銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#57 高本銀桂時坂杉

永遠亭で夕食を食べさせてもらう事になった八雲銀時

 

泊まらされた上に飯まで用意してくれるとはと、銀時は上機嫌だったが

 

「うっぷ、もう食えねぇ……」

「い……いくらなんでも作り過ぎよ……腹爆発しそう……」

 

居間に迎えられて食卓に並ぶ大量の料理をしっかり食べ尽くした銀時であったが

 

一緒に夕食を取った蓬莱山輝夜と共に、お腹パンパンの様子で苦しそうに呻き声を上げていた。

 

「いくらなんでも多過ぎだろ……食卓に溢れる程のフルコースとか俺達だけじゃ食い切れる訳ねぇだろうが……」

「とか言ってるクセにちゃんと全部食べ切ったじゃないの……」

 

数時間かけて空になった皿が散乱している食卓を眺めながら輝夜が柱に背を預けながら呟いていると

 

パン!と器用に足で襖をあけながら、今日の調理担当の八意永琳が澄ました顔で両手に大量の唐揚げが乗せられた大皿を持ってきた。

 

「おかわり持ってきたわよ」

「「はぁ!?」」

 

ここに来てまさかのお代わり追加、しかも大量の唐揚げというほとんど嫌がらせに近い暴挙に

 

銀時と輝夜は同時に目をひん剥けて大きく口を開ける。

 

「バカ野郎こちとらもう胃の中に何も収まらねぇぞ! あれだけ食わしといて今度は唐揚げとか無理に決まってんだろ!」

「遠慮しなくていいからどんどん食べなさい、男の子は唐揚げ好きなんでしょ?」

「いや好きだけどさ! 流石にあんだけ大量に食った後じゃ唐揚げも嫌いになるわ!」

「アンタね……いくらなんでも張り切り過ぎなのよ! こっちは不死者でも流石に腹爆発したら洒落にならないわよ!」

「姫様はレモンよりも塩派でしたわね、すぐに持って来ますのでお待ちを」

「しかもそれ一人用なの!? 無理よ無理! 私もう食べきれないから!」

 

まるで孫が美味しく食べるのを見たいが為に次々と料理を持ってくる祖母の如く

 

先程からずっと食卓に料理が消えれば追加を持ってくるの繰り返しをする永琳。

 

これにはいかに不死者の二人と言えど限界であった。

 

「悪いけど俺はもうギブアップだ……部屋に戻らしてもらうぜ……」

「私も、私の聖域に戻らないと……」

「あらそう、仕方ないわね」

 

パンパンになった腹を抑えながら二人して立ち上がるのを見て、永琳は少し残念そうにため息を突くと

 

「鈴仙、残った物は全てあなたが食べて良いわよ」

「すみませんお師匠……私もあの方達と一緒に食べていたので……もう限界なんですけど……」

「師匠が真心こめて作った料理を食べられないと言うの?」

 

実は銀時達と同伴して永琳が作りまくった料理をひたすら食べていた鈴仙。

 

彼女もまた苦しそうに膨らんだお腹を押さえながら呻くも、永琳は素っ気ない態度で

 

「食べなさい、唐揚げだけじゃなくて他にもまだまだ作ってあるから」

「へ!? 唐揚げだけじゃなくて他にも……!? うう……」

「あら気を失ったわ、しょうがない子ね」

 

唐揚げ以外にもまだまだ援軍が沢山やって来ると聞いて、鈴仙は頭をフラッとさせた後バタリと倒れてしまった。

 

そんな彼女を呆れたように見下ろした後、永琳は残った料理をどうしたもんかとしばらく考えた後

 

「ああ、そういえば”彼等”ももうすぐ来る時間ね、丁度良いわ彼等に任せましょう」

 

そう言って永琳は両手に持った唐揚げが乗った大皿を持って一旦台所へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

夕食をようやく終えた銀時はというと、すっかり暗くなった廊下を一人でヨロヨロと歩きながら部屋へと戻って行く所であった。

 

「全くとんでもねぇ量を食わせやがって……これなら霊夢の為にタッパーでも持参して来るんだったぜ……」

 

日頃ロクなモンが食べれない霊夢の為に、今度彼女をここに連れてくるのもアリだなと思いつつ

 

銀時はようやく自分の部屋の前に辿り着くと、安堵のため息を突き

 

「やれやれようやく寝れるぜ……さぁて明日からどうしたモンかね、朝飯まであんだけ出されたらマジで腹が爆発するぞ俺…」

 

明日の朝の事を心配しつつ銀時は部屋の襖を開けると

 

 

 

 

 

両手に酌を持ったまますっかり出来上がっている坂本辰馬と

 

ちゃぶ台を挟んでその向かいに正座して座る桂小太郎がそこにいた。

 

「おお! 待っておったぞ金時! ほれほれ! お前もはよ飲め! 飲んで嫌な事全部忘れろ!」

「ハッハッハ! 久しぶりだな銀時! お前が夫婦喧嘩して別居生活する事になったと聞いて駆けつけてやったぞ! コレでお前も俺と同じくひとり身になった事だし! お前も安心して俺と共に攘夷活動に取り組めるな!」

「……」

 

安息の地だと思われていた自分の部屋に招かれざる客が二人いるのを確認すると

 

銀時は部屋に入らずそっと襖を閉めた。

 

「あーやべぇ……酒飲んでないのに急に幻覚と幻聴がダブルで来やがった……こりゃあ部屋戻る前にちょっとあの女に診てもらう事にするか」

「アハハハハハ! 何をしとるんじゃはよこっち来い! おまんの席はちゃんと空けて置いとるぞ!」

「主役のお前がなに恥ずかしがっておるのだ! 「銀時君を慰める会」にお前がいなくてどうする!」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!! チクショウやっぱ幻覚でもなんでもねぇ! 正真正銘本物のバカ二人だ!」

 

そっと永琳の所へ戻ろうとするも、閉めた襖がバッと開いて坂本と桂に再び遭遇すると

 

遂にこれが現実なのだと痛感してしまう銀時であった。

 

「てかなんでお前等がここにいんだよ! それに「銀時君を慰める会」ってなんだ!」

「およ? わしはここの永琳っちゅう女性に、おまんの事を聞かされて遊びに来いと誘われたから来たんじゃが?」

「俺も永琳殿にお前が夫婦喧嘩して大変な事になったから友人のよしみとして励ましに来て欲しいと言われたので、友の為に駆けつけて来たまでだ」

「はぁ!? どういう事だあの女……!? 俺が知らない間に何勝手な真似してんだよ……!」

 

どうやら二人を呼んだのは永琳だったらしい、一体どうしてそんな事を勝手にしたのか銀時が疑問を持っていると

 

「あらもう来てたのね、まだ一人来てないみたいだけどゆっくり楽しんで頂戴」

「ってお前!」

 

何食わぬ顔でいつの間にか背後にいた永琳に驚く銀時だが

 

そんな彼の横を通り過ぎて、先程しまっていた唐揚げ持って来て坂本と桂のいる部屋の中へと入っていく。

 

「唐揚げ沢山あるから」

「ほほぉ、やっぱ酒のつまみには唐揚げがベストじゃきん、こげに仰山作ってもらって悪いのぉ」

「坂本、最初に言っておくが唐揚げ全てにレモンをぶっかける様な真似はするなよ、俺は塩派なのだ」

「ヅラ、おまんは相変わらず塩じゃないと食べんのか、たまにはレモンをかけて食ってみたらどうじゃ?」

「ヅラじゃない桂だ、侍たるもの一度選んだ道はひたすら突き進むのみ、故に俺は唐揚げには絶対に塩しかかけんと心に決めているのだ」

「いやいやいや! 唐揚げにレモンとか塩とかどうでもいいからさっさと帰れよお前等! つうか!」

 

永琳が唐揚げて持ってきただけですっかり唐揚げ談議に花を咲かせる坂本と桂に

 

銀時がようやく部屋の中へと入ってすぐに二人を交互に指差して

 

「お前等捕まえる側と捕まえれらる側じゃねぇか! おい辰馬! 嫁さんが捕まえたがってるこのバカ悪霊と何普通にどんちゃん騒ぎしてんだお前!」

「ハハハ、わかっちょらんのぉ金時、今宵はお前の為に身分も立場も忘れて、かつて同じ飯食った同志として集まったんじゃ、じゃからわしも今日はヅラを捕まえる気なんざ更々起きん」

「地獄の監獄長的な存在のお前がそれでいいのかよ! お前マジでこの事嫁さんに言いつけるよ!?」

「大丈夫じゃ、今日はちゃんと嫁さんに連絡しておるきに、家に「今日金時やヅラと飲んできまーす」と置き手紙残しておいたし、コレで帰ってもお仕置きはされん筈ぜよ」

「あ、お前それ完全に地獄フルコース巡りだわそれ」

 

ヘラヘラ笑いながら映姫にはちゃんと断っていると言う坂本だが

 

今時置き手紙で、ましてや捕まえるべき相手と飲むと書かれた内容であれば、彼の妻である映姫の激怒も必然である。

 

銀時はそれに気付いて少々哀れみの視線を彼に送っていると、「フッフッフ」と今度は桂が不敵な笑みを浮かべる。

 

「所帯持ちは大変だな坂本、いっその事俺や銀時の様にお前も独り身になったらどうだ? そうすればお前も自由にあちこち行くことが出来るぞ」

「いや俺まだ別れてねぇよ! ただ喧嘩しただけだから! さっきからお前だけなんか誤解してるけどなんなの!?」

「いやーわしは無理じゃ、別れる気も更々無いし、そげな話をアイツに斬り出せば泣いてしまうきに」

 

桂の提案にサラッと坂本が拒否しながら、永琳が用意した唐揚げを食べ始める。

 

そんな彼等を見下ろしながら銀時はどうしたもんかと顔を手で覆いながら考えていると

 

彼の肩にポンと永琳が手を置く。

 

「ほら、あなたも座ってみんなと一緒に唐揚げ食べなさい」

「食えるか! こちとらお前に散々食わされたせいで腹一杯だってさっき言っただろうが!」

 

まだ自分に料理を食べてもらおうとするのを諦めていない様子の永琳に、銀時が肩に置かれた手を払いのけながら額に青筋を浮かべる。

 

「大体何でこんなバカコンビ連れて来てたんだよ! そもそも俺がコイツ等と知り合いだったなんてお前に教えた事あったけ!? 一体お前は何がしてぇんだよ!」

「あれ? 友達を家に入れてあげれば喜ぶと思ったのだけれど……もしかして違ったかしら?}

「友達でもなんでもねぇよコイツ等なんか! たまたま同じ時期に同じ奴の下で働いてただけの同僚みたいなモンなの!」

 

小首を傾げながらわかってない様子の永琳に銀時がムキになって怒鳴りつけるも、彼女は仏頂面のまま坂本達の方へ振り返り

 

「そうなの?」

「気にせんでよか、そりゃあ金時のただの照れ隠しぜよ。昔からコイツはわし等や紫ちゃんに素直になれんかったんじゃ」

「フ、銀時は俗にいうツンデレという奴だからな。本当は俺達が来てやった事に凄く喜んでるクセに、昔から変わらんなお前は」

 

そう言ってフッと笑いながらまた酒を飲み始める二人を見て

 

永琳は銀時の方に顔を戻す。

 

「って彼等は言ってるわよ」

「コイツ等の話を真に受けるな、化け狸と悪霊なんかの戯言よりも、同じ不死者である銀さんの話を信じて下さい」

「まああなたの言う事を聞いてあげても良いけど、私から見たら普通に友達だと思うんだけど?」

「バカな事を言うな! 俺達は……!」

 

キョトンとした表情でまだ言ってくる永琳に銀時がはっきりと抗議しようとしたその時

 

 

 

 

 

 

「そいつの言う通りだ、俺達はダチでも、ましてや同志ですらねぇ……」

「おお! なんだまだ俺の味方してくれる奴いたのかよ……てえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

背後から飛んで来た低い声に反応して銀時がすぐに振り返ると

 

そこに立っていたのは……

 

「俺とテメェは今も昔も、ただ本気でぶっ殺してやりてぇとしか思ってねぇよ。だよな銀時……」

「た、高杉くぅぅぅぅぅぅぅん!? なんでお前までここにいんのぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「なにぃ高杉!? あ、本当じゃ! 久しぶりじゃのぉアハハハハハ!」

「高杉! お前今まで何処に行っておったのだ!」

 

現れたのはまさかの高杉晋助、こんな所にノコノコと彼が来るとは思ってもいなかった銀時が驚くと

 

すぐに部屋から坂本桂も顔を覗かせて驚きの声を上げる。

 

「どどど、どういう事だ一体!?」

「私が呼んだのよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「野郎(天子)がまたこっちに逃げたから追いかけて来たら……偶然その女に出くわしてお前の話を聞いたんでな……」

 

高杉も誘うとか何してんだこのアマ! と内心叫びながら銀時が驚いていると

 

相も変わらず口元を歪に広げながら高杉は、懐に手を伸ばしてあるモノを取り出す。

 

「お前、なんでも女と別れてここの家主と籍をを入れるみてぇじゃねぇか……ほれ、祝いにヤクルコ持ってきてやったぜ……」

「こっちはこっちで変な誤解してるぅぅぅぃぅぅぅぅぅぅぅ!!! てかなんでヤクルコ!? 止めて! そういうボケしないで! お前だけはボケないでホント!」

 

ニヤリと笑いながらヤクルコをこちらに突きつける高杉に銀時は絶句の表情を浮かべて叫ぶのであった。

 

どうやら今宵の宴は久方ぶりの同窓会になりそうだ。

 

 

 

 


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