俺はなんの変哲もない、特別頭がいいわけでもなければスポーツができるわけでもない。
イケメンでもなければ周りを笑わせる話術があるわけでもない。
つまりは、どう考えてもモテない人種なのである。
そんな俺には、何故か彼女がいた。つまり、世間一般でいう、リア充だった。
どうしてそうなったかというと、それは成り行きというものだ。
まあ、こんなことを言うと世の中の非リア充の方々に怒りを買うかもしれないが、
リア充だからといって本当にリアルでの生活が充実しているわけではない。
それは何故か。原因は俺の彼女にあった。
「ねえ、どうして私より早く歩くの?」
一緒にバイト先へ向かう時の彼女の口癖だ。俺と彼女の身長は10cmくらい違うので、
歩幅も違う。だから歩く速さが違うのは仕方がない。
それなのに、なぜか向こうの基準に合わせることを強要する。
なんでそんな事をさせるのかと一度問いただしてみた。
すると答えはこうだ。
「貴方が男なんだから女の子に合わせてあげるのは当たり前でしょう。
それが礼儀。私と付き合ってるんだから、貴方は私の彼氏なんだから、
それくらいの気遣いはしてくれるよね?だって私と付き合うって、
私と一緒に生きるって言ったでしょう?まさか約束を破るつもり?
そんな酷いことはしないわよね。だって貴方は私だけの...」
俺は途中で話をさえぎった。
「分かった、もういい、俺が悪かったよ。これからは君に合わせるよ。」
そういうと彼女は機嫌を直した。
「ふふ、そうね、貴方ならそういう気遣い出来るわよね。」
そういって微笑んだ彼女。でも、俺はその微笑みに安心することはできなかった。
とまあこんな感じである。
俺の彼女は要求が多かった。そのうち多くは、
まあ彼氏なんだからこれくらいはしてやるべきかなというものだったのだが、
とにかく要求が多く、気が休まらない。
しかも、これは付き合ってから始まった事ではない。
俺と彼女が付き合う前から、これらの要求はあったのである。
では、どうしてそんな彼女と俺が付き合う事になったのか、
その経緯を話そう。
俺と彼女は、高校の同級生だ。始めは互いに面識もなかったんだが、
俺がバイトを始めた書店で、偶然その彼女も働くようになったのだ。
「同じクラスの人がいて助かる!」
と彼女も言っていたし、俺もそう思ったのだ。
実際彼女は割と可愛い方だったし、
こんな俺にとって滅多にない女子と親密になる機会だったので、最初は歓迎した。
そして、バイトを始めて1か月がたった頃には、よく一緒にクラスの事など会話したり、
最近の愚痴を俺が聞かされたりする、友達のような関係になった。
俺はその高校では成績はやや高い方だったので、
成績の少し悪い彼女によく勉強を教えたりもした。
とこんな風に、どこか一方的に俺が彼女を助けているような、そんな気もしたが、
俺と彼女はしだいに仲良くなっていった。
しかしその一方で、彼女の俺に対する要求は増えていった。
たとえば、である。
バイトは放課後にやるんだが、
その日は俺と彼女が一緒に歩いて学校からバイト先へ向かう。
本来俺は一人で先へ行きたいのだが、彼女が、
「一緒に行こう。」
というので仕方なく付き合う事にした。
普通だったらこれは、男にとっては願ってもないシチュエーションだろう。
ましてはそれが向こうからお願いされるのだから断る理由がない。
しかし、である。
彼女はいつも帰りの準備が遅かった。何故そんなに持ってくる必要があるという
多めの荷物(学業道具の他に化粧品とかが入っている)を鞄に詰め、
さらには友人と5分は話してからバイト先へ向かう。要は準備が遅いのだ。
俺は対照的にすぐに帰りの準備を終え、話すような友人もいない。
だから俺はいつも、バイトへ行くのに5~10分は待たされる。
この間、俺はすることなしに教室にたたずんでいるのだから空しい。
それに不満を思って、一回、
「そんなに準備が遅いのなら先行ってるよ俺。そもそも一緒に行く必要ないでしょ。」
といったのである。そうすると、彼女は、
「ねえお願い一緒に行って。私寂しいから。」
と、上目遣いで懇願してきた。
俺はもともと女子のこういう目線とか、懇願するような仕草は苦手なので、
そんな事をされたら断る事が出来なかった。
その時、彼女が、
「よかった。女子の武器って効くんだね。」
とかなんとか言っていたが聞き流した。
思えばそれは間違いだったのかもしれない。
その時から、彼女の要求は次第に増えていった。
先程言ったように歩くペースを合わせろと、そして一緒に帰ろうと、
他にも、本を運ぶのに疲れたから仕事を代わってとか。
それ一つ一つは小さな要求だったのだが、それを繰り返し、毎日されるとしだいに
精神面の負担も増えていく。けれど、そんな不満を彼女にぶつければ怖い目に遭うか、
それとも彼女が傷ついてしまうか。どちらにせよそれはまずい。
だから俺はあえて不満をぶつけたりはしなかった。
思えば、こんな遠慮深い態度も、彼女の依存的な態度を増長させたのだろう。
でも実際、俺がそんな不満を口に出せないほど、彼女はいつも心に悩みを抱えていて、
そんな悩みを、疲れを癒す対象として俺に対してそんな要求をしていた。
それを突き放せるほど冷酷な人間なら、俺は今こんなことにはなっていない。
しかし、それでも恋人同士でもないのに、彼女はまるでそうであるかのように平然と
要求をしていた。けど、それが何故か理解は出来なかった。
そしてである。彼女とそういった風に行動を共にするようになってから、
何故か俺が周りから、特に女子から避けられているような気がした。
俺にはまったく身に覚えがないのにだ。
もともとそんな積極的に他人と関わるタイプではないので実害は少ないが、
気にはなったのでわりと親しい男子にそれとなく訊いてみると、
「いや、それはお前のせいじゃなくお前の彼女が...
やっぱ何でもない。」
と答えが返ってきた。それも怯えたような顔で。俺に彼女はいなかったのにである。
もしかして、一緒にバイト先へ行ってるのが、一緒に帰ってるのと思われて、
彼女だと勘違いされてるのかもしれない。
当時はその程度の認識で済ませていた。
しかし、その友人が翌日やつれたような顔をしていた事だけは覚えている。
そんな風に日々を過ごしたわけだ。その日常はさほど変化がなく過ぎて行ったように
見えたのだが、ある日、突然転機はやってきた。
それはいつもと同じようなバイトの日。彼女の無駄に多い要求を今日も聞き入れた
俺だが、バイトも終わり、近くに住んでいる俺は歩いて、ここから3駅程度の隣町に
住んでいる彼女は電車で帰ろうとしたのだが、本屋を出ると、外は雨が降っていた。
「あちゃー、傘持ってきてないや。」
俺は傘を持っていなかった。
だがいい。多少濡れる程度、あとで髪でも乾かせば何とかなる。
でも、隣の彼女はそうはいかなそうだった。
傘を持ってるのかなと期待を抱いたのだが、
「どうしよう...、私、傘、持ってない...」
彼女は傘を持っていなかった。そして雨は次第に強くなっている。
「と、とりあえず駅まで行けば?話はそれからだ。後そこのコンビニで傘でも...」
と俺が提案すると、
「うん、わかった。」
と彼女は納得したようだ。
「じゃあ俺は帰るよ。」
と言って帰ろうとしたのだが...、俺は彼女に呼び止められた。
「待って。」
「...え?」
「お願いだから、一緒に行って...。せめて、駅まででいいから...。」
彼女は、今度は涙目で懇願した。流石に断らなかった。
今回ばかりは無茶な要求とは思わない。雨は急に強くなっていた。
彼女が不安がるのも無理はないだろう。俺は同意した。
「それじゃあ近くのコンビニで傘買おう。」
そういって俺はコンビニに向かう。そこで傘を買った。
そして急いで駅へ向かうが、
「待って、そんなに早く走れない...疲れちゃう...」
と言われ、仕方なくペースを緩める。
そしてまたも問題は起きる。今度は強風が吹き始めた。
「きゃあ!」
彼女の傘が突風により変形する。コンビニの折り畳み傘だから仕方がない、けれど今は
「もしかして、壊れちゃった...?」
彼女は不安そうな顔でそう言う。
俺はあわてて傘を確認する。
「良かった、壊れてはいない。すぐ直る。でも、この強風で傘を差したらまた...」
つまりもう傘は使えない。俺と彼女はかなり濡れながら駅へ向かう。
そして数分後、ようやく駅へ着いた。そこで別れようとするのだが、
アクシデントとは重なるものである。今度は雷だ。
ドカン!
と大きな音がすると、驚いた彼女は慌てて俺にしがみつく。相当怯えていたようだ。
駅構内に入ると、アナウンスが聞こえていた。
「ただいま、大雨と強風と落雷の影響により、電車にかなり遅れが出ています。
繰り返します...」
「仕方ない、遅れているけど待ってれば必ず着くよ。じゃあこれで..」
俺は帰ろうとする。しかし、ホームをよく見ると人でごった返していた。
「あれじゃあ帰れないな...。どうする...。」
彼女は答えない。顔を見てみると涙目で震えていた。よほど怖いのだろう。
こうなったら、手段は一つしかない。
「俺の家でひとまず雨宿りしよう。そこで体とか乾かして。雨がおさまって電車とかも
動き出したら帰ればいい。今夜は親もいないし大丈夫だ...」
できればこの手段は避けたかったが仕方がない。
こんな怖がり震え、帰る術すら失った彼女を見捨てるなどできなかった。
思えばタクシー等帰る手段はいくらでもあったわけだが、
その時俺はその手段を思いつけなかった。
そして彼女は黙って頷く。
俺と彼女は急いで家へ向かう。今度ばかりは彼女もかなり速く走っていた。
そして家に到着し、リビングへ入る。
「まあ、とりあえずシャワーを浴びた方がいいよ。大分濡れてるし、
君から先に入っていいよ。」
そう言ってシャワーを浴びるよう促す。
彼女はまたも黙って頷いた。そしてシャワーを浴びる彼女。
俺はその間に脱衣所へ服を置いておく。
そしてリビングで漫画でも読みながら暇を潰していると、
髪がまだ濡れている彼女が、シャワーを終えて出てきた。
その濡れた長い髪は、水滴が滴り、彼女の寂しげな表情とともに儚い雰囲気を出す。
思わず見とれてしまいそうだ。
でも今はそれどころではない、現に、また雷が鳴った。
「ひゃああっ!」
彼女がまた怯えた声を出す、さらに、あたりが真っ暗になった。停電だ。
そして彼女は今度はあろうことか俺に抱き着いてきた。
「...え?」
俺は声も出ない。
「お願い、離れないで、私怖いの、すっごく...。」
そう彼女は涙目で懇願する。俺はまたも断れずに、彼女はずっと俺に抱き着いている。
だがそんな状態をいつまでも続ける訳にはいかない。
「そろそろ...、離れてくれない?こっちも動きづらい...」
と頼むが...
「ごめん、もうちょっとだけこうさせて...ねえお願い、私寂しいの、それに怖い。
こんな雷の中、しかも真っ暗だし...。私最近不安なの、仲の良い親友とか、友達とか、
そういうのがみんな私を見捨てるような、私から離れていくような、そんな気がするの。そんな夢をよく見るの。それですっごく怖い。ねえ、お願い、約束して。私がどんなに辛い目に遭っても、
みんなが私を見捨てても、見放しても、貴方だけは私の味方でいて、何があっても。
私とずっと一緒に寄り添って。そうじゃないと、私独りで、孤独で、もう生きていけなくなりそう...、私また思い切り泣いちゃいそう...」
彼女はそう言った。人間独りでもどうにか生きていける。俺はそう思っているが、
彼女はそうは思わないらしい。現に彼女は泣いていた。
泣いちゃいそうとか言っているがすでに思い切り涙を流して俺に抱き着いている。
その時俺は初めて自覚した。きっと彼女は俺の事が好きなんだと。
そうでもなきゃ、こんな姿を見せたりはしない。
そして彼女は俺を見上げる。
「ねえお願い...、助けて...」
そう言って唇を出す彼女。俺は断れなかった。
これは告白で、きっとこのキスを受けたらそれは告白を認め、付き合う事と同じだと。
そうわかっていても。俺はこんな不安そうな彼女を見捨てられなかったから。
そして、彼女をどうしても嫌いになれなかったから。
「分かったよ、君のことは俺が助ける、俺が味方でいるよ。」
ーそして暗闇の中、二人の唇が重なった
ヤンデレ要素が少ないかもしれませんが、本来ヤンデレってこれくらいがちょうどいいんじゃ...
とりあえず、「デレ」というか愛情が多くないと。
まあ次話は思いっきり振り切りますよ。病んでる方向に。