銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#7 神ル楽時ノチ銀

霧の湖

妖怪の山の麓にあり湖近くには吸血鬼が住むと言われている館と、その反対側に廃洋館がある。

普段は人が寄り付かない、この湖の周りは昼間になると霧で包まれていて視界は悪いのだ。

更に湖には妖精、妖怪が集まりやすく、特に夏は水場を求めて多くの妖怪が集まる。

何故昼間だけ霧が出やすいのかはよく分かっていない。

 

視界不良の為、湖はとてつもなく大きく見えるが、実はそんなに大きくないと思われる。一周歩いて回っても半刻も掛からない。

またこの湖は、新月の夜に怪物級の大型魚がごく稀に釣れることでも有名である。

その怪物魚を釣る事を夢見て多くの釣り好き達が釣りに出かけるのである。

しかし妖怪が多いので、常に危険と隣り合わせな状態なのは致し方ないが。

湖に流れ込む川は、妖怪の山から流れてくる。

ごく稀に白目を剥いた河童がプカプカ流れてくる事もあるという。

それを見ると心が和むらしい。

 

「ていやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「どぶるちッ!!」

 

そしてその湖で先程から夜中だというのに取っ組み合いというお遊戯に励んでいる妖精と妖怪が1匹ずついた。

 

妖精が放った氷の飛礫を手に持った日傘で撃ち落として行きながら猪の様に突進し、一気に距離を詰めると思いきり妖精の顔面に豪快な蹴りをめり込ませてそのまま後方に吹き飛ばす妖怪の少女。

 

「フン、妖精程度の三下が私に適うと思ったら大間違いアル。ケツ拭いて出直してくるヨロシ」

 

神楽

妖怪としては上位の種族に存在する夜兎族であり、その実力は正にケタ外れ。

夜兎族というのはあの鬼にも匹敵する程の怪力と戦闘能力を持ち合わせた一種であり。

そのほとんどが地底という日の届かない場所に生息している。

何故に日の光の届かぬ地底に住み着いているというと、彼等の種族の肌は日の光に耐性が無く外に出るには日傘を常備しないといけないからだ。

しかし彼女の様に薄暗い地底に住む事を嫌って幻想郷に出ては遊びに呆ける物好きな夜兎も少なからず存在する。

 

「今日からここは私の縄張りネ、これからは毎日私に酢こんぶ1箱を献上しろと他の妖精達にも伝えるアル」

「クッソ~! なんだよ酢こんぶって! あたいそんなの知らないよ!」

 

勝ち誇った様子で倒れた妖精に向かってそう宣言する神楽に。妖精はすぐにガバッと状態を起こして抗議した。

 

チルノ

霧の湖に住む妖精の女の子。体からは一年中冷気が出ており触れれば凍傷、最悪その瞬間に氷漬けになる程その肌は冷たい。

妖精というのは本来人間以下の存在として妖怪や実力ある人間からは軽視されているが、チルノは妖精の中でも格別に力が強い存在であり並大抵の妖精では勝てぬほどその実力は高い。

 

「いきなり現れてボス気取りとか!? 一体何なのさアンタ!」

「私は地底から這い出た夜兎の神楽、いずれはこの幻想郷の支配者となる女帝アル。今の内に私に媚びへつらって従順なペットになっておけば領地の10億分の1分けてあげるネ」

「なんだかよくわからないけど、とにかくあたいはアンタに従うつもりなんかないんだから!」

 

しかしそれでも相手が鬼とも並ぶ夜兎となると分が悪い。何せいくら冷気を操っても己の力のみでなんであろうと強引にねじ伏せてしまう種族だ。

嘲笑を浮かべこちらを見つめる神楽に、力の差を見せつけられてなおチルノはグッと奥歯を噛みしめて立ち上がる。

 

「最強のあたいをナメるなよ! 変な喋り方してるアンタなんかに負けてたまるか!」

「変じゃねぇヨこういうキャラ付けなんだヨ、お前だって自分の事を「あたい」って呼んだりか古いキャラ付けしてんだろーが」

「あたいがあたいって言って何が悪いのさ!」

 

自分の一人称を小馬鹿にしてきた神楽にチルノはムッとした表情を浮かべ

 

「キャラ付けとかわけのわからない事言ってあたいを混乱させようたってそうはいかないよバーカ!」

「ああん!? お前の方がバカだろうが! 脳みそどっかに置き忘れた妖精程度が私をバカ呼ばわりするとかいい度胸だなゴラァ!!」

「フフン、またやるっていうの。言っとくけど次は絶対に負けないんだから」

「上等アル! 幻想郷のボスを倒す前にお前をいたぶって経験値稼ぎしておいて置くネ!!」

 

妖精の安い挑発に見事に引っ掛かる神楽。戦闘種族ゆえに血の気の多い連中ばかりの夜兎は、あーだこーだ考えるより先に手を出して相手を叩きのめした方が早いと短絡的に考える者達も多い。

彼女もその一人でありチルノに対して再び真っ向から対峙する。

 

だがその時

 

「おいうるせぇぞガキ共、魚逃げたらどうすんだコノヤロー」

 

ふと聞こえたけだるそうな男の声、神楽とチルノは反射的にそちらに振り返ると。

霧の湖の前に胡坐を掻いて、こちらに背を向けたまま釣り糸を湖に垂らす銀髪天然パーマの男がそこにいた。

言わずもがな八雲銀時その人であった、そして彼の隣には一緒になって座っているのは。

 

「面白い具合に釣れないわねー、このままだと藍には良い結果を伝えれそうにないわ」

 

彼の妻である八雲紫だ。神楽が持っている頑丈そうで地味な色合いの日傘と違い、優雅に編まれたレースを付けた華やかな日傘を差して、のんびりと銀時の釣りを鑑賞しているご様子。

 

「ここまで釣れないなんてあなた相当魚に嫌われるのかしらね」

「そうだと思うならお前の力で引っ張り上げて来いよ大物」

「あら、能力使わずに釣ってみせると豪語していたのはどこのどなただったかしら」

「それは藍に対してだろ、お前が使ってもアイツなら文句言わねぇって絶対」

 

プライドもへったくれも捨てて堂々と不正に走ろうとする銀時。

紫の能力を上手く使えば湖にいる魚など容易に取れるであろう。しかし彼女は鼻で笑い

 

「お断りするわ、私は監視役として来ているだけだし。夫と式神の勝負事を公平にする為にね」

「愛する夫と式神どっちが大切なんだよ」

「そんな女々しい台詞吐く程気になるのかしら?」

「……」

 

意地の悪い笑みを浮かべて尋ねてくる紫に銀時が顔をしかめて黙りこくっていると、二人の背後にザッザッと足音を立てて神楽とチルノが近づいて行った。

 

「おいお前等何やってるアルかここは私の縄張りネ、釣りデートなんてやってイチャつく様な奴等は即刻こっから出て行くヨロシ」

「まだアンタの縄張りになってないんだからね! ここはまだあたいの縄張りさ! イタズラされたくなかったら必死に逃げてみな!」

 

二人揃って似たような事を言っていると、銀時は振り向かずにはぁ~とため息を突いて

 

「ホントこの時期になると妖精共がそこら中を湖の近くで遊び回って嫌になるわ、妖精用の蚊取り線香とか無いのかねぇ」

「んだとゴラァ! 私は妖精じゃなくて夜兎アル! こんな雑魚共と同じにするんじゃねぇーぞ!」

「夜兎らしいわよ、そういえば最近地底で夜兎と鬼が勢力争いで戦ってるって聞いたわ。妙な事にならなければいいけど」

「いつもの事じゃねぇか、むしろアイツ等がいがみ合わずにいた時期があったか? 年がら年中殴り合って酒飲んで寝て、起きたらまた殴り合うようなサイヤ人みたいな戦闘バカ共だぞ」

 

神楽とチルノを無視して別の話題を始める二人。

完全に相手にしていない、彼等の態度を見て彼女達はナメられていると気付く。

 

「なんアルかコイツ等! 人の事無視して勝手に別の話で盛り上がりやがって!」

「あたい達を完全にナメ腐ってるみたいだね! こうなったら少し痛い目に遭わせてやるんだから!」

「おいそこのもじゃもじゃ頭! この私に対して随分とふざけた態度取るじゃねぇか!」

「さっきから何だよ一体」

 

すっかり喧嘩腰になった状態で銀時の背中に指を突き付けながら神楽が怒鳴り声を上げる。

しかし銀時の方は心底めんどくさそうだ

 

「私はいずれこの幻想郷で賢者とか呼ばれてる大妖怪を倒し! 新たなるボスとなる事を宿命づけられたヒロインアル! 今すぐこの場でぶっ飛ばされたくなかったら土下座をして私に許しを乞うべきネ!」

「幻想郷の大妖怪をぶっ倒すんだって、怖いね母さん」

「ええホント怖いわね、その大妖怪さんも今頃震え上がってるんじゃないかしら。なんか冷えるわねここ体が震えてきたわ」

 

怖い怖いと言っておきながら物凄く薄い反応をする銀時と紫。

そのあからさまな態度に屈辱を覚えたのか、神楽はギリギリと歯ぎしりしながら鼻息を荒くする。

 

「もう限界ネ! こいつ等にはじっくりと私がお灸をすえてやらぁ!!」

「あたいだって負けないもんね! 最強のあたいの力に震え上がらせてやるんだから!」

 

神楽に続いてチルノもまたプンスカ怒った様子で結束。二人はその勢いのまま銀時達の方へ飛び掛かろうとする。だが

 

「うおぉ! 来た! 遂に来た! 遂に大物が来たよハニー!!」

 

急に立ち上がって大声で叫びぶと、テンションが上がった様子で両手で持った竿を引っ張り始める銀時。どうやらやっと魚が引っかかったらしい。

 

「うお重ッ! ぬごぉぉぉぉぉ負けるかクソったれぇぇぇぇぇぇ!!! 紫手伝え!!」

「私はただの監視役だから無理よぉ」

「これぐらい手伝ってくれてもいいだろうが鬼嫁! 仕方ねぇ! おいそこの小娘二人!!」

「「え?」」

 

釣竿を持ってかれない様に懸命に足を地面に根付かせる様に耐えながら、銀時は初めて彼女達の方へ振り返った。

 

「俺一人じゃキツイんだよ! これ引っ張り上げるの手伝え!!」

「はぁ!? なんで私がそんな事しなきゃいけないアルか!」

「あたい達をナメてた癖に更に魚釣り手伝わせようとするなんて、おごがましいにも程があるよ!!」

「ぐお! こりゃきっと湖の中で最強クラスの大物だ! いいから手伝えって! 少し分けてやるから!!」

「マジでか!?」

「最強!?」

 

もう一人は食欲という欲求で反応し

もう一人は最強という言葉に反応し

 

目の色を変えて神楽が後ろから銀時の腰を掴むと、その彼女の腰をチルノが掴む。

 

「私ちょうどお腹ペコペコだったアル! 絶対釣り上げろよモジャモジャ!!」

「最強と言われてる相手に最強のあたいが引くわけにはいかないのさ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!! 俺の力に合わせて全力で引っ張れぇぇぇぇぇぇ!!!」

「三人共頑張ってー」

 

銀時、神楽、チルノの順の大中小という綺麗な隊列で釣り竿を引っ張り上げようとする。

気の抜けた感じで紫が応援して上げていると

 

「「「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

三人の掛け声が揃った時、その大物が遂に湖の上から飛び出して銀時達の前に現れた。

 

「デ、デケェェェェェェェ!!!」

「ヨッシャァァァァァァ!!!」

「あたいでも中々見た事無いよこんな大きなお魚!!」

 

サイズはなんと7メートル近くある鯉の様な見た目をした大魚だ。

新月の夜は怪物級の大型魚が出るのは有名ではあるが、これ程のモノは滅多に出てこない。

 

釣られた大型魚はそのまま銀時達に引っ張られ、ズシンと彼等の横すぐ近くに落ちてきた。

あまりのデカさに三人はまだ竿と腰を持ったまま固まっている。

 

「おいおいマジかよ……とんでもねぇ釣り上げちまった」

「「イエーイ!!」」

 

ピチピチと巨体を動かす度に地面が揺れるぐらいの立派な大物を釣り上げて自分でも驚いている様子の銀時の後で神楽とチルノが喜びのハイタッチを交わしてる中、紫も立ち上がって銀時の隣でその魚を観察する。

 

「どうやら藍との勝負はあなたの勝ちみたいね、あの二人が協力したからこそ釣れた様なものだけど、その辺は大目に見て上げるわ」

「やっぱ奥さんなら式神より旦那の方を贔屓目に見てくれなきゃな」

「それは時と場合ね、今回はそういう風に見て上げるってだけ」

 

微笑みながら紫がそう言っていると、神楽が後ろから声をかけて来た。

 

「おいモジャモジャ! 一緒に釣り上げたら私にもわけるって言ってたよな!!」

「おおそうだったな、けど”今”わけるとは言ってねぇぞ」

 

口元に僅かに笑みを浮かべながら、銀時は彼女の方へ振り返る。

 

「近々博麗神社で”宴会”開く事になってんだ、コイツはその為の食材だよ。食いたかったらそこに来い」

「宴会……てことはコレ以外にももっと凄いモンが出て来るって事アルか!?」

「まあな、色んな意味で凄いモンも出て来るかもしれねぇが」

 

博麗神社の宴会、というより実際は常に空腹状態である博麗の巫女の為に開く食事会みたいなものなのだが、それを聞いて神楽は「うおっし!」と嬉しそうにガッツポーズを取った。

しかし銀時の方は何故か目の前の巨大な魚を見ながら顔をしかめる。

 

「けど参ったな、こんなデケェ魚どうやって宴会まで冷蔵しておけばいいんだ」

「それならあたいに任せな!」

 

今度は後ろからチルノが得意げな様子でやってきた。すると彼女は魚に向かってすっと手の平を向けると

 

地面の上で暴れていた巨大魚は瞬く間にピキピキと音を立てて氷に包まれていく。

 

「あたいの氷はそう簡単に溶けやしないから、これで当分持つよ」

「冷気を操る力か、通りでさっきから妙に冷えると思ってたんだ」

「へへーん、助けてやったんだからこれであたいも博麗神社の宴会行っていいって事だよね」

「構わねぇよ、好きなだけ食いに来い」

 

彼女が来る事をあっさりと了承すると銀時は紫に

 

「んじゃ、これ家に送ってくれや」

「はいはい、それじゃあ時間も時間だし私達も帰りましょうか」

「ああ」

 

短く返事する銀時、すると氷漬けにされた巨大魚の下ある地面にポッカリと大きな裂け目が生まれてあっという間に魚を飲み込んでしまう。

続いて今度は自分が潜る用のスキマを傍に展開をする紫。

 

「それじゃ行きましょう、屋敷の庭に落ちて来たものを見て驚いてる藍の顔が見てみたいし」

 

楽しげにそう言うと紫はスキマの中を潜って行ってしまった。すると銀時はおもむろに神楽とチルノの方へ

 

「おいガキ共」

「なにアルか? ってあれ、あのデッカイ魚どこ行ったアルか?」

「ウチの嫁さんがもう回収したよ」

「マジでか、お前の嫁さん凄い力持ちアルな」

「まあな、おかげでこっちもコキ使われて大変だ。夫婦喧嘩も相当負け越してるし」

「私のパピーが言ってたアル、この世で最も最強な生物は嫁だって」

「だろうな、今まで色んな化け物相手にしてきたけど、嫁さんより恐いモンなんか見た事ねぇ」

 

銀時は思わずフッと笑う。

 

「それにウチの所は幻想郷の賢者と呼ばれる大妖怪、八雲紫だからな」

「ええ!? てことはお前の嫁さんってもしかして私が倒そうと狙っていた!!」

「精々気を付けろよ、言っとくが命のストック99機あっても勝てる相手じゃねぇからな」

 

それだけ言い残すと銀時は自分の能力でパッと消えてしまった。

あっという間に姿を消してしまう事の出来る謎の夫婦。

残された神楽は「うーん」と困った様子で首を捻り

 

「マズいアル、倒そうとしていた奴の旦那が開く宴会に参加する事になっちまったネ……」

「お腹減ったからあたいも釣ろう~」

「あ! 私にもやらせろヨ!」

 

大きな野望を持っていた神楽だが、銀時が置いていった釣り竿を振り回しているチルノを見てそんな野望何処かへ吹き飛ぶ。

 

彼女の名は神楽。

乱暴者に見えて本当は友達が欲しいだけの女の子

 

 

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