銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#12 田橙銀沖時

妖怪の山

人間より昔からこの地に住み着いている妖怪が多く住む場所。 通常、幻想郷で「山」と言った場合はこの妖怪の山のことを指す。

ここに住む妖怪達は、人間や麓の妖怪とは別の社会を築いており、幻想郷のパワーバランスの一角を担っている。特に天狗や河童は外の世界に匹敵するか、それ以上の技術力を持っており、天狗は写真・印刷・出版の技術、河童は鉄鋼や建築・道具の作成などの技術を持つ。

その為、この山に攻め入る妖怪は滅多にいないし人間も近づこうとしない。山の妖怪は幻想郷のどの種族よりも陽気で仲間意識も高く、高度な技術と相まって近未来的で豊かな生活を送っているという。

ただ、その仲間意識の高さから、余所者に対する風当たりは強く、山の侵入者に対しては、相手が何であれ全力で追い返されてしまう。特に天狗は、味方がやられると確実に敵対姿勢を取る。他の妖怪に無い特徴である。

 

「相変わらず固い警備態勢だ、いちいちこっそり入らなきゃいけねぇしめんどくせぇや全く」

「でも銀時様なら力を行使すれば私達の山の警備も問題なくすり抜けられるんですよねー」

 

そんな山の中をザッザッと茂みを木刀でかき分けなければ奥へと進んでいくのは八雲銀時、そしてその後ろからヒョコヒョコと2本の尻尾を揺らし小さな体で付いていっているのは式神の橙≪ちぇん≫

 

八雲紫の式神であり八雲藍の式神。つまり式神の式神。ちなみに式神は鬼神が憑いているらしいが、見た目はまんま子供の妖怪。

人間の子供程度の知識を持つ。同じ式神であっても、藍のように複雑極まる数字の処理等は出来ない。

その他、猫だけあってマタタビ好きである。藍もマタタビを使って橙を操ることがあるようだ。というよりマタタビを使わないと中々命令を聞かない。

藍も彼女の扱いには手を焼いていて、それが紫の苛立ちを募らせるキッカケともなっている。(主は本来式神を絶対的に服従させるのが常考だからだ)

 

「いつからこんなピリピリした雰囲気になったんだ」

「んー結構昔からだったと思いますよ。よくわかんないですけど」

「お前なぁ、住んでるならそれぐらい知っとけよ」

 

橙は銀時達とは違い妖怪の山で寝泊まりしている。式神とはいえ基本的には化け猫なので屋敷に置いておくより、だだっ広い山の中で勝手に遊ばせてやってた方が面倒見る暇が少なくなって便利なのだ。

 

「おかげでこうして俺がわざわざ出向いて、天狗の目を掻い潜りながら探りに来なきゃいけないハメになってんだぞコノヤロー」

「掻い潜らなくても、銀時様なら直接入っても問題ないんじゃないですか?」

「いやダメだ、この山の天狗共はよそ者相手なら誰であろうと入れようとしねぇんだよ」

 

そう言いながら銀時は最後の茂みをかき分けるとやっと目的地へと到着した。

周囲数メートルの草々は燃え尽き、未だ黒くなっている地面からは筈かに焦げ臭さがまだ残っている。

それはどう見ても山火事が起こった現場であった。

 

「ここが例の現場か、正体不明の何かが起こしたボヤ騒ぎっていうのは」

「はい、幸い最近編成された天狗のとある組織が速やかに見つけて対処したらしいですけど」

「とある組織ってなんだよ」

「さあなんでしょう? 詳しくは知りません」

「お前本当に住んでるのここ?」

 

銀時が探りに来たのは数日前に起こった妖怪の山火事騒動だった。

深夜未明、警備の目を欺き山に入り込んだ何者かが火を放ち、火事を引き起こした。

それが妖怪の仕業か、はたまた妖怪の存在を良しとせずに幻想郷から追い払おうという過激思想を持った人間がやったのかは未だ目星は付いていないが、火事が発生した場所で妖しい人影を見たと山の警備を務めている一人の白狼天狗が証言している。

どちらにせよ、妖怪の多くが生息しているこの山でそんな事が起きる事こそ問題なのだ。

 

「どこぞの誰がやらかしたのか知らねぇが、えらい命知らずがいたもんだわ」

「そんなに大変な事なんですか」

「この山に住んでる奴等は他の妖怪共と違って仲間意識が強い種族が多いんだよ。こんな真似したら連中はそうとう怒り狂うだろうぜ」

「なるほど! 私も仲間意識は強いですからね! 自分の住処を襲われて怒らない人なんていませんよ! うおー! こうなったら犯人の証拠をこの手で暴いてやるー!」

「今更思い出したかのように怒りだす奴に仲間意識もクソもねぇよ」

 

指の先にある爪を立てて突然シャーっと威嚇しながら焼き焦げた茂みの中へと突っ込んで行く橙に、冷ややかに銀時がツッコミを入れているとふと茂みの奥からガサゴソと何者かが現れる。

 

「あり、こんな所で何してやがるんでぃ?」

 

銀時の前に出てきたのは見た目は若い青年の様だった。黒い制服を着て腰には一本の刀を差してある。

 

「ここは俺達天狗組織、『真撰組』が捜査してる所だ。部外者はとっとと立ち去ってくれねぇかな……あり、ひょっとしてその銀髪天然パーマに特徴的な死んだ目……」

 

自らを真撰組と名乗った青年は銀時を見てパチッと目を見開いた。

 

「もしかしてあの大妖怪・八雲紫の旦那ですかぃ? いやぁこんな所で会うたぁ奇遇だ。あらゆる場所に出没する風変わりな不老不死とは聞いてはいたが、まさかここにも出向いていたとは驚きでさぁ」

「なんだお前、天狗か? 真撰組とか言ってたがそんな組織聞いた事ねぇぞ」

「ああこりゃ失敬、真撰組っつうのは最近ここらで出来た、まあ平たく言えば悪人をとっちめる為に編成された組織でね」

 

真撰組と言われてもピンと来ていない様子の銀時に、天狗の青年は簡単に説明して上げた。

 

「最近人間の中に俺等妖怪共を追い払おうだとか企んでるバカな連中がいんでしょ、そいつ等を捕まえるなりぶっ殺すなりして幻想郷を平和にする善良なる組織なんでさぁ」

「いやぶっ殺すとか物騒な発言が聞こえたのはともかく、確かにそういう人間は増えて来てはいるけど確かお前等天狗はそういった事に介入しないとか言ってなかった?」

「旦那、よもやどこぞのバカな鴉天狗が書いたゴシップ記事を鵜呑みにしてるとか言わないですよね」

 

自分の仲間である筈の鴉天狗の事を平然とバカ呼ばわりしながら、青年は仏頂面で話を続ける。

 

「天狗の中にも色々存在するって事は頭に入れておいてくだせぇよ、能天気で何事も浅い考えしか持てねぇ鴉天狗共や下っ端の白狼天狗と一緒にされるとさすがに俺達も心外だ、俺達は俺達としてちゃんとこの事態を危惧しているんですよ、あんな連中と一緒にまとめて欲しくないんでさぁ」

「ふーん、人間だけでなく天狗の中にもそういう別の思想を持った連中が出てきたって訳か。こりゃ紫に報告しておかねぇと」

「俺はその真撰組の一番隊隊長をやらせてもらってる沖田総悟ってもんでしてね、以後お見知りおきを」

 

沖田総悟

若くして(あくまで天狗の中では)天狗の組織、「真撰組」の一番隊隊長の席に身を置いた実力者だ。

食えない性格であり人間だけでなく仲間の天狗達までも翻弄するその姿は変わり者集団の真撰組の中でも一際浮いた存在となっている。

しかし実力の方は確かに本物であり、組織の中では欠かせない重要な存在として部隊の先陣を務める事が多い。

 

「今回の件は俺がやっておきますんで、旦那方は手ぇ出さなくて結構です。どうしても俺等の縄張りに首突っ込みてぇって言うんなら……」

 

ふと沖田が僅かに笑ったかと思えば、既に腰に差す刀に手を置いている。

 

「ちょっくら俺とやり合って貰わねぇと。実は旦那の噂は前々からよく耳にしていたんでね、前々から一勝負やってみたいと思ってたんでさぁ」

「……天狗にしちゃ随分と血の気の多い野郎だな」

「生憎俺は天狗は天狗でも”鬼天狗”っつう種族でして」

 

鬼天狗

その身体には祖先の鬼の血が混ざっているという天狗の中でも極めて特殊な種族であり、そのほとんどが並外れた戦闘技術を持っている。むしろ天狗というより鬼の方に近いのではと言われるぐらい戦いに意欲的な種族なのだ。しかし鬼と違い平気で嘘も付けるし狡猾に立ち回れる、そういった所は天狗に近いかもしれない。

 

「まあやるやらないかはおたくの自由ですぜ、どうしやす?」

「めんどくせぇからパス」

 

そんなすぐにでも刀を抜きそうな沖田に対して、銀時はめんどくさそうに小指で鼻をほじりながらあっさりと断った。

 

「俺はただカミさんに頼まれて様子見に来ただけだ。お前等がお前等で捜査してぇなら勝手にしろ」

「そうですかぃそいつは残念だ。大昔に鬼の四天王だとか呼ばれてた奴等を見事に退治しちまった御方だと聞いていたから是非にと思ってたんだが」

「酒飲ませまくって仕留めただけだ、正面からやり合ったらさすがに俺でもキツイわあんな連中」

 

そう言って素直に沖田は引き下がる。

 

「まあおたくがノリ気じゃないならやっても仕方ねぇ」

「そういうこった、戦いてぇなら人里に行って人攫いでもしてみろ。博麗の巫女が退治にくっから、そんでその巫女を倒したら俺がやってやる」

「ラスボス倒す前に中ボスやれって事ですかぃ? 一度あのクソ生意気そうな巫女をボコボコにしてぇとは思ってたがそいつは難しいな、そんな真似したらウチの局長に怒られちまう」

 

妖怪に人攫いを薦めるのは如何なもんかと思うが、幸いにも沖田の方はやる気はないらしい、博麗の巫女を倒す事には興味津々の様だが。

二人でそんな会話をしていると、彼等の下へタッタッタと先程単身で現場検証していた橙が勢いよく駆けて来る。

 

「銀時様ー! 見てみて変なの拾ったー!」

 

両手に上に何やら置いた状態で無邪気に駆けて来た橙に銀時は目を細める。

 

「……お前事件の証拠を暴くとか言ってなかった?」

「え? 何の話ですそれ?」

「藍が苦労する訳だぜ」

 

すっかり記憶にないらしく頭に「?」を浮かべて小首を傾げる橙に、銀時はため息を突きながらも彼女が持ってきたモノを見る為、丁度彼女と同じ身長になるぐらいにしゃがみ込んだ。

 

「どれどれ……あーこりゃタバコの吸い殻じゃねぇか。ばっちぃモン持ってくんなよな」

「タバコってなんですか?」

「この世のニコチン中毒者が愛用している葉っぱだよ、猫のお前には刺激が強いかもしれねぇから嗅ごうとすんなよ」

 

そう言って銀時は橙の手からひょいとそれを手に取る。

 

「ほれ見ろ、この紙筒の中に葉っぱがあるだろ。まずはコレに火を付けて……火?」

「旦那、もう結構です」

 

橙にタバコの使用用途を説明して上げてる途中でふと銀時がある事に気付くと同時に、沖田がニヤリと笑いながら彼の手のタバコを後ろから取ってしまう。

 

「ずっとコイツを探してたんでさぁ、そこの猫娘には感謝しねぇとな。なにせ犯人逮捕に繋がる重要な証拠を見つけたんだ、表彰モンだぜコイツは」

「ってちょっと待って、まさかここら一帯が燃えたのって……そのタバコか?」

「ええ、間違いありやせん。旦那、火災が起きた時にとある白狼天狗が人影を見たと証言したのは知ってますかぃ?」

 

手に取ったタバコを証拠品として密封出来る袋に入れながら沖田は銀時にとある話を始めた。

 

「その白狼天狗は千里眼っつう、要するにずば抜けて目が良い野郎なんですよ。そんな奴がただ人影しか見えなかったと証言するのはおかしいと思いやせんか」

「千里眼? ああ、あの犬ッコロか。確かにアレなら人影だけじゃなくてちゃんとはっきりと見える筈だな」

「大方犯人を見たもののその事実を公にしたくねぇとか考えたんでしょう、だからその犯人を匿う為にそんなデタラメ吹いたんでしょうね」

 

そう言いながら沖田は得意げにタバコの入った袋をヒラヒラさせながらほくそ笑む。

 

「だがそんな事は知ったこっちゃねぇ、あんな下っ端犬が誰を匿おうが、この山で行われた犯罪をおいそれと見過ごすわけにはいかないんでね。コイツをキチンと提出して犯人には責任取ってもらわねぇとな」

「お前誰が犯人か知ってるのか?」

「まあね、という事で旦那。あまりおススメしたくねぇんですが」

 

犯人逮捕の為の証拠品を手に入れたと意気揚々と沖田は銀時達の前から去って行く。そして去り際にクルリと顔を向けて

 

「明日の鴉天狗の新聞は見物ですぜ」

 

それだけ言い残して彼は銀時達を残して行ってしまった。

 

 

 

 

 

翌日、銀時は自宅の屋敷にて沖田の言う通り、鴉天狗が発行している新聞『文文。新聞』を買って庭の前の廊下で読んでいた。

 

「見て下さい藍様~、天狗の人から表彰状貰っちゃいました~」

「犯人逮捕にご協力感謝します……そうか、私が見てない間に立派になったな橙。今日はウチで食べていけ、お前の好きな物を作ってやろう」

「わ~い」

 

背後で天狗達から貰った表彰状を手に持って嬉しそうにはしゃいでいる橙と、早速甘やかしている藍の会話がふと聞こえている中で、銀時の隣に八雲紫がふと座って来た。

 

「何か面白い記事でもあるのかしら?」

「……いや特にねぇな、相変わらずつまらねぇ事ばっかだ」

 

そう言って銀時は両手に持っていた新聞をバサッと閉じて床に置くと、立ち上がって藍達の方へ歩き出す。

 

「おい、橙の好きなモノつったら普通の焼き魚だからな。間違ってもチーズとわさびをトッピングした煮干しとか出すんじゃねぇぞ」

「何を言ってるんだお前は、橙の好きな食べ物はチーズ乗せ煮干しセットだ。橙の主である私がそれを知る訳ないだろう」

「藍様それ作るなら山に帰らせてもらいます」

「えッ!?」

 

銀時が混じってそんな会話をしている三人をよそに、紫はふと彼がおいていった新聞に目をやると、表紙にはこんな記事が書かれていた。

 

『○月××日、妖怪の山があわや大火事となりかけた事件。その犯人はなんと我々天狗の一族の一つである鬼天狗が率いる『真撰組』のナンバ-2だった。誰が犯人なのか疑問が疑問を読んでいた展開の中で、原因が単なる彼のタバコの不始末というなんとも情けない幕切れでこの事件は無事に解決してしまった事に我々記者達も残念でならない。ちなみに事件解決を導いたのはあろう事か同じ真撰組であり彼の部下でもある男からの密告であった。取材に応じたその男は我々に対し「尊敬していた人物だったのに幻滅しました、一刻も早く責任を取って副長の座から下りて欲しいですね、つうか死ねコノヤロー」と例え相手が上司であろうと厳しい口調で弾叫し、正義感に燃える一面を覗かせていた。その後彼は組織のトップに対して自分が代わりに副長になると立候補し……』

 

そこまで読み終えると紫はフフッと笑って顔を上げた。

 

「天狗というのは仲間意識が強いと聞くけど、身内の不始末を隠蔽せずに堂々と告白できる天狗が”二人”もいたなんてね」

 

天狗の中にも色々いる。

 

改めて紫はそれを再確認するのであった。

 

 

 

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