観覧注意です
”その存在”に最初に気付いたのは紅魔館の門前にいた美鈴と神楽だった。
美鈴は銀時と霊夢の突破を阻止しようとしたがそれを神楽が身を挺して彼等を庇い
チャイナキャラは二人もいらぬという運命に基づけられ二人は戦いを始めた
それから数十分後
「Zzzzzzz」
「Zzzzzzz」
激闘の真っ最中であった筈の二人は今、門前にある平原の上で寝そべってお昼寝タイムに入っていた。
なんだか戦ってる途中で朝早く起きたせいで眠くなったという理由で、敵同士であるにも関わらず二人仲良く寝入ってしまったらしい。
しかしそれも束の間、涎垂らしながら爆睡していた美鈴がパチッと目を覚ます。
「しまった私とした事がまた居眠りを……すみません起きて下さい、お昼寝はもう終わりです早く私と戦って下さい」
「うーんまだ眠いアルゥ……Zzzzzzz」
「そうですか仕方ありません、では私もZzzzzzzz」
隣りで鼻ちょうちん膨らましていびきを掻きながら寝ている神楽をユサユサと揺らして起こそうとするも
彼女は全く起こる気も無くゴロンと転がってこちらに背を向ける。
ならば、と美鈴は特に咎める気も無く、むしろチャンスとばかりに同じように彼女に背を向けて眠りに入った。
因みにこの動作を先程から何回も繰り返している。
しかし
「!」
「は!」
安らぎのお昼寝タイムに突如感じたある気配に、二人は即座に目を覚ましてバッと起き上がったのだ。
美鈴と神楽はすぐに振り返って、何かとてつもなく禍々しいオーラを感じた方向へ目をやる。
「おいニセチャイナ、お前も感じたアルか?」
「ニセチャイナって呼ばないで下さい……私も感じました、今まで感じた事のない気がこちらに迫ってきています」
二人は互いに確認し合うと、静かにかつ確実にこちらに迫って来る脅威を体中で感じ取っていると
”その存在”は彼女達のすぐ目の前にやってきた。
「コ、コイツ……!」
「あ、あなたは……!」
そのかつてない威圧感を持つ相手に二人は目を見開き、まるで足が根を張ったかのように地面から動く事が出来なくなった。
少しでも動けば殺される……戦闘センスがピカイチの二人でさえ容易に動く事が出来なくなるほど
その存在を肉眼で拝見しただけで、今まで感じた事のない恐怖が全身に襲って来たのだ。
「ヤバい……! コイツ絶対ヤバいアル……!」
「この様な恐ろしい方を屋敷の中に入れる訳には……しかし体が……!」
自分達の事を気にも留めずにその者は平然と紅魔館の方へ
一言で言うのであれば「真の闇」、それを体現したかのような禍々しい雰囲気を醸しながら
震えて動けずにいた神楽と美鈴をよそに門を潜って中へと入って行ってしまった。
「マズいアル……あんなのが銀ちゃん達の所へ向かったら……」
「お嬢様たちの身が危ない……一刻も早く止めなければ……」
その者の背中を見送りながら二人はすぐに紅魔館に恐ろしい脅威が迫っていると感じると
恐怖感が薄れてようやく自由に体が動けるようになったと確認すると、神楽と美鈴は顔を合わせてコクリと頷き
「よし! とりあえず一旦もう一度寝てから考えるネ!」
「そうですね! 睡眠不足で負ける訳にはいきませんからね!」
と言い合って、新たな脅威を前に再び横になって眠りに着くのであった。
次に”その存在”に気付いたのは図書館で戦っていたパチュリーと魔理沙であった。
図書館に引き籠っていたパチュリーは銀時と霊夢の突破を阻止しようとしたが、それを魔理沙がが身を挺して、というより半ば偶然鉢合わせし
ジャンプを借りパクされた恨みでパチュリーは彼女に戦いを申し込んだのだ。
それから数十分後
「あれ? 私が好きだった作品が打ち切りになってんだけど、おいパチュリーこれ一体どういう事だぜ?」
「ジャンプの世界は常に弱肉強食なのよ。『チャゲチャ』が、即打ち切りになった時は泣いたわ」
「お前って相変わらずアレな作品が好みだよな」
激闘の真っ最中であった筈の二人は今、図書館にある椅子に座って向かい合わせでジャンプタイムに入っていた。
考えてみたら大切な書物が保管されているこの部屋で戦えるわけないでしょ、という理由で、二人は戦うのを中断して一旦休憩を取る事にしたのだ。
「私はどっちかというとギャグ物の方が好みなのよ、ちょっと前は多かったのに、最近じゃ掲載されてもすぐ終わっちゃうからやるせないわ」
「ギンタマンがあるじゃねぇか」
「アレそろそろ終わると思ったのにまだ完結しないのよね、なんなのアレ? いつ終わるの?」
「知らねぇよ、編集に引き延ばししろって指示されてんじゃねぇの?」
ジャンプのページをめくりながら仏頂面で疑問を投げかけて来るパチュリーに魔理沙が適当に返事をしていると
ふと何か妙な気配を感じ取って、魔理沙は両手で持っていたジャンプから顔を上げる。
「……おい、さっきからなんか妙な寒気を感じるんだが、これはお前の仕業か?」
「……いいえ、違うわ、何かしらこの異様な気配……扉の向こうからやってくるような」
二人は読書を止めて一旦扉の方へ振り返ると
大きな扉はギィッと静かに開き、ガラガラガラという奇妙な音と共に
”それ”は現れた。
唐突にやってきたその存在に魔理沙とパチュリーは無言で目を見開き
自分達にさしたる反応も見せずに悠然と奥へと続く方の扉へと向かって行く。
「お、おいお前……」
「よしなさい」
恐る恐る魔理沙が相手に向かって声を掛けようとすると、すかさずパチュリーがハッキリとした口調で止めに入った。
「見てわからないの? 今の”彼女”は普通ではないわ、触れたら痛い目を見るって程度であれば止めはしないけど、どう見ても関わったらマズいってあなたでもわかるでしょ?」
「い、いやそうだけどさ……いいのかお前? この先にあんなの行かせたら館の主がどんな目に遭うのか……」
「私は何も見なかった、ここでずっとジャンプ読んでいて気づきませんでした。レミィにはそう言っておくわ」
「それはそれで館から追い出されるだろお前……」
現実逃避するかのように再びジャンプの方へ視線を傾けるパチュリーに呆れつつ
魔理沙はチラリと末恐ろしいオーラを放つその存在の方へと再び目線を送る。
ガラガラガラと奇妙な音を奏でながら、館の主であるレミリアがいる方への扉をゆっくりと開けて中へと入ってくのが見えた。
「あーあ、なんであぁなっちまったのかねぇ……やっぱ八雲の旦那のせいだなきっと」
そう呟きつつため息を突きながら、魔理沙はクルリと視線を前に戻し、パチュリーと一緒に再びジャンプを読み始めた。
「直にとてつもない嵐がやって来そうだし、今の内にしっかりここにあるジャンプ読んでおかないとな」
「不吉な事言わないで、レミィは無理でしょうけどあのメイドならなんとかしてくれるわよきっと」
「いやそこはお前が何とかしてやれよ居候」
「絶対に無理、今の彼女には関わりたくないわ、闇に飲まれそう」
紅魔館の主であるレミリア・スカーレットは現在一人奥の部屋に籠りながら玉座に座っていた。
「マズいわね……先程の失態といいビビッてしまう私といい……このままでは自分の部下にさえ愛想尽かされてしまうかも……」
人間であるお妙に負けたり、彼女に脅されてすぐ人質の居場所を教えてしまったり。
挙句の果てには自分の雇っているメイドにすら強く出れずに頭を下げてしまう始末。
肘掛けに手をお置きながらレミリアは己の弱さを改めて実感していたのである。
「カリスマが欲しいわ……周りの者達を恐怖で支配し、なおかつ魅了させて惹きつける程の強さを兼ね備えたカリスマ性が……」
ぼんやりと天井を見上げながら遠い目を浮かべるレミリア。
自分は他の妖怪とは一線を引く真の怪物・吸血鬼なのに……
「つうかどうしてこの幻想郷の連中は私に全くビビらないのよ……吸血鬼よ吸血鬼? ちっとは気を遣って怖がりなさいよこのすっとこどっこい」
幻想郷の住人に対してもブツブツと文句を垂れながら、意を決したかのようにレミリアはすっと席から立ち上がった。
「これ以上周りにナメられない為に、どうやら真の本気を見せるしかないみたいわね」
そう言って小柄な体で胸を張りながら、レミリアは決心した。
もう二度と負けてはいけないと、今からここに誰が来ても全力で打ち倒してやろうと腹をくくったのだ。
「さあ誰でもかかって来なさい! この私の全力でねじ伏せてくれるわ!」
高らかにそう叫びながらレミリアは一人部屋で新たなる驚異の登場を心待ちにしていると
「んあ!?」
彼女の期待に応えるかのようにその新たなる驚異はすぐそこまで迫って来ていた。
「な、なにこの不気味な気配は……こんなの長く生きた私でさえ経験した事ないわ……」
扉の向こうの廊下からヒシヒシと伝わって来るこの尋常じゃない恐怖感は一体……
レミリアが思わずブルッと身震いしていると
「!?」
この部屋の扉がゆっくりと開いた、それと同時にビクッと肩を動かしながらもレミリアはすぐに身構える。
「ふ、ふん! どこの誰だか知らないけどもうこれ以上この館の中を出入りさせる訳にはいかないわ! かかってこいコラァァァァァァァ!! こちとら500年生きた吸血鬼様じゃあ!!!」
内心ちょっとだけビビッてはいるも、それを隠してただ強気に攻めて行こうという心構えで
レミリアは新たなる侵入者の前に仁王立ちで咆哮を上げた。
すると開いた扉の奥からそっと扉を開けた人物が現れた。レミリアはそれを見てすぐにギョッとした様子で目を見開く。
そこに立っていたのは魔法の森に住み人形を操る魔法使い、アリス・マーガトロイドであった。
「あ、あなたって確かパチェと同じ魔法使いの……ってうえぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「……ここにもいない」
やってきた相手はアリスだと知ってレミリアは一体なぜ彼女が?と疑問を浮かべるも
すぐに彼女の周りから発せられるドス黒いオーラに気付いて思わず悲鳴を上げてしまう。
彼女自身に恐怖を覚えたのも事実だが
「パパは何処に行ったんでしょうねぇ~……」
「う、あ……」
何よりその彼女が両手で押して
ガラガラガラと音を鳴らして進む乳母車が何よりも怖かった。
「ここにいるって聞いたのに……匂いを辿ってせっかくやって来たのに……どうして見つからないのかしら……」
「あ、あなたどうしたの……? どうしてここにいるの……」
闇を抱えているどころか闇そのものなのではないかと思うぐらい気味の悪い雰囲気を纏わりつかせたアリスは
部屋に入るとすぐに虚ろな目だけを左右に動かしてか細い声で小さく呟くと
焦点の定まらないその目をスッと部屋の中心に立つレミリアへズラす。
「……ねぇ、この子のパパ知らないかしら?」
「ひ! パ、パパ? ご、ごめんなさいちょっと話が読めないんだけど……」
「久しぶりにね、会いに来たのよ。この子も産まれたしあの人に顔見せたくなって……パパはかくれんぼでもしてるんでしゅかね~?」
「う、産まれたって何言ってんのよ、さっきからアンタが乳母車に乗せてるのってそれ……」
いきなり話しかけられた事に驚きはしたものの、レミリアは意を決して彼女の方へと歩み寄っていく。
そしてあやすような感じでアリスが乳母車の中に話しかけていると、震える指で指して
「どう見てもただの人形じゃないのォォォォォォ!!!」
「……」
金髪のこじゃれた洋風の衣装を着せられたその無機質な小さな人形を指差してレミリアが叫ぶと
人形の頭を撫でていたアリスの手がピタリと止まった。
「……まあ確かに人形みたいに可愛らしいわね、流石は私の子、パパに似なくて良かったわ」
「いやいやいや! 人形みたいじゃなくてモノホンの人形そのものでしょそれ!」
「おかしな事を言うお姉ちゃんでしゅね~フフフ……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
何も喋らないただの人形に向かって歪な笑みを浮かべて話しかけているアリスを見て
さっきの覚悟は何処へ行ったのやら、悲鳴を上げながら後ずさりを始めるレミリア
「ここにはあなたが探しているパパなんていないわよ! お願いだから帰って! 帰って下さいお願いします! 土下座なりなんなりしますんで!」
「あらあら嘘は良くないわ、ここに銀髪天パの目が死んでる男が来ているのはわかっているのよ?」
「え? あ、あの男を探しに来たのアンタ……」
「それ以外にここに来る理由なんてないわ」
天パの男、十中八九あの八雲銀時の事であろう
彼の事を探しにここまでやってきたと聞いてレミリアがキョトンとする中
アリスはガラガラガラと乳母車を押しながら彼女の方へ首を傾げながら
「それでどこにいるの?」
「確かにそれらしい男はここに来ているけど……今は私の忠実なる部下とどっか行っちゃってわかんないのよ」
「フフフ、忠実なる部下と言う事は当然主のあなたもどこへ行ったのか検討付いてるのでしょ、教えてくれないかしら?」
「すみませんホントは全然忠実じゃないんです! どっちかというと一方的に私があのメイドにコキ使われたり利用されたりで! どこへ行ったのかもわかんないんです本当です!」
「大丈夫ちゃんとわかっているわ、部下の為を思ってそうやって道化を演じてるんでしょ? 部下の居場所を教えない為に。中々立派なご主人様ね」
「ち、違うんですホントに知らないんです! ホントに私は哀れなピエロなんです! ただのカリスマ(笑)のアホな吸血鬼なんです堪忍して下さい!」
両手を突いて土下座の態勢を取りながら必死に泣き叫ぶレミリアだが
それもまた演技だと思ってアリスは薄ら笑みを浮かべたまま彼女に歩み寄り
「まあいいわ、愛に障害はつきもの、そこまでして仲間の居場所を吐かないつもりならこっちも手加減しないから……」
「あ、あ……」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
紅魔館の中心で断末魔の雄叫びが鳴り響くのであった。