銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#17 霊萃香夢

それはかつて妖怪の山を築き上げ、その頂点に君臨していた種族。

その強さは数多の妖怪とは一線を引き、強靭な生命力、怪力無双、大酒飲みと妖怪の中ではトップクラスに君臨する正に最強とも呼べる種族であった。

かつて鬼達は人を攫いそれがキッカケで鬼退治に出向いて来た者達と戦うという遊びに興じていたのだが

時代の流れと共に人間は知恵を付け、あの手この手を使った策略で彼等を根絶やしにしていくようになり。

次第に鬼達の住処は徐々に減り、今ではこの幻想郷からはるか下に存在する地底にヒッソリと住んでいる。

しかしそんな鬼達の中でこの幻想郷に度々遊びに来る者がいた。

 

伊吹萃香、あの大妖怪である八雲紫の古い友人にして、その実力を高く買ってもらっている程の屈指の実力者。

鬼としての自分に誇りを持ってはいるが誠実さがやや欠けている所があり、その為性格は豪快でも義理に厚いという鬼達の中では「異端児」扱いされている変わり者の鬼である。

 

そして今日も彼女は幻想郷に赴き、フラフラとした足取りでかつて自分達が支配していた鬼の山を我が物顔で歩くのであった。

 

「うぃ~萃香ちゃんが帰って来たよ~天狗共さっさと出迎えろ~、河童共は宴の用意しろ~い」

 

薄い茶色のロングヘアーを先っぽのほうで一つにまとめ、瞳は真紅、その頭の左右から身長と不釣り合いに長くねじれた角が二本生えている。

服装は白のノースリーブに紫のロングスカートで、頭に赤の大きなリボンをつけ、左の角にも青のリボンを巻いている。また呑んべぇなだけにいつも伊吹瓢という紫の瓢箪を持ち、三角錐、球、立方体の分銅を腰などから鎖で吊るしている。

 

彼女は常に酔っている、最後に酔いが醒めたの千年前の事だ。それ以来彼女が素面になった事は一度たりとも無いらしい。

 

「はぁ~ここ最近はあの忌々しい”卑怯者の銀時”のおかげでイライラする事ばかりだったから、気晴らしにここの天狗共に好き勝手命令させて遊ぼうと思っていたのに……」

 

彼女は自分自身に嘘をつかない、やりたいことがあればやり、やりたくないのであればやらない、つまりとびっきりの『自分勝手』な性格なのだ。故に嘘をつく者や騙そうとする者は彼女は特に大嫌いである。

 

「だ~れか私に付き合ってくれ~、暇すぎて死にそうなんだ~。一緒に飲んでくれればそれでいいから~ん?」

 

そう叫びながら萃香はおぼつかない歩き方でキョロキョロと見渡していると

 

ふと傍にあった草葉からゴソゴソと音が聞こえた、萃香はおもむろにその草葉の中に頭を突っ込んでみると

 

「行けぇ定春33号!今度こそ奴をぶちのめして定春32号の仇を取るアル!!」

「フッフッフ、何度やったって無駄だよ! アタイのグレートスーパーミラクル最強ちゃんはアタイと同じく最強なんだからね!!」

 

そこには鬼と同じく地底に住む夜兎族である神楽と、イタズラ好きで若干頭が弱い氷の妖精、チルノがしゃがみ込んでカブト相撲を行っていた。

 

と言っても神楽の方はフンコロガシでチルノの方はダンゴムシなのだが……

 

「いつも運んでるウンコと同じ要領でそいつも場外に転がり出すネ!」

「なに! そんな手があったなんて! 負けるなアタイのグレートハイパーデンジャラス……あれ? コイツの名前なんだっけ? まあいいやとにかく押し潰せぇ!!」

 

フンコロガシとダンゴムシは互いに敵意を向けることなくただ自由にウゴウゴと動き回っているだけなのも気付かずに本人達は無駄に熱くなっているご様子。

そんな平和な光景に萃香は口をへの字にして嘲笑を浮かべながら、草葉を掻き分けて彼女達の傍へ歩み寄る。

 

「ようよう我等が鬼と同郷の夜兎とチンケなイタズラするしか能のない妖精じゃないか。そんな虫っコロで遊ぶんじゃなくて私と一緒に飲まんかね?」

「あ、お前鬼アルな! 何しに来たんだこんな所に!」

「幻想郷で夜兎と顔合わせるなんて初めての経験だね、いや以前にやたらと頭の薄い夜兎と会った事あったような……まあどうでもいいか」

 

ヘラヘラ笑いながら萃香がやって来た事に気付くと、神楽はすぐに彼女が鬼だと気付いた。

夜兎族は本来鬼達と同じ場所、地底に住む一族なのでその存在を知っているのである。

しかしチルノの方は「ん~?」と小首を傾げながら知らない様子だ

 

「鬼って何?」

「私が住んでた所にいた連中の事ネ、滅茶苦茶強くて私達夜兎としょっちゅう喧嘩ばっかしてる奴等ヨ」

「ふーん、まあ最強のアタイには敵わないだろうけどね、あんな小さいの素手でいけるよ」

「寝言は寝て言うんだな妖精風情、鬼の私がお前なんぞ相手にもしないが調子に乗ってると痛い目に遭わせるぞ」

 

説明を聞いてもドヤ顔で全くビビらず笑って見せるチルノに萃香が座った目で酔いながら脅しをかける中、神楽は話を続ける。

 

「でもお前みたいなちっこい鬼は見た事ないアル、”勇儀姐”と比べて全然強そうに見えないヨロシ」

「勇儀姐? ああ~私の古いの友人である勇儀と知り合いなのか、アイツも私程じゃないが変わってるねぇ、夜兎の子供と仲良くしてるなんて」

「その勇儀って奴も強いの?」

「物凄く強いネ、それに超カッコいいしおっぱいもデカいし私の憧れアル、こんな昼時から酒飲んでベロベロになってる酔っ払いチビ助とは大違いヨ」

「……夜兎ってのは子供でも腹の立つ種族だなぁ~、いずれ絶滅させておくべきだろうかねぇ……」

 

どうやら自分の古い友人と彼女は知り合いだったらしい。そしてさり気なく自分をこき下ろしに来た神楽に対し、萃香は今後夜兎族をどうしてやろうかと瓢箪に入った酒を飲みながらしみじみと考えるのであった。

 

そうしていると今度はまた奥からゴソゴソと草を掻き分け何者かがヒョコッとこっちに体を出して現れる。

 

「ちょっとアンタ達、いつまでも遊んでないで私の食料探し手伝いなさいよ。あ、フンコロガシとダンゴムシ……煮たらイケるかしら……?」

 

やって来たのは博麗の巫女こと、博麗霊夢。どうやら極貧生活に耐えかねて妖怪の山で食材探しに勤しんでいたらしい。神楽とチルノが従えているフンコロガシとダンゴムシを見下ろしながらどう調理しようか悩んでいる所に萃香が「お」と嬉しそうに話しかける。

 

「おやおや霊夢、こんな所で会うとは奇遇だねぇ」

「あん? なんで萃香がこんな所にいる訳?」

 

いきなり現れた萃香に対して霊夢は面白くなさそうな表情でムッとする。しかし萃香は以前ヘラヘラと笑いながら機嫌良さそうに

 

「相も変わらず愛想が無いな、悪いけど今日もおたくの神社で寝泊まりさせてもらうよ」

「お断りよ、神聖なる神社に鬼が住み着いたなんて噂でもされたらたまったもんじゃないし」

「そうやってストレートに本音をぶつけてくる所が好感が持てるよ、今時の人間にしては珍しくてさ~」

「もし泊まりたいなら食材と酒を献上しなさい、そうすれば大歓迎よ」

「……人間というよりもはや我々鬼に近いな」

 

最初は拒否しながらも献上品を出すのであればいつでも泊まりに来いと腕を組みながら答える霊夢に

思わずヘラヘラ笑いを止めて苦笑してしまう萃香であった。

 

「まあそれで泊まらせてくれるならわかったよ、ならさっそく適当に人里から人間を一人や二人パパッと攫って……」

「んな真似したら即退治よ、つか私食材って言ったわよね? もしかして何? その攫った人間を食材と言い張るつもり?」

「そうなのか? 前に射命丸とかいうズル賢そうな天狗に「博麗の巫女は空腹状態の時、人間であろうが胃の中に収めようとする」と聞いたんだがね」

「あのパパラッチの話をまともに受け取るんじゃないわよ! あの野郎また下らんデタラメを風潮しやがって! 今度会ったらとっちめてやる!」

 

虫と雑草は食う彼女でもさすがに同じ人間を食すことは無理だ。

萃香にガセネタ吹き込んだ鴉天狗に怒りを覚えながら霊夢は舌打ちすると、ふと萃香の頭の上の二本の角の存在に気づいた。

 

「ていうかアンタの角元に戻ったのね、アイツがへし折ったらしいのに」

「なんとかな、角は我ら鬼の誇り、失った時はもうどうなるかと思ったが……」

 

八雲紫の夫、八雲銀時が二度に渡って鬼の角をへし折ったというのは何を隠そう彼女の角なのだ。

角は鬼にとって命の次に大事と呼んでもいい存在、それを折るという事は同時に鬼である誇りを失うという事に繋がるのだ。

 

そしてそんな大切な角が折れてしまった事を思い出しながら萃香は機嫌悪そうに霊夢から顔を逸らす。

 

「今思い出しても怒りがこみ上げてくるよ、あの卑劣なる不死の男千年前から何度も何度も我らの尊厳を奪って来たんだからな」

「数百年前ってアンタが昔アイツに騙し討ちされたって話?」

「ああそうさ、昔我等鬼が人攫いをしながら人間と戯れていた時、私はあの男と初めて出会ったんだ」

 

その話なら銀時からチラッと聞いた事もある霊夢、と言っても詳しくは知らない。

しかし恨めしい目つきで話す萃香を見る限り、忘れたくても忘れられない恨み深いエピソードだった様だ。

 

「その時の私はまだ若くやんちゃざかりで、鬼の四天王というチームを結成して日夜喧嘩に明け暮れる毎日だったんだ」

「どこの暴走族よそれ……」

「そしてアイツもまた三人の仲間を引き連れチームを作り、私達と頻繁に縄張り争いを続けてきた。戦いは一進一退、命取るか取られるかという殺伐とした戦いの中でもアイツ等は全く臆することなく我等に戦いを挑んでくる、アレこそまさに我らが望んでいた「鬼退治」だったねぇ~」

「あーヤンキーの喧嘩みたいな事してたのね、いつの時代も変わらないわねホント」

 

年寄りは酔うとやたらと自分の武勇伝を語りたがるのは鬼も同じなんだなと霊夢が呑気に考えている中で

萃香は頭をグラグラさせながら話を続ける。

 

「今思えば我等と互角に渡り合えるその強さには純粋に好感を覚えていたよ。なのにアイツと来たらよりにもよって……」

「あーはいはい、なんか長くなりそうだから今は勘弁してちょうだい」

 

こりゃ数時間は語りそうだなと察知した霊夢はすかさず萃香の話を止める、こんな所で彼女と付き合ってる暇はない、さっさと食材見つけてさっさと帰りたいのだ。

しかし萃香はまだブツブツ何か呟いている。

 

「というかアイツの能力、アレはかなり厄介だった。私や紫の力も相当ヤバいがアレもアレで中々相手するのがしんどい」

「ああ、確か『星との隙間を埋め、月へと届く能力』だっけ?」

「……アイツの能力に名前とかあったんだなぁ、しかもなんかアイツらしくない妙にロマンチックな名前だね」

「だいぶ前に紫が教えてくれたのよ。名付け親は本人じゃなくて紫みたいよ」

 

霊夢から銀時の能力の名前を聞いて思わず鼻で笑ってしまう萃香、確かにその名前はいかにも彼らしくない。

するとそこで先程から一緒に話を聞いていた神楽とチルノが身を乗り出す。

 

「銀ちゃんの能力ってどんなんアルか? そういえばよくパッと消えたりパッと現れたりしてたけど」

「アタイが見る限りアレはケツから物凄いオナラを噴き出してその勢いで色んな場所に飛べる能力だよ!」

「マジアルか? そういえば銀ちゃんの足って臭かったけどアレって銀ちゃんのオナラの匂いだったアルか?」

「アイツがそんな能力使いなら私全力でアイツとの縁を切るわ、足が臭いのは元々よ元々」

 

あまりにもアホ過ぎるチルノの推測に霊夢は呆れていると神楽の方は先程言っていた銀時の能力というのに興味津々の様子だ

 

「どういうのかお前は知ってるんだロ? 勿体ぶらずに教えろヨ」

「イヤよめんどくさい、ただでさえ説明するのも難しい力なのに、本人に聞けばいいでしょ」

「もし教えてくれたら私の酢こんぶ分けてやるヨロシ」

「気になる事があればなんなりと私めに」

「変わり身早い所は育ての親そっくりだなぁ」

 

ここ数日まともなモノにありつけていなかった霊夢にとって酢こんぶとは高級食材に匹敵する代物。

ずっと嫌々な態度だったクセにそれを餌にされた瞬間、すぐに輝いた笑顔を彼女に向ける霊夢。

その心変わりの速さに萃香があの忌々しい銀髪天然パーマを思い出していると、早速霊夢は説明を始めた。

 

「いい? まず星っていうのはいわば私達生きてる者の事を指すのよ、星との隙間を埋めるっていうのは自分と相手の間にある隙間を埋めるって事」

「銀ちゃんが瞬間移動みたいな事してたのはそれだったって事アルか?」

「そう、簡単に言えば対象の相手との距離を縮めるって事よ、色々と条件付きらしいけどそこまでは私も知らないわ」

 

相手がどれ程遠く離れた所にいようが銀時がちょっとその対象に狙いを定めれば一瞬でその人物の目の前に現れる事が出来る。

神楽の言う通り瞬間移動に近いかもしれないが、この力、行使する為には色々と制約がありあまり自由に扱えるものではないのだ。

 

「次に月へと届くって部分だけど、月ってのはまあ……簡単に言えば戦闘力とかって意味よ。届くいうのは相手の力に追いつくことが出来るって事」

「相手の力に追いつくってどういう事アルか?」

「どれだけの力の差があろうがアイツはそれを覆して同じ強さまで強くなれるって事、つまりアイツは距離の差だけじゃなくて力の差も埋められるのよ」

 

相手がどれだけ歴然の猛者であろうが銀時はその強さに追いつく事が出来る。

それはつまり彼に敵対する者にとっては厄介極まりないであろう、自分がどれ程の力を有しても銀時はその位置に手を届かせることが出来るのだから。

 

唯一救いなのはあくまで互角になるだけで銀時が絶対有利になるという保証はないという事である。

 

「あんなの使われたら反則よね、主人公としてどうなのかしら実際」

「それお前さんが言えるのかい霊夢?」

「は? なんで? 私空飛ぶ事ぐらいしか能力無いわよ?」

「いやまあ本人が気づいてないなら私は余計な事言わないよ、紫と違ってアンタに優しくアドバイスする義務も無いし」

 

どうやら銀時と同じく霊夢自身にも未知なる力が備わっているらしい。本人は口をへの字にして小首を傾げている辺りわかっていないみたいだが、萃香はやれやれとため息を突くとドカッとその場に座り出した。

 

「紫ほど凶悪でもないが力の行使は早い、霊夢ほど反則技でもないが、アイツもまた厄介。いわばアイツの能力はお前達二人の能力と比べると中間的な位置にいると呼んでも過言じゃない」

「それ紫にも言われたわね、「あの人の力は私とあなたの丁度真ん中辺りにあるような力なのよぉ」って」

「うわ、全然似てないな物真似」

「そうかしら? 我ながらよく特徴捉えてたと思うけど」

 

ダメ出しされても霊夢は全く気にしていない様子、そんな彼女に今度は萃香が話を始め出した。

 

「まあ霊夢の下手くそな物真似はいいとして、お前さん達、私とアイツが戦った時の話を聞かないかい?」

「あー聞かない聞かない、アンタとアイツの昔話とか心底どうでも良いし、後絶対長くなりそうだし」

「まあ聞け、年寄りの話は聞いてやるのが若いモンの務めだろぃ?」

 

と言って聞きたくなさそうな態度で死んだ魚の様な目をする霊夢と、いつの間にか体育座りして話を聞く体勢になっている神楽とチルノの前に座りながら

 

萃香は遠い遠い昔の事を話し始めた

 

 

 

 

 

 

「まだ幻想郷も無くアイツが紫と結婚していなかった頃の話だ、当時のアイツの名前はそう」

 

 

 

 

 

 

「坂田銀時」

 

 

 

 

 

次回、萃香が語る若き頃の侍の話

 

 

 

 

 

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