銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#60 私と…………

それはあっという間の出来事であった。

 

松下村塾の周囲は数十人の顔を隠した月の民に包囲され

 

銀髪の娘は後ろに回した手を縛られ、座らされた状態で悔しそうに奥歯を噛みしめながら顔を上げる、

 

彼女の視界の先には同じく両親である松陽と永琳が、自分と同じく両手を縛られた状態で一人の少女と対峙していた。

 

「随分と逃げ回ってくれたものね、私達が探してる間にまさか娘まで作ってたなんて」

 

片目を細めながら面白くなさそうな顔を浮かべるのは蓬莱山輝夜。

 

どうやったのかは知らないが、彼女は幾重にも張られている対月の民用の結界を打ち払い、遂に彼等を見つけたのだ。

 

月から逃げた脱走者である松陽と永琳を

 

「死んだ母上が聞いたら嘆き悲しむわね、自分の事を道具としか扱ってなかったかつての男が、こんなへんぴな場所で他の女と所帯を持ち、子供も作って幸せそうに暮らしていたなんて」

「……あの頃のなんの感情も無く玉座に座り続けていた私は、それはそれは酷い男でしたね」

 

敵意を持った眼差しを向けて来る輝夜に松陽は申し訳なさそうに苦笑する。

 

「あなたにも大変寂しい思いをさせて来ましたね、すみませんでした」

「そんな言葉が欲しくて私はここに来たんじゃないわ、あなたは過去を捨てる為に民や弟子、そして私さえも捨ててこの星にやって来た」

 

今更謝罪など遅すぎると、輝夜はギリッと歯を食いしばる。

 

「”虚”という己の名さえも捨ててまで、一体あなたが何がしたかったの」

「……今の私は八意松陽です」

 

そう自分の名を名乗ると、松陽は隣に立っている永琳の方へ振り向き

 

「彼女が私の為に付けてくれた名前です」

「八意永琳……」

「お久しぶりですね姫様、長年姫様の教育係として働いておりましたが、あの頃よりもずっとお美しくなられて何よりですわ」

「世辞はいらないわ、月の王をたぶらかして勝手な行いをした始末は、いずれキチンと償わせてやるわ」

「ええ、私の身であればどうぞ姫様のお好きになさってください、ですが」

 

こちらに対して嫌悪感も隠さずに睨み付けて来る輝夜に優しく微笑むと、永琳はチラリと後ろで捕縛されている娘に目をやり

 

「あの子に何か危害を加えるモノであれば、今すぐにでも彼女の父と母が天に牙を剥く事もお忘れなく」

「……」

 

改めてこちらに振り返って来た永琳は、先程と同じく微笑んでいあるが目は笑っていなかった。

 

その表情に一瞬ゾクリと背筋に冷たいモノが当たったかのような感触を覚えると、つい動揺してしまった事をバレない様にしながらコホンと咳する輝夜。

 

「……心配しなくてもあなた達の娘などどうだっていいわ、元より月に連れて帰るのはあなた達二人だと最初から決まっている、この星で生まれた娘の方はここで捨て置く」

 

そう言って輝夜は二人の娘を一瞥する。

 

「せいぜいこの地球で父と母のいる月を眺め続ける余生を送ればいいわ」

「……」

 

彼女の言葉に娘は顔を上げたまま無言のままじっと動こうとしない。

 

捕縛される前は散々暴れたが、今はすっかり大人しくなっている。

 

しかしその目はいつもの死んだ目とは違い、ギラギラとこちらを殺そうと気を伺っている獣の目だった。

 

その目を睨み返しながら忌々しそうに輝夜はフンと鼻を鳴らすとクルリと踵を返す。

 

「行くわよ」

 

そう言って輝夜が歩き出すと、松陽と永琳の両手を縛っている縄を掴む部下らしき者達も後に続こうとする。

 

しかしその時

 

「なぁに心配はいらないよ、すぐに私達は戻って来る」

 

連れてかれようとする所で、松陽が振り返らずに背後にいる娘に口を開いた。

 

「だからそれまで待っていて下さい、どんなに辛くても生きていてください。必ずもう一度、会いに行きますから」

 

そう言って松陽は縛られている右手の小指をそっと立たせる。

 

「約束、ですよ」

「……!」

 

その言葉を聞いて娘は悔しそうに両手を地面に叩き付けながら、髪に泥が付く事も気にせずに額を地面に擦り付け、こうして何もできないまま二人を見送るしか出来ない自分自身に腹を立てていた。

 

そんな娘に一切振り向きもせず、松陽は永琳と共に行ってしまった。

 

月の民達もこぞって行ってしまい、一人その場に取り残された彼女は

 

 

 

「―――∸―――∸―――∸―――∸!!!!」

 

言葉にもならない叫び声を上げて空しく響かせるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数時間後の事

 

輝夜が松陽達を捕まえて連行していく瞬間を遠くから呆然と眺めるしか出来なかったメリーは

 

近くの公園の噴水広場で

 

自分が彼等を売ったのだという実感を覚えつつt身体を震わせながらベンチに座っていた。

 

そして彼女の隣には

 

輝夜が襲撃した際に紛れて屋敷から連れ出した蓮子がグッタリとしている。

 

「ハァハァ……」

「蓮子、しっかりして……!」

 

こんな寒い時間に彼女を外に連れ出してしまった事に後悔しつつ、メリーは罪悪感も忘れて必死に彼女に呼び掛ける。

 

「約束の時間までもうすぐ……もうすぐあなたを元に治す事が出来るのよ、それまで耐えて……!」

「……メリー?」

 

ふと両手に温もりを感じて蓮子はぼんやりと目を開ける。

 

そこで初めてここが寒空の中の外で、時刻は夜で、目の前にメリーが必死な形相で自分を見つめているのがわかった。

 

「私は一体……」

「時間通り来てやったわよ」

「!」

 

虚ろな目で現状をゆっくりと理解しようとしてる最中。

 

突然飛んで来た声にメリーが待ちわびていたかのようにバッとそちらに振り返った。

 

そこに立っていたのは輝夜、彼女との約束を果たしにお供も連れずにたった一人でやって来たのだ。

 

「こちらの用事は済んだわ、約束通りあなたに報酬をプレゼントしないとね」

「……先生と教授はどうなるの」

「八意松陽と八意永琳はこのまま月に強制送還される」

 

メリーに抱き抱えられながら蓮子は、輝夜が言った二人の人物の名前を聞いて微かに目を見開く。

 

「本来月からの亡命は厳罰に処するべきなんだろうけど、月の発展に大きく貢献した実績を持つあの二人は特例として免除されるでしょうね。けどもう一生こっちに戻ってあなた達と会う事は無いわ、何故なら一生月の地下にある完全なる密室の部屋で監禁されるでしょうから」

「……」

「メリー……この女何言ってんの?」

 

事実を知らされてメリーが悲痛な表情で黙り込んでいると、不意に蓮子が息絶え絶えに話しかける。

 

「なんでコイツさっきから訳の分からない事を言ってるの……松陽とアイツが月に行くからもう会えないってどういうこと……一体どういう事なのちゃんと話して……」

「……その子があなたが救いたがっていた子かしら?」

 

先程からずっと苦しくて呼吸すらままならないが、それでもなお松陽達がどうなったのか聞き出そうとする蓮子に

 

興味を持ったのか輝夜が歩み寄って来た。

 

「初めまして、あなたがアルタナを摂取しないと生きていけない特異体質の子ね、彼女から話は聞いているわ」

「アルタナ……? なんなのよアンタ、さっきから意味深すぎるのよ……しかもメリーから話を聞いたって一体……」

「あなたの友達はね、あなたを助ける為に私に手を貸してくれたの」

「……手を貸してくれた?」

 

さっきから何の話をしているのだと頭の中が混乱しかけている蓮子に輝夜は優しく微笑みかける。

 

「彼女が私を松陽達のいる場所まで案内してくれたの、おかげで遂に脱走人のあの二人を捕まえることが出来た、この事に関しては月の民を代表して本当に感謝しているわ」

「……」

「メ、メリー……?」

 

彼女の話を聞いて蓮子はハッとするとすぐに自分を抱き抱えているメリーの方へ振り向く

 

するとメリーは俯いたまま

 

「彼女が言ってる事は紛れもない事実よ……私はアナタを救う為に先生達を彼女に売った」

「!」

「彼女はアナタを救うことが出来るの、だから私が交換条件を出して先生達を……」

 

ぼんやりとだがようやく話が読めて来た。

 

蓮子は俯きながら答える彼女を無言でジッと見つめていると

 

輝夜が二人にスッとある物を差し出す。

 

それは宝石のように光り輝く結晶体

 

「これがあなたが欲しかったアルタナのエネルギーを結晶化させたモノよ」

「これが……!」

 

アルタナ、蓮子が生きていくには無くてはならない地球のエネルギー……

 

それを見てメリーはあまりの眩しさに目がくらみそうになっていると

 

輝夜はそれを彼女の手になんの躊躇もなく置いて渡した。

 

「約束通りあげるわ、その結晶体を飲み込ませるなり体内に入れさえすれば、その子はもう大丈夫よ」

「……本当にこんな貴重なモノを渡していいの?」

「いいわよ、”ウチには”余るほどあるし」

 

少々引っかかる物言いをする彼女だが、コレがあれば蓮子は助かるんだと過信していたメリーは聞き逃してしまった。

 

受け取ったアルタナの結晶体を、彼女はすぐに蓮子に近づける。

 

「蓮子コレを飲み込んで……! そうすればあなた助かるのよ……!」

「何言ってんのよアンタ……そんな食い物でもない奴を口に入れたらそれこそ身体が悪くなるじゃないの……私は食べれる物しか口に入れない主義なのよ……」

「いいから口に入れて! 入れなさい!」

「……」

 

自分の口に結晶体を近づけて来るメリーに蓮子は素っ気ない事を言いながらそれを拒否する。

 

僅かしか残ってない体力でどうしてそう強情を張れるのか、メリーは苛立ちを募らせながら無理矢理にでも口を開かせて飲み込ませようとする。

 

しかしその時であった。

 

 

 

 

 

 

「あら? こんな時間に女の子同士だけで何してるのかしら?」

 

不意に聞こえたそのひどく澄んだ声に、蓮子の口を開かせようとしていたメリーの手が止まった。

 

全身から冷や汗が流れるのを感じながら彼女は恐る恐る顔を上げると

 

「こんな時間に女の子だけでいちゃ危険よ? それともこんな人気の無い場所だからこそ出来る事でもある訳?」

「あ……あ……」

「もし良かったら私も混ぜて貰えないかしら、ねぇメリー……?」

 

クセッ毛の強い銀髪の少女が

 

こちらの状況を瞬時に読み取っているかの様に見透かした目を向けて立っていた。

 

彼女が現れた途端、メリーは金縛りにあったかのように動けない。

 

しかし目の前の少女はゆっくりとこちらに向かって歩み寄っていく。

 

「あなたどうしてその女と一緒にいるの、その女から貰ったそれは一体なんなの、あなたは一体何をしたの」

「やれやれ見逃してやったのにまさかまた私の前にあなたが現れるとはね……」

 

震えて声が出ないメリーの代わりに、輝夜が顔をしかめながら彼女を睨み付ける。

 

 

 

 

「出来ればあなたとは二度と会いたくなかったんだけど、松陽と永琳の娘……」

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜」

 

名を呼ばれた彼女は、輝夜に向かって目を細めながら懐から一本のナイフを取り出す。

 

いつも稽古で使っていた様な木造ではなく

 

本物のナイフを

 

「早く答えなさいメリー」

 

輝夜を完全に無視して静かな口調でメリーを問い詰めようとする彼女だが

 

その手に持つナイフをゆっくりとこちらに突き付け、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えなさい、私の両親をコイツ等に売ったのかどうかハッキリと、その身が完全にこの世から消えるまでに……」

 

 

あの時の咲夜の表情はいつも通りの仏頂面だったけど、内心では怒狂っているのがよくわかった。

 

この時私はただただ彼女に怯えて口をパクパクさせながら何も言えなかったのを覚えている。

 

今にも死にかけている蓮子を救える手段を前にして

 

私は彼女の両親を売った代償をここで払わなければいけないのだと実感していた。

 

蓮子、そして咲夜……

 

本当にごめんなさい

 

 

 

 

 

 

 

 




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