Japanese in THE ゾルザル   作:連邦士官

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プロローグ

-あぁ、俺は死ぬのか……。-

 

近年まれに見る熱波に襲われ、観測史上最高気温を更新しつづける灼熱の日本。

 

50代位に見える男はそこにいた。

かの男は渇きと空腹にさいなまれていた。

昔は土地と株でならした豪傑だったのだが、男は30代の時に通勤中の電車で痴漢容疑で逮捕され、自白を強要されたのだ。

 

冤罪と認められたものの一度犯罪とマスコミに報じられた者は芸能人などの一部を除き社会復帰出来ないのが日本という国である。

 

男の名前もマスコミに出されてしまった。

だが、冤罪だとわかってもマスコミはそれを報じなかった。

 

いや、週刊誌のみだけは報じた。

週刊誌の最後のページに老眼なら虫眼鏡を使わなければならないほどの大きさで。

 

以上の理由で男には職業が無かった。

男は親の脛をかじりながら生き長らえるしかなかった。

 

アルバイトといったことを始めようにも男の名前と写真はマスコミに大々的に報じられ過ぎてたのである。

 

当時の風潮では、宴会などではセクハラはまだ許容されていたが、流石に電車での痴漢は許されていなかったし、いつの時代も歪んだ正義感の持ち主はいるものだ。

 

そう言った連中が、彼のごく一部の少ない勤めれた先を襲撃した。

その行いが彼を就職できない男にした。

 

彼はニートという言葉が生まれる前からニートになっていた。

 

いや、語弊があるかもしれない彼は働く気がないのではなく、働く気はあるが働けないのだから。

 

雀の涙程度の賠償金はすぐに無くなり、親からの仕送りで暮らす日々である。

一応、若いときはいけいけどんどんと土地と株式で儲けはしたがそれも昔の話である。

 

ITバブルの時は売り抜けてかなりの額を儲けたのだが、それすらもリーマンショックにより弾けとんだ。

 

なぜだか邪気が抜けたように男は隠居生活に入った。

 

家は両親の持ち家だから金はかからないし電気代を払わなくても水道と木炭で暮らしている男には関係なかった。

 

晴耕雨読の毎日を送り、最寄りの図書館に自転車で通い続けた。

 

しかし、そんな毎日はいきなり崩壊した。

 

男の両親が大雨による土砂崩れで死んだのだ。

 

男の他に相続人がいないので、両親の土地や財産が来たのだがほぼ全て土地であったのが悪かった。

 

相続税により二束三文で土地を手放す羽目になり、男の生活は一変した。

 

始めの3年間はなんとかなったが男は金が無くなり飢えと渇きの最中で熱波による熱中症で死亡した。

 

男の死亡は一カ月後に異臭騒ぎにより市の職員が立ち入ったことで判明した。

 

孤独死だった。

 

そう男は孤独だったのだ。




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