Japanese in THE ゾルザル   作:連邦士官

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偽りの皇子

皇帝の発言により場の雰囲気は変わった。

「今の無罪放免はお前に対してのみだ。従って、懲罰はせんとならん。」

 

先ほどから横に控えていたマルクス伯が前に出てきた。

 

「此度の一件に対してモンテ・カルロ一派は反逆罪で死刑。キール・カーディナル、ロワイヤル・カーディナルの私兵の武器は没収。

更に、カーディナル両名とパナシュ・フレ・カルギーに東伐の先鋒を命じ、指揮官はゾルザル・エル・カエサルとする。戦費の2割はゾルザル・エル・カエサル、カーディナル家、カルギー家が出すものとする。

しかし、戦費の比率は三者で決めても良い。」

マルクス伯が言い終わると皇帝は下がれとだけ言い、ゾルザルが何も言うことは出来無く帰らされた。

 

帰りの馬車にはキールが乗っていた。

 

「キールこれはどういう事だ?」

ゾルザルが聞くと

 

「簡単なことです。モンテ・カルロが殿下を陥れようとして逆に策を逆手にとられて自滅しただけです。」

 

キールから告げられた内容はこう言う事だった。

 

カルロはゾルザルを利用するつもりだった。

だからこそ、それを逆手にとる為と監視する目的で仲間にした。

 

しかし、ゾルザルを担ぎ上げるだけに飽きたらず第二皇子ディアボ派に鞍替えしゾルザルを陥れる為に亜人の奴隷をわざと寄越して結託した奴隷商人と共にゾルザル派の亜人人気を失墜させるのと同時に人間側の人気も消し去ろうとした。

 

モンテが亜人の奴隷が居たときになぜ姿を現さなかったのかと何故逃亡奴隷が無事にイバラの園に着いたのかは、ここに理由があったらしい。

それに、キールが気付いて奴隷商人の決闘と同時にモンテ・カルロ邸を強襲し、証拠を集めたという事だった。

 

更に、言えば奴隷商に雇われていた傭兵はロワイヤル・カーディナルと言いキールの叔父と私兵だったらしく単なる町の街道で叔父と甥が喧嘩しただけと処理された。

 

それには決闘の際に周りにいた貴族達や帝都の一般住人や帝都の悪所街の住人、旅の商人、旅人など様々な見物人は大半はカーディナル家が募集した目撃者だったらしい。

 

「ゾルザル殿下、これでディアボ殿下の派閥は大打撃を受けましたよ。ゾルザル殿下の派閥に入ろうと中小貴族が明日から来る筈です。」

ニッコリと輝く様な笑顔を浮かべるキールにゾルザルは背筋に寒気がした。

 

「キール、それより大臣から東伐について言われたが……。」

ゾルザルは話題を変えるように動いた。

 

「大臣は、何と言っておられましたか?」

キールの質問にゾルザルはマルクス伯に言われた内容を答えた。

 

「殿下、期限に関して何も言われてないのなら今すぐで無くても良いと言うことです。」

キールはそれにと続けて

「戦費の2割が負担ならば、戦費の2割分は確実に占領地をもらえると言う事ですよ。」

キールの説明を受けていた。

 

同時刻、皇帝の部屋

 

机の上にはいわゆる、チェスがあった。

 

「よろしかったので?」

駒を進めつつ大臣が皇帝に質問した。

 

「どのことだ?」

皇帝はぶっきらぼうに答え、盤上を見つめ大臣の駒を取った。

 

「決まってるでしょう。ゾルザル殿下の……いや、〝何者か〟の話ですよ。」

大臣が皇帝に苦々しげな顔を見せながら駒を切り返した。

 

「……調査結果ではハリョが変わってるらしいな。」

皇帝が少しづつ話始めた。

 

「あれが〝何に〟せよ、帝国に利益をもたらしてる間は帝国に必要な人材だ。それに、何らかの大きな力が働いている気がするのだ。それを見極めない限り選択は難しい事だ。」

それに変わろうが周りには〝息子〟は息子と見られていると呟き守勢に落ちた自陣を見ていた。

 

「ですが、モンテ・カルロを消し去れたのは大きいですな。」

あれは良くも悪くも敵でしたからと大臣は言った。

 

「惜しむらくはモンテ・カルロは未だに兄を信奉していたという点か。」

皇帝は強い一手を打ち込んだ。

 

「そうですな。神の戯れか何かでああなったのかは知りませんが元よりは良いですな。キールからはかなりの情報があがっていますし利益は出てますな。」

大臣は笑みを浮かべた。

 

「何にせよ、次の遠征は亜人とかならず戦う事になりましょう。亜人と戦わなければ決定的な亜人側として扱われ貴族からの人気は失墜します。また、戦って負けたら人気が失墜、戦って勝っても人気は失墜するでしょう。」

大臣は上がっていた口角をより上げ駒を置いた。

 

「亜人どもに優しいのは不満の解消になるし、貴族や元老達の力の低下に繋がるからな。それにだ明確な理由がなければ、皇太子は廃嫡できん。」

皇帝は今はまだ、恩を売ると言うと駒をある点に進め攻勢に移った。

 

「なっ!ディアボ殿下は考えすぎ、かといって次に有能なのはピニャ殿下……しかし、ピニャ殿下はある程度事情は察していても確信が無いから動かない。」

大臣の一手は皇帝をまた守勢に押し戻した。

 

「何にせよ、あの二人はゾルザル殿下の元からの奇行を見ていた訳ですから今更、奇行見ても何とも思わないのでしょう。」

そして、皇帝の苦し紛れの守勢は大臣に崩された。

 

「あぁ、敗けだ。」

皇帝はそう言うとリバーシを取り出した。

 

「次はこれだ。」

皇帝の発言に大臣は困り顔だった。

 

突然、部屋の空気が揺れた気がした。

 

「何の話をしていたんだ?」

皇帝は首を傾げた。

 

「たしか、ゾルザル殿下は素晴らしい皇太子候補だと話してたんですよ。」

大臣は明るい表情で答えた。

 

「そうだったな。あやつは素晴らしい皇太子候補だったな。遠征の資金も秘密裏に渡しておけ。」

皇帝がそう言うと大臣と笑いあった。

皇帝の机の上の水差しに影がさしたような気がした。




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