悪役令嬢に転生したけど物理で世界最強になった件   作:Rosen 13

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幼女とメイドのぶらり街巡り 下

 男の命令で男達が私達に襲いかかってくる。人質にするつもりなのか私には2人が向かってきた。

 

 ただでさえ数的不利なのに私の背には男の子がしがみついている。彼を守りながら大人2人を相手するのは些か厳しかった。かといってこの子を連れながら逃げても、逃げきれずに捕まる可能性が高い。必死に足りない頭を回転させると脳内にあるアイデアが天啓のように舞い降りてきた。

 

(守りながら戦うのが難しいなら、いっそのこと守らなければいいじゃない!)

 

 と言っても私の背中に引っ付いてるこの子を見捨てるわけじゃない。この子を一時的でも敵の手に届かないところへ行かせるのだ。その隙に私は思う存分戦うことができる。だけど敵が迫る今の状態でそんな安全地帯はほぼなかった。()()()()()()()()()()

 

「ごめんね(ぼそり」

 

 男の子の服を掴むとそのまま彼を真上に放り投げる。

 

「えっ、えっっ、えええええええええええええ!?」

 

 投げる際に全身を気で強化してたからもんだから、彼の影は悲鳴とともにだんだんと小さくなっていった。た〜まや〜。

 男達もレーニャも飛んでいった男の子をポカンと見つめている。

 

「レーニャ!」

 

 彼が宙にいる時間は長くない。その前に男達を始末しないといけなかった。私は呆然としてた2人の男に突っ込み一気に間合いを詰める。男達は私を見失っていた。時間があるなら確実に仕留めるように首を狙うが、今回は時間がないのと相手の男達が大柄だったことで首ではなくある部分を狙った。

 

「イヤァァァァァ!!」

 

 腰を構え、体を横向きにして男の臀部に拳を捻じ込ませる。前世で十八番だった八極拳の突き技『沖捶(ちゅうすい)』。そして拳が男に命中したと同時に震脚でさらに威力を上げた。

 

「ガッ……!!……アッ」

 

 拳にぐちゃりとナニかが潰れたような感触が伝わる。股間を打ち抜かれた男は身体をくの字に曲げながら白目を剥いて気絶した。後半の部分は聞かなかったことにしよう。

 

「次!」

「あ?」

 

 1人目の男が崩れ落ちた瞬間、すでに私はもう1人の男の目の前まで迫っていた。

 

 奥義『縮地』

 

 前世の実家の古武術道場で体得した奥義のひとつで、成功率は高くはなかったが今回は上手く成功したようだ。そして先程と同じように男の臀部に拳が打ち込まれる。

 

「……!!」

 

 こちらの男は声すら上げられずに気絶した。この間、わずか10秒足らず。また拳がナニかが潰れたような感触に襲われたが、この事を深く考えたら乙女的な意味でいけないような……

 

 男達は顔を真っ白にして股間を押さえて倒れている。コヒュー、コヒューとかすかに漏れる吐息が聞こえるからまだ辛うじて生きているようだ。確かな手応えがあったから当分は男達のアレは使い物にならないかもしれない。

 

 男が気絶したのを確認すると、私は三角蹴りで壁と壁の間を跳躍して空へと駆け上がる。目的は空中へ放り投げた男の子の確保。彼は未だに空を旅していた。表情が固まってるように見えたけど気のせいだよね。

 

 ふと下を見ると、死屍累々の男達の中でレーニャが最後の男の顎を蹴り飛ばしていた。私が放り投げた際は呆然としてたけど、あの時のかけ声で我に返ってたようだ。男達が5人以上はいたのに仕事が早くて何より。

 

(ハア、物足りませんねえ。後でお嬢様に扱かれたいです。そしてあんなことやこんなことを……フフフフフフフフ)

 

 なんかレーニャから微妙に邪な空気が出てるような……男の子の救出が第一なんだけどあれをスルーすると後悔しそうな気がするんだよなあ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(俺、空飛んでる! 空飛んでるよ!)

 

 一方カサンドラに投げられた男の子はいきなり自分が空を飛んでることに驚いたが同時に滅多にない体験に興奮していた。

 

「すげえ……」

 

 空中に浮かんでいる彼の目にはイリンピアの街全体が映っていた。大通りの人混みも裏路地にひっそり暮らす人々も全て見える。この世界では簡単にお目にかかれない光景は幼い彼を魅了するには十分だった。恐らく生まれて初めてだろう衝撃を目の当たりにした男の子は自身の状態も気にせずひたすら景色に魅入っていた。

 

 だがそんな時間も終わりに近づいていた。ゆっくりと男の子の視線が下がってくる。自由落下だ。放物線を描くように徐々に高度が落ちてくる感覚は幼い彼にとっては大きな恐怖でしかなかった。すでに街並みを見たときの感動は消え去り、満面の笑みも恐怖で引き攣った表情に様変わりしている。

 

「…………!?」

 

 恐怖で声が出ない。そうこうしてるうちに落下スピードも上がってきた。このままでは後数秒で彼は地面に叩きつけられミンチと化すだろう。彼自身はそこまで理解できていないだろうが、彼は恐怖でギュッと目を瞑る。すると誰かに抱かれるような感覚が彼を包んだ。

 

 彼を襲ったのはわずかな衝撃だけだった。

 

「……あれ?」

 

 男の子はゆっくり瞼を開けると目の前には綺麗な女の子の顔が。カサンドラである。

 

「気づいた? 怪我はない?」

「え?」

 

 ここで彼は自分の状態に気づく。彼はカサンドラにお姫様抱っこされていた。

 

「えと、大丈夫」

「そう。良かったぁ」

「…………」

 

 一息ついて安堵するカサンドラ。に見惚れていた。

 

「心配しないで。君を追っていた男達は私達が倒したから」

 

 見惚れていた彼の様子を不安を感じていると勘違いしたカサンドラは、彼の頭を撫でながらにっこりと笑う。

 

「……////」

 

 彼の胸の鼓動が早まり顔が赤く染まる。ドキドキと同時にまるで父親に抱かれているような安心感が彼を包む。

 

「……かっこいい」

 

 幼い彼は年不相応に大人びていて威風堂々としているカサンドラが眩しく見え、彼女に憧憬の念を抱いていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あー、この子に怪我がなくて本当に良かった。もし怪我してたら罪悪感が半端なかったよ。あの時は名案だと思ったけど、よく考えたらとんでもないことしたと思う。

 

「いやあ、よかったよかった」

「無事でなによりなのは同感ですが、いい加減私の上からどいてくれませんかお嬢様……」

 

 レーニャの呻き声が私の下から聞こえた。視線を下げるとレーニャは私達の下敷きになってる。

 

「ごめんなさいレーニャ、すぐにどくわね」

 

 男の子を降ろして自分もレーニャから離れる。レーニャはパンパンと服についた土を払う。ダメージを負ったかなと思ったら意外とけろりとしてる。

 

「お嬢様が空から落ちてきたのを見て肝を冷やしましたよ。いくら彼を助けるためとはいえ、あんな無茶はやめてください」

「ごめんなさい……」

 

 それについては何も言い返せません。はい。咄嗟に空中で男の子をキャッチしたまではよかったけど、その後のことは何も考えてなかった。あの時は全身を気で強化すれば何とかなると思ってたし、男の子にかかる衝撃のことも全く考慮してなかった。レーニャが滑り込むように私を全身でキャッチしなかったら男の子はどうなっていたことか。

 

「あの……私はお嬢様の身も心配してるのですが」

「何で私が考えてることがわかった!?」

 

 もしかしてレーニャってテレパシーの使い手!? 前世で時々見かける超能力者ってやつなの!?

 

「なんか失礼なこと考えてます? お嬢様とは付き合い長いですから何となくわかるだけですよ〜」

 

 それってそれなりに私を信頼してるってことなのかな。そういうの久しぶりでなんか嬉しいな、えへへ。

 

「ニヤニヤしてますよお嬢様。……じゃなくて、お願いですからお嬢様はもっと自分の身を大事にしてください」

「大事にはしてると思うんだけど……」

 

 ぼそりと反論したら、レーニャは額に青筋を浮かべたと思ったらハア、と溜息をついて頭を抱えた。

 

「とりあえずこの事は帰ってからにしましょう。お嬢様には自覚が足らなすぎです。……まずはこの子をどうするかが第一ですね」

 

 話が露骨に変わったがレーニャの言う通りね。そろそろこの子の名前を聞かないと。

 

「ねぇ、あなたの名前は何て言うのかしらぁ?」

「……プッ」

 

 なるべく私よりやや小柄な男の子を威圧しないように少ししゃがみ、上目遣いで尋ねる。同じような配慮で若干猫撫で声にしたけどレーニャめ笑ったな。そんなに似合いませんかそうですか。

 

「えっと、ランドルフ。ランドルフ・ハインケスって言うんだ」

 

 ……はい? ランドルフだって? なーんか嫌な予感が。

 

「ええとごめんなさい。ちょっと聞き逃しちゃって。もう一度言ってくれるかしら」

 

「ランドルフだよ。ランドルフ・ハインケス!」

 

 聞き違いじゃありませんでした……でももしかしたら同姓同名の別人って可能性もーー

 

「ハインケス? もしかして騎士団長のハインケス伯爵の縁者でしょうか」

 

「そうだよ。おねーちゃんもかっこいいけどおとーさんはもっとかっこいいの!」

 

 はい間違いなく攻略対象者のランドルフ・ハインケスです、本当にありがとうございます(白目)

 

 でもゲームではランドルフ・ハインケスは屋敷を1人で抜け出したところをたまたま誘拐されて、伯爵領内ですぐに父親達騎士に救出されてた。実際関わりがあったのかは知らないけど、少なくともその場面ではキルシュバウム家は登場していなかったはず。それなのに何故ランドルフ・ハインケスが公爵領まで誘拐された? しかも伯爵領からここイリンピアまでの距離で考えると最低でも誘拐されてから数日は経過している。もし私達と出会わなければ彼は無事にいられただろうか。あまりにもゲームと剥離している。一体何がどうなってんの。

 

 ……いや待って。ゲーム通りじゃない? つまり現状考えられるのはゲームとはまた別の平行世界という線と、

 

「私の存在によって起きたバタフライエフェクトの影響か、ね」

 

 やべっ、うっかり声に出しちゃった。聞こえてないかな。

 

「伯爵の子息様でしたか〜では早く連絡しなくてはなりませんね〜」

 

 レーニャはランドルフ少年と話していた。どうやら聞こえてなかったようだ。

 

「ではお嬢様。これから伯爵家へ連絡したいと思うのですが〜」

「それもそうね。本人かどうか確信できていないがハインケス伯爵家のランドルフ・ハインケスと名乗る少年を公爵家が保護したと連絡するべきかしら」

「それが妥当ですね。ではこの子は屋敷に連れて行くんですか?」

「あそこに預けるのも心配だけど、ここにいるよりかはマシでしょうね。街の警備隊にこの子は伯爵家の子息ですって言っても多分信じてくれないからどうしようもないし。一応伯爵家の子息を保護したと伝えればそれ相応の待遇はさすがにするでしょ」

 

 正直、悪い意味で人間ではない公爵家に預けるのは不安だけど少なくともセバースとかまともな人間もいるから大丈夫だと思いたい。さすがに幽閉状態の私達と一緒に過ごすのはアウトだからね。

 

「でもどこで見つけたと言いますか? 素直に答えたら屋敷を抜け出したことがばれてしまいますよ」

 

 だよね〜。しかも一応幽閉されてることになってるから、外に出たことがばれたら本当に面倒くさい。監視の目が厳しくなりそう。

 

「なら屋敷の中で見つけたことにしたりなんて――」

「一理ありますね」

 

 冗談だけど、って言おうとしたらレーニャが本気でありだと考え始めた。

 

「冗談よ冗談。そんな言い訳通用するわけないでしょう」

「えっ、十分通用すると思いますよ。何せ何度も別館に輩を侵入させてるほど緩い警備ですから。子供1人迷い込んでも問題ないです」

「いや無理あるでしょう。暗殺者はともかく子供が迷い込んだことすら気づかないことは……流石にないわよね?」

 

 否定したいのに自分でも自信がなくなってきた。夜の暗殺者の侵入を許すのは仕方ないとしても、うちの警備って一度昼間に暴漢の侵入させていたからなぁ。真昼間に襲われた時は警備のザルさに呆れて物が言えなかった。

 

「別館付近は本当に誰もいないので、別館の近くで見つけたと言えばいいんです。警備の緩さはセバース様も知ってるでしょうし文句は言わないはず」

「セバースが警備の緩さを知ってたら対策するんじゃない? 彼ってかなり優秀だし」

「それは無理ですよ。まあ、これは後で話しますね。そろそろ暗くなるのでとりあえずここから離れましょう」

 

 

 

 それから私達はランドルフ少年を連れて屋敷へと戻った。戻った際も全くばれなかったけど。いくら当主夫妻が不在の屋敷とはいえ、本当にこの家の警備が心配になる。

 

「ハインケス伯爵家……現当主が王国の騎士団長か。名前もゲームと同じだ」

 

 今、私は屋敷の書庫で貴族関連の資料を漁っていた。レーニャはランドルフ少年を連れてセバースのところへ報告に行っている。

 

 ある程度の資料を読み漁った結果、資料に載っていなかった攻略対象者の情報以外の王族や貴族の名前は知っている限りゲーム内の設定とほとんど同じだ。だけど1人だけ私のゲームでの記憶とは異なった人物がいた。

 

「でも現王妃レイカ・ローズウェンディス……この人一体何者なの?」

 

 ゲームで登場した王妃はレイカなんて名前ではなかったし、そもそもこの人の経歴は王妃とは思えない異色のものだ。

 

 ――レイカ・ローズウェンディス。

 

 資料によれば彼女は王妃になる以前は貴族でもなく平民だった。だがその正体はただの平民ではなくこの世界で知らない者はいないと言われるほどの高名な魔術師だ。ついた異名は『魔道革命家(リヴォルツィオナーリア)』。その名の通り魔術の概念を覆した天才と言われている。

 

 彼女の偉業はそれまで戦闘しか使用されなかった魔術を日常生活や娯楽に取り入れたり、彼女独自の新たな魔術を開発したりなど資料に載っているだけでかなりの数がある。中には不老不死という伝説すら存在した。

 

「この人、絶対只者じゃない。まるで戦略級魔術師ね」

 

 でもこの人王妃なんだよなあ。このままいくと遠からず会うことになるんだろうか。……手合わせはしてみたいけど。

 

「お嬢様、よろしいでしょうか」

「あらレーニャ。結果はどうだったかしら」

 

 報告が終わったのかレーニャは書庫の入り口に待機していた。

 

「問題ありませんでした。ランドルフ・ハインケス様はこちらで無事保護、伯爵家にも連絡するのことです」

「彼の身柄は本館なの?」

「……はい」

 

 レーニャの声は暗い。彼が私にとって初めての同年代だったことを気にしてるようだ。

 

「別にレーニャが気にすることじゃないわ。私も気にしてないもの」

 

 最悪、私の敵となる可能性があるしね。

 

「そろそろ動こうかしら」

 

 私のその呟きは誰の耳にも聞こえず、書庫に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり伯爵家の餓鬼には逃げられ、追っ手も女の2人組にボコされたってことだな?」

「それでよくのうのうと顔を出せたよね。取引先である君達の失態のせいでウチのボスはカンカンだよ」

「しかも逃げられた場所がよりによってイリンピアってのは笑えないな。ボスのお膝元で舐めた真似してくれたなあんたらは」

「ボスは売却先の貴族様のところに向かっている。こちらの面子を完全に潰された。楽に死ねると思うな」

「ところで例の女2人組はどうする?」

「今のところ、どうとするつもりはないな。被害は出たがそれはこいつらの失態が原因だ。報復にすらならねえよ」

「ひとまずこいつらは処分でよろしいかな」

「異議なし」

 

「では貴様ら。我々『因果の鎖』を怒らせた罪、償ってもらうぞ」

 

 この夜ある暗部組織が消滅したが、それを知る者はほとんどいない。

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