『文々。新聞』
発行は月に5回程度、号外が他の新聞と比べて比較的多いのが特徴。
妖怪、人間も購読可能だが、天狗以外で購読している者は殆どいない為、実質的には天狗の身内新聞であった。とある人物からは「学級新聞」と酷評される程内容は微妙。
更にぶっちゃけ身内の間でもさして人気は高くなく他の新聞と比べると確実に売り上げは劣っているのが現状である。
記事の内容は主に幻想郷の人物が起こす不思議な事件が主な記事とされているが、他にも自然の脅威や病気の流行等に対する注意喚起、各種イベントについての情報、食品関係の話題、香霖堂やとある竹林の奥にある病院の商品についてのインタビュー等、実に多様な記事が掲載されている。
しかし何度も言うが人気は全くと言っていい程無い。
「という事でこのままだと私の生活も危ないので~、三ヵ月契約でもいいですから取ってくれませんか?」
「いやお前の生活とか知らねぇから」
そしてその文々。新聞の制作者兼取材兼購買担当と全てを受け持った少女。
射命丸文は昼下がりに人里へ向かう道中をフラフラと散歩していた八雲銀時を捕まえて契約交渉を行っていた。
射命丸文
妖怪の山に住む鴉天狗の少女にして新聞記者。
博麗大結界の成立よりも以前、かつて妖怪の山に鬼が棲んでいた1000年以上前頃からこの辺に住んでおり、現在の幻想郷には無い「海」を知っている程長命だったりする。天狗の特性故か、決して力を見せびらかせようとはしないので実力は不明。
「お願いしますよ本当に、昔はなんだかんだで半年も契約してくれたじゃないですか~」
「アレはだってお前、お前があまりにも必死過ぎたから哀れんで取ってやっただけだよ」
「では今回も是非あの時の哀れみを思い出して私の為に1年契約を……」
「半年増えてんじゃねぇか、もうあっち行けよ」
さっきからずっとついて来て新聞取ってくれとしつこい文、めんどくさそうに銀時が追い払おうとするも彼女はめげずに諦めようとしない
「それなら洗剤付けますからこれでどうですか? お買い得ですよホント?」
「今時洗剤付けただけじゃサービスにもならねぇんだよ。どうせサービスするならもっと良いモンよこせ、だからといって新聞取らねぇけど」
「え、洗剤以上のサービス?」
周りをウロウロしながらあの手この手で契約取ろうとする文に、銀時はため息突きながらそんな事言っていると、彼女はふと思いつめた表情でアゴに手を当てて考えながら
「……まさか狙いは私のボディーですか?」
「違ぇよ! なんでサービス=そっち方向になるんだよ!」
「外の世界ではそうやって新聞取る方法があると聞いた事があるので」
「それただの企画物のAVだろうが!!」
目を細めながら明らか軽蔑している様子を見せながら文は後ずさりすると
「仕方ありません、あなたとは長い付き合いですし特別に」
突然草々が茂った地面にバタリと大の字で倒れ
「この生娘天狗ボディーを献上しようじゃないですか。しかしこれだけは覚えておいてください! 例え私の身体を奪おうと心だけは奪えないって事を!!」
「いい加減にしろよクソアマ! テメェの身体なんざ欲しくもなんともねぇんだよ! 一生そこで寝転がってろ!!」
さあいつでも来いと言った感じで仰向けに倒れる文に銀時が怒鳴り声を上げていると
「何やってんのよアンタ?」
道のど真ん中で騒いでいる二人に気づいて歩いて来たのは、博麗の巫女、博麗霊夢。
「なんかうるさい鴉天狗の声とうるさい天然パーマの声が聞こえたから来てみたけど。なんでそいつ倒れてるの?」
「ああお前か、いや今コイツが新聞取れってしつこくってよ……」
天然パーマの声ってどんな声?とツッコもうとしたが、銀時はとりあえず状況を説明しようと文の方に目をやる。
「チクショウ私の大切なモノをこんな鬼畜外道な男に渡す事になるなんて! でもこれで一年分は取ってもらいますからね!! さあカモン!!」
「新聞取ってもらおうとしてるのよね、何やってんのアイツ?」
「気にすんな、ただのバカだ」
必死の形相になりながらも目は涙目という、明らかおかしい態度の文を見ながら霊夢が眉をひそめる。彼女が妖怪、人間問わず新聞の勧誘をしてるのはしょっちゅう聞くがここまでヤケクソ気味なのは初めて見たかもしれない。
「ちょっとアンタ、何やってんのよ一体」
「あら、霊夢さんじゃないですか」
霊夢が歩み寄り言葉を投げかけると、文はウソ泣きだったのかすぐにケロッとした表情で上体を起こす。
「どうしたんですかこんな所で、今私は八雲の旦那様と肉体的交渉で新聞取ろうとしているので邪魔しないでほしいのですが」
「ああ本当だただのバカね。止めときなさいそういうの、コイツの奥さん怖いわよ」
「例え相手が大妖怪・八雲紫であろうと引くわけにはいかないんですよ! もう私には後が無いんです! 新聞取ってもらえないならこうするしかないじゃないですか!!」
「こうするしかないってどう考えればこうするしかなくなるのよ」
キレ気味に叫ぶ文に冷静にツッコミを入れながら霊夢は腰に手を当て首を傾げる。
「もしかしてそんなにアンタの新聞の方ヤバいわけ?」
「ヤバいなんてもんじゃないんですよ……このままだと長き伝統を誇る「文文。新聞」の発行が廃止されるかもしれないんですから……」
「売り上げがヤバいって事かしら」
「はい……ここ最近は特に買ってもらえなくなって……他の売上成績伸ばしてる鴉天狗達から白い目で見られる事に耐える毎日です……」
「ふーん」
要するにここん所彼女が発行している「文文。新聞」の人気がいよいよ深刻な状態になるまで落ちぶれてしまった様だ。
身内の天狗達でさえ買おうとしない新聞、こうなってはいずれ印刷するだけ無駄だと上の者達によって切られるのも時間の問題。だからもう前に契約した事のある者達に手当たり次第にぶつかるしかないと思って彼女は銀時の前に現れたのであろう。
「お気楽な河童共と違って天狗の世界は超シビアなんですよ……最近では暴力的で頭空っぽの鬼天狗共が妖怪を追い払おうとかしてるバカな人間相手に組織作りだしたり……」
「へーそうなの大変ねー」
「さすが霊夢さんわかってくれるんですね! ところで霊夢さんは新聞の購入のご予定は……」
「あー無理無理、超無理」
泣き落とし作戦に転じて今度は霊夢に新聞取ってもらおうと企む文だが、そんな事知るかとドライ気味に真顔で手を横に振ってバッサリ断る。
「言っとくけど私は新聞取らないわよ。そもそも新聞取る金も無いし」
「チッ、新聞どころかケツ拭く紙もまともに買えない貧乏巫女はこれだから……」
「……なんか言った?」
「いえいえ何も、そうですよねーお金なかったらしょうがないですよね~」
顔を反らして舌打ちしながらボソッと悪態を突く文に気付いた様子で霊夢が睨んでいると、彼女は何もなかったようにニコニコ笑いながら振り返る。
「やっぱり八雲の旦那様に買ってもらいましょうかね、三ヵ月、いや一ヵ月でもいいんで!」
「だから取られねぇつってんだろうが、極まれに買ってやってるだけありがたいと思いやがれ」
「いいじゃないですかちょっと取るぐらい! どこぞの貧乏巫女と違ってお金の方は心配な……おぉぐッ!!!」
「いい加減にしなさいよアンタ」
けだるそうに髪を掻き毟りながらやっぱり断る銀時に思わず口を滑らしてしまった文の頭に思いっきり拳骨をかます霊夢。
「ったく新聞記者もここまで落ちぶれると滑稽ね。そんな性格だから誰もアンタの新聞読もうとしないのよ」
「殴りましたね霊夢さん……こうなったらこの暴力事件を新聞に書いて巫女の評価をだだ下がりにしてやりますからね……」
「勝手にすれば?」
「く……他人の評価を気にしない彼女では脅しにもなりませんね……」
頭を押さえながら恨みがましい目つきで捏造記事を企む文に霊夢が平然とした様子で返事する。彼女の新聞でどんな風に書かれようが気にも留めないらしい。
仕方なく文は銀時の方にヨロヨロと歩み寄ると、突然地面に両膝と両手を突いて頭を深々と下げ
「お願いします! 愛人でもなんでもなるんで新聞取って下さい!」
「誰がそんな交渉で取るかぁ! いきなり土下座するわ愛人になるわ頭おかしいんじゃないかお前!!」
「プライドないのかしらコイツ……」
「そんなモンとっくの昔に燃えないゴミで捨てて来ましたよ」
霊夢の冷ややかな言葉に文は不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる。
「それに私があの八雲紫の旦那の愛人になればそれこそ特大スクープ! 幻想郷がひっくり返る特大スキャンダルに私の新聞も爆売れです!!」
「おいおい遂に自分自身を身売りにするどころか商売材料にしようとか企んでるよコイツ」
自らを犠牲にしてまで記事を書こうとする執念に、呆れを通り越して感心すら覚える銀時。
そんな彼の腕に文はガシッと抱きついた。
「さあまずはかぶき町にでも行ってちょっと良さげな宿屋で休憩しましょう! 入る瞬間もバッチリ撮っておかないといけないので霊夢さん私の代わりにカメラを!! あん!!」
腕に抱きつく文を振り払って、そのまま霊夢に殴られたばかりの頭に容赦なく拳を振り下ろす銀時。
「生憎こちとら嫁さんいるんだ、危ない橋は渡らねぇ」
「うう、でもこのままだと私大好きな仕事出来なくなっちゃうんです……」
二度も殴られてもなお頭を押さえながら全く引こうとしない文。
博麗の巫女と不老不死の侍にここまでやられてなお諦めないその根性は認めるべきであろうか。
「私には使命があるんですよ、人の秘密やプライバシーなど知った事かとお構いなしに覗き見して、数多の工作を行いそれを記事にし、多くの民衆にその事実を公開する大切な使命が……!」
「最低だなコイツ」
「もう行きましょう、付き合ってられないわ」
「いや! 見捨てないで下さい!」
一緒にいるのももう限界なのか霊夢は銀時を連れて人里の方へと歩き出す。
しかし即座に文は二人の前に躍り出て
「じゃあ誰か私の新聞取ってくれそうな人を紹介して下さい! 紹介したら諦めます! 出来なかったら私と不倫して下さい!」
「まるで不幸の手紙ね……どうすんのよ、誰か紹介してやれば?」
「そうさな……」
図々しい彼女にウンザリした様に霊夢が銀時の方へ振り返ると、彼は小指で鼻をほじりながら考え込んだ後、何か閃いたのか指を鼻から抜いて文の方へ近づき
「だったら丁度いい奴紹介してやるよ」
「え、いいんですか!? でも一体誰……」
「まあまあ、今から直接本人の所へ飛ばしてやるから。頑張れよ」
「え?」
誰の事なのかと気になっている様子の文の肩に銀時は優しくポンと触れると
二人の姿は霊夢の前から一瞬で消えてしまった。
しばらくしてまたパッと彼女の前に現れる、銀時だけが
「誰紹介したの?」
「いや幻想郷で起こってる出来事に興味持つかなぁと思ってよ、アレならアイツの下らねぇ新聞でも読んでくれるかと」
どうやら文だけを置き去りにして戻って来たらしい。どこの誰の所へ彼女を連れて行ったのかと霊夢が尋ねると銀時はまた小指で鼻をほじるのを再開しながら
「地獄に住む閻魔の所に」
「……いいお客さんになりそうね」
「だろ」
そう言って霊夢と銀時はすっかり静かになった道中を歩き始めた。
そして地獄に飛ばされた文はというと……
「ここが地獄だろうが相手が閻魔様だろうが構いません!! むしろ相手の敷地内に入って好都合!! 新聞取ってくれるまで絶対にここから動きませんからね! さあさあまずはこの射命丸文が誇る「文文。新聞」の素晴らしさを一から説明してあげましょう!!」
そこが地獄であろうが相手がどれ程の大物であろうが、物怖じせずに契約交渉に励んでいた。
射命丸文の戦いは始まったばかりだ。