宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン、通称メリーは大学教授の夫である八意松陽と出会った
そしてそれから数か月後、彼女達は今もなお彼が開いてる学びの場、松下村塾へと顔を出していた。
今度は見物人としてではなく、彼から教えを学ぶ生徒として
「りぼるばぁ!!」
「一本!」
子供達が剣術を学ぶ道場にて、一人だけ背の高いかつ女の生徒が、自分よりずっと小さな男の子に腹に竹刀を食らって思いきり吹っ飛ばされた。
真ん中で審判役として立っていた生徒の一人、桂小太郎がビシッと手を上げた。
「そこまで、勝者・高杉」
「やれやれ、根気強く通ってるのは評価するけど、全然ダメだなこの後輩は」
竹刀を肩に掛けながらため息交じりに、高杉晋助は新たに出来た後輩に対して歩み寄る。
「おいまたノビてんのか? 水ぶっかけるぞ」
「誰が……誰がこんなガキンちょに竹刀突かれただけでノビるっていうのよ!」
「いやつい最近前もずっとぶっ倒れてたじゃねぇか、あの姉ちゃんがずっとお前の介抱してやってたんだぞ」
壁に背を掛けて、高杉達と同じく道着姿に着替えている蓮子がゆっくりと起き上がった。
どうやら悪態を突くぐらいはまだ体力が残っているらしい。腹を押さえながらヨロヨロと高杉の方へ歩み寄ると、蓮子は思いきり悔しそうな表情浮かべて睨み付ける。
「ったくどうしてこの私がこんな生意気なガキンちょにコテンパンにされるのよ……あり得ないでしょ、いくら私よりも長く剣術やってるからって……私の方が年上なのに」
「剣に年は関係ねーよ、お前才能ねぇんじゃねぇの? 何回やっても隙だらけだし」
「おいクソガキ! 誰が隙だらけだって! 言っとくけど私の身持ちは堅いわよ! ダイヤモンド級よ! 結婚するまで貞操は守り抜くって決めてるから!」
「いやそっちの隙じゃねぇよ、一生守ってろそんなの」
両手を腰に当ててどうだと言わんばかりに自信満々に叫ぶ蓮子に、高杉がジト目でツッコミを入れていると、彼の同期である桂が蓮子の方へと歩み寄る。
「蓮子殿、そなたはまだ剣を扱うというより剣に遊ばれてると言った方が正しい。己の中にある芯をズレない様に心がけて真っ直ぐに姿勢を保つのだ、そうすれば自ずと敵の動きを読む事が出来、己の剣を扱う事も次第にできる筈だ」
「は? 己の中にある芯ってなに? 一体どこにあんのよ」
「股下から頭の頭頂部までに一本の線を引いた場所だ、つまり人として最も傷つけられて死に至る急所が芯であり要なんだ」
「いや私股下に急所なんてないから、アンタ等と違ってチンコ付いてないし」
「おなごがチンコとか言うなはしたない! 大体それが無くてもおなごにとっては大事な場所だろそこは!」
「大事な場所? え、何それ? 名前なんて言うの? お姉さんに教えてくれない?」
「俺に何を言わせようとしてるのだ貴様はぁ!」
けだるそうに乱れた髪を整えながら自然に下品な事を口走る蓮子に桂もまたツッコミを入れていると……
「相変わらず子供相手にムキになって何してるのあなた……」
「あ、メリー!」
道場の出入り口から両手に重箱を持ってやってきたのは蓮子の親友であり同じ大学に通うメリーだった。
彼女は蓮子と違い剣術は学んでいないものの、学問の方は松陽の下できっちり教えを受けているのだ。
ここに来たのはもうお昼過ぎだからという事で、休憩時間であろう蓮子達の下へ足を運びに来たのであろう
「別にムキになってるんじゃないわよ! コイツ等があまりにも生意気だからちょっとヤキ入れてただけだって!」
「はいはい、で?」
抗議する蓮子の話を全く聞く耳持たずに、メリーは高杉と桂の方へ視線を下ろす。
「この子、剣の方はしっかりやってるの?」
「全然ダメだな、だってコイツ才能ねぇし」
「剣を取る前におなごとしての振る舞いを一から勉強するべきだと思う」
「やっぱり……」
キッパリと宇佐見蓮子という人物に相応しい評価を付ける子供達二人
メリーがジト目を蓮子の方へ向けると彼女はムッとした様子で
「何よその哀れみの視線は! 大丈夫よメリー! 来週の日曜にはこんなガキ共コテンパンにしてやるから!」
「その台詞はここに通い始めてからずっと聞かされてるんだけど私」
「こ、今度は本気よ来週までには必ず強くな……ゴホッゴホッ!」
「……蓮子?」
頭に血が上ったかのように必死に叫ぶが、言葉の途中で突然咳き込み始める蓮子。
そんな彼女にメリーはふと心配そうに彼女に歩み寄る。
「大丈夫? あなたここ最近ずっと咳が止まらない時とかあるわよね、ちゃんと病院行ってるの?」
「行ったわよ、アンタがあまりにもしつこく行って来いって言うから……原因は詳しくわからないから今度別の病院紹介するってさ」
「わからないって……」
「たまに咳と軽いめまいがする程度よ? んな深刻に考える程じゃないって」
「……」
1ヵ月程前から蓮子の体で起こっている異変、彼女は度々激しく咳き込んだり、めまいがすると言って小時間休憩する事があるのだ。
本人は大したことじゃない、どうせ月日が経てば治るだろうと楽観的な考えだが、メリーはどうも胸騒ぎがして気が気でいられないのだ。
医者でも分からない程の症状だ、何か厄介な事態になってなければいいのだが……
「そういえばメリー、さっきからアンタが持ってるその重箱は一体何よ?」
「え? ああコレの事? コレはさっき貰ったのよ、道場破りの方達から」
「道場破り~?」
ずっとメリーが持っていた重量感ありそうな重箱を指差しながら蓮子が尋ねると、どうやらそれをメリーに渡したのは道場破りという輩かららしい。
それを聞いて蓮子は大方予想付いた様子で眉間にしわを寄せる、するとその予想通りに
「おーい松下村塾のガキンチョ共、元気してたか!? 今日は久しぶりにお前等の所に道場破りとしてやってきたぜ!」
「やっぱりまたアンタ等か……」
メリーが入って来た出入り口からドカドカとやかましい足音を立てながら屈強そうな若者が竹刀を肩に担いでやって来た。
それに続いて仏頂面の長い髪を結った瞳孔開きっぱなしの男、そして一人だけ高杉達とさほど変わらないであろう少年が澄まし顔で入って来る。
彼等は松下村塾の近くで開いている小さな剣術道場の塾頭と門下生だ。
塾頭は威勢良く最初に入って来た男、近藤勲
続いて入って来た無愛想な男は土方十四郎
最後に現れた少年は沖田総悟
たった三人しかいない小さな道場なので、こうして道場破りと言ってはいるが、実際は他の道場と力比べをしてみたいという目的、そして何より交流を深めたいというのが理由らしい。
「ゴリラが先陣きって人間様のいる場所に入って来るんじゃないわよ、バナナ上げるからいますぐ立ち去りなさい」
「誰がゴリラだ! 俺はちゃんとした人間です! ヒューマンです!」
「なんで英語で言い直したのよ」
蓮子にゴリラと指摘されてムキになって否定する近藤にツッコミを入れていると、彼の傍らにいた沖田が高杉達の方へ歩み寄る。
「おいガキ共、俺が稽古付けてやるから竹刀取れよ。負けた方は鼻フックしたまま町一周な」
「んだその罰ゲーム! つうかお前俺等とそんな年変わらねぇだろうが! お前だってガキだろ!」
「待て、鼻フックは顔に痕が付く、負けた方は勝った方の為におにぎりを握り続けるとはどうだろうか?」
「なんだよおにぎり握り続けるって、勝った方に食わせる為か?」
「誰が食わせるか、握るだけだ」
「いやそれどんな意味があんだよ! 勝者全くメリットねぇだろ! ただ握り続けるの見てろってか!?」
少年でありながらSな気質を垣間見せる沖田と、たまに何考えてるのかよくわからない桂に、高杉がツッコミ役として両者に叫ぶ。
そうしてる間に、今度は土方の方がズイッと前に出て長い髪を揺らしながら蓮子の方へ近づくと
瞳孔開いた目で彼女を睨み付けた。
「おい、あの女は何処だ? さっさと吐け」
「あの女って誰の事よ、メリーならそこにいるけど」
「そいつじゃねぇよあの白髪頭の女の方だ」
「え、アイツに用があんの? なに? 告る気?」
「しねぇよ誰があんな無愛想で可愛げのない女にそんな真似するか。再戦を申し込みに来たんだよ」
普通の人なら睨まれただけで逃げ出してしまうであろうと思われるぐらい鋭い視線を向けて来る土方に対し、蓮子は逆に睨み返したばかりか更にヘラヘラと口元に笑みを浮かべる。
「再戦? ああそういやアンタ前に来た時にアイツに負けたんだったわね? なぁにバラガキさん悔しかったの? 女相手にボッコボコにされた事が悔しくて枕を涙で濡らしてたの?」
「濡らしてねぇよ! 相変わらずクソムカつく野郎だな! テメェみたいな弱っちいクセに威勢だけが良い野郎を相手にしてるヒマねぇんだよ! いいからアイツを出せ! 殺すぞ!」
「ああ!? やってみなさいよコノヤロー! 言っとくけど前回とはもう別人と錯覚する程私の剣の腕は上達してるから! 卍解覚えたから卍解!!」
土方に弱いと言われてすぐキレてメンチの切り合いを始める蓮子。ギャーギャーと喚き出す二人にメリーはやれやれと首を横に振りながら、ズイッと前に出て仲裁に入った。
「止めなさい二人共、とりあえず言っておくけど蓮子、あなた卍解なんて覚えてないでしょ? 今やってもどうせこの人に負かされる定めだから少しは自重しなさい」
「嘘ついてないわよメリー! 寝てる時になんかグラサン掛けたアゴ髭のおっさんが枕元に現れたのよ! 私が女の子だと気付いた瞬間急にしどろもどろになってどっか帰って行ったけど! ありゃきっと斬魄刀が具現化した姿よ!!」
「あなた斬魄刀なんて持ってないでしょ……それと土方さん、悪いけど今は彼女ここにいないから」
「どういう事だ?」
本当に見えたのかどうかは知らないが、抗議する蓮子の話をメリーは華麗に受け流しつつ、土方の方へ向き直る。
「彼女、近所の子供とたまに遊んであげてるのよ、なんでも小学校低学年ぐらいの小さな姉妹で、いつも空き地で二人だけで遊んでるから暇つぶしがてらに付き合ってあげてるんだって」
「なんだその似合わない真似は……アイツそんなキャラだったか?」
性格はおろか最近髪までも捻くれて来ている彼女が、そんな子供の遊びに付き合ってあげるなどという慈愛に満ちた行動をするとは想像すら出来ない土方。
するとメリーは肩をすくめながら話を続ける。
「まあ一緒に遊んであげてるというより、その姉妹で遊んでると言った方が正しいわね、特に姉の方は反応が面白いからよくイジッてたし、妹はもっぱら彼女と一緒に姉を弄んでゲラゲラ笑いながら楽しんでたわ」
「やっぱそういうキャラだったよ! 何その歪み切った遊び方!? 姉ちゃん大丈夫!? 妹の方もアイツに悪影響受けてるよね絶対!」
「まあもし今から再戦を望みたいなら、今頃チビッ子姉妹で遊んでいる彼女の所へ行く事ね、多分近所の空き地よ」
「……止めておく、行ったらなんかトラウマに残りそうな光景がそこにあるかもしれねぇから」
メリーの話を聞き終えると土方は素直に彼女に再戦を申し込むのを諦める。
あの女が道場で蓮子や高杉をいつもみたいに徹底的に負かしてる時に挑もうと、土方が決心していると蓮子はというと「フン、このチキンが」と彼に毒突きながらメリーの方へ振り向く。
「そうそうメリー、アンタが持ってる重箱ってコイツ等からの差し入れなのよね? 中身大丈夫なの? コイツ等の事だから毒でも入ってそうなんだけど」
「心配ないわよ、ただのおにぎりみたいだし、食べる?」
「おにぎりかぁ……まあ嫌いじゃないし食べるわ、うん」
ぎこちない動きで蓮子が頷くとメリーは床に重箱を置いて、一番上の蓋を取って中にぎっしりと詰まれたおにぎりを見せる。
確かに見た目は極々普通のおにぎりだ、「ふーん」と呟きながら蓮子はその中の一つを取ると、土方も続いておにぎりを一個取り出す。
「……なんでアンタもおにぎり取るのよ、これアンタ等からの差し入れなんでしょ」
「うるせぇな、細けぇ事言ってるとモテねぇぞ」
「モテない? 言っとくけど私は異性にはモテなくても同性のメリーは私に超ゾッコンだから、参ったかコラ」
「いや参ったかと言われても、悲しい奴だなお前という哀れしか感じないんだけど?」
二人でおにぎりを手に取りながらそんな言い合いをしていると、二人の間を小さな体で潜って高杉が重箱に近づいて同じくおにぎりを取る。
「この道場で一番先輩なのはこの俺だ、俺を差し置いて何勝手に差し入れを食べようとしてるんだアホ女」
「すみませんねクソチビ先輩、いやてっきりこの量だと先輩はさすがに食べきれないと思いましてね、だってこのおにぎり、先輩とほぼ同じ大きさじゃないっすか?」
「俺がいつこんな手の平に収まるミニマムサイズになったんだよ! ったく!」
先輩に対してナメた口を叩く後輩に苛立ちを募らせながらも、今は丁度昼過ぎというのもあって腹が減っていたのだ。
キレるよりも今は食欲の方を優先して、高杉は蓮子と土方と同じタイミングで差し入れのおにぎりをパクリと一口食べる。
すると次の瞬間……
「「「ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「蓮子!?」
「トシ!?」
「高杉!?」
突如三人が一斉に口から天井に向かって火を吹き始めたではないか。
いきなりの出来事にメリー、近藤、桂が面食らって驚いていると。先程までずっと無表情だった沖田が静かにニヤリと笑みを浮かべる。
「ウチの姉上がわざわざ作ってくれたおにぎりだ、ちゃんと味わって食え。姉上特製の激辛タバスコを注入してあるから命の保証は出来ねぇけどな」
無垢なる少年と思いきや何処か腹黒い素質を兼ね備えている沖田
そして土方だけでなく蓮子と高杉も、そのあまりの辛さに白目を剥きながらバタリと倒れてしまった。
「しっかりしろトシ! なんか体がビクンビクン大きく跳ねてるぞ! 一体おにぎりに何が入ってたの!?」
「死ぬな高杉! ってなんだこの大量の汗は! 一体何を食べればこんなに発汗症状が出るというのだ!」
何がどうなったのやら、いきなり火を吹くわ変な症状を引き起こすわで近藤と桂は慌てて倒れた二人の下へ駆け寄る。
そしてメリーもまた白目を剥いて口からボコボコ泡吹き出している蓮子の下へとすぐに近づきしゃがみ込む。
「ちょっと蓮子起きて! 気をしっかりしなさい!」
「ハハハ……なんですかこの舟? え? これで川を渡れば良いんですか? わかりました巨乳のお姉さん……」
「蓮子!」
「は! 巨乳のお姉さんが一瞬でまな板メリーに! ぶッ!」
「誰がまな板よ!」
何か変な夢でも見てるのか、はたまた本当に死に掛けていたのか、幻覚を見ていたと思われる蓮子が目を開けたかと思いきやいきなり失礼な事を言って来たので、メリーは力任せに彼女の頬を思いっきり引っ張叩くのであった。
「騒々しいわね、一体何をしているの? 久しぶりの休日なのに新薬の発明も出来やしない」
「あなたは!」
すると道場の出入り口から一人の女性が何食わぬ表情でゆっくりと入って来た。
自分の一撃で再びノビてしまった蓮子を抱き抱えながら、メリーは顔を上げてそちらに振り向く。
そこにいたのは大学にいる時と同じくスーツの上に白衣を着て、履いているのはサンダルというおかしな恰好をした綺麗な白髪の女性だった。口にはタバコが咥えられている。
メリーは彼女の事をよく知っている、科学分野に特化したその頭脳で、様々な実験を生徒を使って何度も行っているマッドサイエンティスト……
そしてこの松下村塾の先生である吉田松陽の妻でもある……
「……八意教授」
「とりあえず意識を失って倒れている子達を地下室に運びなさい、貴重な実験体として私が預かってあげるから」
「そこは助けてあげて下さい教授!」
八意永琳、娘同様どこか掴めない性格をした変わり者
私、マエリベリー・ハーンが唯一頭が上がらない二人の内の一人でもある。もう一人は彼の夫だ
そしてこれから先の未来で、私は彼女に頭を地面にこすり付ける程懺悔しなきゃいけない相手でもあるのだ。
彼女の大事なモノを二つも失わせただけでなく
更にもう一つ、厚かましくも彼女から横取りして奪ったのだ。
だから今もなお、私は彼女に会わせる顔が無い……
次章予告
銀時の古き知り合い、坂本辰馬登場、更に彼の奥さんも
最期の四天王も遂に顔出し、アイツ今誰と何してるの?
そして銀時と何やら縁のある彼女が満を期して見参、正妻戦争回避不可?
銀さん病院に行く、そこにいたのは兎とニートとマッドサイエンティスト
今まで以上に銀さんの過去を知る者達が続々登場します、お楽しみに
幼少時代の銀さんを育てた人、その正体は……