残念ながら銀さんは出ないです、彼の出番は次回に。
あの世には天国と地獄がある
地獄は『八大地獄』と『八寒地獄』の二つに分かれ
更に二百七十二の細かい部署に分かれている。
戦後の人口爆発
悪霊の凶暴化
あの世は前代未聞の混乱を極めていた
この世でもあの世でも統治に欲しいのは冷静な後始末係である。
が
そういう影の傑物はただのカリスマなんかよりもずっと少なく、その器用さ故に様々な場所へと足を運ぶのであった。
ここは現世の地獄ではなく、あの世とこの世の境に置かれる存在・幻想郷
そしてこの場所にもまた現世と同じく亡者を裁判する地獄が存在した。
「お久しぶりです、閻魔大王より閻魔大王っぽい幻想郷の第二閻魔大王の鳳仙殿」
「相変わらず、いきなり訳の分からん挨拶をするな貴様は」
幻想郷の閻魔の一人、鳳仙
裁判席にて座る彼から迸る威圧感にものともせずにおかしな挨拶をするのは
赤い襦袢に黒い衣服で帯を貝の口に締め、その上から結び切りの帯飾りを付けた切れ目の一本の角の鬼であった。
牙が生え揃い両耳が尖っているなど鬼らしい容姿をしているが、髪の毛は鬼には珍しい癖のない黒髪
鬼灯
現世の閻魔大王の第一補佐官を務める一本角の鬼神であり
非常に有能だが、仕事に関しては部下の獄卒はおろか閻魔大王すらドン引きする厳しさで当たるドS。
加えて「大王の第一補佐官」と言う鬼の中ではトップの地位にいるため、周囲からは尊敬されつつも畏れられている。
あらゆることに対して情け容赦が無く、自分の意見もきっぱりと述べる等ある意味自分に正直な人物と言える
上司である閻魔大王であろうとサボるだの言い訳するモンなら、問答無用で愛用している金棒で殴ることも日常茶飯事である事からもそれが伺える
「常々思う事があるのですが、一度でもいいから鳳仙様が「なんでも鑑定団」のナレーション風に判決をする所が見てみたいです」
「なんでこのわしがそんな事しなきゃらならんのだ、陽気な声で亡者共に刑を下す閻魔が何処にいる」
「あの番組観てると、鑑定される品物よりもやたらと博識な鑑定団の方に興味が映っちゃうんですよね私」
「知るか、それより……」
相手が鳳仙であろうとお構いなしに勝手に持論を始めるのは流石というべきか天然と呼ぶべきか……
鬼灯の事は付き合いも長いのでそれなりに熟知している鳳仙は、まずは彼の話を軽く流し、そして彼の傍に従う様にちょこんと立っている”白い犬”を一瞥した。
ヘッヘッヘと舌を出しながら笑ってるかのような表情を浮かべるその犬を、鳳仙はただジッと見つめた後
「いつツッコめばいいのかどうかずっと考えていたが、その白い犬はよもや貴様のペットか。出張先にペットを同伴させるとはどこのOLだ」
「ああご心配なく、シロさんは現世の地獄で働くれっきとした獄卒です。ほら挨拶しなさい」
「こんにちは! シロっていいます!」
鬼灯に促されるとシロと呼ばれた犬は尻尾をブンブン振りながら口を開いて無邪気に答えた。
「不喜処地獄(犬や鳥に骨までしゃぶられる地獄)で働いてます! これでも昔は桃太郎の仲間として悪い鬼を懲らしめてました!!」
「貴様は何の用でここに来た」
「なんか面白そうだと思って鬼灯様について来ました!」
「……」
聞いてない事まで自己紹介かつ、動機としてはあまりにもわかりかねない理由で応えるシロに対し
あのや夜王と恐れられ、夜兎として日々殺戮の時を長く過ごしていた過去を持つ鳳仙でさえ、思わず数秒言葉を失ってしまった。
「貴様の地獄で働く者はこういった恐れを知らぬアホ共しかおらぬのか、鬼灯」
「いえ、確かにアホは多いですが真面目に働いてる人もいますよ。私もその一人です」
「貴様もまたどこかアホな所があると思うんだが? こちらに許可なく勝手に犬っころを連れて来たりな」
「すみません、シロさんが是非こちらの地獄と幻想郷を見てみたいとおっしゃったので」
動物に対してはどこか甘い所がある鬼灯は、謝罪しつつしゃがみ込んでシロにコッソリと耳打ちする。
「この方は、この幻想郷の地獄を統括する二人の閻魔大王の内の一人、鳳仙様です。あまりふざけ過ぎると頭かち割られるので気を付けて下さい」
「そうなんだ、でもこっちの地獄の閻魔大王とえらい違いだから俺凄いビックリした、もう一人の閻魔様もこれぐらい迫力あるの?」
「もう一人の閻魔は女性です、そちらはこの方程迫力はありませんが、また別の意味で相手にプレッシャーをかけてきます」
「へー現世の地獄とは色々違うんだー」
鬼灯の話を素直に聞きながらシロは感心したように頷いた後、何か思い出したのかすぐに彼の方へ顔を上げる。
「もしかしてここに来る途中で案内してくれたあの凄い美人な人?」
「アレは鳳仙様の補佐役の日輪さんです。元々は天照大神の遣いだったんですが、大妖怪として現世で大暴れしていた鳳仙様を諭して改心させ、更には彼が犯した罪を償わせる為にそのお手伝いをしてあげているんです」
「大暴れって、どれぐらい暴れちゃったの?」
「色々と昔からヤンチャしてたみたいですよ、元々は中国で生まれた妖怪で好き勝手暴れ放題だったらしいです。彼のハチャメチャな暴れっぷりは今もなお後世に伝わってる程ですから」
「……なんだろう、事の詳細を言わずにただ暴れてたってだけの表現にするから、ますます何をしていたのか気になって来た……」
どういう風に暴れていたのかは詳しく語ろうとしない鬼灯にシロが怖いと思いながらもついつい興味を持ってしまっていると
彼等の所に一人の女性がスッと歩み寄っていく。
「おや、見知らぬ犬が1匹鳳仙殿の過去の所業に興味をお持ちになられてますね」
四季映姫、鳳仙と同じくこの幻想郷の地獄にて亡者に判決を下す閻魔の一人だ。
「彼の話はあまり詳しく聞かない方が良いですよ、なにせその数々の悪行は、地獄の刑罰だけではとても精算できない程なのですから」
「あ! なんか閻魔様っぽい帽子被ってる女の人だ!」
「先程言っていた女性の閻魔大王、四季映姫・ヤマザナドゥさんです」
やって来たもう一人の閻魔、映姫をシロに紹介しながら、鬼灯は彼女にもまた深々と頭を下げる。
「お久しぶりです、幻想郷の地獄の視察とこちらの資料提出、それと例の件についての対談を目的にやってきました、忙しい中わざわざ閻魔大王本人が話し合いの席を設けてくれてありがとうございます」
「気にする必要はありません鬼灯殿、こちらも早急に片付けておきたいと思いましたので」
映姫もまた鬼灯に頭を軽く下げた後、眉一つ動かさない厳格そうな表情で話を切り出す。
「逃げ出した大悪霊・桂小太郎を再度地獄に封印する為に、どうか現世の地獄の方達のお力添えを頂きたいと思います」
「こちらも出来る事ならなんなりと、既に鴉天狗警察の方々をこちらに出撃されたみたいです」
鴉天狗警察とはかの源義経が率いる地獄で罪を犯した鬼や妖怪、逃げ出した亡者を取り締まる精鋭部隊だ。
彼等が動くともなればあの桂小太郎もそう安々と逃げおおせる事は出来ないであろう、多分……
「ですがアレは悪霊ではありますが現世では多くの方達に供養され続けていますので、その点を踏まえて私は是非とも祟り神として仕事を行って欲しいと思ってます」
「ふむ、しかし確かに供養は大事ですが桂は今に至るまで多くの者達を呪い殺した存在ですよ? そんな者をそう簡単に許すというのは地獄の裁判官としてどうかと思うのですが」
「許すのではなく鳳仙様の様に仕事を行い過去の清算をさせるという名目です」
鬼灯としては桂小太郎は祟り神として扱って彼でしか出来ない仕事をやらせたい
しかし映姫は、桂小太郎をただの悪霊として地獄に封印し、二度と転生出来ぬ様未来永劫閉じ込めておくべきだと考えているみたいだ。
現世の地獄と幻想郷の地獄だと、些細な部分がズレているのでこういった事で議論が展開されるのはよくある事である。
「まあ最終的にどうするかについては、まず桂小太郎を捕まえてから決める事にしましょう」
「私はこの場でハッキリと決めておくべきだと思いますが? どちらの地獄が彼の担当にするかについても是非とも語り合いたいです、当然こちらが担当する予定ですが鬼灯殿に正式な承認を貰いたい所なので」
「そうしたいのは山々ですが私は私でこれから幻想郷に出向いて視察を行いたいので、それからならたっぷり付き合いますよ、まあ現世の地獄はあなた方にあの悪霊を任せる気は毛頭ないですが」
徐々に話し合いの中で真顔のまま火花を散らし始める映姫と鬼灯
どうやらどちらの地獄が桂を担当するか、桂にどの様な処遇を与えるかについて互いに譲る気は無いらしく、真っ向から挑む姿勢が見て取れる。
そんな二人を交互に見ながら、シロは顔から汗を掻きながら戦慄する。
「す、凄い……鬼灯様に正面から言葉で真っ向勝負仕掛けようとする気満々じゃんこの人……」
「彼女は私でも油断できない程討論するのが得意なんです、むしろそれが彼女の趣味ともなっています」
「討論が趣味!?」
「鳳仙様が力で亡者を屈服させるのであれば、彼女は言葉で亡者を屈服させる、肉体的に責めるか精神的に責めるか、その対を為すお二人だからこそ裁判官として成り立っているんです」
「どっちの閻魔様も恐ろしいな……やっぱりどこの地獄でも厳しいんだ」
「ええ、ただし彼女は……」
鬼灯とまともに討論を始める気満々の映姫にシロが驚くが、当の鬼灯はそんな彼女を眺めながら
「どういう訳か、信じられないぐらい男を見る目がない」
「ええ! あんな真面目そうなのに!?」
「聞き捨てなりませんよ鬼灯殿、私が異性を捉える目が節穴だと?」
「事実を言ったまでです、貴女の旦那であるあの”化け狸”を見れば誰であろうと即座に私と同じ結論を導きますよ」
「化け狸!? この人の夫って狸なの!?」
映姫を指差しながら率直に言いたい事を言ってのける鬼灯には彼女もカチンときた様子だが、鬼灯の話は終わらない。
「名は坂本辰馬といい元々は四国で名の知れた大妖怪だったんですが、バカという言葉をそのまま具現化させたような見た目の男でしょっちゅう周りを巻き込む程の迷惑を行う常習犯です」
「奥さんの前でそこまで言わなくてあげなくても……」
「仕事となるとこれ以上ない働きっぷりを披露するんですがね、それでも加減を知らないせいでとんでもない事になるのも日常茶飯事、だからなのか私の友人の鳥頭さんと同じ匂いがするんですよ」
「それなら鬼灯様とも上手くやっていけそうだけどなー、その狸の旦那さん」
こき下ろしつつも一応フォローを入れておきながら映姫の夫である坂本辰馬の説明をする鬼灯
シロは彼の話を聞きながら、詳細に語る所からしてその男と結構接点が多いんだなと呑気に考えていた。
「俺なんだかその狸に会ってみたくなっちゃった、今どこにいるの?」
「私を放置して遊びに出向いた罰として、今は血の池地獄に落とされています」
「軽い気持ちで聞いたらとんでもない所に落とされてた!」
「彼女は夫にほっとかれると拗ねて度々刑に処するんです、前に来た時はあの男を釜茹でにほおり投げてました」
「あの時は一緒に帰る約束だったのに一人で勝手に帰った罰です」
「えー……そんな理由で地獄に落とされるのヤダなー俺……」
見た感じはかなり有能で凄く真面目そうな印象が強い映姫だが
鬼灯の話を聞く限りやはり地獄の住人、色々とやはり変わっている人物、ぶっちゃけていえばかなりの変人なのだという事をシロはよく理解した。
「それでも仕事の方はさっき鬼灯様が言ってた通り凄く出来る人なんだよね?」
「はい、そこはハッキリと断言できます。この二人は片方だけでもウチのアホ大王よりも有能ですししっかりしてますから」
「なら鬼灯様もこっちの閻魔様に就いてれば休みとかもっと貰えたかもしれないね」
現世では休日出勤も当たり前なほどオーバーワーク気味の鬼灯。
彼も休みが欲しいだろうと思っていたシロであったが、鬼灯は相も変わらず仏頂面のまま手を軽く横に振って
「私は今の閻魔大王で結構です、確かにお二人は非常に優秀ですが、その分我も強い所があるので操れないんですよ」
「え、操る?」
サラリと恐ろし気な事を言いながら鬼灯は自分で納得したかのように腕を組みながら縦に頷く。
「やはり地獄一頑丈でヘコまない大王をぶっ叩きながら地獄の黒幕を演じるという役割が私の性に合ってます」
「わしも閻魔として長い事過ごしたが……やはりこ奴ほど部下にしたくないと思った者はおらぬわ……」
「やはり器の大きい現世の閻魔大王様でないと、この男の相手は務まりません」
「鬼灯様にとっては今の閻魔様がベストパートナーなんだねー」
彼の名は鬼灯
現世の地獄で閻魔大法の補佐官として日々仕事に励む事を生業とする鬼神だが
今日も今日とて、幻想郷の地獄に出向いてもなおその変人っぷりを周りに隠すつもりなく曝け出すのであった。
次回は小コラボ話・後編
鬼灯様ととシロが幻想郷に出向く
偶然出くわした銀髪天然パーマの男
二作品の主人公が幻想郷にて激突!?
キーワードは以上です
それでは