銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#15 は時た銀て

場所は妖怪の山、立派に育った木の上にある家。

薄暗い部屋の中で一人の少女が机に顔をつっ伏したまま絶望の声を上げていた。

 

「マジ死にたい……新聞全然売れない……」

 

彼女の名は『姫海棠はたて』

妖怪の山に住む鴉天狗で、射命丸文と同じく新聞を発行している。新聞の名前は「花果子念報≪かかしねんぽう≫」。

持ってる小型カメラで念写をする事が出来、部屋から一歩も出ずとも幻想郷の何処かにある風景を撮る事が出来るという能力を持っている。

新聞記者ではあるが能力の関係であまり出歩かないため、(文に比べて)妖怪の山の中では顔は広くない

気に入ったものや感心したものには非常に素直な賞賛を送り、羨ましいものは素直に羨み、見習うべきは素直に受け入れる。しかし、嫌いなものや気に入らないものは遠慮なく貶したり、見下したりもする。良くも悪くも非常に素直。

 

そして今そんな彼女が悩んでいるのは、部屋中に乱雑に置かれてる大量の新聞。

全て彼女が作った新聞、『花果子念報』である。

 

「どこの店も置いてさえくれず日々部屋に溜まるばかり……このままだとヤバい、本当にヤバいわ私」

 

半ば新聞の在庫置き場に成り果てている部屋ではたては焦りながら机に伏せていた顔を上げるも表情には覇気がない。

飯を食べていないという訳ではないのだが、あまりにも自分の作った新聞が売れないという事に憤りや恐怖、売れている天狗への嫉妬、様々な感情がストレスとなりもはや精神的にも限界が来ているみたいだ。

 

「このまま同じやり方じゃもう無理……何かやり方を変えなきゃ、あーでもどうすりゃいいのよ……このままじゃあの女にも負けちゃう……」

 

頭を押さえながらブツブツと呟きだしながら自問自答を繰り返すはたて。

そしてそんな彼女の背後にある部屋のドアが静かに開き。

一人の鴉天狗が音もなく現れた

 

「フッフッフ、惨めなモノねはたて。頬も痩せこけ髪もボサボサ、まるで締め切り前の漫画家みたいな姿ね」

「!」

 

聞き慣れたその声にはたては我を忘れてバッと後ろの振り返る。

そこにいたのは長年同じ仕事をしてる内に常にどちらが上かと競い合っていたあの……

 

「そこまで滑稽だともうあなたはこの射命丸文のライバルとは言えないわね……へっへっへ、アレ、視界がなんかぼやけてきた……」

「文! アンタこそどうしたのよ! しばらく見ない内に凄いゲッソリ瘦せてない!?」

 

ライバルとして常に高みを目指して戦っていたあの射命丸文の姿がそこにはあった。

しかしどこかおかしい、今の文の姿は木の枝の様に痩せ細ってて目も虚ろだった。

その目の下にはこれまた濃いクマが出来ており、軽く押しただけで腰からポッキリと後ろに折れそうなぐらい弱っている様に見える。

 

「実は最近、私の新聞を長期間取ってくれる人を見つけてね……」

「は!? アンタのあのクソしょうもないチンケなクソ新聞を長期間取るバカがこの幻想郷にいたというの!?」

「アンタのクソつまらない新聞よりはマシよ、でまあ新聞取ってくれた時は最初は嬉しかったんだけど……」

 

挨拶代わりに悪態を突き合った後、文はますます死んだ目をしながら

 

「その取ってくれた人が私が持っていくたびに毎度毎度強烈なダメ出しをしてくる人なのよ……一生懸命考えてやっと出来た新聞を出す度にいつもグチグチグチグチグチグチグチ……正座しながらをそのダメ出しを聞きながら私はこの人との契約はいつ終わるんだろうと思いながらずっと耐える日々を送っているわ……」

「そ、そう大変ね……その三日徹夜してもなお締め切りに間に合いそうに無い状態の漫画家みたいな見た目から察するわ……」

 

感情のない声で長々と呟きつつ、立つことすら疲れたのか部屋の壁に肩を預けてもたれる文。

新聞の長期契約には成功したみたいだが、どうやらそう上手い話ではなかったらしい。

新聞記者相手にダメ出し出来るとはどのような人物なのか少し気になる所だが

 

(で、でもコイツにダメ出しするとはいえ長期間の契約を結んでくれたお客を見つけたって事よね……気に入らない、気に入らないわ)

 

それよりもあの文が新聞を取ってくれた相手を手に入れたというのが腹立たしくてしょうがなかった。

 

「アンタ一体どんな汚い手使ったのよ……自ら事件の種を作って新聞のネタにする事さえやってしまうアンタの事だからどうせ狡猾な手段でも使ったんでしょ」

「人聞きの悪い事言ってくれるわね」

 

懐から栄養ドリンクを取り出してグビグビと飲みながら文は彼女の追及にフンと鼻を鳴らす。

 

「せっかくアンタにお情けで私が良い事教えてあげようと思ったのに」

「良い事ですって……」

「このままだとアンタの新聞は廃刊まっしぐら、晴れて無職天狗になるのもそう近くはないでしょうね」

 

部屋中に大量に置かれているはたての新聞を手にしながら文は嘲笑を浮かべた。

 

「でもそれだと私がつまんなくなるのよ、アンタとはこれからも長く競い合っていたいし、それでこそ私のモチベーションが上がるってモンなんだから。踏み台であるアンタが勝手に脱落されたら困るのよ」

「ちょっと契約が取れたからっていい気になってんじゃないわよ……私にだってチャンスがあれば……」

 

まだ諦めきれない、自分ではもう何をすればいいのかわからないがこのまま終わりたくないと言った感じで奥歯を噛みしめるはたてを見下ろしながら、文はその反応に満足するかのように頷く。

 

「だからそのチャンスになるキッカケを与えに来たの」

「え?」

「アドバイザー! お願いします!」

 

キョトンとしているはたてを尻目に、突然文はドアの方に向かって大声で叫ぶ。

するとドアが再びギィっと音を立てて開き……

 

「どうも、敏腕アドバイザーの八雲銀時です」

「って誰かと思ったらあの大妖怪の連れの不死者じゃないの!」

 

入ってきたのははたても知る有名なあの八雲銀時であった。

けだるそうな感じで挨拶すると彼はそのままズカズカと部屋の中へ入って来る。

 

「せまっ苦しい部屋だな、ここにあるモン全部新聞か?」

「ちょ! 勝手に入って来ないでよ! プライバシーの侵害!」

「散々他人のプライバシーにお邪魔するテメェ等が言う事かそれ」

「それになんなのよアドバイザーって!」

 

いきなり現れた銀時にはたてはまだ戸惑っていると、そんな彼女を無視して文は銀時にヒソヒソと小声で

 

「ああ、アドバイザーさん触らない方がいいですよ。置き方も雑なせいでうっかり触れると雪崩の様に崩れると思いますから」

「片付けられない女か、こりゃあ問題だな」

「ええ、嫁の貰い手は一生無いでしょうね……そっちの方もアドバイスできます?」

「いや俺知り合い女ばっかだしな、ああ最近仲良くなった人間の眼鏡なら紹介できるけど?」

「聞こえてんのよ! なんなのよアンタ等! つうか人間の眼鏡って何!?」

 

失礼な事を言いながら部屋の中を物色し始める二人にはたてがキレながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「もう帰りなさいよアンタ等! アドバイザーなんていらないわよ! 第一この男って胡散臭くて有名な不老不死でしょ! アドバイザーでもなんでもないわよ!」

「やれやれ、家に籠ってばかりの奴はこれだからイヤなのよ。私がとある御方と新聞の長期間契約を出来たのはね、この人がいてくれたこそなのよ」

「な、なんですって!?」

 

得意げに語る文にはたては驚愕の色を浮かべる。すると文はニッコリと笑いかけながら銀時の方へ振り返り

 

「そうですよねー八雲の旦那様、私が一生懸命作った新聞を端から端までダメ出ししてくるあの性格に難ありの御方と契約を取って”しまった”のは全部”あなたのおかげ”ですよね」

「へー、ところでお前痩せた? なんかあったの?」

「ありましたよ……肉体的にも精神的にも疲れ果てて、毎日栄養ドリンク飲まないとやっていけない程ボロボロですよ私の身体は……」

「ふーん、別にいいけど自分を偽って仕事し続けたらその内完全に体壊すぞ」

 

自分が蒔いた種とはいえ、原因を辿れば銀時のせい。逆恨みしている様子で見つめてくる文に、銀時は気づいてない様子で彼女の肩に手を置き

 

「仕事で大事なのはまずストレスを貯めない事だからな、肩の力抜いて気楽にやれ気楽にやりゃあいいんだろ、まずは銀さんを見習って生きてみろ」

(……アンタ働いてねぇだろうが、幻想郷に住む『プー太郎不死トリオ』の一人の分際で)

 

コレといった職業に就いていない銀時に内心ツッコミを入れながら文は「アハハ……」と頬を引きつらせ苦笑している中、はたては怪しむ様に銀時をジト目で眺める。

 

「ホント大丈夫なの、なんか噂通りの胡散臭い外見してるけど?」

「何言ってんのよせっかくどん底を這っているアンタの為に私が紹介したっていうのに。私はライバルであるアンタをここで失いたくないから救いの手を差し伸べてやったのよ」

「……そういえばコイツも胡散臭かったわ」

 

こっちに営業スマイルでニコニコしながら笑いかけて来る文にはたてはますます怪しむ目つきに変わっていると、銀時の方は勝手に彼女が作ったばかりの最新号、『花果子念報』を手に取って座れるスペースを作って読んでいた。

 

「なるほどな、ありきたりな情報ばっか書いてやがる。これじゃあ売れる訳ねぇよ」

「でしょー、はたては念写能力があってそれを使って記事を作ってるんですが、いかんせん思い通りの物が撮れないらしくてですね、どれもこれも微妙なのばかりなんですよー」

「ちょっと勝手に読まないでよ!」

 

畳の上に胡坐を掻いて新聞を読みながら早速ダメ出しする銀時、文も彼の隣に寄り添って一緒に見ながら、それに便乗しつつうんうんと頷く。

 

「どうしましょうかアドバイザー、ここはいっそスポーツ新聞みたいにエロ記事を載せまくって、いやもう開き直って全部エロ記事にしてそっち系の新聞にしてみるというのは?」

「ふざけんなそんなテコ入れお断りよ! エロ記事だけの新聞ってもはやただのエロ本じゃないの!!」

「いやそれはダメだわ、もし結果的にそれで新聞が売れる事になっても、そういう方向性にしたのが俺だという事をカミさんにバレたら殺されるし」

 

自分の肩に頭を乗せながら尋ねてくる図々しい文の顔に手をおいてグイッと退けていると、銀時はふと「ん?」と新聞の中に一つ気になる部分を見つけた。

 

「この四コマ漫画ってお前が描いたの?」

「え? ああそうだけど……普通の新聞だとそういうのはプロに任せるらしいけど、私そんな余裕ないからそこも自分で描いてるのよ」

「なるほどな……」

 

それは素人が素人なりにそこそこ頑張って描いたような4コマ漫画であった。

はたてが考えたのであろう架空のキャラが面白おかしく日常を謳歌してるかのようなよくある内容の4コマ。

 

しばし銀時はその4コマに何度も目を通した後「よし」と呟いて新聞を閉じ、はたての方に顔を上げた。

 

「じゃあこれからは漫画一本で勝負するぞ」

「なんでそうなるのよ!!」

「斬新だろ、記事よりも漫画の方に広く使っている新聞」

「それもう新聞というより漫画じゃん!!」

 

いきなり記事を減らして漫画のページを増やせと言われ、はたてはあまりの無茶ぶりに頭の中が一瞬真っ白になる。

 

「な、なんで漫画なのよ!」

「いや結論から言わせると、お前の記事って死ぬ程つまらないんだけど、この4コマ漫画だけには光る物感じたんだよ、いやマジで」

「マジで!?」

「だからマジで」

 

自分でも予想だにしていなかった感想を言われてはたてが驚いてる中、銀時は話を続ける。

 

「つまりもういっそつまらんモンは無理に向上させようとするのは諦めて、光る才能を持つこの漫画の方を徹底的に磨こう」

「み、磨くってどうすれば……」

「心配すんな」

 

いきなりそんな大掛かりな変更してみろと言われてもはたてはどうすればいいのかわからなかった。何せ今までずっと記者としてやっていたのにいきなり漫画の方に力を注げと言われても……

そんな困ってる様子の彼女に銀時はスッと自分を親指で指さしながら不敵に笑う。

 

「俺はこう見えてゴリラを一流の漫画家に育て上げた実績を持っている」

「ゴリラ!?」

「だから鴉天狗一人を一人前に育て上げるぐらいワケねぇんだよ」

「ゴリラって……え、本当にゴリラを……そういえば妖怪の山に漫画が描ける汗っかきのゴリラが住み着いてるとかどっかで……」

「いやもうゴリラの事はいいからさっさと打ち合わせ始めるぞ」

「自分から言っておいてゴリラの話ぶん投げた! あーもうわかったわよ!」

 

そもそもなんでゴリラを漫画家にしたの?とはたては言いたげな表情であったが、銀時がパンパンと両手を叩いて早速新聞の改善のための打ち合わせを開始した。

 

「とりあえずみっちりお前に漫画の基礎から教えてやる、短期間でものにしろよ」

「いいのかなこれで……まあいいか、もうこうなったらヤケクソだわ」

 

銀時の話に今一つ納得していない様子だったが、もはや考える事さえ面倒臭くなったのか素直に話を聞く体制に。

 

そんな彼女を見て文は満足げに微笑むと突如スクッと立ち上がる。

 

「それじゃあ私はこの辺で失礼します、八雲の旦那様、後はよろしくお願いします」

「え? アンタ帰るの?」

「私は漫画の事については詳しく知らないし、アンタのやり方をライバルの私が傍で聞いちゃマズいでしょ」

 

そう言いながら文はドアを開けてはたてに笑いかけながら出て行く。

 

「それじゃあね、私のライバルならライバルらしく這い上がってみなさいよ」

「……言われなくてもわかってるわよ」

 

彼女なりにライバルとしての激励を言い残すと、文は静かにドアをパタリと閉めた。

そして

 

「……いやはや、さっきから口元がニヤけてしょうがないですね、なにせ」

 

口元の笑みを隠す為に手で押さえつけながら、文はドアの向こうにいるはたてと銀時には聞こえない様に必死に笑い声を押し殺していた。

 

「グフフ、ここまで事が上手く進むと笑いが止まりませんよホント……!」

 

ほくそ笑みながら文をスタコラサッサとその場を後にする。

 

「ライバルとしてのよしみでアドバイザーを紹介する? な訳ないでしょ、ライバルであるからこそ落ちぶれた相手に自ら引導を渡してやるのが筋ってモンなのですよ」

 

背中の黒い羽を広げ、文は高く飛翔するとはたての家を上から見下ろしながら

 

「八雲の旦那のおかげで私も散々な目に遭いましたからね……せいぜい彼のアホなアドバイスを鵜呑みにしてそのまま地に落ちて下さい」

 

そう言い残すと文は何処へと行ってあっという間に消えてしまった。

 

しかしいずれ彼女は知るであろう。

後に銀時の奇抜なアイディアによってイメチェンしてはたての新聞、『花果子念報』は。

週刊発行の形式で19ページにも及ぶ超絶バトル漫画を連載し

人里の子供達や一部の妖怪の心を掴みまさかまさかの大ヒットを起こす事を

 

そしてそれを知って文ははたての描いた漫画が連載されている新聞を見て気付くであろう。

 

 

 

 

 

「……いやもうコレ新聞じゃなくね?」

 

 

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