学校の校庭。そこで千鶴、竜貴、織姫の3人は柔道部員が喧嘩で割った窓ガラスを掃除していた。
「もーっ、こんな後片付け手伝わされんなら見に来るんじゃなかった」
「でも、柔道部の連中、みんな『俺じゃない』って言ってたじゃん」
「『俺の腕が勝手にー』ってね。ガキかっての。あいつら、都大会でボロ負けしてから荒れてんのよ」
「でもさ、なんか妙な……」
「何?ずいぶん肩持つね。竜貴、あんたああいう汗くさい連中好み?」
「何ィ⁉︎」
「何よ⁉︎」
千鶴と竜貴が睨み合って数秒、千鶴は箒とちりとりを放った。
「あーもう、やめやめ‼︎あたし帰る、バカバカしい‼︎」
「あっ⁉︎おい‼︎ちょっと待ちなよ千鶴‼︎」
竜貴の制止を無視して帰ろうとすると、織姫がポーっと学校の屋上を眺めてるのに気付いた。
「ヒーメー!ヒメも後片付けなんて竜貴に任せて、一緒に帰ろーよー‼︎」
だが、返事はない。というか、微動だにしない。
「…………? どうしたのヒメ?いつにも増してぼーっとしちゃって?」
「竜貴ちゃん、千鶴ちゃん……。あ、あたし今日観たいテレビあるの!だからもう帰ろっ‼︎」
「「え?」」
「ホラみんな一緒に‼︎早く帰ろ‼︎」
「ちょ……ちょっと織姫っ⁉︎」
「ほら!竜貴ちゃん、千鶴ちゃん、急いで‼︎早く帰ろうよっ‼︎」
慌てて二人の背中を押して帰ろうとする織姫。
理由はひとつ、屋根の上にいる変な生物。本能的にそれが「危険なもの」だと判断したのだ。
「ほらぁ〜〜〜!早く行こうよ〜!ねっ!おねがい早く‼︎早くいこっ‼︎」
「わかった、わかったってば!」
そう返事をしながらも、竜貴は様子がおかしいとでも言わんばかりに眉をひそめた。
「どうしたんだろ織姫?いつもは片付け放り出してまで早く帰ろうなんて言わないのに……」
「ん〜〜〜……」
「竜貴ちゃん、千鶴ちゃ〜〜〜ん‼︎」
そう叫んだ直後、屋根の上の化け物がいなくなっていた。
「⁉︎」
視線で相手を探す織姫。こちらが向こうに気付いてる、と思われたくないから、おおっぴらに探すことはできなかった。
「……どうでもいいけどさ、竜貴あんた空手着で帰る気?」
「あ!忘れてた……。ごめーん織姫!あたしちょっと道着着替えてくる!」
「ちょっ……!竜貴ちゃん待って……!」
「先行ってていいからさ!」
「たつ……!」
直後、見つけた。自分の真上を飛んでいる化け物を。
(……いた………)
激しく高鳴る鼓動。緊張気味に目だけ上に向ける。
『お前、あたしが見えてるね?』
「ッ⁉︎」
「ど、どうきてのヒメ?上に何かあんの……?」
「に……逃げて千鶴ちゃん‼︎早く‼︎」
「えっ……?」
理解しきれてない千鶴を余所に、上空の虚は攻撃を開始した。
頭からミサイルのようなものを発射させ、学校の校舎や地面に叩き込んだ。
「っわ……ッ‼︎」
頭を抱えて尻餅をつく織姫。爆撃が止み、ゆっくりと頭を上げると、千鶴が血を流して倒れていた。
「ち……千鶴ちゃん‼︎大丈夫⁉︎千鶴ちゃんっ‼︎」
「あんま大丈夫じゃないかも……」
「そ、そうだよね⁉︎すごい血だもん‼︎ど…どうしよう、どうしよう……」
「涙なんか浮かべちゃって…かーわいー」
言いながら千鶴は何食わぬ顔で起き上がった。
「ち、千鶴ちゃん⁉︎」
「やー大丈夫大丈夫。何が起きたのかさっぱりだけどさ、傷は大して痛くないんだ。だから全然!心配しないで!」
本当に元気な笑顔で千鶴はそう言った。
「ほら見て!全然動くし!ねっ⁉︎全然ヘーキ!」
「千鶴ちゃん……」
「ほら、だからそんな顔しないで。そりゃあたしもヒメの泣き顔好きだけどさ、笑ってる顔のかもっと好きだ……」
言いかけた所で、千鶴の手が織姫の首を握り締めた。
「……え?」
「ちょっ、千鶴ちゃん……?」
「え?あれ?ちょっ、違うのよヒメ。これは……あれ?」
徐々に指に力がはいっていく。
「やだ、ちょ、離れな……やだぁっ‼︎ヒメっ⁉︎大丈夫ヒメっ⁉︎」
『エヒャヒャヒャヒャヒャ‼︎苦しい⁉︎苦しいか⁉︎』
虚が地面に着地した。
『そいつがあたしの能力だよ。あたしは争いを好まない……。だから、この額の種子を撃ち込み……撃ち込まれた種子はそこから根を張り相手の体を支配する……!そして、殺しあってもらうのさ‼︎』
千鶴の手が離れて、織姫の頬をビンタした。
『争いの嫌いなあたしの代わりにね……。さあ!始めましょうか‼︎見せてちょうだい!久し振りに‼︎お前みたいに綺麗で能力もある子が、なす術もなく級友たちに殺される姿をさ!』
そう言った直後、さらに現れる操られている生徒達。
そのまま織姫に襲い掛かった。
「へぇ、面白い能力だね」
屋上から声がした。織姫も虚もそっちを見ると、一人の女子生徒がそこから降りて来た。
「お待たせ、織姫ちゃん」
「さ、沙優ちゃん……?どうして、ここに……!」
「ん、いやちょっと色々ね」
「い、色々って……」
ぼんやりする織姫の前に、沙優は立って操られている生徒を見た。少なくとも10人以上はいる。
『ンンー?変な奴がいるねぇ。お前、何者?』
「1年3組浦原沙優!駄菓子屋の娘!この前の期末試験は9科目中4科目0点でした!」
『………要するに、特大のバカってことね』
「…………大体あってる」
『いや、否定しなさいよそこは』
そんな会話はともかく、沙優は織姫をお姫様抱っこした。
「じゃ、逃げよっか。織姫ちゃん」
「へっ?で、でも千鶴ちゃんや竜貴ちゃんは……!」
「大丈夫、なんとかするから」
「なんとかって……」
すると、沙優は走って校舎の壁を駆け上がった。
『逃がすか‼︎』
直後、窓から一人の生徒が飛びかかってきた。
「⁉︎」
「先回りされてたか……」
それでも慌てることなく、織姫を右肩に担ぐと、一人の生徒の攻撃を躱して襟首を掴むと、教室の窓にぶん投げた。
だが、別の生徒が3人ほどさらに飛びかかって来た。
「う、うわっ⁉︎」
「………つまんない事するなよ」
3人の攻撃を避けると、全員傍に抱えて地面に降りて、その辺に投げ捨てた。
すると、当然元々一階にいた連中は襲い掛かってくる。
「さ、沙優ちゃん来てる!」
「うん」
呑気にそう返事をすると、襲い掛かってくる生徒の猛攻を全部避けた。
体捌きで全部回避しながら、その場に止まらないように動き回る。
(さて、反撃するにはもう少し近付きたい所だけど……)
そう思ったところで、大事なことを思い出した。
(………あっ、斬魄刀持って来てない)
ヤッベー、とでも言わんばかりに汗をかき始める沙優。
その直後、ヤケに重い一撃が沙優のガードした右腕に響いた。
「っ⁉︎」
慌てて下がると、見覚えのある顔がこっちを見ていた。
「あーらら……」
「⁉︎ た、竜貴ちゃん……⁉︎」
竜貴の頭に種子が刺さっていた。