八雲銀時は基本的にあちらこちらをブラブラと出歩くのが日課だ。
幻想郷のあらゆる場所を直で見にいって様々な者達に干渉し出来事の調査をする、という体で仕事と言っているのだが、実際は目的も無くただ忽然と現れては人間や妖怪に絡んで暇を潰してるだけである。
そして特に行く場所が無いなと思ったら、博麗神社へ赴いてそこにいる巫女を弄って遊ぶのがお決まりなのだ。
今日もまたやる事も無いので彼は博麗神社の方へとやって来ていた。
しかし今日はいつもより少し様子がおかしい。
「あぁ? 庭でなに騒いでんだアイツ?」
珍しく能力を使わず直接やってきた銀時だがどうも庭が騒がしい。
博麗の巫女、博麗霊夢がギャーギャーと叫んでいる声が聞こえたので、銀時はすぐに庭の方へと向かうと
「だーかーら!! アンタの要件なんて聞ける訳ないでしょーが!!」
「そこをなんとかお願いしますよ、ぶっちゃけもういらないんじゃないですか?」
「いるわよ! 無くなったら私が路頭に迷う事になるじゃないの!!」
「その時は噂の大妖怪さんに何とかしてもらって下さればいいんですよ」
「勝手な事言ってんじゃないわよ! そもそもアイツがアンタの言う事を許すわけないでしょ!」
霊夢が声を荒げて叫んでいる相手は緑髪の少女であった。
霊夢と同じく巫女のような姿をしているが、銀時はその少女に見覚えがない。
この幻想郷で自分が知らぬ者などほとんどいないというのに……
さては最近幻想郷に流れ着いた者なのだろうか、そう思いながら銀時はけだるそうに彼女達の方へ歩み寄る。
「おい霊夢、なんだその微妙にお前とキャラ被った見た目してるガキは」
「ああアンタ来てたの、アンタからもコイツに言ってくれないかしら、本当にしつこくて」
銀時が来ると霊夢はすぐに目の前にいるその少女の方へ指差す。
すると少女は銀時の方へ軽くお辞儀すると
「初めまして! 最近外の世界から神社丸まる幻想郷へ引っ越してきた守矢神社の風祝、東風谷早苗です!」
「は? え、どういう事?」
ご丁寧に自己紹介してくれた早苗という少女に銀時は困惑しながら顔をしかめて霊夢の方へ振り向くと彼女ははぁ~とため息を突いて
「どうやら妖怪の山に突如、神社が湖ごと出現したみたいなのよ。それで調べようと思ったらすぐにコイツがやって来てね、なんでも外の世界では信仰が少ないからこっちへ神社事引っ越してきたんだって」
「あぁ、そういや紫が妖怪の山でおかしな事が起きてるらしいって聞いたな。要するに信仰無くて消えちまいそうな神様が、奉られてる神社事こっちに避難して信仰を求めに来たって訳か」
神に死という概念はないのだが、唯一消える事があるとしたらそれは人間達から完全に忘れ去れる事である。つまり人々から信仰を得られないと最終的に消滅するしかないのだ。
この早苗という少女のいる神社の神様が一体誰なのかは知らないが、信仰目当てにこちらへやってきたとなるといささか迷惑な話である。
「ウチは基本的に向こうの世界からやって来たモンは受け入れる方針だけど、神様となるとめんどくさいんだよな。アイツ等基本的に自分勝手でワガママだろ? まあ全ての神様がそういうわけじゃねぇけどよ、幻想郷でトラブルの種になる様な奴はなるべく来て欲しくないんだよねこちらとしては」
「そんな外国人を住ませる事に抵抗感のあるアパートの管理人みたいな事言わないで下さい! 私の神社の神様は至って平和的で素晴らしい神様です! だから今日も私はその神様の言いつけで!」
相手が神の類であると何を起こすかわからないし対処も難しい。銀時が渋い表情を浮かべて完全に拒絶している姿勢を見せるが、早苗はへこたれず両手を上げて自信満々に大きく口を開いた。
「この神社を取り壊して第二の守矢神社にしようと思って来たんです!!」
「どこが平和的で素晴らしい神様!? やってる事普通にヤクザじゃねぇか!!」
どうやら早苗と彼女の神社にいる神様の狙いは博麗神社を乗っ取る算段らしい。
より信仰を集めたいが為にライバルになる神社は蹴落とそうって魂胆なのだろう。
しかしそんな事をはいそうですかと霊夢が簡単に了承する訳がない。
「だから私はさっきからずっとふざけんなって言って追い払おうとしてんだけど全然帰ろうとしないのよ」
「当たり前です! このまま何の成果も得られずに帰るなんて! ”神奈子様”と”諏訪子様”に見せる顔がありませんから! あなたが出て行ってくれるまで私はテコでも動きません!」
「そう、なら暴力で解決するってのも悪くないわね」
「神奈子様に諏訪子様……?」
シッシッと手で追い払う仕草をしても、勝手な言い分でここから絶対に動かないと宣言する早苗にそろそろ霊夢がキレそうになっていると、ふと銀時は早苗の口から妙な名前を聞いて眉をひそめた。
「お前の所の神様って、名前なんて言うの?」
「え? 興味あるんですか? 入信してくれますか?」
「いやそうじゃなくて、単純にどこの神様か教えてくれって言ってんの」
尋ねただけで目を輝かせて入信してくれるのかと尋ねてくる早苗に銀時が即否定すると、彼女は少々残念そうにしながらも質問に答えてくれた。
「八坂神奈子様と洩矢諏訪子様ですよ」
「……ん~」
「どうしたんですか?」
「……いやどっかで聞いた名前だなと思ってよ、随分と昔の話だけど結構有名な神様だった様な……」
大昔にそんな神様の名前を聞いた様な気がすると銀時は首を傾げると霊夢の方へ振り向き
「お前なら知ってるよな、その神様」
「いや全く知らないけど」
「お前それでも神様の世話する巫女か?」
「日本だけでも神様どれぐらいいると思ってるのよ? んなの全部把握できてる訳ないでしょ」
日本の神様はやたらと多い、お米一粒に88柱の神様が宿ってると言われてるぐらいだ。
さすがに巫女である霊夢でも全ての神様を覚えていられない。
「知ってるんならコイツが一番知ってんでしょ? なにせ直接仕えてる訳だし」
「はい! 加奈子様と諏訪子様の事なら私がいくらでも教えてあげますよ!」
霊夢が早苗の方へ話を振ると、彼女は嬉しそうに自分の胸に手を当てながら自信ありげに身を乗り上げた。
「お二人はお酒好きです!」
「いや神様なんて大概酒好きだろうが、そういんじゃなくて昔何やってたかってのが聞きてぇんだよ」
「そうですね……昔はお二人でよく喧嘩してたとかなんとか聞いた事あります」
「いやそれだけじゃ全然わかんねぇって、神様同士の喧嘩だって日本神話では日常茶飯事だし」
「もしかしてアンタ、自分の所の神様の事あんま知らないんじゃないの?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
急にアタフタと慌て始める早苗の反応を見て銀時と霊夢はすぐに勘付く。
彼女は自分が使えてる神がどういった存在なのかぶっちゃけあまり知らないのであろう。
こうなったら直接彼女の神社に行って本人に確かめに行くかと銀時が考えていると
「ほう、随分と懐かしい名前で盛り上がってるみたいだな」
「ん? ってお前……」
不意に背後から声が聞こえたので銀時が振り返るとそこにいたのは前回と前々回に続き三度目の登場となる。
「よければこの桂小太郎が特別にその者について教えてやってもいいぞ」
「なに当たり前の様に出て来てんだテメェは、いい加減呼ぶぞ坂本の嫁を」
「あ、コイツ例の悪霊じゃないの? 退治しちゃっていいわよね?」
「全面的に許可する、やれ」
「いや待て待て待て! 落ち着け貴様等!」
悪霊・桂小太郎の登場に間髪入れずに退治しようとする霊夢に許可する銀時、しかし慌てる桂の前にバッと何者が護るように立ち塞がった。
最近桂の仲間に加わった『正体不明』の謎の生き物、エリザベスだ。
『桂さんは退治させません』
「え、何この気持ち悪い化け物!? こんなの幻想郷にいた!?」
「気持ち悪くないエリザベスだ、全く博麗の巫女がいかほどの人物かたまたま通りがかっただけだというのに血気盛んになりおって」
ヘンテコな生き物を前にして素っ頓狂な声を上げる霊夢を尻目に、桂はため息を突くと勝手に話を続けた。
「八坂神奈子とはあの、スサノオの子孫だ、スサノオぐらいなお前も知っているであろう銀時」
「ったりめぇだろ、姉ちゃんの家にウンコぶちまけた奴だろ?」
「いやそうだけどもっと別の覚え方があるであろう? 八岐大蛇を退治したとか」
「酒飲ませてだまし討ちしたって奴か、ひでぇ話だよな本当、それが英雄のやる事かよ」
「お前が言うな、お前自分がどうやって酒呑童子を倒したか思い出してみろ」
さすがに銀時でもスサノオぐらいなら知っている。色々とアレな武勇伝も多いが人気も高く今もなお広く知られている有名な神様だ。
「スサノオの子孫である八坂神奈子はスサノオの姉であるアマテラスのとある使者と戦って敗れ、出雲から追い出されると、次は諏訪の国を支配せんとそこにいる神と戦った、その神こそが洩矢諏訪子だ」
「なるほど! 神奈子様と諏訪子様が喧嘩したってのはその時の事だったんですね!」
「喧嘩ってレベルじゃないわよねそれ、神々の戦いとか洒落にならないでしょ」
桂の説明を聞いてようやくわかったかのように嬉しそうに両手を合わせる早苗だが、霊夢の方は反応薄めだ。
神々の戦いなどよくある事ではあるが、そんな神様がこの幻想郷に来てるとなるとやはり扱いに困るという事であろう。
「結果的に八坂神奈子は洩矢諏訪子率いる最新科学をあの手この手で打ち崩した事により洩矢諏訪子は国を彼女に明け渡す事になる、そして八坂神奈子は念願の諏訪の国を手に入れるのだがここで問題が……」
「ええー! 神奈子様が勝ったんですか!? そ、それからどうなったんですか!? ってアレ?」
もう何も知らないというのも隠す気さえなく、興奮した面持ちで早苗は桂の方にせがむように身を乗り上げるのだが、突如彼女の前にまたもやエリザベスが桂の前に立ち塞がる。
『ち、近づきすぎかと……』
「えーと、どうしたんですかこの……エリザベスさんという方は?」
「エリザベスこの者は今俺の話を聞いているのだ、途中で水を差す様な真似はよせ」
『す、すみません……』
早苗が桂の下へ近づく事に過剰に反応したエリザベスの行動に疑問を抱きつつも、桂は軽く彼を叱って下がらせる。
巨大な図体をシュンとさせて素直に下がるエリザベスを見て、何故か銀時は口を手で押さえながら声を殺して笑っていた。
「さて、無事に諏訪の国を手に入れたと思った八坂神奈子であるがそこで重要な問題が出来た、実を言うとその地を前に支配していた洩矢諏訪子はミシャグジ様という祟り神を使役していたのだ」
「祟り神!? それは恐ろしいですね!」
「今お前の目の前に似たようなのいるんだけどね」
祟り神と聞いて驚く早苗に、銀時がボソッと目の前にいる桂を眺めながらツッコミを入れる。
「ミシャグジ様の祟りを恐れて諏訪の国は新しい神を向か入れようとはしなかった、信仰が無ければ神は神として成り立てない、ゆえに支配しようにも出来ぬ状態になってしまったのだ」
「神奈子様ピンチですね! どうするんですか一体!?」
「簡単な事だ、あくまで自分が支配するのでなく新しい神を立て、その陰で国を明け渡した筈の洩矢諏訪子を呼び戻して統治してもらう、そうする事によって周りの国からは自分が諏訪の国を支配していると思い込ませるように図ったのだ」
「なるほど、諏訪子様がいれば祟り神の心配も無いですからね、それでその新しい神様というのは?」
「正体は当然八坂神奈子であるが、名はタケミナカタ、または「守矢」と呼ばれていたらしい」
「守矢……守矢神社!」
ようやくバラバラになっていたピースが一つになったかの様に、早苗は晴れ晴れとした表情でガッツポーズを取る。
「ようやくお二人の事がわかりました! だからウチの神社は守矢神社って言うんですね!」
「自分の神社の名前の由来ぐらい把握しておきなさいよアンタ」
「コイツやっぱ知らなかったんだな何にも」
「いやーそれにしても随分とお二人の事について詳しいですね、ロンゲ侍さん」
「ロンゲ侍ではない桂だ、フ、国を革命する為にまずは国を知る事と思い、生きてた頃から色々と勉学に励んでおったのだ」
霊夢と銀時の冷ややかな視線も気付かずに桂を絶賛する早苗、彼もまた満更でもない様子でドヤ顔を浮かべた。
「ちなみに最初に八坂神奈子と戦い負かしたアマテラスの使者というのは、なにをかくそうあの有名なタケミカヅチだ、お前も当然知っているであろう銀時」
「ケツに刀突き刺してドヤ顔浮かべてた相撲取りだろ」
「さっきからお前はどんな覚え方しているのだ! 雷神、武神、軍神などと呼ばれているんだからそっちで覚えろ!」
超が付く程有名な神様の事を澄まし顔で答える銀時に桂はツッコミを入れた後、ハァ~とため息を突いて小難しい表情で腕を組み始めた。
「実を言うと俺はこのタケミカヅチを始神としている一族に討たれていてな、タケミカヅチに敗れた八坂神奈子の気持ちも少々わかるのだ」
「そうなんですか!? うわー世間って狭いんですね!」
「ちなみにそこの銀時という男は、その一族の娘を手籠めにしたクセに別のおなごと籍を入れおった」
「そうなんですか!? うわー最低ですねこの人!」
「俺の下り関係ねぇだろうが!」
話を聞いて銀時の方へ振り向きすぐに笑顔で最低呼ばわりする早苗、完全にとばっちりを食らった銀時がキレていると、早苗は桂の話を聞けて満足そうに微笑む。
「いやーまさかこんな所で神奈子様と諏訪子様の話を聞けるなんて思いもしませんでした、桂さんって言いましたっけ? 神話について詳しいのならお二人とも仲良くなれそうですね!」
「ほう、確かに神と一席もうけて酒を組み交わすのも縁起がよさそうで悪くは無いな」
「向こうは悪霊と飲むなんて縁起悪ぃから絶対にごめんだと思うけどな」
ボソッとツッコミを入れる銀時であるが、桂と早苗はすっかり意気投合した様子でまだ語り合っている。
そしてそんな光景を一人寂しそうに眺めているのは
『か、桂さん……』
「ねぇ本当になんなのあの化け物?」
「だから言っただろ、エリザベスだエリザベス」
「エリザベスって何よ?」
「エリザベスはエリザベスに決まってんだろ、言わせんな恥ずかしい」
「は?」
後ろからヒソヒソと会話しながら霊夢と銀時を尻目に、思わぬライバル出現に内心焦りまくるエリザベス。
するといきなり彼は銀時達の方へクルリと振り返り
『銀さん……』
「何?」
『紫はあなたが他の女の人と仲良くやってた時、どうしてましたか?』
「紫? 今はそうでもねぇけど結婚する前はよく俺が仲良かった女にいちゃもん付けて喧嘩売ってたな確か」
『……』
「あ……」
つい反射的に本当の事を言ってしまった事に銀時がヤバいと思ったその瞬間。
エリザベスはしばしの間を取った後クルリと早苗の方へ振り返り
『う、うおりゃぁぁぁぁぁぁl!!』
「だぁぁぁぁぁ! 待て待て待て! お前はアイツと同じ事しなくていいから! そういうキャラ似合わねぇから!」
「えぇぇぇぇ! なんなんですか一体! エリザベスさんどうかしたんですか!?」
「エリザベス落ち着け! どうして早苗殿に向けてプラカードを掲げるのだ!」
多分人に暴力を振るうという行為自体考えた事すらないのだろう。
プルプルと腕を震わせ内心ビビりながらプラカードを掲げるエリザベスを銀時が後ろから羽交い絞めにして必死に止める。
早苗はそんなエリザベスの行動に戸惑いつつ、桂もまた彼の前に歩み寄って抑え込もうとする。
そんな光景を眺めながら霊夢は一人首を傾げながらボソッと呟くのであった。
「だから結局、エリザベスってなんなのよ」