問題児たちが異世界から来るようですよ? ~大地の寵愛者~ 作:無名宴
耀から受け取った不可視のギフトをつけた十六夜たちが最奥にたどり着くと椅子に座り足を組むルイオスが軽薄そうな笑みを浮かべながら見下していた。
「ふん。本当に使えない奴らだ。この一件でまとめて粛清しないとな」
隣には石化しているレティシアの姿がある。
「まぁ、このコミュニティが誰のおかげで存続できているのかわかっただろうね。自分たちの無能っぷりを省みてもらうにはいいきっかけだったかな」
そう言いながら立ち上がる。すると履いていた膝まで覆うロングブーツから光り輝く対の翼が現れる。
それがバサッと羽ばたき軽く浮かび上がる。
「なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。 …… あれ? このセリフを言うの初めてかも」
内心の呆れと失望を表面に出さず十六夜は肩を竦ませて笑った。
「ま、不意を打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」
「ふん。名無し風情を僕の前に子させた時点で重罪さ」
ギフトカードを取り出し、光とともに燃え上がる炎の弓を取り出した。
「…… 炎の弓? ペルセウスの武器で戦うつもりはない、ということでしょうか?」
「当然。空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」
黒ウサギを小馬鹿にするように天に舞い上がる。
「メインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま“ペルセウス”の敗北になる。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」
慢心を感じられないルイオスの言葉に、黒ウサギは内心焦り始めていた。
(まずいです…… もしあのギフトを使われたら……)
そんな黒ウサギの内心とは裏腹にルイオスは首にかかったチョーカーを外し付属している装飾を掲げた。
「目覚めろ―――― “アルゴールの魔王”!!」
装飾から放たれた光が褐色に染まり、三人の視線を染めていく。
「ra、GYAAAAAAAaaa!!」
白亜の宮殿に共鳴するかのように甲高い女の声が響き渡る。
「な、なんて絶叫を」
「ちっ!」
十六夜がすぐにジンと黒ウサギを抱きかかえ飛び退く。
直後、空から巨大な岩塊が山のように落ちてきた。それを避け続ける十六夜たちを見てルイオスは高らかに嘲った。
「いやぁ。飛べない人間って不便だよねぇ。落下してくる雲も避けられないんから」
「雲ですって……!?」
ハッと外に目をやる。雲が落下しているのはこの闘技場の上だけではない。
“アルゴールの悪魔”はこのギフトゲームに用意された世界すべてに対して石化の光を放ったのだ。
「星霊・アルゴール……! 白夜叉様と同じく、星霊の悪魔……!」
黒ウサギが戦慄とともに口にする。
「今頃は君らの御仲間も部下も全員石になっているだろうさ。な、無能にはいい体罰かな」
不敵に笑うルイオス。
「下がってろよ御チビ。守ってやれる余裕はなさそうだ」
十六夜がジンに振りかえると、彼は申し訳なさそうに一歩下がる。
「すみません…… なにもできず」
「別にいいさ。それより、当てが外れたな。レティシアが戻ってくることで魔王に対抗するつもりだったんだろ?」
「……はい」
悔しそうに肯定するが、まだジンの目からは光は消えていない。
「十六夜さん」
「ん?」
「貴方が本当に魔王に打ち勝てる人材だということを――― この舞台で証明してください」
今こそ、逆廻十六夜の真価を見定める。その思いを理解した十六夜は高らかな交渉で返した。
「いいぜ。よく見てな御チビ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でてから前に出る。
「さぁ、やろうかゲームマスター」
「ん? 二人でかかってこないのかい? 後ろの子がリーダーなんだろ?」
ルイオスに小馬鹿にするかの表情を浮かべる十六夜。
「おいおい自惚れるなよ、三下。お前如きうちの坊ちゃんが手を出すまでもねぇ」
その挑発にルイオスに青筋が走る。
「名無し風情が!」
アルゴールの陰に隠れるように炎の弓を引く。
蛇のように蛇行する軌跡の炎の矢を十六夜はあっさりと避ける。
「おいおい、遊んでんのかよ」
「うちのクラーケンを打ち倒すだけの力はあるってことか」
再び弓を引こうとしたルイオスは突然ニヤリと笑みを浮かべる。
「せっかくだ。絶望させてやるよ。アルゴール!」
ルイオスの言葉にアルゴールはジンに向けて光を放つ。
光はまっすぐにジンへと向かい……
彼の持つ何かから放たれた別の光に遮られた。
「なに!?」
「よそ見してんじゃねぇよ!」
所々に石を散りばめたグローブをはめた十六夜が隙をさらしたアルゴールに拳を叩きこみ、壁へと打ち付けた。
「さっそく役に立ったな御チビ」
「はいっ!」
ダイヤモンドブローチを握りながらジンは笑顔で頷く。
「次は簡単なんだよ。立場が一番上で全体的に能力が低いから」
「うぅ……」
皐月にそう言われ、ジンが少し落ち込む。
「腐らない腐らない。力を得るのは後で十分。今はただ防御の面を上げるのが一番だしね」
渡す予定だったものを袋からジンに取り出し渡す。
「対策はこれ。あと前に渡した傭兵のマントは守りとしてはかなり優秀なほうだから戦闘が関連するギフトゲームには必ず纏っとく事」
「はい!」
ジンが返事をすると最後に十六夜に目を向けた。
「さてと、問題はいざやんなんだよね……」
微妙に黄昏ながら皐月が呟く。
「ぶっちゃけ聞くけど、いざやん何がいい?」
「また唐突だな」
「だってさぁ……」
ゴソゴソと袋をあさるが小さくため息をつく。
「いざやんの戦い方って武器使わないやん。だからと言って下手な防具渡しても動きを妨害することになりそうだし……」
どうやらかなり悩んでいるらしく皐月は頭を軽くかきながら袋を眺めていたが、突然眼を丸くし笑みを浮かべるとコクコク頷く。
「ん? なにかあったのか」
「うん。これなら問題ないかなって奴をみつけた。ちょっと改造し過ぎて問題が出たからどうしたもんかなって思ってたけど、いざやんなら使えるでしょ」
そういいあるものを渡す。
「『威力そのままに限りなく薄く改良しまくった』って言ってたなあいつ」
ゴーレムパンチをつけた十六夜。
「このくらいの重さなら問題ねぇ。いいもんくれるじゃねぇか」
床に亀裂を残しながら壁からはい出ようとしたアルゴールにさらに追い打ちの拳を叩きこむ。
「GYAAAAAAaaa!!」
「ハハ、どうした元・魔王様! 今のは本物の悲鳴みたいだぞ!」
獰猛な笑顔で拳を叩きこむ十六夜。その威力は闘技場の壁どころか全体に亀裂をうみだす。
「図に乗るな!」
「テメェがな!」
ルイオスが背後から“星霊殺し”のギフトが付属された鎌 ハルパーを振りおろすがそれも避けその反動を利用し蹴りあげる。
柄で受けてもなお軽減できない衝撃により空へと吹き飛ばす。
「翼があるのに不便そうだな?」
吹き飛ばされたルイオスに一瞬で追いつくと腕をつかみ地面に向かって投げ飛ばす。
「ガッ!」
そのさいようやく抜け出したアルゴールへさらに拳を叩きこむ。
「Gya……!」
「鎌を使うなら皐月あたりを見習うべきだな」
髪をかき上げながら言う十六夜にルイオスの表情が怒りに歪む。
「ふざけるな!! アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 奴を殺せ!」
「RaAAaaa!! LaAAA!」
謳うような不協和音とともに白亜の宮殿が黒く染まる。
「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」
黒い染みから襲いかかる蛇を模した石柱を避けながら十六夜が呟く。
「この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ! 貴様にはもはや足場一つ許されない! 貴様ら相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの! このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場はないものと知れ!!」
ルイオスの絶叫と魔王の謳うような不協和音。
さらに激しさを増す蛇の群れに十六夜はぼそりと呟く。
「―――― そうかい。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな」
その言葉に共鳴するように十六夜がつけているゴーレムパンチの散りばめられた石が巨大になる。
無造作に振り上げられた拳を黒く染まった魔宮に振り下ろす。
その力は宮殿全域を揺るがし、闘技場そのものを崩壊させる。
「……馬鹿な…… どういうことなんだ!? 奴の拳は山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」
「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな」
怒りとも恐怖ともとれる叫びを上げるルイオスに不機嫌そうに十六夜がいう。
「いや、違う。あれはあの手につけてるギフトのおかげだ!」
自分に言い聞かせるようにそう断言する。確かにゴーレムパンチは先ほどの姿から元に戻っているが、十六夜はその言葉に不機嫌度を増す。
「もういい。終わらせろ、アルゴール」
それは石化のギフトを解放する言葉。
星霊・アルゴールは謳うような不協和音を立てながら褐色の光を放つ。
十六夜はその光に包まれ
「ゲームマスターが今更ずるいことしてんじゃねぇよ!」
ガラス細工のごとくその光を踏みつぶした。
「さぁ、続けようぜゲームマスター。“星霊”の力はそんなものじゃないだろ?」
軽薄そうに挑発する十六夜。だがルイオスの戦意はほぼ枯れていた。
「いざや~ん。たぶんさっきの以上は出てこないってさ」
その声にん? と眼を向けるとジンと黒ウサギを守るように前に立つ皐月の姿があった。
足元には細切れになった蛇がいるところを見るとどうやら二人を守っていたらしい。
「何?」
「アルゴールが拘束具につながれて現れた時点で察するべきでした。…… ルイオス様は星霊を支配するには未熟すぎるのです」
皐月の後ろにいた黒ウサギが十六夜に近づく。
ルイオスは射殺さんばかりの表情で黒ウサギを睨むがその口からは何も出ない。
「ハッ。所詮は七光と元・魔王様。長所がなくなれば打つ手なしってことか」
失望したように吐き捨てる。
「ああ、そうだ。もしこのままゲームで負けたら…… お前たちの旗印、どうなるか分かっているんだろうな」
「な、何?」
不意を突かれたかのような声を上げるルイオス。
「レティシアを取り戻すのは後でもできるだろ? それに」
十六夜の表情が凶悪に染まる。
「どこにレティシアがいるんだ?」
「なんだと!?」
「えっ!?」
ルイオスが眼を見開き、黒ウサギとジンがすぐにレティシアの石像があった場所を見るが確かに存在しない。
「ど、どういうことだ!?」
「おいおい、俺に聞くなよ」
十六夜を見るが肩を竦めるだけ。
「ないものは仕方ない。そんなことより、旗印を盾に即座にもう一度ギフトゲームを申し込む。そうだなぁ。次はお前たちの名前を戴こうか?」
ルイオスの表情から血の気が引く。
それを眺めていた皐月はガシッと黒ウサギとジンをつかむ。
「さて、ここから先はいざやんに任せよう。もし二人が石化していたら回収しないといけないし」
「ちょっ! 皐月さん!? レティシア様を探さないと」
「いいからいいから」
ズルズルと二人を引きずりながらも皐月は十六夜に向かっていくルイオスを視線の端に納めていた。