問題児たちが異世界から来るようですよ? ~大地の寵愛者~ 作:無名宴
「いいないいなオイ! だてに神を名乗ってるわけじゃねぇな!」
獰猛な笑みを浮かべながら十六夜は襲いかかる水弾を避ける。
『これを避けるか! 面白い!』
同じく獰猛な笑みを浮かべている白雪も水弾の質と量を増やし十六夜へと向ける。
さすがに避けきれなくなった十六夜は拳を握りしめると水弾を殴り、消し飛ばす。
『むっ……』
「これで終わりかよ」
岩を砕くほどの威力がある水弾を殴りながらも何事もなかったかのように笑う十六夜に白雪は何かを考えるかのように少しばかり眼を細める。
『この男は本当に人間か?』
「……おいおい。冷めるようなこと言ってんじゃねぇよ」
それはただの呟きだったが、それが聞こえたのか途端につまらなさそうな表情に変わる。
「これは俺達の喧嘩だ。それ以上は必要ねぇだろ」
再び獰猛な笑みを浮かべながら睨みつける十六夜。
『…… そうだな。そのようなことは些細なことだ』
愉快そうに白雪が笑い再び大量の水弾が十六夜に向けられる。
「馬鹿の一つ覚えか?」
『囀るなと言ったはずだ』
水弾を避けた直後、足元から渦を巻いた水柱が十六夜を包み込む。
『殺しはせん。だが相応の報いは受けてもらおう』
身動きが取れない十六夜に再三に水の塊が襲いかかる。
黒ウサギがそこに到着したときに眼にしたのは十六夜と蛇神の戦う姿。
「十六夜さん!!」
慌てて駆け寄ろうとした時、風を切る音が聞こえてすぐに飛び退く。槍は先ほどまで黒ウサギがいたところに×の形で突き刺さる。
「誰です!」
すぐに周囲を警戒するとふわりと皐月が黒ウサギの目の前に降りてくる。
「悪いけどここから先には行かせないよ」
薄い笑みを浮かべながら言う皐月に黒ウサギは警戒の色を強める。
「邪魔するというのですか」
いつでも飛びこめるように足に力を込めようとした瞬間。
「邪魔というならそっちのほうが…… まぁいいや。止めたいなら好きにして」
地面に突き刺さった槍を引き抜き袋に入れる。
「…… どういうつもりですか」
「いや、一応止めたけどね。これ以上進むなら自己責任で」
近くの岩に座り十六夜たちの戦いを見ている皐月に警戒しながらも戦いに意識を移すと十六夜が巨大な水柱に閉じ込められているところだった。
「十六夜さん!!」
皐月が動こうとしないのを理解するとすぐに跳躍しようとしたが
「『邪魔すんな(するな)黒ウサギ(箱庭の貴族)!!』」
「ひゃう!!」
十六夜と蛇神の同時の怒鳴り声によりビクッとし、動きを止める。
「だから止めてたんだけどね~」
ガシッと黒ウサギの腕を掴むと少し離れた場所に引き摺る。
「もうギフトゲームは始まってるし、何よりあの二人は結構楽しんでるから邪魔しちゃだめだよ」
「ううぅ…… それを先に言ってください……」
髪を緋色から青に変えながら黒ウサギはガクリと肩を落とす。
「ま、黙ってみてよう。もうそろそろ決着がつくだろうし」
皐月は愉快そうに、心底羨むようにその戦いを眺めていた。
「しゃらくせぇ!」
その言葉とともに十六夜は体にまとわりつく水を吹き飛ばし襲いかかる水塊を殴り散らすと一気に白雪の懐に飛び込み蹴り飛ばす。
『がっ!!』
その巨体が空高く打ち上げられ重力に従い川へと落下する。
「お見事」
「嘘…… 人間が神族を倒した…… それも只の腕力で……」
パチパチと手をたたく皐月と呆然とする黒ウサギ。
「今日はよく濡れる日だ」
降り注ぐ川の水に全身を濡らした十六夜は髪をかき上げながら言う。そんな彼に皐月は袋からタオルを取り出して渡す。
「お、サンキュ」
「勝者が濡れ続けるというのもどうかと思うからね」
それを見ていた黒ウサギがハッと我に返るとすぐに十六夜の下に駆け寄る。
「十六夜さん! 怪我はないですか」
「ああ。こいつとやり合うのは面白かったが怪我はねぇよ」
そんなやり取りを聞きながら仰向けに横たわる蛇神の下へと向かう。
完全にのびている白雪を見ながら皐月は袋を軽くあさり考える。
「良い一撃だったからねぇ。そりゃ気を失うよね~」
幸いにも仰向けで口を開けた状態だったため神秘のポットを取り出し口の中に注ぎ込む。
「とりあえずこれで眼は覚めると思うけど…… どう?」
『ああ、問題はない』
尋ねると神秘のポットの効果が出たのか白雪がそのままの体勢で答える。
『私は負けたのだな……』
「うん。決め手は彼の見事な一撃。あれを無防備に受けたんだもん、気くらい失うよ」
白雪の呟きに皐月が答える。
「で、ギフトゲームのルール上だと勝者は何かを得ることができるらしいけど、どうする気?」
今回のギフトゲームには何もかけられていないことを告げると、白雪は小さく呻き考え始める。
「彼は君を直接倒した。なら渡すものはそれ相応の物でなければ君の格が知れることになるよ」
『わかっている。 ……一つ聞きたい』
「ん?」
『あの男はあの箱庭の貴族のコミュニティに所属しているのか?』
「さぁ? でも、知り合いなのは事実だろうね」
『そうか…… ならこれがいいだろう』
そういうと皐月の目の前に光が集まり、それは一つの木の苗に変わる。
「初めて見るタイプの木だけど、何これ?」
『水樹の苗だ。大気中の水を集め、増幅させて放出する性質を持つ木だ』
「ああ、水場草みたいなもんか。中々に興味深い」
興味深そうに苗を見ていた虫眼鏡を取り出し観察し始める皐月。
『噂だが、あの箱庭の貴族のいるコミュニティは名も旗印も奪われ貧困にあえいでいると聞いたことがある。なら、水は必需だろう』
「そうだね。なにをするにせよ水は必需だからね。いいと思うよ」
そんなことを言い合っていると、再び緋色の髪に戻った黒ウサギと拭き終えた十六夜が皐月たちに近づく。
「そっちの話は終わったのか?」
「うん。さっきのギフトゲームの賞品を決めていただけだからね。で、そっちも何か話し合っていたみたいだけど?」
「ああ。コミュニティの状態や魔王のことをな」
楽しそうに言う十六夜。
「あ、さっき聞いた噂ってあってたみたいだね。なら、これはかなり重要だね」
水樹の苗を見せると黒ウサギは耳をピンと立てて眼を丸くする。
「それは水樹ですか!? それがあればもう箱庭の外から水を汲んでくる必要もなくなります!!」
その言葉に皐月と十六夜が眼を細める。
(予想以上にひどいみたいだね~)
(ま、いいんじゃね?)
すでにアイコンタクトが成立している時点でこの二人の気の合い方は少しおかしいだろう。
「それで二人はこれからどうするの?」
喜んでいた黒ウサギに尋ねると、はしゃぎ過ぎていたのが恥ずかしかったのか少し顔を赤らめるとコホンと軽く咳払いする。
「私たちは箱庭にあるコミュニティの拠点へと戻ります」
「なら、ついてっていいかな? 箱庭までの道分からないし」
「ええ。かまいませんよ。それじゃあ行きましょうか」
黒ウサギが道案内をするように前を歩き出したため皐月は後を追いかける。その際軽く白雪を見ると、笑みを浮かべた。
(縁があればまた)
白雪には皐月がそう言っているように感じ、口を釣り上げる。
『ああ、縁があればな』
その言葉は風に乗り消えていった。