霊夢に、そして銀時にも
ここは人間の集う人里
昼頃に来れば多くの人で賑わいあちらこちらで店が開いている。
そして時には人ならざる者もこの地に足を踏み入れてゆっくりと羽を伸ばしのんびりと時間を過ごす姿を見せる事もあるのだ。
「はぁ~今日の取材終わり~……やっぱり一仕事終えた後に来るこの甘味屋の団子とお茶は格別よね~」
そんなジジ臭い事を言いながらとある団小屋の腰掛に座ってお茶をすするのは射命丸文。
現在出ている新聞の中で売れてない新聞1位に輝く悲しき新聞記者である。
「しかし近頃はたての奴は景気が良いのに私は相変わらずのドベ……どこかに面白いニュースになりそうなネタないかしら……あ」
「ゲ、パパラッチガラスじゃねぇか……めんどくせぇ奴に会っちまったな」
串団子を一口食べながらなんとか新聞記者としてひと花咲かせたいと思ってた矢先、そんな彼女の下へ団子目当てにやって来た男が現れる。
文と会って早々早速思いきり嫌な顔を浮かべる八雲銀時がタイミング良くやって来たではないか。
「ちょっと席詰めろ、おい親父、団子とお茶くれ」
真ん中に座っていた文を追い払い、ドカッと彼女の隣に座ると同時に銀時は早速店の店主に注文する。
「いつも通りみたらしとあんこトッピングで」
「あいよ!」
「相変わらずみたらしとあんこのダブル乗せと甘ったるいモン頼みますね、糖尿病になりますよ? 一度医者に診てもらった方がいいのでは」
「医者の所には定期的に通ってるよ、このままだとマジでヤバいから控えろってさ」
「ならなんで団子にダブルトッピングぶちかましてるんですか? 完全に医者の忠告無視してるじゃないですか」
「週一なら食っていいって言われてんの、おい親父、おかわり」
「あいよ!」
「食べるの早ッ!」
いくら週一だけ食べて良いとはいえその一日の中で大量に甘い物を摂取してしまっては意味が無いのではなかろうかと心配する文をよそに、銀時は黙々と出されたきた新たな団子を一口食べる。
「そういやお前の所は景気どうよ? 儲かってんの?」
「全然ダメです、このままだと廃刊コースまっしぐらです、だから買って下さい、1ヵ月契約でもいいんで」
「無理、たまに買ってやってもいいけど毎日読もうとは思わねぇし」
「今なら私の体が付いてきます」
「洗剤よりいらねぇや」
顔を合わせればすぐに新聞を購読してくれとしつこくせがんでくる文を銀時は軽くスル―。
最近ではもう曖昧な返事で適当に流すのも慣れて来た。
「はぁ~どこかに良い記事にでもなりそうな特ダネとかあればいいんですがねぇ……あなたも結構遊んでそうですし愛人の一人や二人いませんか?」
「んなもんいねぇよ」
「私とかどうですか? 年も近いですし話も合いますよきっと、だから体の相性も合うと思うんです」
「思うんですじゃねぇよ、どういう繋がりでそうなるんだよ。いいからあっち行け、団子食いに来てんだよ俺は」
飛び切りの笑顔で自分を愛人にしないかと紹介してくる文に死んだ目を向けならが拒否する銀時。
銀時にとって文は新聞関係の話が無ければ結構きさくで話しやすい相手ではあるのだが……やはり売れ行きがヤバい為かここ最近はずっとこの調子なのである。
「俺が紹介した閻魔様はどうしたんだよ、長期購読してくれたんだろ?」
「してくれてますよ、今でも……私の書く記事一つ一つにダメ出しを言うので精神的にキツイですが、あの方のおかげでなんとか首の皮一枚繋がってる状況なんですよ私……」
「まああの閻魔は小言は多いしネチネチとしつけぇけど、仕事と自分の発言にだけは嘘を付かねぇ奴だからな、長く付き合えばそれなりにお前のダメ新聞も面白くなるんじゃねぇの?」
「そういえば八雲の旦那様は彼女とは結構なお知り合いの様で」
「ちょっと前に地獄観光がてらに会って来たぞ、相変わらずクソ真面目な感じだったわ」
そう言いながらやってきたおかわりをサッサと食べきり、またおかわりを注文する銀時。
「地獄で働く偉い奴ってのはどこも堅物過ぎていけねぇよ。この前も現世の地獄の補佐官が視察に来てて大変だったぜ」
「え、現世の地獄の補佐官!? そんな凄い人が幻想郷に来てたんですか!?」
「桃太郎のお供だとかいうデブの犬連れていつもの仏頂面でやって来たぞ」
滅多に来ないと言われるあの地獄の補佐官が視察に来ていたなんて全く知らなかった。
銀時の話を聞いて文は頭を抱えながら時遅しと後悔する。
「あー! どうしてその時に私を呼ばなかったんですか! ファッキン!」
「呼んだら呼んだらでオメェがアイツの金棒の餌食になるだけだろうが」
「相手が女でも殴るんですかその補佐官!?」
「お前そんな事も知らないの? アイツは冥界のお姫様だろうが首根っこ掴んでそのまま頭を地面に擦り付けさせる生粋のドSだぞ?」
「その時の彼女のお姿を是非写真に収めたかった……」
ガックリと肩を落としながら文はどさくさに銀時のお団子をほおばりながら、ふと顔を上げて天を仰ぎ見る。
「でもなんなんでしょうねホント……ここ最近ちょっと平和過ぎじゃありませんか? 博麗の巫女が出る様な異変が起きる気配もなし、あるとすれば外から悪霊やら地獄の補佐官がやってくる程度……」
「良いじゃねぇか平和で、俺は俺で色々と大変な目に遭ったけど」
ついちょっと前に元カノと現嫁が戦争をおっ始めようとしていた事を思い出していた銀時をよそに文ははぁ~と深いため息を突く。
「もっと幻想郷を脅かすビックリ事件とか起きてくれないモンですかねぇ……それを独占スクープ出来れば私の評価も天狗の中でうなぎ上りなのに……」
「なんでそこで俺を見つめるんだテメェ」
「旦那様ちょっと奥様にクーデター起こして幻想郷を支配してみませんか?」
「それをやっているのはヅラだ、そして俺は勝ちの無い戦はしねぇ」
サラッと銀時にあの八雲紫に反旗を翻せと催促してくる文にボソリとツッコミつつ、銀時は一気に注文した大量の団子が乗った皿を自分の膝の上に置く。
「大体事件や異変なんてない方が良いんだよ、めんどくせぇだろそんなの。ただこうしてまっ昼間からのんびり団子食ってる今の生活が幻想郷におけるベストライフなんだよ」
「いやそれ出来るの仕事もせずにブラブラしてるあなただけなんですけど……ていうかさっきから団子食べ過ぎですよ! なんなんですかその量!」
「だから言っただろ、週一なら甘いモン食って良いって医者に言われてんだよ俺」
「いくら週一でもその量を食べてると医者に知られたらグーパンで殴られますって!」
指に串を挟んで器用に団子を一気にほおばって胃の中に収めていく銀時に怪訝な表情で文が叫んでいると
「うぐ!」
「え、どうしたんですか?」
「うぐ! うぐぐぐぐぐ!」
お皿に乗った団子をあらかた口の中に入れていた途中で突然銀時が口を手で押さえて苦しみ始めた。
みるみる顔が青くなっていく彼の様子を見て、文はジト目で察する。
「……もしかして一気に食べ過ぎて喉に団子詰まらせたとか?」
「ごは! ごは! し、死ぬ……!」
「いやあなた不死身ですから、死なないですから」
不死身とはいえ苦しいモンは苦しい、予想通り喉に団子を詰まらせた銀時はもがきながら文に手を伸ばして助けを求めて来た。 恐らく早くお茶でも持って来い!と言いたいのだろう。
しかし
生憎、射命丸文とは弱っている相手に慈悲の手を差し伸べる様な、そんな甘い女ではなかった。
団子を詰まらせて彼が弱っているのを好機と捉えると彼女は目を怪しく光らせ
「仕方ありませんねぇ~……長年の付き合いのよしみで助けてあげましょうか」
「ふぐ!?」
突如銀時の方へ文はニタニタと笑いながら顔を近づけ、右手には常に持ち歩いている射影機が既に握られていた。
「知ってますか? 団子やお餅がのどに詰まった方をすぐに助ける方法を、”吸い上げる”んですよ……」
「んんんんんんんんんんんん!!!!」
「スクープが無ければ自分で作ればいい……という事でいただきまーす」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」
自らと銀時がよく映る様に射影機を構えながら、文は銀時に覆い被さる様に襲い掛かる。
まっ昼間の団子屋にて、店主のおっさんや通りすがりの人が唖然とする中で
何度も射影機のシャッター音が鳴り響くのであった。
「平和だなぁ」
「そうね、私もアンタが来るまでは平和だったわ」
銀時と文が大変な事になってるそんな頃、場所は変わっていつもの博麗神社。
博麗の巫女・博麗霊夢が日課の掃除を終えて賽銭箱の中身をチェックしてる隣で
定期的に遊びにやって来る彼女の友人(?)である霧雨魔理沙が退屈そうに空を見上げていた。
「なんか異変でも起こらねぇもんかねぇ、空から宇宙人が降りてくるとか隕石が落ちてくるとか」
「そんな事が起きたら幻想郷だけじゃなくて地球そのものの異変よ、天変地異よ」
先程の文と同様この平和過ぎる幻想郷にそろそろ刺激が欲しいと思う様になった魔理沙を嗜めながら
いつもの様に賽銭箱が空だった事に舌打ちしながら霊夢がけだるそうな顔を上げる。
「でも確かにここ最近はなにも目立った事件は起きないわね、基本的に騒動ばっか起こす輩が多いこの幻想郷がこんなにも平和だと逆に不気味だわ。むしろこれこそ異変かもしれないわね」
「ここん所ずっと弾幕ごっこすらやってないからな~……誰か一騒動起こしてくれないかねぇ」
「騒動が起きてもそれを収めるのは私の役目よ、アンタが出る幕じゃないわ」
「おいおい霊夢さんよ、まさか楽しみを自分一人で味わうつもりかい?」
「楽しみじゃなくてそれが私の仕事だからよ、関係ないアンタは大人しくキノコ食って泡吹いて倒れてればいいのよ」
さり気に酷い事を言いながらやたらと騒動に自ら首を突っ込みたがろうとする魔理沙に手で追い払う仕草をしていると……
「ん?」
ふと前方からこの神社に向かって歩いて来る足音が
ゆっくりと近寄ってくる気配に気付いた霊夢が振り返ると
底には一人の男が立っていた。
蝶の刺繍が施された紫色の着物
左眼を覆う様に巻かれた包帯。
右手に持つのは一本のキセル。
そして腰にあるのは一差しの刀
初めて見たその異様な男の姿に、霊夢はジッと目を細めながら口を開く。
「誰よアンタ、見るからに参拝客じゃないみたいだけど、用がないならそこから回れ右して出て行きなさい」
「お、中々面白味のありそうな奴が来たな、なんだかえらくギラギラした雰囲気があるぜ」
「バカ言ってんじゃないわよ、変な連中の相手はもう沢山だっての、ちょっとアンタ……」
魔理沙は現れた男に少しワクワクしている様子だが、霊夢はジロリと横目でにらんで注意した後。自ら男の方へと歩み寄っていく。何が会ってもすぐに反応できるように警戒した足つきで
だが
「!?」
「……」
男がこちらにゆっくりと顔を上げて見せると突然霊夢の表情が凍り付く。
博麗の巫女であるがゆえに何か異様な気配を敏感に感じ取ったのだ。
男の右目は異様に鋭く、獲物を求める獣の如くギラつかせ。そして徐々に口元を歪ませて霊夢を見て笑みを浮かばせる
(ヤバい……コイツは絶対にヤバい……!)
目を合わせた時点で急に額から冷や汗が流れだした事も気にせずに霊夢は金縛りにあったかのようにその場を動けずにいた。
そして同時に悟った。
この平和だった幻想郷に
とてつもない混沌を巻き起こす異物が紛れ込んでしまった事を
幻想郷をぶっ壊しに満を喫して遂にあの男が登場。
次々と仲間を殺され消えていくのを前にして、遂に銀時の怒りが頂点に
神々によって封印されていた腰の木刀を遂に抜く時が来たのだ
次回・『死神降臨編』お楽しみに