最後に倒れたのは……
突如自分を助けに来た銀時達に対して牙を剥くのは博麗霊夢。
いきり立った状態で背後の高杉を護るかのように立ち塞がる彼女を前にして銀時も流石に困惑の色を浮かべていた。
「テメェ! 高杉を護る様な真似をして一体どういうつもりだ!」
「お黙りなさい、高杉さんはね、私を救ってくれたのよ」
「救った?」
「この人はね……」
銀時に対してしかめっ面でフンと鼻を鳴らした後、霊夢は背後に突っ立ている高杉をビシッと指差して
「空腹で死にかけていた私に対してヤクルコを与えてくれたのよ!」
「いやそんな理由ぅぅぅぅぅぅ!?」
ヤクルコというのはいわば大人も子供も飲める小さな容器に入った飲み物だ。
どうやら霊夢はそれを高杉に貰った事で彼に強い恩義を感じたらしい。
「いきなりやって来た時は見た目がアレだし100%不審者だと思ったけど! 屋敷でアンタが来るのを待たせて欲しいって言ってその代わりに私にヤクルコを1本くれたの! こんな高級な飲み物をタダで譲って下さるなんて……! まさにこの方こそ本当の神様よ!」
「いや確かにそいつは神様だけどもね! 知らない人から物受け取っちゃダメって散々言っただろ! つーかヤクルコっていつ高級な飲み物になったんだ! あんなの子供の小遣いで普通に買えるだろ!」
「その子供の小遣いレベルの金額さえ渡してくれない奴はどこのどいつよ!」
幻想郷の異変を阻止するという重要な役割を持つ霊夢に対して銀時や紫は彼女に対してロクな支給品を与えなかった。
実を言うと昔は度々普通の食料を持って行ってあげていたのだが、霊夢が意外にも人間離れした生命力を持っていたことが分かったので、ここ最近は「もうほったからしにしても生きていけるだろ」という安易な判断の結果。
ここ最近彼女に渡す仕送りは虫系と穀物系ばかりになってしまっている
「コオロギしか食べさせてくれないアンタなんかより高杉さんについた方が100倍マシだわ!」
「別にいいだろお前だったらコオロギで普通に生きていけんだから! ヤクルコ貰ったぐらいで裏切りやがって! つうか高杉! お前もお前だよ!」
「あ?」
霊夢と口論の最中で銀時は他人面してそっぽを向いている高杉の方へ指を突き出したまま叫ぶ。
「ウチの娘に勝手にヤクルコなんてあげてんじゃねぇよ! もしかして霊夢を謀る為にあげたのか!?」
「は、んな訳ねーだろ、俺はただテメェが来るのを待つ為に屋敷を使わせろと言っただけだ、ヤクルコあげたのは手ぶらで家に入るのもどうかと思っだけで他意はねぇよ」
「意外に常識人だったよ高杉君! 人様の家に上がり込んでつまらないモノですが的な感じでヤクルコ献上したの!? なんだろ! なんか負けた気がする!」
高杉本人は別に悪意があった訳ではなく、ただの粗品として彼女にヤクルコをあげただけだったらしい。
意外と人に対する礼儀はしっかりしているらしく、見た目からは到底思えない意外な心遣いをしていた高杉に
基本的に他人の家に入ってもモノなんて絶対にあげない銀時は少々敗北感を味わった。
しかしそんな状況も束の間、先程からずっと黙り込んでいた比那名居天子が
一人ワナワナと体を震わして絶句の表情を浮かべているではないか。
「私……高杉からそんなの貰った事無い……!」
「そりゃあお前さん、殺そうとしてる相手にモノ与える奴なんていないだろうさ」
霊夢が彼にヤクルコを貰っていたことがショックだったらしく動揺して声を震わせている天子に、魔理沙がへらへら笑いながら歩み寄る。
「どうせ霊夢がずっとひもじい顔してたから哀れみであげたんだろ? 捨て犬に餌あげたみたいなモンだろうし気にすんなって」
「下民の分際で私にわかった様な口を叩くんじゃないわよ! 高杉! これは完全なる私への裏切り行為よ!」
「……オメーはオメーで天界でもこっちでも相変わらず騒がしい野郎だな」
魔理沙もフォローも聞かずに天子は怒った口振りで高杉に食って掛かると
それに反応してめんどくさそうに高杉は彼女に対して目を細める。
「いい加減そのツラ見るのも飽きてんだ、そのキャンキャン喚く鳴き声にもな、さっさと俺に殺されてくんねーか? 俺はまだ残る不死者を殺す仕事が残ってんだ」
「はん! 誰がアンタなんかに殺されえるもんですか! アンタと私はこれからもずっと未来永劫殺し合う運命なのよ!」
「そう思ってるのはテメェだけだ、俺はさっさともう一人の不死者を殺したくて仕方ねぇ……」
胸を張って自信満々に答える天子だが、高杉の目はもはや彼女等見ておらず、隣にいる銀時のみを見据えている。
「そうだろ銀時、テメェもお天道様から見れば立派な大罪人よ、今の今までずっとこの世に寄生しやがって」
「そう言うなよ、ちょいと住み心地良いんで長居させてもらってるだけだ。何なら今から俺の引っ越し作業を手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「なるほどねぇ、俺は今の仕事をキッチリ終わらせてから次の仕事に取り掛かる主義なんだが……」
座っていた石壁からスタッと降りて立った後、高杉は腰に差した刀を鞘ごと引っこ抜く。
「テメェを殺れるなら話は別だ」
「高杉、お前とは昔からずっと一緒に戦ってた間柄だったけど、こんな時だから言わせてくれ」
「ああいいぜ、多分俺も同じことを言おうとしていた、あの日あの時から俺は……」
銀時もまた腰に差す木刀に手を置き、互いにニヤリと笑いながら視線を合わせると
「「いつかテメェをこの手で斬ってやろうと思ってたんだよ!!」」
互いに得物を振りかざし真っ向から挑もうとする高杉と銀時
深い因縁を持つ二人が遂にこの場で雌雄を決する……
かと思われたのだが
「私の神社で暴れるなぁ!」
「ごっふッ!」
「私を無視するなぁ!」
「!」
ぶつかり合う直前でまさかの霊夢が銀時の頭頂部に、天子が高杉の後頭部に蹴りを入れて邪魔に入って来てしまった。
せっかくここでぶった斬ってやろうと思ってたのにと、銀時と高杉は一旦離れて自分を蹴って来た彼女達を睨み付ける。
「あのー霊夢ちゃん? こういう男同士が得物を取り合って戦うシーンの時に横から出てくるのは展開的にあまりよろしくないんだけど?」
「ここでやるなって言ってんのよ! 不死者と神様が暴れたりなんかしたらウチの神社が間違いなく跡形もなく破壊されるのが目に見えてるのよ!」
「高杉ィィィィィィィィィ!! 一体どうしたのよアンタ! アンタが見てるのはずっとこの私唯一人でしょ! あんな天パの白髪頭のどこが良いの!? 私とあの天パどっちが大切なのよ!」
「……どっちも殺そうとしか思ってねぇよ」
だが霊夢に叱られ、天子に訳の分からない事を言われ、すっかり銀時と高杉は徐々にやる気が削がれてしまった。
「アホらし、興が冷めたぜ、高杉、テメェと決着つけるのはまた今度だ」
「お互い妙な奴に目ぇ付けられちまったな、邪魔者が入っちゃオメェとの戦いも面白くねぇ」
髪を掻きむしりながらハァ~とため息を突いていつもの感じに戻る銀時にそう呟くと
高杉は天子の方へとと視線を動かす。
「俺に相手してもらいてぇならさっさと天界に戻れ、そこで思う存分お前を殺してやるからよ」
「へぇ~そう言われちゃ仕方ないわね~、やっぱりアンタ私のこと好きなんでしょ? そうなんでしょ?」
「……」
何をどう思えばそういう発想になるのだろうか、高杉は彼女とは嫌々ながらも長い付き合いだがこういう所は本当に昔からよくわからない。
しばし黙って彼女を見下ろした後、高杉はスッと踵を返して神社の出口へと向かおうとするが
「待ちなさい高杉! 天界に戻るのは構わないけどその前にこの私に何かしなければいけない事があるでしょ!」
「……なんだ?」
後ろから呼び止めて来たので今度は何だと高杉が振り返ると、天子は手の平を彼の方にかざしながら
「ヤクルコよ! 私にヤクルコをプレゼントしなさい!」
「……あぁ?」
「会ったばかりのあの巫女には簡単にあげておいて! ずっとずっと一緒にいた私にくれないなんて不公平だわ!」
高杉に恵んでもらった霊夢に対して対抗意識を燃やしたのか、今度は自分にヤクルコを寄越せと要求してくる天子に、流石に高杉の表情にも呆れてるのが見て取れた。
「なんで俺がオメェにヤクルコ奢んなきゃならねぇんだ」
「ヤクルコくれないと天界には戻りませーん! あ、R-1でもいいわよ!」
「ふざけんな、R-1の方が明らか高くつくじゃねぇか」
「いいから寄越せつってんだろうがゴラァァァァァ!!」
ヤクルコよりも高い飲み物まで要求して来た天子、そしていきなりブチ切れた様子で高杉に食って掛かる。
「もしかしてアンタ、好きな相手にプレゼント送る事がそんなに恥ずかしいの!? きっとそうでしょ! 自分の気持ちに素直になれないなんてホントにアンタは子供よね!」
「……」
今すぐにでもコイツを殺したい、高杉の形相と目は明らかにそう訴えていた。
しかし天子はそう簡単に殺せる相手ではないのはもう嫌というほどわかっている。
いざとなれば自分の左眼さえ奪い取る程恐ろしい力を持ってるのだから
だからここで無闇に刀を抜いて斬りかかる様な真似はせず、チッと舌打ちするのみ
「いいだろ、テメェのその下らねぇ妄想癖に付き合うのもめんどうだ、ヤクルコ奢ってやるから天界に帰れ」
「そうよ高杉やればできるじゃない、アンタはそうやって自分自身に素直になればいいの、それが男女の仲を進展するキッカケになるんだから……って何一人で勝手に行こうとしてんのよ!」
仕方ないと言った感じで承諾する高杉に満足げに頷きながら持論を説く天子だが、その最中に高杉は一人勝手に出口の方へと行ってしまう。
「待ちなさいよね! 私を置いて何処に行くつもり!」
「何処ってモノ売ってる人里に決まってんだろ、オメェがヤクルコくれって言ったんじゃねぇか」
「だったらそう言いなさいよ! 全くこの恥ずかしがりピュアボーイはいつもいつも……行くんなら私も連れて行きなさいよ!」
「……くだらねぇ」
苛立ちを募らせながら吐き捨てる様にそう呟く高杉の隣に目を輝かせながらドヤ顔で駆け寄る天子。
そうして二人は全く合わない歩幅のまま石造りの階段を降りて人里へと行ってしまった。
そして去っていく彼等に向かって、霊夢は大きく腕を振りながら見送る。
「さようなら高杉さーん! 今度は10本入りのヤクルコ持って来てー!」
どさくさにもっと寄越せとおねだりしながら別れの言葉を霊夢が送ってる中、取り残された銀時はやれやれと首を横に振る。
「ったくとんだハタ迷惑だぜ、いきなり高杉が来たって聞いたからてっきり幻想郷をぶっ壊しに来たと思ったのによ」
「でも悪人面の割にはあんまり悪い奴じゃなさそうだったぜ、霊夢にヤクルコあげたしよ」
「悪党だろうが善人だろうが俺は野郎は気に食わねぇけどな、とにかくこれで一件落着、幻想郷は依然平和のままですって事だ、はぁ~終わった終わった」
高杉の事をてっきり幻想郷に騒動を巻き起こそうとする悪党だと誤解していた魔理沙だったが、霊夢に施しをあげる程度の良識を持ち合わせていたと知って考えを改めるも、銀時にとっては彼がどっちであろうといずれはぶった斬る事に変わりない
「俺も人里に戻るとするか、アイツと鉢合わせしねぇ様にしねぇと。おい霊夢、久しぶりに一緒に飯でも食いに行くか?」
「え!? アンタがご飯連れてってくるってどうゆう事? なんか企んでるじゃないでしょうね!?」
「企んでねぇよ、ヤクルコ1本であっさり裏切るお前を今後の為に手懐ける為だ」
いきなり飯に誘われて警戒する素振りを見せる霊夢にけだるく答える銀時だが、魔理沙はジト目でボソリと
「それは企み以外の何モンでもないだろ……ていうか私も連れてってくれよ八雲の旦那」
「テメェはその辺に生えてるキノコでも食ってろ」
「自分に素直になれよ八雲の旦那」
「あの天人の真似すんのは止めろ、そもそも俺はずっと昔からテメーに素直に生きてんだよ」
ニヤニヤ笑いしながら天子みたいなことを言う魔理沙に銀時がしかめっ面で返事すると
思いきり背伸びをしながらふぅ~とため息突き、彼女達と人里へと向かおうとする。
だがそこへ
「フッフッフ……見つけましたよ旦那様……」
突如茂みからガサッと物音がしたかと思えば、そこから一人の少女が銀時達の前に躍り出る。
「先程は手痛い目に遭いましたがついさっき完全復活した射命丸文ここに見参!」
「あ、パパラッチガラスだ」
ここへ来る前に川に流しておいた筈の射命丸文であった。
銀時は彼女を見て無表情で固まっていると、魔理沙は指差して彼女の存在に気付く。
「相変わらずいきなり出てくる野郎だな」
「てかどうしたのアンタ? ずぶ濡れじゃない」
「この鬼畜天然パーマに川に突き落とされたんですよチクショー!」
「いや突き落としたのは俺じゃねぇし」
よく見たら全身からポタポタと水を滴り落とし、髪の毛も服もすっかりビショビショである。
霊夢がその事に指摘すると彼女はすぐに銀時を指差して犯人は奴だと主張するが
実際の所彼女を川に突き飛ばしたのは天子である。
「おい腐れガラス、さっさと俺の前から消えねぇと今度こそ川の底に沈めるぞ」
「フッフッフ、いいんですか私にそんな真似をして……! 私にはあなたを脅すとっておきのネタがあるんですよ!」
「は?」
彼女に対してはちょっと前の出来事のせいでかなり頭に来ている銀時だが
そんな彼に対し挑発的な物言いをしながら、文はドヤ顔で一枚の写真を取り出す。
「これはあなたと私が一線を越えてしまった瞬間を捉えた大スクープ写真です、私に指一本でも触れたらこれをうっかり霊夢さん達に見せてしまいますよ?」
「え、アンタってアイツともなんかやらかしたの? アリスといいあの元カノといい、いい加減にしないと紫怒るわよ?」
「おいおい八雲の旦那、アンタ見かけによらずモテるんだな」
「……」
霊夢から非難の目、魔理沙から意外そうな表情を浮かべられながらも銀時はずっと無表情のまま
それに対してヒラヒラと手に持った写真を振りかざしながら得意げに語る文
そして
「まあでも安心して下さい、私からの条件を飲めばあなたが私と過ちを犯した件については黙っておきましょう(写真は今後の為に残しておくけど)とりあえず私の新聞を旦那様がざっと百年ほど購読して下されば……」
写真をネタに上手く脅し取ろうとしていたその時
突如文の口元をガッと強く抑えつけられる手が伸びた
彼女が気付かない内にいつの間にか銀時が彼女の目と鼻の先に能力を使って移動していたのだ。
「おい知ってるか? 俺はどんなに相手が素早かろうが遠くへ逃げようが、認識さえすればあっという間にその距離を縮める事が出来んだよ」
「んんー!?」
「お前は確かに幻想郷じゃトップクラスの速さだ、だが例えお前が地の果てに逃げようが俺は一瞬で追いつくことが出来る、つー事でこの意味わかる?」
「ん! んんんんんんんんん!!!」
顔をメキメキと強く握られていく感触と痛みを覚えながら涙目になる文に対し
銀時の目が鋭く光った
「俺を脅すという事はそれは俺に死刑宣告されるって事なんだよ……!」
「んんんんんんんんんんんんんんんんー!!!!」
「川の底に沈めるのは止めだ、やっぱお前には俺直々に制裁を加えてやらないとダメみてぇだな」
「んー!んー!」
「ごめんなさい私が悪かったです!」と言いたいのだろうが、口元を抑えられているので上手く喋れず、文はただ涙を流すばかり
そんな無体な彼女相手に銀時は怪しく目を光らせ
「そんなに欲しけりゃくれてやるよ、その身体にたっぷり銀さんのキスマーク刻んでやらぁ……」
「んごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
銀時だって普段はここまで怒らない、だが強引に唇を奪われた事が彼を怒りの頂点に導いてしまったのだ。
今までずっと鳴りを潜めていた銀時の怒りが遂に爆発した瞬間であった。
その後、長い間文の悲鳴が絶える事無く博麗神社で続いた。
「いや~やっぱり最近平和だよな幻想郷、なんか異変でも起きねぇかな~」
「それよりも早く食事連れてって欲しいわ」
近くで行われている惨劇にも全く目もくれずに
魔理沙と霊夢は退屈そうにため息を突くのであった
今日も幻想郷は平和です
次回予告と全然内容が違った? まあそんな日もありますよ(すっとぼけ
という事で次回はまた”彼女”の話
大切な友を助ける為に、手を差し伸べた先にいたのは……