私兵となった亜人達の朝は早い。
まず、夜明けと同時に女性の教官に起こされる。
教官となった彼女が槌を持って部屋を周り、丸太の枕を横から殴りたたき起こして行った。
亜人達はゾルザルの当世具足を真似た鎧を簡略化したものに着替えた。
水時計で予定時刻を調べ、予定時刻よりも遅かった者には、罰として鎧と武器の武装に重りとして大きな水瓶を背負いながら、他の全員の訓練が終わるまで立たされていた。
武器を持ち、綺麗に整列させた亜人達の前に教官はいた。
「お前達は何だ!」
教官に亜人達は怒鳴られる。
「私たちは兵士です!」
亜人達は答える。
「声が小さい!」
教官は兵士達の前を歩きながら怒鳴った。
「私たちは兵士です!」
全員が叫び終わると教官は「私はお前らの何だ!」と叫び、「教官です!」と兵士達は答た。
「私の名前は!」
と教官は聞いた。
「パナシュ教官です!」
そうか、よし!とパナシュは言うと馬に乗った。
今日最初の訓練は土嚢を持ちながら城壁の周りを全ての武装を装備し走っていた。
馬に乗った教官に追いかけながら二周し、それが終わった所で朝食が始まった。
朝食が終わると整列と行進、手に持つ武器はパイクかロンパイア、クト・ド・ブレシェ、フォシャール、クレイモアで予備の武器にファルシオン、サーベル、ファルカタ、バスタード・ソード、トマホーク、ダガーなどを持ち全員で形の練習をした。
一通り形の練習を終えると夕食まで他種族間で試合を始めた。
その間にパナシュは、ピニャに送るための書類を書き上げていた。
そうしていると夕食が始まり、パナシュの一言により一日が終わるのだった。
初めての教官と言う事でパナシュはやる気に満ち溢れていた。
ゾルザルは亜人達に特別視されていた。
明らかに片耳だろうが、逃げてきた奴隷みたいだろうが雇うからである。
ここに逃げてきた奴隷を取り戻そうとするものは少なかった。
奴隷商が逃げてきた奴隷を取り戻そうとゾルザルに交渉したがそれは無駄だった。
まず、ゾルザルは自分を必要とする人を守る人だったし、イバラの園の秘密に触れてるかもしれない人材を外に出すわけにもいかなかった。
それに、逃げてきた多くの亜人達は戦争奴隷や自ら奴隷になった者や親が奴隷なので子供も奴隷、犯罪奴隷、税金が払えなくて奴隷になった者はほぼ居なく、拉致されて奴隷になったものが大多数だった。
「それで君はルルドだったが先ほどの奴隷商の兵士に襲われて奴隷になったと。」
ゾルザルの声に片耳のキャットピープルの女性は
「そうです。いきなり襲われて……。」
泣いているようだった。
「法律違反ですね。帝国では戦争時等を除いて奴隷狩りは禁止されています。しかも、ルルドとは言え居住権を持っていたのでしょう?」
優しく話しかけるキールの問いに
「そうです。」
キャットピープルの女性が答えてキールは顔をしかめた。
「殿下、かの奴隷商は取り締まらなければならないようです。帝国の居住権を持つ帝国臣民を奴隷として狩っているのならば動くべきです。」
ゾルザルを早く、早くと急かすキールをなだめながらゾルザルは
「その証拠はあるのか?」
と淡々とキャットピープルの女性に聞いた。
「奴隷商の館にあるはずです。」
とキャットピープルの女性が言った。
「そうか……では、帝国兵は動かせないな。」
今日はモンテもいないからなと続けざまに言った。
「まさか、見捨てるのですか!」
キールが驚いた顔をし、キャットピープルの女性は所詮貴族かといったような顔をした。
「いや、私兵を動かす。」
ゾルザルはそう言うと立ち上がろうとしながら
「しかし、それにはキールお前が重要なんだ。」
と言いキールに手を伸ばした。
イバラの園から帝国の閉塞感を無くす何かが始まろうとしていた。
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※居住権を市民権と誤っておりました。訂正いたしました。