問題児たちが異世界から来るようですよ? ~大地の寵愛者~ 作:無名宴
話も終わり十六夜たちが白夜叉の部屋を出ようとした時。
「あ、そうだ。四人ともちょっといい?」
突然皐月が四人を呼びとめる。
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと忘れてたことがあってね。少しばかり長くなると思うから先に戻ってて」
ピンと指を立てながらのんきに言う皐月に十六夜は少し眼を細める。
「…………」
「いざやんお願い睨まないで。正直怖いから」
「全く怖がっていないけどな」
「まぁね~」
はぐらかすような言葉に軽く肩をすくめると黒ウサギに言った。
「わかった。行くぞ、黒ウサギ」
「え、ちょっ! なんで私の耳をつかむんですか!?」
そのまま黒ウサギのウサ耳をひっつかみ店を後にする。
「さて、忘れていた要件とやらを聞こうか? 如月皐月よ」
「………… その前に一つ質問。なんで知ってるの? 自己紹介した記憶はないんだけど」
表情を消すとケラケラと愉快に笑い始める。
「なんてことはない。おんしが仲良くなった蛇神……白雪に神格を与えたのは私だといっただろう? 独自の連絡網くらいある」
それに納得したのか皐月は小さく溜息をつくと笑みを浮かべる。
「まぁいいや。個人的に聞きたいのは一つだけだからね」
「ふむ?」
「フォレス・ガロの拠点の場所が知りたい。ちょっとだけ用事が出来たからね」
「…… ギフトゲームの妨害であれば私が許さぬが」
先ほど十六夜たちに向けられたよりもさらに強大な威圧が部屋を包む。
それに対し、表情どころか顔色一つ変えずに苦笑する皐月。
「いやいや、妨害する気はないよ。ただね、ガルドって言ったかな…… それがどんなものか知りたい。個人的に今回の件は都合がいいし」
「どんな都合かは知らぬが…… まあいいだろう」
「うん。助かる」
(やっちまった…… 黒ウサギを手に入れようとして取り返しのつかねぇことを……)
フォレス・ガロの自分の屋敷で頭を抱えるガルド。
(あのノーネームの奴ら…… 特にあの女のギフトは精神に直接触れる類だ。あんなのがいたらどんなゲームを用意しても勝ち目なんてねぇ……)
優位な立場であるはずの主催者だが、飛鳥のギフトを考えると相応のギフトゲームを用意しなければ勝ち目はない。
だが、それを準備するどころか考える時間も足りない。
「くそが!!」
苛立ちのまま執務机を持ち上げ窓から外へと投げつける。机がぶつかりガラスが割れ、そのまま地面に落ちた机を気にすることなく焦りと怒りに再び頭を抱える。
「ほぅ。箱庭第六六六外門に本拠を持つ魔王の配下が“名無し”風情に負けるのか。それはそれで楽しみだ」
割れた窓から響く声にガルドは獰猛に唸り声を上げて威嚇する。
「テメェ…… どこのどいつかしらねぇが、俺は今気が立ってるんだ。牙剥かねぇうちにとっとと失せろ」
その言葉にくくっと含み笑いを浮かべながら金髪の女は口を開く。
「威勢がいいのは評価してやる。だが、このままでは“名無し”風情にも勝ち目はないそれはわかっているはずだ。何せあちらには神格保持者を倒したものもいると聞くしな」
その言葉に打ちのめされたように膝をつく。
只でさえ久遠飛鳥の対策さえできていないのだ。それに加えさらに強大な化け物を相手しなければいけない。その事実に打ちのめされていた。
「畜生…… あの娘共め……」
悔し涙と恐怖が混じった声で嘆く。
「なら私が力を貸してやろうか?」
「…… どういうつもりだ」
突然の提案にガルドは女を睨む。
「なに。私もあの“名無し”とは少々因縁があってな。それゆえにお前に鬼種のギフトを貸してやる。そう言っているんだ」
その提案にガルドは考え込む。今のままではどう考えても負けるのは明白。そして負ければ身の破滅。ならこの女に賭けてみるのも悪くない。ただ、問題は女の言う鬼種とはどんなのなのかだ。
「ちっ。いいぜ、どうせ俺には選択肢はない」
「そうか。なに、すぐに終わる」
女がガルドの胸倉をつかみ引き寄せる。
「!!」
次の瞬間、女めがけて何かが飛んできた。
かなりの速度で飛翔してくる物体を女はギフトカードから出した槍ではじき返す。
「少し嫌な予感がしたので急いできたけど…… 逢引中だった?」
そんな声とともに女がいた窓へと皐月は降り立つ。
暢気な口調とは違い右手に槍を持ち、左手は袋の中に入れている。
「なにようだ」
女はパッとガルドの胸倉を離すと皐月を見る。
「いやね。所属予定のコミュニティに喧嘩を売ってきたガルドって人を見に来ただけだけど中々面白そうなことになっているなってね」
尻もちをついたガルドを見下ろしながら皐月は小さく溜息をつく。
「なるほど。これじゃあ相手にならないか……」
皐月の言葉にピシリとガルドの額に青筋が走る。軟弱な優男に見える皐月からは強者が持つ気配がない。
「それはさておき、貴女は彼の味方?」
「さて、どうだろうな」
女は皐月の問いに答えを濁す。
「まぁいいや。少なくとも『理由なしに敵対しなさそうだし』」
ピクリと眉を動かした女に小さく笑みを浮かべ、再びガルドを見る。
「どうやら妨害する必要無かったかな。予想よりは凄く下だけど考え方によっては危険が無い試しにもなるしね」
「テメェ!!」
容赦のない言葉に切れたガルドは獣人化し皐月へと襲いかかる。
「挑発もかなり有効か……」
袋から種を一粒眼の前に落とす。するとその種はすぐに発芽し皐月を守るように花を咲かす。
「たかが草如きで!!」
怒りのまま自慢の爪でその花を斬り裂こうと勢いよく振り下ろす。
本来であればガルドの一撃は花ごと皐月を切り裂いていただろう。それがただの草であれば……
「この花が唯の花なわけないよ」
甲高い音を立てながら爪は砕け散り、体勢を崩したガルドの足を石突きで払い床に叩きつけると後頭部に石突きを打ち付ける。
「がっ!!」
ピシリと床に亀裂が走るほどの衝撃によりガルドの意識は完全に消える。
「対策があるからこそ目の前にいるんだけどね。ま、聞こえてないか」
完全に気を失ったのを確認しながら視線だけ女に向けると少しばかり興味深そうに生えた花に触れる。
「植物でありながらこの強度か」
「鋼身花だからね。強度も耐久性も筋金入りだよ」
ギリッと噛みしめるガルドを見て皐月は女に尋ねる。
「で、何をするつもりだったの?」
「…… 鬼種のギフトを貸すつもりだ」
「なるほど。全くわからん」
正直なところそう言われても来てまだ一日も立っていない皐月には鬼種のギフトを貸すなど言ってもわからない。
「まぁ。多少の不確定要素を入れたほうがいいかもしれないし存分にやっちゃって」
槍と持ち上げた鋼身花を袋の中に詰め込むと皐月はヒラヒラと手を振りながら窓へと向かっていく。
「じゃ、今度会ったら名前くらいは教えてもらうよ」
そう言いながら窓から外へと飛び出す。
「不思議な奴だ」
そう呟き女は気を失ったガルドの胸倉をつかみ持ち上げると首筋にかみついた。