とりあえずレーニャにこの子と出会った経緯と事情を話す。かくかくしかじか。
「うーん、これだけだと何とも言えないですね〜。街の詰所で保護させるにしても、最低でも貴族の子供である証拠は必要ですし」
「そうよねえ。証拠がないと動きようがないだろうし」
「ところでこの子の名前はなんて言うんですか?」
「……え?」
「だからこの子の名前ですよ。……まさか聞いてないんですか」
はい。すっかり忘れていました。普通、最初に聞くよね……
「えーと、僕、名前は?」
レーニャが登場したあたりからずっと黙っていた男の子に声をかける。退屈だったのか男の子は少しボーッとしていた。
「えーとね、僕の名前はラ「餓鬼!こんなところにいやがったな!」……あっ!」
突然聞こえた乱暴な声の方向を見ると、いかにもガラが悪そうな男が数人こちらを睨んでいた。
「ひっ!」
今まで変わった様子がなかった男の子が怯えている。
「あら、この子に何か用かしらおじさん達?」
「あん? なんだチビ。てめえには関係ないだろうが。さっさとそこの餓鬼を俺達に渡しな」
うわあ、子供相手に何凄んでいるんだか。
「ですがこの子は怯えています。はいどうぞと簡単には渡せません」
ここでレーニャも援護射撃してくれた。私の想像だけどこいつらはこの子の誘拐犯かもしれない。私を掴む男の子の手の力が強くなっている。
「うるせえ! 痛い目に遭いたくなきゃさっさと渡せ!」
今度は恫喝か。しかもこの子との関係性について一言もない。ますます怪しいね。
「(もしかしてこの人達に誘拐された?)」
男の子の方をちらりと見て小声で聞いてみる。男の子は怯えていたがコクリと首を縦に振った。レーニャをチラリと見ると彼女の目と合う。
(こいつら黒よ)
(了解です)
「とにかくこの子は一度詰所に連れて行きます。お引き取り下さい」
「ふざけんなよ、このアマ!」
レーニャが強い口調で言うと、男の1人がギレてレーニャに殴りかかった。
男の拳はレーニャの顔面めがけていくが、それが顔面に届くことはなかった。何故なら……
「遅いですね。それに威力も足りない。駄目駄目です」
レーニャは涼しい顔で男の拳を右手一本で容易く受け止めていた。男は一瞬呆然としたが、すぐに我に返って拳を引き抜こうとする。だけどそれは無理なことね。
「え? あれ?」
男が思いっきり引き抜こうとしても、男の拳はレーニャに捕まってビクともしない。男が1人だけ力いっぱい引っ張る姿は滑稽だ。男の仲間達もポカンとしている。
捕まえたレーニャは飽きたのかいきなり手を離す。その反動で男はバランスを崩して勢いよく腰を打った。ざまぁ。
あまりの滑稽さにしばらく沈黙が続いたが、私達に馬鹿にされたことに気づいたのか男達は火が吹く勢いで顔が赤く染まる。
「てめえら、やっちまえ! 女は捕まえたら好きにやっていいぞ!」
1人の男のゲスい命令をきっかけに男達は私達に襲いかかってきた。大半はレーニャのもとに向かったが何人かがこちらに向かってくる。私を人質にするつもりなんだろうか。まあ無駄なんだけど。
次で、次こそ終わらせます……(´・ω・`)