悪役令嬢に転生したけど物理で世界最強になった件   作:Rosen 13

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愚者の選択

 二十数年前。天界。

 神はミカエルにこう告げる。

 

『君は機械的過ぎる。一度、人として生きて感情というものを学んでみるがいい』

 

 当時、『システム』を操作するだけの生きた機械と化していたミカエルは差し伸べられたその手をとる。その選択が世界の運命を歪め、滅びへと歩ませることになるとは知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未知の生命体による天界への襲撃の中、ミカエルとラファエルは『システム』がある天界の中枢部にいた。周りには二人の他に誰もいない。

 

「ラファエルも覚えてるとは思いますが、かつての私は下界の文化と触れ合っている同僚と違って、下界の生死を司る『システム』を操作するだけの存在でした」

「ええ、よく覚えてます。下界との繋がりがあった私達と違い、ミカエルは『システム』のことにしか関心がなかった。我々天使の中でも異質な存在でしたよ」

 

 ラファエルは先程まで焦りと動揺から乱暴な口調になっていたが、ミカエルのペースに乗せられたことで徐々にクールダウンした。

 

 すでにグレゴリにも現場に直行するよう指示を出している。天使の中でも突出した実力をもつ彼らが戦場に赴けば問題ないはずだが、ラファエルの中には漠然とした嫌な予感が未だ燻っていた。

 

「ラファエルの言う通り、私は下界に興味はなく、『システム』に固執していました。結局は『システム』の通りになるのだから、下界のことはどうでもいい、とね。当然、そんな私は下界の状況も知るはずがなかった。そんなある時、神は私にこう言いました」

 

『人として生きてみろ』

 

 天使でありながら『システム』のみ重視し下界との関わりを疎かにしたミカエル。彼の下界への無関心さは天界の中でも一番の問題だった。

 

 当然ミカエルはそれを拒否した。彼の辞書には下界のげの字すら存在していなかった。

 

 だが天界中に神と同意見の声が大きくなると、次第に拒否することが難しくなってくる。天使でありながら下界を疎かにしたのは事実だったし、周りの声で自分が間違っていることを理解しはじめたからだ。

 

 やがてミカエルは悩みながらも一時的に人として生きることを決めた。

 

「そして私は東城エルという人間として生きることになりました。人間として生きることは天界の『システム』に干渉することができないことを意味しています。転生した当初は『システム』がないことに絶望しましたが、結果的には感情というものを知り、得ることができました。……これだけなら単なる美談として終わったでしょう。ですが、そうはいかなかった」

 

 ミカエルがそれに気づいたきっかけはある違和感だった。

 

 

 

 それは妹の美波が交通事故で生死の間を彷徨い、エルが自身の魂を昇華させることで祝福の力を使い美波の傷を治癒した時だ。無事治癒に成功したミカエルは見落としや不具合を遺さないようにもう一度美波の生体データを調べていた。

 

(傷に関しては見落としも後遺症もないみたいですが、何でしょう、この胸に引っかかったような変な感じは……)

 

 調べているうちに彼女の胸付近に違和感があることに気づく。もしかして心臓に疾患でもあるのか、残された時間は少ないが愛する妹の為身を削りながら慎重に解析すると予想外の結果ミカエルは声を失った。

 

(一体どういうことだ……何故、何故美波の魂が欠損しているんだ!?)

 

 ――魂の欠損

 

 それは普通なら起きるはずがない、ありえない事象。魂というのは水がギリギリまで溢れているバケツのようなもので、もしそれが壊れていれば水である生命エネルギーは溢れて、全ての生物は生命を維持することはできない。

 

 心臓以前に生命に必要な器が壊れていると考えれば当然のことだ。つまり生物の魂は欠損がないのが当たり前で、それはどんな大悪人も例外でもない。

 

 だからこそ、ミカエルは信じられなかった。

 

 

 美波の魂が欠損していたことに。そして彼女の魂の欠損が何者かに壊された形跡があったことに。

 

 

 

 

「それから失意のまま天界に戻った私は、あらゆる方法を使って魂の欠損についての情報を探しました。だがそんなことは前代未聞。情報なんてありませんでした」

 

 ラファエルは驚きで声を出せなかった。そんなこと知らなかった。

 

「なんで私に話してくれなかったのですか。話してくれれば「話したら、何ですか」……」

 

 ミカエルの言う通りだ。ラファエルとミカエルは今でこそそれなりに親交があるが、当時はただの同僚という関係でしかなかった。そんな関係だったラファエルに魂の欠損などという前代未聞で世迷言な相談ができるはずがない。

 

「ですが――」

 

 黙ったままのラファエルを無視するようにミカエルは続ける。

 

「数年前、私は魂の欠損ではありませんですが、ある発見をしました。『システム』のことです。『システム』は下界の生死を司るものではなかった」

「馬鹿な! 我々は数千年もの間、『システム』を使って生と死の均衡を保ってきたのですよ! 『システム』が下界の生死を司るものでなかったとしたら『システム』は一体何なんですか!?」

 

 ラファエルの悲痛な叫びが二人だけの空間に虚しく響く。ミカエルの言ったそれは、天界のアイデンティティーを破壊するには十分だった。

 

「一言で言うなら『システム』は我々の上を行く存在です。私も人として生きたときに、ハッキングを学んでいなかったら気づくことはありませんでした。まさか『システム』がアカシックレコード(・・・・・・・・・)に直接接続するための(・・・・・・・・・・)プログラム(・・・・・)的役割(・・・)だなんて誰も思いもしませんよ」

 

 まさに絶句。今まで下界の生死を司るものと思っていたものは、とんでもないものだったのだから。

 

「え……うそ……アカシックレコードなんて天界の中でもお伽話の中の存在だと思ってたのに……というか『システム』ってコンピューターだったのですか?」

 

 ズコッ

 

「ラファエル……」

 

 ミカエルの痛い視線が突き刺さり、ウッとラファエルは怯む。

 

「『システム』はいわば天界のスーパーコンピューター的な存在で、我々は『システム』につなぐコンソールを介して下界での生死の情報を得ています。だからこそ天界では『システム』は下界の生死を司ると信じられていました」

 

 だがそれは半分正解で半分不正解だった。アカシックレコードに直接接続する装置である『システム』はそれ以外の情報を得ることもできたのだ。

 

 何故、長年『システム』の正体を分からなかったのか。

 

 それは天界が下界の生死以外に『システム』を使って調べるものがなかったことと『システム』に設定してあるアクセス権限の存在があったからだ。

 

『システム』のアクセス権限は使用者のランクによって左右されている。まず天使の眷属はアクセス自体できない。下級天使はアクセスはできるが、見られるのは基礎的なほんの一部だけ。下界の生死の情報を得ることができるのはミカエルなど上級天使のみだ。そのアクセス権限によって誰も下界の情報以外を検索する気がなかった。

 

「なら何でミカエルは『システム』の正体に気づいたのです?」

「ぶっちゃけ偶然です。駄目元で『魂欠損 方法』って検索したらなんか普通に見つかった(´・ω・`)」

「グー○ル!?というかあっさり見つかってる! 」

 

 あんまりな発見の仕方にラファエルは絶叫。

 

「肉体に魂が繋がる前に、魂そのものに干渉することで欠損させることが可能らしいです。ですがそれを実行できるのは神クラスの力が必須、天使レベルの力では不可能でした」

「それって犯人はもしかして……」

「その通り、犯人は神でした。証拠に『システム』の履歴にも神のアカウントが綺麗に残っていました」

「……でも何でわざわざそんなことを」

 

 アカウントのことは完全にスルーしたラファエル。自らの胃にダメージを与えることにツッコむほど彼女は被虐体質ではない。

 

「理由はこれです」

 

 ミカエルはどこから取り出したのか、古い羊皮紙の束をラファエルに手渡す。

 

「あの、これは?」

「これは私が独自のルートで入手したある予言書です。名は『無貌の予言』。作者は不明ですが、聖人クラスの人間が書いたものに間違いないそうです。そしてこの文を見てください」

 

 そう言ってミカエルはある一文を指差す。

 

「『多くの英雄が跋扈する時、世界は新たな敵によって終末に向かうが、神殺しの英雄(・・・・・・)の活躍で再び安寧の時代へと導かれるだろう』。これは世紀末についての記述です」

「これが何か変ですか? よくある終末論に見えますが」

「ラファエル……あなたは『英雄』の存在を覚えていますか?」

「勿論ですよ。ヘラクレスやペルセウスとかがメジャーですよね」

 

 英雄――それは世界に多大な功績を残したりすることで人類の上位種へと昇華した者達の総称。天界からは人間以上天使未満の存在と位置づけられているが、個体によっては下級天使を凌ぐ実力者も少なくない。

 

 英雄の存在は天界では一般的な常識で、中にはその英雄と親交があった天使もいるくらいだ。

 

「では時代が進むごとに英雄の数が減り、近代では英雄が存在しない時代が多かったことも知ってますよね」

「さっきからなんですか。馬鹿にしてるのですか?」

 

 ラファエルはミカエルの言いたいことが理解できなかった。中世以降科学が神秘を上回るようになってから、英雄の数が著しく減少していることは天界では周知の事実だ。それをラファエルが知らないはずがない。

 

「では現代に存在する英雄が何人か分かりますか?」

 

 ラファエルは首を横に振る。中世以前と比べて数も格も劣る近現代の英雄に興味をもつ者は天界でもごく稀だ。

 

「その数は十二人です」

「じゅ、十二!?」

 

 またもラファエルの絶叫が響く。

 近現代全て合わせても十人もいなかった英雄が今の時代だけで十二人。それは明らかに異常事態と言えた。

 

「下界で世界大戦でも起きたのですか?」

 

 古より英雄が多く存在した時代は世界が乱世に包まれていた。特に戦争は英雄を輝かせる舞台装置で、大規模な戦争が起きるたびに新たな英雄が誕生している。

 

「いいえ、紛争が行われている地域こそありますが、国同士の戦争は起きていません。この時代は英雄の誕生条件のひとつである乱世というわけではありません。現在確認されている英雄達は戦争とは無関係です」

 

(戦争が原因ではない、なら一体何が原因なの? たしか英雄の出現条件は……って、まさか!?)

 

 ラファエルはある可能性に辿り着く。

 

「原因は乱世でも戦争でもなかった。今まで小規模だったので失念していましたが、英雄出現の第一条件は『世界の危機』でした。ならば今回の原因はあなたの見せた予言書に書かれていた終末そのもの、ですか」

 

 ラファエルは予言書の信憑性を疑っていたが、不自然な英雄の出現に天界と下界に起きた謎の襲撃で信じざるをえなかった。

 

「当たりです。つまり神殺しの英雄が元凶を倒さない限り、この襲撃は終わらない」

「だったら早くその神殺しの英雄を呼ばなければ! 現代の英雄を知っているあなたならできるでしょう?」

 

 天界の中でも奥に位置するここからでは戦況が分からないが、部下や同僚から連絡がないことがラファエルを不安にさせていた。

 

「無理です。何故なら神殺しの英雄はもうこの世にはいませんから」

 

 だが現実はそんなに甘くなかった。

 

「……えっ?」

 

 ラファエルの思考が止まる。

 予言書では神殺しの英雄の活躍で世界は救われていた。なのにその神殺しの英雄がこの世にいない?

 

「正確には殺されました。ある御方によってね」

 

 その言葉でラファエルはある事実に気づく。いや気づいてしまった。

 

「まさか……神殺しの英雄の正体って……」

「そうです」

 

 

 

「神殺しの英雄の正体は東城美波。私の、東城エルの愛しの妹でした」

 

 

 




前世の話が長すぎだ……早くカサンドラ視点に戻したい……
多分、次で終わります。

システムのイメージはSFに出てきそうなでっかいモニターみたいなもんです。
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