幻想郷の人里には子供達が勉学を教えてもらう寺子屋がある。
「よーし今早速授業始めるぞー、今日もちゃんと私の話を聞く様に」
教壇に立って子供達を見渡しながら早く授業を行いたいと内心ウズウズしている女性
実は彼女は授業を行って子供達の為に教師を務めているものの
まさかの人間ではなく半分人間半分妖怪の血を持つ半妖であったりする。
上白沢慧音
半分妖怪の身でありながらも人間を愛しており、常に人間側に立って行動している。
しかし授業は難解で退屈なことに定評のある授業らしく、また宿題を忘れたりするとお仕置きとして頭突き、もしくはゲンコツが待っている。なんでも地面に埋まる程凄く痛いのだとか
満月の夜には妖怪の血が騒ぎだし、その時は幻想郷中の知識を持ち、幻想郷の歴史の編纂作業を行なっている。一夜漬けの編纂作業の為か、はたまたハクタク化によって好戦的な性格に変わった為か、不用意に近付くと角のある頭で頭突きをされる恐れがある。
「それと今回は特別に私の授業を受けたいと希望者が出たのだ、今日はまず彼等からどんな授業をして欲しいか聞いて回ろうと思う」
彼女がいつもよりややテンション高めになっているのはまさかの自分の授業を自ら受けたいと強く志願した者達が数人ほどやって来たからだった。
何でも来いと言った感じで教壇で嬉しそうに生徒達にそれを話していると、早速一人の生徒が手を高く掲げて挙手した。
「はい先生! 教えて欲しい事があります!」
「おおなんだ、なんでも私に聞いてくれ」
積極的に教えを乞う者にはより一層嬉しそうに目を輝かせる慧音。
すると挙手した一人の生徒が掛けている瓶底眼鏡をカチッと上げて
「好きな人に粘着質に付き纏って、常日頃から家の屋根裏から彼女を見守る行為は! 至って健全な愛の表現方法としてよろしいでしょうか!」
「……私は全くそうは思わないが、どうしてそんな事を聞く?」
「はい先生! 実は僕、ちょっと前にお妙さんという美しい方とお会いしたんですけど!」
さっきまで顔をほころばせていた慧音がすぐに顔をしかめて首を傾げると
周りの生徒よりも一際大きな体付きをした、というより完全に子供の中に大人が混じっている状況で
自ら彼女の指導を乞いに来た一人である近藤勲が興味津々の様子で話しを続けて来た。
「何度アプローチしても全然俺に振り向いてくれないんです! 告白しても無視され! デートだけでもと頼んでも唾を吐かれ! これなら絶対イケると確信したフラッシュモブでのプロポーズをしたら思いきりぶん殴られるわ、協力してくれた部下達から哀れみの目を向けられたんです! 先生僕は間違っているのでしょうか!」
「うん間違ってるな、明らかに己の中で勝手に飛躍し過ぎている、彼女の事を想うならまず彼女が自分の事をどう思っているのかよく考える様に」
「いやー多分結構いい線いってると思うんですよ僕達! なんでだろうなー! もしかしてツンデレのかなお妙さん! 単に俺に照れちゃってるだけなのかなー!」
「その自分勝手な思い込みこそが何よりのマイナスポイントになっているのだと何故気付かん……」
気恥ずかしそうにしながら後頭部を掻いてああだこうだと呟く近藤に、慧音がジト目を向けながら先生らしいアドバイスをしていると、今度は別の方から手が伸びた。
「先生、ゴリラの戯言なんかほおっておいて私の話を聞いて下さい」
「ゴリラじゃなくて俺はれっきとした妖怪だ! 今俺が先生に話を聞いているのに邪魔をするなぁ!」
「いやもういい、座れゴリラ。で? そちらの彼女は私に何を聞きたいのかな?」
「はい」
いきなり横やりを入れられて怒れるゴリラ、否、近藤をめんどくさそうに座らせた後、慧音は手を挙げた人物の方へとすぐに顔を向ける。
挙手した彼女もまた掛けている瓶底眼鏡を知的っぽくクイッと上げると慧音に向かって
「好きな相手がたまたま結婚して所帯を持っていても、本気で好きな気持ちがあるのならば自らの愛を貫いて良いのでしょうか」
「っておい! なんかさっきよりもドロドロし始めて来たぞ! それは完全に不倫じゃないか! 絶対にやっちゃダメだぞ!」
「いやでも、私から見るに多分旦那の方は奥さんよりも私の方が好きだと思います」
大きな瓶底眼鏡を付けていても正体が丸わかりのアリス・マーガトロイドが表情を崩さずに慧音に詰め寄る。
「一夜の過ちがあったかもしれない後も私の家に一人で何度も訪問する姿勢、アレは完全に私にその気があるからだと思うんです、隙あらば私ともう一回あんなことやこんな事をしようと僅かに期待していた筈です。なのにその時の私はそれに気付かずにただ一緒にお茶を飲みながら話をするだけで帰らせるという失態を犯してしまいました。先生、私はあの時やはり彼と確固たる既成事実を作っておけば良かったのでしょうか、いっそ子供でも作ってあの人の子を産んであげればよかったのでしょうか、そうする事があの人が一番望んでいる事なのでしょうか、それなら私はあの人の子供を何人も産む覚悟は出来ています、教えて下さい先生、彼の妻という邪魔な存在の目を掻い潜って彼と子作りする方法を」
「あぁぁぁぁぁ長い! そして重い! 重過ぎるし怖い!」
体からドス黒いオーラを放ちながらブツブツと早口かつ長々と語り出すアリスに慧音が慌てて止めに入る。
これ以上聞くとなんだか頭がおかしくなりそうだ、慧音は頭を抑えながら彼女に向かってビシッと
「惚れた相手が結婚しているなら潔く諦めろ! 男なんてこの世界どこにでもいるんだからもっと良い人を探して来い!」
「そうだそうだ! さっきから聞いてみれば完全にアンタが一方的に自分の愛を押し付けてるだけじゃないか! そんな下らん事で俺とお妙さんの話を邪魔するな!」
「ゴリラ黙れ、お前も似た様なものだから」
「他の男なんて眼中にないわよ! 私にはあの人しかいないのよぉぉぉぉぉぉl!! お願いだから奥さんと別れて私の下へ来てぇぇぇぇぇぇぇ!!!! このままだと私は! ただ弄ばれるだけの哀れな人形じゃないのぉぉぉぉぉぉ!! いやいっそ人形扱いでもいいから私を愛してぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「思いの丈をこの場でぶちまけるな! 年端も行かぬ子供達もいるのに大人の汚い部分を見せるんじゃない!!」
突然机につっ伏して全力で泣き叫ぶアリス、ここまで来るともうヤケクソである。
普通に授業を受けに来ている子供達もいるというのに、この妖怪と魔法使いはお構いなく勝手な言動を……
授業を受けたいからと志願したからここに呼んだのは失敗だったか?と慧音が一人はぁ~とため息を突いていると
「はい先生ー、私も質問よろしいかしらー?」
「へ? ああ構わないよ、と言ってもこの二人みたいな変な質問は勘弁してくれよ」
「大丈夫でーす」
さっきに比べて随分と気の抜けた話し方をする女性に慧音は髪を掻きながら疲れた様子で呟くと
近藤とアリス同様、瓶底眼鏡を掛けた桃髪の女性がゆっくりと体を傾けながら
「好きな人に己を偽りながら接するという行為は、本当に愛と呼べるのでしょうかー?」
「なんか思った以上に高難易度な話して来たな! それは本当にお前自身が聞きたい事なのか!?」
「うう……実はちょっと前にウチの従者や友人に同じような事を言われたの……」
「急に泣いた!」
瓶底眼鏡の奥から涙を光らせ始め突然泣き出す女性、西園寺幽々子に慧音はあんぐりと口を開けて驚いた。
「私自身よくわからないの……このまま向こうが自分の正体に気付かずに隣に居続ける事が本当に正しい事なのかって……でも今更正体をバラしたらずっとあの人を騙していたことがバレてしまう、それでもし嫌われでもしたらと思うと私怖くて……」
「あーう~ん……そ、そっかー大変だなー、でも自分の事をキチンと相手に伝えないと後々大変な事になるかもしれないからキチンと話しておくべきだと思うぞ、うん……」
どう答えてあげればよいのか困った様子で慧音が彼女にそれなりの助言をすると
話を聞いていた近藤とアリスも幽々子の方へ振り向き
「ダメだな、自分の素性を明かさずに相手に接するなどそれは愛とは呼べない。互いにすべてを曝け出し、本音で向き合える間柄になってからこそ本当の愛と呼べるんだ」
「貴女はまだその人の事を本気で愛してないのよきっと、本気でその人の事が好きであれば自分を偽るなんていう下らない真似する訳ないでしょ、本当の愛を証明したいのならまずは自分の殻をこじ開けなさい」
「おいおいストーカー妖怪と不倫魔法使いがアドバイスし始めたぞ……」
わかった風に幽々子に助言し始める近藤とアリスに慧音が呆れ顔を浮かべていると
彼等からキツイ事を言われて幽々子は落ち込んだように机に顔をうずめる。
「だって最初は自分の身分と隠す為と顔を合わせたら恥ずかしいからってそんな理由で偽ってただけなのよ……でも最近気づいたの、あの人の笑顔は本当の私ではなく仮初の姿をした私にしか向けられているんだと……」
「だったら素顔を曝け出してその男に会いに行けばいいじゃないか! まどろっこしい真似は止めて堂々と直接会いに行け!!」
「こんな所でウジウジ悩んでても時間が経つだけで何も解決できないわ、ヒステリックに愚痴を呟いてないでさっさと現実と向き合いなさい」
「言っておくがお前等、それお前等にも当てはまる事だからな」
落ち込む幽々子に喝を入れる近藤とアリスに対し慧音が冷ややかにツッコミを入れていると
「さっきからアンタ等なんにもわかってないじゃないの!」
と突然一番後ろの席で大人しく座っていた一人の少女がガタッと席を立つ。
「愛だの本当の自分だのなんてクソどうでもいいのよ! 大事なのはいかに相手と同じ時間を共有しているかどうかでしょ! その点私はアイツとは常日頃から殺し合いをする仲だからね! 向こうから積極的に何度もアプローチし掛けて来るから嫌になっちゃうわホント!」
「ここに来てまた新しいの湧いて来た! 誰だお前いつからそこにいた!」
「控えなさい下民、天界のアイドル天子ちゃんよ」
「いや誰だよ!」
瓶底眼鏡も掛けずに堂々と素顔で座っていた比那名居天子に驚く慧音を尻目に
彼女の登場とその発言に近藤が慌てて振り返る。
「え、ちょっと待って! 向こうから積極的にアプローチ!? それは一体どんな風にすればなれるんですか!?」
「簡単よゴリラ、こっちから押さずにただじっと高みで見物しながら待っていればいいの、そうすれば向こうの方から必死に私のいる高みへと昇って来るのよ、そして昇って来たら蹴落としてもう一度地の底に落とし、何度も何度も私を求めさせる為に教育するのよ」
「教育ですって! わ、私も同じような事をすればあの人も私無しじゃいられない体に出来るかしら!?」
「まああなた達程度がこの私の領域に達するのは到底無理でしょうけど、それなりの形ぐらいは築き上げれるんじゃないかしら?」
彼女からの返答を聞いて近藤とアリスが「おおー!」と感心した様に頷く。
自分に対してここまで自信を持っている人もそうはいない。
その確固たる自信は一体何処にあるのだと慧音が内心ツッコんでいる中で、天子は今度は幽々子の方へ歩み寄り
「アンタはね、男に対して自分を合わせようとしてるからダメなのよ、逆よ逆、男を自分に合わせるの。男なんかに気を遣わずに正々堂々いつもの自分で貫いて、その上で自分の要望通りに動いてくれる男に仕立て上げればいいのよ」
「えぇ……私としてはただ傍にいられるだけで十分幸せなんですけど……」
「傍にいられるだけで幸せ!? はん! 甘ったるい事抜かして自分を誤魔化してんじゃないわよ! 私なんか顔合わせればいつもアイツに言う事を聞きなさいって命令してるのよ! 大抵無視されるけど……ちょっとこっち来なさい!」
「あのちょっと……!」
今までロクに色恋と縁がなかった幽々子にとって、男に対しての扱い方など当然知っている訳がない。
それを感じ取って天子は我慢できない様子で彼女の後襟をつかんで無理矢理その場に立たせる。
「こうなったら私がビッシリ指導してやるわ! ついて来なさい!!」
「いや私は別に、ってあ~れ~」
「あ! すんません俺もついて行って良いですか!?」
「わ、私ももっと相手に興味を惹かせる方法を……!」
強引に嫌がる彼女を連れて教室を出て行く天子に、慌てて近藤とアリスも是非指導して欲しいと後を追いかけて行った。
自分の話も聞かずに勝手に出て行った4人組を見送った後、慧音は改まった様子で教壇の上から残った生徒を見渡し
「……はい、という事でさっきの連中みたいな大人になったら将来ロクな事にならないから気を付ける様に」
「「「「「は~い!」」」」」
「ではこれから先生は用事が出来たので悪いが自習をしてくれ、先生は今から勝手に教室を抜け出したあの連中に頭突きとゲンコツを3セットかましてくるから」
「「「「「は~い!」」」」」
子供だ性質の無邪気な返事に慧音はフッと笑った後
「待てゴラァァァァァァァ!!! 私の授業中に勝手にフケて許されると思ってんじゃねぇぞ!!」
勢いよく教室から飛び出して、去って行った彼女達に向かって全速力で追いかけるのであった。
その後、子供達のいる教室に、廊下から鈍い音が何十発も飛んで来たのは言うまでもない。