銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#33 時本坂金

特に何の異変も起きずに平和な幻想郷、しかし

 

「クソッタレェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

博麗神社にて、賽銭箱を覗きながら女の子にあるまじき怒鳴り声を上げる博麗霊夢がそこにいた。

 

「ファッキン! シット! サノバビッチ!!」

「おいおい神に仕えし巫女がなにとんでもねぇ下品な事口走ってんだよ」

「オーマイゴッド!」

「うんまあ、それはお前が使っても別にいいか」

 

賽銭箱に向かってガンガン頭をぶつけながらハイテンションで横文字の罵倒を浴びせる霊夢の背後に

 

いつも通り八雲銀時がけだるそうに歩み寄って来た。

 

「どうしたんだよそんなキレて、賽銭箱が空なのはいつもの事だろ」

「ああ!? 逆よ逆! さっきまでこの賽銭箱にはごっそり札束やら小銭やらが一杯あったのよ!」

「この博麗神社の賽銭箱に札束ごっそり? 間違いなく異変じゃねぇか、隕石でも振って来るんじゃね?」

「私だって最初は目を疑ったわよ、賽銭箱から溢れんばかりの大金を見て思わず魂が体から抜けかけたんだから……」

 

賽銭箱に大金が入ってたと聞いて首を傾げる銀時。賽銭はおろか人が来る事さえ滅多にない博麗神社に、一体誰が霊夢がショック死しかける程の大金を持ってきたというのだ?

 

しかもそれで霊夢がキレる意味が分からない、すると彼女は賽銭箱の隙間に手を突っ込むと、ヒョイッとある物を銀時に差し出す。

 

「喜びも束の間、気が付いたら全部コレよ」

「葉っぱ?」

「そう! あんだけあったお金が全部葉っぱに成り代わってるのよ! 希望から絶望に急転直下よ!」

「……ははーん」

 

なんの変哲もない葉っぱを受け取ると、銀時はクルクルと回しながらそれが本物の葉っぱだと確かめる。

 

怒り狂う彼女に対し、銀時は理解した様に頷き

 

「こりゃ化かされたな」

「化かされたってどういう事? やっぱ妖術や幻術の類を見せられたって事?」

「そんな所だ、まんまと騙されやがって、それでも妖怪退治のプロか?」

「あのね! 妖怪退治のプロでもド貧乏な私の目の前に今まで見た事の無い大金が現れたらそりゃ我を失うに決まってるでしょ!」 

「お前言ってて悲しくならないの?」

 

日頃から金や豪華な物に対してとことん縁の無い霊夢にとっては一番酷い嫌がらせである。

 

そんな彼女に銀時がまた何か飯でも奢ってやろうかな?とかちょっと不憫に感じていると

 

突如彼女は天に向かって高々と叫ぶ。

 

「こんな屈辱的で性質の悪いイタズラをするなんてただじゃ置かないわ! 出て来なさい!」

 

自分に対してこんな仕打ちをした奴を許せない様子で霊夢が激昂を露にしていると

 

ふと博麗神社の屋根の上からおかしな笑い声が聞こえて来た……

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハ! すまんすまん! ちょいとからかってやろうと思うたらまさかこげにキレるとは思わんかったわ!」

「ああ! アンタか私を騙した奴は!」

「ん? アイツ……」

 

屋根の上で笑っていたのはモジャモジャ頭のヘンテコな男であった。

 

グラサンを掛けているので余計に見た目が怪しい彼がイタズラの犯人だと確定して霊夢が怒っていると、銀時は彼の事を知った様子で顔を上げた。

 

「何やってんだお前、いい年こいてウチの娘で遊んでんじゃねぇよ」

「おお! なんじゃ金時! おまんもいたんか! 久しぶりじゃのぉ! アハハハハハ!」

「いや金時じゃなくて銀時だから」

「アンタ、あの変なオッサンと知り合いなの?」

「知り合いっつうか元同僚」

 

こちらに気付くと何がおかしいのやら、名前を間違えてる上にまた笑い声をあげる男に銀時がイラっとしながらツッコんでいると、霊夢があの男について彼に尋ねる。

 

「何者なのよ、この辺じゃ見ない顔ね」

「そりゃあそうだろ、奴が住んでる場所死後の世界だからな」

「死後の世界ってもしかして……」

「幻想郷の地獄だ、地底にある旧地獄じゃなくて今のな」

 

地獄

 

この幻想郷で死んだ者が必ず行きつき、そこにある是非曲直庁に務める裁判官によって裁きを受け、その者に相応しい所へと送る場所である。

 

死んだ者が善人なれば極楽へ、罪を犯した者なら地獄、そして地獄行きが決定するとその罪の内容に合わせた刑を執行する所へ連行されるのである。

 

当然拒否権はない、裁判官の判定は絶対でありそれを覆す事など誰であろうと出来ないのだから

 

元々は地底の底にあったのだが、今の裁判官が考慮して別の場所へとお引越ししたのだが、地底の底にはまだ地獄であった名残が残っているのは結構有名な話である。

 

「地獄? 何コイツ、もしかしてそっから逃げて来た亡者とか?」

「いんやコイツは亡者じゃねぇ、亡者に刑を執行する側だ」

「へ? てことはまさかコイツがあの有名な閻魔様?」

「こんな奴が閻魔様なら今頃地獄は北斗の拳みたいになってるよ、コイツは……」

「なんじゃなんじゃ! まさかわしの事について話ちょるのかおまん等!」

 

霊夢に銀時は胡散臭い男の説明をしてあげていると、話の途中で割り込んで、男は屋根から飛び降りてスタッと地面に着地する。

 

「なら本人であるわしが自ら聞かせてやるぜよ! 何を隠そうわしは生まれは土佐で! そして土佐だけでなくその名を日の本中に広く轟かせたあの有名な……!」

「ノコノコと降りて来たなに自己紹介始めようとしてんだコラァ!」

「うごぅ!!」

 

勝手に名乗りを上げようとすると男が目の前に現れた途端、霊夢は容赦もなく全力の右フックを彼の頬にお見舞いする。

 

「よくも乙女を弄びやがったわね! 博麗の巫女の名の下に退治してやるわ!」

「いてて……金時、おまん一体どういう教育したんじゃこの娘っ子に……」

「基本、虫ばっか食わせてたよ」

「そげなトカゲみたいに育てとったんかおまん……」

 

鼻血をポタポタと流しながら銀時に助けを求めるように男は顔を上げると、袖で鼻血を吹き終えると改めて自己紹介する。

 

「わしは坂本辰馬! かつては四国で最も恐れられた大妖怪として生き! その後は源頼光に拾われて四天王とし魑魅魍魎の退治に明け暮れ! 最終的には地獄で刑罰の執行役を務めさせてもろうとるモンじゃ! 好きなモンは無限に広がる大宇宙と船! 苦手なモンは狐と兎!!」

「……アンタ妖怪の一種なの? なら退治しても問題ないわね」

「ちょちょちょ! わかったわかった! 今度地獄産地の美味い飯でも持ってくるから!」

 

まだ怒ってるのかと男、坂本辰馬が慌てながら一つ提案してみると、霊夢はまだ恨みがましい目つきをしているがゆっくりと引き下がってくれた。

 

「また騙そうとしたら今度は絶対に退治するわよ……ていうかアンタどこの妖怪よ、見たまんまじゃ全然わからないんだけど」

「狸だよ、『化け狸』」

 

目を細める霊夢に坂本に代わって銀時が仏頂面で答える。

 

「昔の名はなんつったか忘れたけど、確か妖怪狸を従える親玉で四国地方最大の神通力を持つおっかねぇ大妖怪でありながら、かつては人間達の信仰の対象にされたりと、妖怪には珍しいかなりの人たらしとして有名だったんだ」

「へぇ、アンタ守矢神社の神様の事は知らなかったクセにコイツの事はよく知ってるのね」

「そらお前ちょっとの間だけど俺はコイツと同じ釜の飯食ってたからな。本人から色々と聞いてんだからわかるに決まってんだろ」

 

短絡的に坂本の過去を説明し終える銀時に霊夢が感心したように頷いていると、その坂本はヘラヘラと笑ったまま口を開く。

 

「いや~そげな事もあったのぉ、まあ結局人間に騙されて更には部下と一緒に洞窟に封印されとったんじゃがの。人を化かす側である筈のわしが人に化かされるとはこれまたおかしい話じゃ、アハハハハ!」

「アンタよく笑っていられるわね……」

「昔の話じゃしもう気にしちょらん、過去は過去ぜよ」

 

結構辛い過去をサラリと言ってのける坂本に霊夢は頬を引きつらせ呟くが、坂本自身はもう過去の事だと恨み言さえ無いみたいだ。

 

「そんでその後に頼光の奴が封印されているわしを解放してくれた上に坂本辰馬っちゅう名もくれての、そん時にコイツやヅラ、高杉の奴とも会うたんじゃから、むしろ封印されて良かったって思う所もあるきに」

「頼光、ああまた源頼光か……『不老不死の怪物』と『日本最大級の悪霊』の上に『化け狸の大妖怪』まで自分の傘下にいれるって一体何者なのよ……」

「確かに! ありゃあかなり変わりモンじゃったわい! のう金時!」

「銀時な、まあただの人間にしちゃ随分と強かったしな、つか強すぎだったよね? アレ完全に普通じゃ無かったよね?」

「そういやおまんと高杉が喧嘩した時も頼光の奴、簡単に止めておったの」

「ありゃあ間違いなく俺達以上の化け物だよ、あの時代の人間にしては相当長生きしたし、死んだ時は滅茶苦茶驚いたからね俺、「え? アイツ普通に死ぬの!?」って」

 

坂本とつい昔の話を思い出して語り合いながら、ふと銀時はちょいと彼に尋ねてみる。

 

「そういや高杉の奴って今何してんだ? 俺もう随分と長い間会ってないんだけど」

「高杉? そういやわしもかれこれ何百年も会っとらんの、アイツが地獄にはほぼ毎日の様に通い詰めてた頃があったんじゃが、ある日を境にパッタリと来んようになってしまうたきに」

「地獄に通い詰めるってどういうこったよ」

「そらまあ、アイツがやってる仕事が仕事じゃしの」

 

彼が一体どんな仕事に就いているのかと聞こうとしたのだが、銀時が口を開く前に坂本は話を続ける。

 

「直接わしと会う事はそれ程なかったが、ウチの所の死神コンビはよう会うてた筈じゃきに、今度顔ば見せてあのモン達に聞いてみればよか」

「あの性格正反対のデコボココンビか、なら今度三途の川にでもお邪魔するわ、紫と一緒に」

「三途の川デートか、アハハハハ! おまん等は相も変わらず仲が良くて何よりぜよ! こっちもあやかりたいモンじゃ」

「いや別に仲悪くはねぇだろお前等、死神コンビに負けず劣らずデコボココンビだけど」

「どうだかのぉ、わしの話全然ば聞いてくれん時もあるし融通が利かんのが悩みの種じゃきん」

 

アゴに手を当てながら何度かあった事のある異質なコンビでありながらもう何百年も一緒の仕事を務めている二人を思い出して、機会があれば会いに行こうと決めると、「あ、そうだ」っと銀時は話題を変えて別の話を坂本に切り出す。

 

「そういやお前、地獄からヅラの野郎を逃がしちまっただろ。今アイツこっちに来てるからさっさと連れ戻せよ」

「あーやっぱこっち来とったんかヅラの奴……かつては仲間として慣れ親しんだ経緯があるから穏便に減刑ばしてもろうと思うとったのに……ほんに困った奴じゃ」

 

悪霊・桂小太郎が蘇っている事については坂本も思う事があるらしく、どこか歯切れの悪い口調で呟きながら後頭部を掻き毟った。

 

「祟り神にでもならん内にはようしょっぴかんと大変な事になるしの、なんとか早急に地獄に連れ戻さんといかんぜよ。ったくこういう時に高杉がいれば役に立つっちゅうのに」

「もう半ば祟り神みたいなモンだろ? 外の世界で散々祟り引き起こしてるじゃねぇか」

「ああ、”嫁さん”もその事についてはえらくご立腹じゃて、国規模で迷惑かけた上に地獄からの脱獄、こりゃどれ程の刑が下されるのやら考えただけでも恐ろしいわい」

 

困り顔で力なく笑いながら銀時と会話する坂本の話を聞いて、おっさん同士の昔話にはてんで興味の無かった筈の霊夢がピクリと反応する。

 

「嫁さん? アンタそんなものいたの? 狸の嫁さんって事は雌狸?」

「いんや神様じゃ」

「……は?」

 

結婚していたこと自体が意外だと思っていたが、あっけらかんとした感じで嫁さんは神様ですとほざく坂本に霊夢は眉間にしわを寄せる。

 

「また私を騙そうとしてんの? いい加減本当に退治するわよ」

「いやいや本当の事ぜよ、わしと同じ職場で働く神様じゃ」

「アンタの職場って地獄でしょ、地獄で働く神様なんているわけ……あ」

 

疑いの目つきを向けていた霊夢は思い出した。

 

地獄には誰であろうと絶対に逆らえない恐ろしい神様がいる事を……

 

いやまさかそんな訳……と思いつつ霊夢は坂本ではなく銀時の方へと尋ねる。

 

「コイツの奥さんが神様ってホント?」

「あーそういやそうだったな、神様つってもまだ駆け出しのなり立てみたいなモンだけど」

「地獄で働く神様って事はやっぱり……」

 

ポリポリと髪を掻きむしりながらあっけらかんとした感じで銀時が答えると

 

霊夢は恐る恐る坂本の方へと振り返る。

 

すると彼は腰に手を当てながらニンマリと笑い

 

「閻魔大王じゃ、そんでその閻魔の旦那がわしです、アハハハハハ!」

「ウソでしょアンタが閻魔の夫!? 狸なのに!? オーマイゴッド!!」

「的確な使い方だな」

 

思わずまた英語で叫んでしまう霊夢に銀時は「おお」っと口を開けて感心した様子で頷くのであった。

 

 

幻想郷の閻魔様の旦那は

 

 

 

 

まさかの狸でした。

 

 




桂小太郎同様、坂本辰馬にもモデルがいます。

平成狸合戦ぽんぽこやぬらりひょんの孫とかで登場したり

水木しげるの漫画やら鬼灯の冷徹にも出る程広く知られている化け狸です。



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