1話 着任 ~柱島泊地鎮守府~
――西暦2063年 7月11日。
俺は今、3人の少女と巨大な軍用施設に向かっている。
その名も柱島泊地。俺の赴任先だ。新生活という事で、少し気分も高揚している。これからの生活が楽しみだ。
「司令官、元気ないわね。そんなんじゃ駄目よ!」
「ちょっと雷、レディーは邪魔しちゃいけないわ」
「はわわわ、2人とも喧嘩しちゃ駄目なのです!」
……もとい、これからの生活が心配だ。
* * *
俺は姓を
……と、言いたいところだが、どうも普通と思われていないらしい。22歳という若さで佐官になってしまった事が原因であると思われる。以前の作戦で、総司令官が負傷した時、代理で撤退作戦を成功させたのが効いたようだ。
当時中尉だった俺は二階級を特進。少佐となって“
……
奴らは世界各地の制海権を人類から奪い、各大陸及び島々を孤立させた。勿論島国である日本もその例に漏れず、各国との連絡さえ危うい危険な状態が続いている。それについての歴史を少し語ろうか。
いや、まぁ歴史と言ってもここ十数年の話なのだが……
* * *
――西暦2046年11月……今から17年前。
当時まだ海上自衛隊と称していた日本海軍が、沖ノ島付近の海上で謎の浮遊物を発見する。それは、それまで南極や北極付近で目撃された、「ヒトガタ」や、「ニンゲン」といったオカルト的存在と酷似していたらしい。発見時、海自艦は本土に1本の通信を入れた。
“我、不審な生物に遭遇せり”
それを受けた本土司令部は“突然変異した鯨か何かかもしれない”と、その艦に浮遊物回収の司令を出そうとした。
……ところが、何故か全ての通信網が故障を起こしていたのだ。
後でわかった事だが、この時、同時に海外へ繋がる通信回路及び情報伝達網の全てが不具合を起こしていた。
その理由も現在は判明している。なんと深海棲艦は、人類が開発した電波を
その電磁波の様なものは、どうやら奴らのナワバリ内の海全域で発生するらしく、特にその妨害が激しい海域では海全体が鉛色に染まるという。
つまり、沖ノ島付近の海上に深海棲艦が現れた時点で、海上及び海外への通信が不可能になったのだ。
……しかし、連絡をとる方法は一つだけあった。
旧式の無線機である。
これだけは、何故か撹乱されること無く通じることが判明した。それに気づいた司令部は、無線機で三度の呼び出しをかけた。
最初も、二回目も応答が無く、諦めかけた三回目の通信で、辛うじて繋がった数十秒。その時の通信士官の声は録音され、現在も保存されている。怪我による痛みで言葉が途切れ途切れだったが、死を目前にして、決して平静を失わず整然と事実を伝えたその通信は次のようなものだった。
「奴らは人工物ではない。それは間違いない……呼吸を必要とするらしいが……詳しい事はわからない。この艦の攻撃力の全てを上げても、装甲に傷一つつける事すらできなかった……奴らは……化け物だ……! まるで、ずっと深海に棲みついて機会を伺っていた
通信はここで途切れる。
この通信士官の報告から、司令部は現れた怪物達に「深海棲艦」の名を付け、緊急で対策本部を開設。同時に、長期に渡って議会での惰性的な討論途中にあった憲法第9条を改正。特例として深海棲艦及び日本国民に仇なす存在に対してのみ、交戦権を認めることと定めた。
それに伴って、自衛隊はそれぞれ陸、海、空軍と名を改め、本土の防衛及び深海棲艦の撃退と他国との連絡を最優先目標として活動を開始した。深海棲艦の出現からカレンダーが変わり、西暦2047年1月の事である。
さて、このようにして深海棲艦の攻略に挑む事になる日本だが、従来の兵器では太刀打ちできないことが既に海自艦の遭遇戦において証明されている。また、日本は世界大戦の教訓から非核三原則を堅実に守り続け、当時もっとも破壊力に優れた核兵器を保持していなかった。
それは平時なら賞賛されるべき事なのだが、この時ばかりは裏目に出た。
これはただ単に深海棲艦に対する有効打を持っていなかっただけに留まらない。核兵器を保持していない事によって、国論が二分してしまったのだ。現在ある兵器で可能な限り深海棲艦と相対するという積極論と、あくまで防衛を主軸に置き、他国の援助を待つという慎重論。そのどちらにも利点と欠点があり、積極派と慎重派の討論は過激化、それぞれ勢力比4:6で派閥を作ってしまった。
もっとも国民の団結が必要であるこの時期に……
……程なく日本は、海外へ連絡を取ることに成功する。一部の無線を無理やり改良増設し、間に合わせとはいえ、一応の通信網が完成したのだ。しかし、通信によって得られた海外の状況は日本の期待とは程遠いものであった。海外でも、日本と同時期に深海棲艦が出現し、日本と似たりよったりの有様で、とても救援どころでは無いらしいことがわかったのだ。日本が頼りにしていた海外の核兵器も、一時的に深海棲艦を後退させる程度の効力しか示さなかったらしい。
人類は、まさに一縷の希望さえも絶たれつつあった。
――深海棲艦の出現から1年が経とうとした2047年10月。
日本は遂に、深海棲艦に対する切り札を引いた。そう、周知の通り「艦娘」を発見したのである。
艦娘とは、“在りし日の艦艇の魂を持ちし女性達”、と一般に説明される。容姿、人格、個体差等は人間となんら変わらない。唯一、人間と違う点があるとすれば、彼女達は、その身体に適正のある固有の装備“艤装”を纏い、海上を走り、砲を放って深海棲艦と渡り合うことが出来ると言う点だ。
艦娘の発見の経緯は詳しく語られない。海軍の少佐となった俺にさえ、未だ詳しい事情は伝えられていない。恐らく、何らかの人体実験か、あるいは
とにかく、艦娘は日本世紀の大発見。深海棲艦に唯一まともにダメージを与えることの出来る存在。追い込まれ、虐げられた人類にとって、彼女達の存在はまさに希望だった。日本首脳部は、すぐさまこの事を公表。艦娘は一気に身近な存在として、また国民的英雄として定着した。
その後、艦娘の出現があってもなお続く深海棲艦の通信撹乱によって、情報社会とも呼ばれた日本の経済は崩壊。第三次産業に就いていた人々の大部分は第一次産業への転向を余儀なくされ、経済水準は世界大戦期とほぼ同じにまで低下する。
しかし、日本人は諦めなかった。たとえ泥臭かろうとも、醜かろうとも、ひたすら生へと執着し、諦めなかった。彼らは他国に先駆け、対深海棲艦攻略線の先陣を切って行く事となる。現在の世界の状況は、決して諦めなかった彼らによって作られたと言っても過言ではない。
艦娘の協力もあり、日本はじわりじわりと戦線を押し上げ、少しずつ制海区域を広げていった……
* * *
そして、現在俺の前をはしゃぎながら歩んでいる3人の少女達。彼女達こそ、我々人類に残された唯一の希望。つまり、艦娘なのである。
……正直言って予想外だ。
予め艦娘は女性しかおらず、しかも大抵若い女性の容姿、性格をしていると聞いてはいたが、まさかここまで若い、いや幼いとは。しかも、この少女達があの深海棲艦を相手に互角以上に渡り合うと言うのである。いくら想像力豊かな者でも、そんな想像をするのは難しいだろう。
だが、実績は十二分にある。彼女達は奴らと戦える。人類を救ってくれる。だからこそ、提督たる俺は彼女達の頭脳となり、腕とならなくてはならない。提督としてこの鎮守府に着任した俺の仕事は、持てる力の全てをあげて彼女達の
いくら圧倒的な破壊力を持つ艦娘と言えど、指揮系統の統一は不可欠であるし、補給、事務、施設の管理など、人間が出来ることは可能な限り人間の手でやるべきだ。酷な話だが、彼女達には戦うことに専念してもらわなくてはならない。そのためにも、これから経験を積んで、彼女達が安心して自己の身を預けられるような人物になりたいと思うのだ。
……それでいて、俺にはもう一つ思うところがある。
彼女達が人間と同様の人格を持っていると言うのなら、俺は彼女達にとって
職業軍人がこのような綺麗事ばかり願うのは愚かな事なのだろうか。
* * *
そんな風にもの耽って歩いていると、もう基地についたらしい。
「さぁ! ここが私達の鎮守府よ! 」
顔をあげると、そこには三階建てくらいの巨大な建物がそびえ立っていた。なるほど、流石、対深海棲艦前線基地。立派な建物だ。
「では、まずは執務室に向かうのです」
「ちょ、ちょっと! 暁を置いていかないでよ!」
これまた活発そうな、1人前のレディーを自称する少女、
「ところで司令官」
隣を歩く雷が不意に声をかけてくる。
「なんだい?」
「まだ私達、司令官の名前を聞いていないわ」
「あ、そういえばそうね(なのです)」
「あれ? 言っていなかったっけ? それじゃあ改めて自己紹介しておこうか……」
佐官帽を被り直し、敬礼する。
「この度、柱島泊地鎮守府に着任する事になった山村少佐だ。まだまだ未熟で頼りないところも多いけど、どうぞよろしく頼むよ」
元気で頼もしい、けれども幼さを残す声が三つ、それに呼応した。
「もちろんよ!」
「困ったら私を頼って!」
「よろしくなのです!」
これからの生活が心配だ、なんて言ったけど。
「どうしたの? 司令官」
「いや、何でもないよ。さ、行こうよ」
もとい、これからの生活が楽しみだ。
※この物語の舞台は、“少し未来の世界”を想定。また、基本的には現実の世界とほぼ同じと考えてもいいですが、海域名などは原作である艦これの方に合わせたいので、作中で史実等が語られる時、少し名前が異なったりします。
例)キスカ島→キス島、 沖ノ鳥島→沖ノ島、 ソロモン海→サーモン海etc......
評価、感想など頂けると参考になります。
そして作者が飛び上がって喜びます((殴
文章が読みにくいと思われたので大幅に書き方を変えてみました。他の話も少しずつ変えていこうと思います。17/1/13