問題児たちが異世界から来るようですよ? ~大地の寵愛者~ 作:無名宴
「ううぅ……」
「あっ! 大丈夫ですか!?」
皐月が眼を覚ますと隣で額に濡らしたタオルを置こうとしたリリがパッと笑みを浮かべた。
「えっと…… ここは…… ノーネームの本拠地だよね?」
「はい!」
視線だけで廻りを見渡すとどうやら昨日案内してもらった工房のようである。
「助けられたみで言うのもなんだけどなんで工房? 部屋でもよかったんじゃ……」
皐月の疑問に少し落ち込みながらリリが答える。
「あうぅ…… 実はここに治療用のギフトがあるんですけど……」
「なるほど。それを使って治そうとしたんだ」
「…… い、いえ使えるのが黒ウサギの御姉ちゃんだけだってことをすっかりと忘れてて……」
落ち込むリリに苦笑しながら皐月は上半身を起こすと軽く頭をなでる。
「ま、失敗というほどのことじゃないから気にする必要はないよ。実際に看病してくれたんだしね」
「は…… はい……」
どうやら気を取り戻したらしくいつもの表情に戻るリリ。
「しかし、見た限り夕方みたいだけどそこまで長く倒れてたんだなぁ……」
「あっ!」
そんなつぶやきにリリが思い出したかのようにキョロキョロと自分の体を見だす。
「? どうしたの」
「いえ、私が皐月さんたちを追いかけたのは、皐月さんが持っていたはずの袋が…… あれ? どこだろ……」
どうやら彼女は袋を探しているみたいだが、見つからないようだ。皐月も袋に関しては常に持ち歩いているため首をかしげる。
「袋は基本的に持ち歩いているから、置き忘れるなんてことはないはずだけど。現にギフトゲーム前に三人に袋から出した道具を渡したし……」
二人とも首をかしげているとふと皐月が遠くを見る。
「どうしたんですか?」
「いや、なんか黒ウサギが凄い勢いでこっちに向かってきてる」
「え!? わかるんですか?」
「まぁ、一応」
そんなことを言っていると勢いよく黒ウサギが工房に入ってきた。
「黒ウサギどうし…… すぐにそこに寝かせて」
訳を尋ねようとした皐月だが、彼女が抱きかかえている気を失った耀を見てすぐに指示を出す。
「えっ! ……わかりました!」
黒ウサギもなぜ皐月がここにいるのか疑問に思ったが、すぐに思考を切り替え耀を近くのベッドに寝かせる。
「…… とりあえず傷をふさぐ。黒ウサギは輸血、もしくは増血の準備を」
「はい!」
黒ウサギが治療用のギフトを用意しに行ったのを確認し皐月は水場草を生やし、その水で傷を清めると袋から一本の瓶を取り出した。
「皐月さんそれは……」
「回復のポット。このくらいの傷ならこれで痕も残らないからね」
蓋を開け傷口にかけると中の液体はすぐに光を放ちながら気化し、耀の体内へと消えていく。
「タオル」
「あっ、はい!」
リリに渡されたタオルで腕に着いた水を拭うと傷口がきれいに消えていた。
「本当に消えてる」
「冒険者用の薬だから即効性が無いとね。あとは黒ウサギの準備が終わるのを待つだけ」
「これで大丈夫です」
ギフトを使用した黒ウサギがふぅと大きく息を吐く。
「傷口も消したし、増血も施した。後は眼を覚ますのを待つだけだけど、遅くても明日中には眼を覚ますだろうね」
「はい! ところで皐月さんはやっぱりあの後……」
「隠す必要ないからそのまま言うけど正直この子が来てくれなかったらまだ昏睡してたんじゃないかな?」
リリを撫でながら皐月は黒ウサギに答える。
「でも、どうしていきなり……」
「それはさすがにわからないよ……っと、どうやらみんな戻ってきたみたいだね」
「え? ……本当ですね」
黒ウサギはその耳で、皐月は感覚により三人が戻ってくるのを感じていた。
「こっちは見ておくからいざやんたちに彼女の状態を言ってきて。たぶん二人とも気になってるだろうし」
「あ、はい!」
皐月の言葉に黒ウサギが十六夜たちのもとへと歩き出す。
「それじゃあ私は夕食の準備がありますから」
リリも部屋を出ると皐月は小さくため息をついた。
「…… 少しギフトゲームをあまくみてたかなぁ……」
夕食後軽く頭をかきながら工房に入ると、近くの机に袋から様々な草を取り出す。
「今回は回復のポットでどうにかなったけど、いやしと神秘の二種類は欠かさないようにしておくべきか……」
様々な草を調合しながら、横目で眠っている耀を見る。
「それに彼女の身体能力も少し過信しすぎてたな…… 耐風のマントは纏ってたって話だけど…… 結構初期に作ったものだから防御力はないよりまし程度だし、何より改造を施してなかったし……」
耀の隣に折り畳んである耐風のマントを見ながら皐月は小さくため息をつく。
「後で彼女に借りて改造しとこう」
そう言いながら改造用の鉱石や素材をあさっていると再び強烈な頭痛が走る。
「またか……」
そうぼやきながらもあまりの痛みに急激に意識が遠くなるのを感じていた。
「んで、また気を失ったのはいいけど……」
あたりを見渡すと館全体がどこかしら重く感じる。
「何かあったな…… 二度目とはいえ、こういうときにかかわってないっていうのはなんか悲しい……」
落ち込みながらも工房を出ると見たことある風呂敷包みを片手に持った十六夜が通りかかる。
「あれ? いざやん。どっかいってたんだ」
「お、眼が覚めたみたいだな」
「ん。何かあった見たいだけど、肝心な時に役に立たなくてごめん」
「きにすんな」
十六夜の言葉に皐月は苦笑すると、気になっていた風呂敷包みを見た。
「で、それ何?」
「戦利品」
「…… なるほど。本当に面倒なことが起きたみたいだね」
黒ウサギたちがいる部屋へと向かう最中、十六夜から皐月が気を失ったであろう時間から今までのを聞くと、皐月は微妙な顔をしながら小さくため息をついた。
「その吸血鬼と黒ウサギを交換…… しかもそんな陳腐な挑発つきって……」
「名前負けしてるだろ?」
「いや、ペルセウスという人がどんな存在かは知らないから何とも言えないけど、何というか三下臭が酷い……」
どんな人物なのかと気にはなったが、とりあえずそれは別の棚に置き納得する。
「じゃあ、それはこの状況を打破する一手という訳だね」
コクコクと頷いているとドアノブが外れた黒ウサギの部屋に着いた。
「邪魔するぞ」
「十六夜さん! 今までどこに、って破壊せずに入れないのでございますか貴方達は!?」
迷うことなく十六夜がドアを蹴り壊し、黒ウサギが突っ込む。
「いざや~ん。言ってくれればハンマーくらいならすぐに出せるけど」
「おお。なら次はそうしよう」
「どうしてすでに次の破壊予定を立ててるんですか!?」
皐月と十六夜をハリセンでたたくとようやく落ち着いたのか皐月に気づく。
「皐月さんも眼を覚ましたんですね」
「ついさっきね。んで工房を出たらいざやんと合流したから一緒に来たってわけ。一応いざやんから事情を聞いたけど……」
皐月が表情を変え、黒ウサギを観察する。その眼光に思わずひるむ黒ウサギ。
「…… うん。どうやら自分と引き換えなんて考えはしてないみたいだね」
「はい。飛鳥さんたちに言われて考えを改めました。ですが、その方法は……」
「これのことだろ?」
風呂敷包みをテーブルの上に置き広げる。その中に入っていたのは二つの宝玉。
「もしかして、貴方、一人でこれを取りに行ってたの?」
「ああ、時間ギリギリまで集めてた」
「ふふ、なるほど。だけどねぇ十六夜くん」
少し不機嫌なフリをしながら飛鳥が十六夜の耳を引っ張る。
「こういう面白いことを企むなら…… 次からちゃんと一声かけること。いいわね」
「そりゃ悪かった。次は声をかけるぜお嬢様」
二人が悪戯っぽく笑みを交わす。それを見ながら皐月は耀に話しかける。
「あ、そうだ」
「なに?」
「ちょっと前にあげた耐風のマントと雫のペンダントを借りれるかな?」
「いいけど」
「前のギフトゲームの件で少し手を加えておこうかなって思ってね。一日もかからないから安心して」
「わかった」
耀がギフトカードから取り出し皐月に渡す。この二人はすでにペルセウスとのギフトゲームのことに頭がいっている。
「……皆さん、ありがとうござます」
溢れ出そうな涙を拭きながら黒ウサギは勢いよく立ちあがる。
「ペルセウスに宣戦布告します。我等が同士・レティシア様を取り返しましょう」
皐月はレティシアという言葉に少し反応しながらも笑みを浮かべ十六夜たちを見る。
「その前にもう少し事情を聞きたいんだけどいい?」
「何が聞きたいんだ?」
「聞きたいのは一つ。ペルセウスの伝説を聞きたい。もしかしたらそこに今回のギフトゲームの内容があるかもね」