銀さんと紫で地獄巡りを書き始めたのはほぼほぼ私の趣味みたいなものです
銀時と紫は地獄へと赴く為に死神コンビこと小野塚小町と月詠に案内されながら
気ままにゆっくり行こうと地獄観光を楽しむ事に。
舟が岸に着き小町と別れた後は、月詠に先導されて徒歩で彼岸を歩いて回ると
しばらくして地獄へと続く有名な地獄門が彼女達の前に現れたのであった。
「毎回ここ来る度に思うんだけどデカすぎじゃね、門」
「地獄は亡者だけでなく図体のデカいモンも出入りするんでな。これでもまだ小さいとよく言われる」
巨人でも容易に入れそう門を見上げながら銀時が呟いている間に
月詠はその門に付いてた出っ張りにそっと手を置いたと思ったら、開けるだけでも数十人がかりの力が必要そうな門がゆっくりと開いてしまった。
「最近じゃ河童の技術を応用して押しボタン式の自動門に造り替えてみた。これで力のないモノでも軽々と開けることが出来て随分と便利になったでありんす」
「それ地獄の門としてはどうなの!? 亡者も簡単に逃げれちまうじゃねぇか!」
外の世界にあるという自動ドアのイメージを採用したのか、亡者を絶対逃がさない様に閉じ込める為の頑丈な地獄門が、いとも容易く開かれる自動門へと変わり果ててしまった事に銀時が異議を唱えるが、月詠は淡々とした口調で
「便利さを取るか厳重さを取るかで議論が行われたんじゃが、7:3で便利さを優先させた結果じゃ」
「いやいやいや……7:3ってどんだけ便利さを求めてんだよ地獄の住人は」
「昔から窮屈な生き方してるからねあの人達って、わからないでもないわ」
「その内地獄内全域に届く巨大クーラーでも造るもんなら、いよいよ地獄として終わりだわ」
最新科学を把握してなおかつその技術を採用する地獄とは如何なものかと珍しく正論を言い放ちながら
銀時は不安そうな表情で紫と共へ門の中へと入っていった。
「わっちが案内できるのはここまでじゃ、閻魔の御殿までは自分達で向かうか誰かに尋ねてみるといい」
「ありがとう、仕事中なのに案内役させて申し訳なかったわね」
「世話になったな、相棒の方にもよろしく言っておいてくれや」
「ああ、どうせ今頃は舟の上で鼻ちょうちん膨らまして寝ている頃かもしれんがの、それじゃ」
紫と銀時に礼を言われた後、月詠は手を上げて踵を返すと来た道を戻って行った。
また仕事に戻るのであろう、地獄での裁判の為にやってくる亡者達を案内するという大切な仕事が彼女達にはあるのだから
月詠の背中が見えなくなる前に地獄の門は銀時達の前で再び自動で動き始めると、ゴゴゴゴゴと音を鳴らしてゆっくりと閉ざされた。
「さてと、そんじゃあ鳳仙とかいう閻魔大王のツラでも拝みに行ってくるか」
「粗相の無い様にね、幻想郷の閻魔は現代のあの世で裁判を行う十王の下の位だけど、それでも神様だというのは変わりないんだから」
「神様ねぇ、あの連中にはあまりいい思い出が無いんだよな俺」
閻魔もまた神々の一柱だというのを紫に指摘されて思い出し、後頭部に両手を回しながら銀時がけだるそうに大きな欠伸をしていると……
「あら? あんた達亡者じゃないね、もしかして迷い込んで来ちまったのかい? 月詠の奴は何やってるんだか」
「あん?」
欠伸をしている途中で不意に何者かに話しかけられ、銀時はゆっくりとそちらの方へ振り返る。
地獄には場違いであろう煌びやかで豪華な羽織を着た一人の女性がそこに立っていたのだ。
「迷い込んだわけじゃねぇよ、ちょっくら閻魔に会う為と観光目的でやって来たただの夫婦だ」
「観光目的? 夫婦水入らずで観光しに来る所が地獄とは随分と変わったお二人さんだね」
「そういうアンタは誰だ? 見た所亡者ではないだろうし地獄で働いてるモンか?」
「ああそうだよ、私は閻魔・鳳仙様の方の補佐役を務めさせている者でね」
見れば見る程美人なイメージがくっきりと表れる女性を前にしても、全く物怖じせずに銀時が尋ねると
女性は胸に手を置きながらゆっくりと自己紹介する。
「名は日輪っていうんだ、アンタ達観光しに来たんなら閻魔の御殿に来なよ、私も丁度行く所だからさ」
「おいおいまさか閻魔の補佐役とここで会うとはな」
「運が良いわね私達、せっかくだし連れて行ってもらいましょうか」
綺麗な女性の誘いを断る訳にもいかないと、銀時と紫は日輪と名乗る女性に連れられて閻魔の御殿へと赴く事になった。
銀時の知る閻魔とは違う別の閻魔、一体どのような人物なのかと考えながら
二人は日輪に案内されながら数分程で閻魔の御殿へと着いてしまうのであった。
銀時達が辿り着く数分前、閻魔の御殿では物々しい雰囲気が立ち込められていた。
それもその筈現在御殿の中心部にて正にその閻魔大王が高台の座敷に座り
一人の亡者を圧倒的な威圧感で睨みを利かせながら
今正に判決を言い渡す所なのだ。
座敷に座るのは長い白髪を垂らした老人、なのだがその着物の上からでも分かる程の筋骨隆々の肉体と凄みのある目力は、とても老人とは思えない程恐ろしい姿をしていた。
これが第二の閻魔大王・鳳仙
かつて夜兎族として頂点に君臨し人々や他の妖怪だけでなく、神々にまで畏怖された恐ろしい大妖怪だ。
そんな彼がどうして神である閻魔大王になったのかは極一部の者にしか知られていない。
「……」
彼はパタパタと扇子を煽ぎながら無言で睨み付けているのは、亡者である中年の小太りの男性。
恐る恐る閻魔の顔を見つめながら、判決を今か今かと肩を震わせながら待っていると
パチンと扇子を閉じるとしばしの間をおいて、閻魔大王・鳳仙がゆっくりと口を開く。
「蔵場当馬……貴様は生前、妖怪達に媚びを売る為に同族たる人間を騙し、贄として奴等に食わせていた。そしてその報酬として人間では近寄れない地域にある多種様々な原料を手に入れて、それを人々に売りさばき私腹を肥やしていた」
「……」
「そして富と地位を得た貴様は妖怪達との取引を行い続け、その度にもまた多くの人間共を奴等に提供していた、時には女子供をも」
「……」
「最終的に貴様は罪悪感に苛まれた部下の一人が取り出した刃によって刺され死亡、少しも不憫に思えぬ哀れな最後だ。貴様は多くの者を騙し、なおかつその命を奪ったその悪行、まことに許し難し……」
裁判をする亡者の生前の経歴は全て閻魔とその補佐に伝わっている。
彼等の善行・悪行、数々の行動によって閻魔は処遇を決めて判決を言い渡すのだ。
震えながらも懸命に顔を上げて何か言いたげな様子の亡者へ向かって、鳳仙はカッと目を大きく見開いて
「判決を言い渡す! 貴様の行き先は焦熱地獄!! その醜き腐った魂ごと地獄の業火で身を焦がし! 殺した者達に対して懺悔を唱えながら焼かれ続けるがいい!!」
「!」
「安心しろ、地獄とて慈悲はある、貴様が刑期を終えればすぐに輪廻の輪に乗せて転生させてやろう……」
焦熱地獄
常に極熱で焼かれ焦げる状態に陥る中で。
赤く熱した鉄板の上で鉄串に刺されて、ある者は目・鼻・口・手足などに分解されてそれぞれが炎で焼かれる。
焦熱地獄の炎の熱さは、他の地獄の炎が雪のように冷たく感じられる程だという。
もし焦熱地獄の火を地上に持って来た場合、それは地上の全てが一瞬で焼き尽くされるほどの破滅的な炎だと言えば、その炎がいかに末恐ろしいのは容易に読み取れるであろう。
そんな恐ろしい場所に連れてかれると言われれば当然亡者も表情をこわ張らせて凍り付く。
しかし鳳仙はニヤリと笑うと更に話を続け
「安心しろ、地獄とて慈悲はある、貴様が刑期を終えればすぐに輪廻の輪に乗せて転生させてやろう……」
「ま、まことですか? それは一体どれ程の期間に……」
「大した事は無い、ざっと5京4568兆9600億年だ」
「は! はぁぁぁぁぁ!?」
聞いた事の無い長い年数を愉快そうに笑みを浮かべながら答える鳳仙に
亡者は絶句の表情を浮かべ、訳が分からないと両手で頭を押さえる。
人の一日と地獄の一日は時間の感覚が大きく大きく違う。集熱地獄の場合だと人間の感覚であればおよそ16000年間でやっと一日となる。
現世の刑務所とはまさに次元の違う刑期を送るハメになるのだ。
「い、いくらなんでもそれはあんまりなのでは!? 確かに私は罪を犯しましたが直接手を掛けてはおりませぬ! 人間を殺し食らったのは妖怪共の仕業! どうか慈悲を! 私はただ連中に脅されていただけで……ひっ!」
亡者は息絶え絶えに必死な形相を浮かべて罪の減刑を要求しようとするも
その様な命乞いを聞いても鳳仙は聞く耳持たずといった感じで立ち上がると座敷から飛び降り、神でさえ腰を抜かしたと言われる程の殺気を醸し出しながらユラリと亡者の方へ歩み寄っていく。
「この閻魔たるわしの判決が不服と申すのか貴様は……!」
「そ、それは……!」
「身の程をわきまえろ小童が……! 下された判決は誰が何と言おうと変わる事は……!」
そんな事ありません、と答える暇さえ与えずにただ怯え切った表情でこちらを見上げる亡者に向かって
閻魔大王・鳳仙は自らの拳を振り被ると
「このわしが閻魔である限り未来永劫ない!!!」
一気に亡者目掛けて振り下ろすと、その拳の風圧だけでみるみる亡者の顔は歪に変形し始め、最終的にその拳が亡者の顔に辿り着いた時には
その者の身体は原型さえ留められない程バラバラに引き裂かれてしまった。
地獄の亡者はいくら身体がバラバラになろうとすぐ様復活できる、砕け散った肉片はすぐに集まって元の一つに戻ると、痛みと恐怖でガクガク震えながら口から涎を垂らす亡者だけがその場に座り込んで現れた。
「連れていけ」
傍にいた鬼に向かって鳳仙が命令すると、軽くお辞儀をして鬼はすぐ様その亡者をズルズルと引きずりながら御殿か連れ出していった。
抵抗も出来ずにただ地面に背中をこすりながら顔面蒼白の表情で動けないでいる亡者は
判決された通り集熱地獄にてコレから先、途方もなく長い時間を送るのであろう。
そしてそんな亡者と同じ出入り口からすれ違いながら
「あれ? 今のってもしかして地獄行きの亡者?」
「そうみたいね、ショックで放心状態みたいけど」
「おや、私がいない間にもう裁判終わらせちまったんだね鳳仙様」
八雲夫婦と鳳仙の補佐役である日輪が無事に到着したのであった。
彼等がやって来ると鳳仙はまず銀時と紫の方をジッと見て、ゆっくりと視線を逸らして日輪の方へ顔を向ける。
「日輪、誰だこ奴等は。見た所亡者はおろか人ですらないではないか」
「観光客だよ」
「……なに?」
「現世から遥々こんな所へ夫婦で観光しにやって来た変わりモンさ」
常人なら目を合わせただけでも身を震わせて腰を抜かしてしまうであろう閻魔の刺すような目つきに対して、日輪はあっけらかんとした感じで正直に彼等の事を紹介し始めた。
「銀髪の方が銀さん、金髪の方が紫さんって言うんだとさ、なんでも幻想郷の管理人をやってる相当偉い御方みたいだ」
「フン、大方桂小太郎を逃がした件について聞きに来たのか、奴を逃がしたのはこちらの不手際だと認めてやる、これで文句はあるまい」
「何その上から目線の謝罪?」
凄みのある表情でやや悪びれている様子が見えない鳳仙に対し、日輪は呆れた様子でツッコミを入れていると
早速、銀時の方が堂々と彼の方へと歩み寄って行った。
「しっかしもう一人の閻魔とは随分雰囲気違うな、向こうは女性だったし。こっちの方がモノホンっぽいわ」
「……得体の知れん奴だ、死の気配がまるでない」
怖がりもせずにけだるそうに死んだ目を向けて来た銀時に対し、鳳仙は面白くなさそうに鼻を鳴らしていると
銀時の奥方である紫が柔和な笑みを浮かべて彼の隣に立って、こちらに対し一礼
「お初にお目にかかります、閻魔・鳳仙様。無礼も承知でやってきました、ちょっと地獄をグルリと廻りながら観光させていただけますか? それとなんか観光スポットとかありません? 例えば行けば夫婦円満になれる場所とか?」
「無礼にも程があるであろうが、そもそも地獄は観光地などではない、夫婦円満になりたければ自力で何とかしろ、共に支え合い暮らしていく事だけを求めるのが円満の秘訣であろうが」
「あ、割と適切なアドバイスどうもありがとうございます……」
見た目とは裏腹に結構真面目に夫婦として長持ちする為の助言をしてくれる鳳仙に、紫が珍しく一本取られて苦笑していると。
彼はまた日輪の方へと顔を上げた
「こ奴等は幻想郷の管理人だと言っていたな。ならば無下に現世に帰しては色々とめんどくさい、案内人でも呼んでこ奴等に地獄を好きに見学させてさっさと帰らせろ」
「はいよ、でも案内役は誰にするんだい? 今こっちは人手が足りないんだよ?」
「”陸奥”にでも頼め、奴は今日非番の筈だ」
「やれやれ、休みの日に仕事させるとはとんだ酷い御方だね」
「口答えするな、わしなどもう数千年も休みなど貰った事は無いわ」
「そりゃアンタが大昔に大暴れしてやんちゃし過ぎた結果だろ? 自業自得さね」
傲慢な態度で命令してくる鳳仙に対して、しかめっ面でため息交じりに日輪は頷いた。
「仕方ない、頼んでみるさ、もう一人の閻魔様の補佐役である人に観光ガイドさんみたいな真似させていいモンかねぇ」
「小言を呟いてないでさっさと仕事をしろ」
「はいはい、ホント人使いが荒いんだから」
亭主関白の様に指示しながら鳳仙は座敷の方へと戻って行った。
そんな彼に日輪はすっかり慣れた感じでいそいそと動いている。
残された銀時と紫は席に着く鳳仙をジッと見る。
「茶菓子でも持ってくればよかったな……」
「私達こういうの慣れてないからね、年も年だから目上の人と話す事滅多に無いし……」
アポなしでいけしゃあしゃあと観光しにやって来た二人に対して心底不機嫌な様子の鳳仙。
今度会う時には現世の美味しいモンでも持ってくるかと決める二人。
かくして、いよいよ亡者に刑罰を与える地獄へと二人は辿り着いた。
八雲夫婦の地獄めぐりツアーはまだまだ続く。