銀時と咲夜のおかげで半壊してしまった紅魔館
騒動を終わらせて日もすっかり落ちて夜になってもなお、霊夢達はまだここにたむろっていた。
「ちょっとぉ! もう食べるモンないんだけど! 早く持って来なさいよ!」
「テメェ等これっぽっちで私の胃袋が満足されると思ってんのかアァン!? 今すぐ牛を丸ごと持って来るアル!」
すっかりボロボロになってしまった館をよそに、霊夢と神楽は大きな庭でギャーギャーと喚いている。
すると家主であるレミリア・スカーレットはそんな彼女達に威厳のある態度で強く窘める、と思いきや……
「つ、追加の料理をお持ちしました……」
「おっそいのよ! さっさと持って来なさいこのグズ!」
「40秒で支度するネ!」
ヨロヨロとおぼつかない足取りしながらレミリアが両手に持って来たのは料理がふんだんに盛り付けられた大きなお皿
彼女が弱々しい声で呻くと、霊夢と神楽は文句を垂れながらも彼女が持って来た料理に急いで飛びつく。
「うま! こんな美味いモン食ったの生まれて初めてかも! もっとよ! もっとジャンジャン持って来なさい!」
「アンタ達さっきからどんだけ食うのよ……こんだけ大量に食べられると私としてはマズいんだけど……」
「アンタにそんな事言える権利はないわ、これは人間に危害を加えたアンタへの罰よ。はいもう食べ終わったから早く新しいの持って来て」
「食べ終わるの早ッ! ていうかコレの何が罰よ! ただ単にアンタが好き放題食ってるだけじゃないの!」
庭に置かれた大きなテーブルに置かれる事無く、レミリアが抱えた状態のままで霊夢は悪態をつきながら神楽と共に皿を空にしてしまう。
そしてレミリアの意見も無視して、早く新しい料理を持って来いと催促。
「ほら早く出しなさい、こちとら人間らしいモン食べたの本当に久しぶりなのよ。長年過酷な生活を強いられてる内に、好きな食べ物はと聞かれたら「煮たカブトムシ」と真顔で答えれるぐらいこっちは感覚崩壊してるのよ」
「冷静に自分がヤバいと認識できる程度ならまだマシだと思うわよ……てかカブトムシって食用だっけ……」
サラッと話す霊夢にレミリアは吸血鬼の身でありながら人間である彼女に対して若干恐怖を覚えていると
「はいはーい、新しい料理持って来たわよー」
「あ、やっと来たわね。さて次は一体どんなモンがって……」
新しい料理が運ばれたと聞いて霊夢はレミリアを睨むのを止めてすぐにそちらに振り返る。
だがそこでニッコリと笑みを浮かべたままお皿を持って来た女性を見て表情は一瞬にして強張ってしまった。
料理を持って来たのは先程から姿を消していた志村妙だったのである。
「げぇぇぇぇぇ!! なんでアンタが料理を……てうわ! なによそのグロデスクな焦土物は!」
「私も霊夢ちゃん達に新ちゃんを助けてくれたお礼をする為に、ちょっと厨房を借りて料理作っちゃったわ」
「料理というより細菌兵器じゃないの! うわ! 中から煙噴き出した!」
どうやらお妙は霊夢達の為に自ら料理を作って持って来たようだった。
これ以上ない真っ黒な光沢を放ちながら、中からシューシューと煙を噴き出し、聞き耳を立ててみると中から恨みを持ったまま死んだ怨念の呻き声みたいな不気味な音も聞こえる……
「霊夢ちゃんは私の料理大好物だったわよね」
「今までの私を見てそれ言う!? 私、食ったせいで記憶飛んだり周りから変な目で見られたりするからトラウマ抱えてんのよ!!」
「今日は私も頑張って作ったの、いつもの卵焼きじゃなくて今度はオムライスよ」
「どっからどう見ればこれがオムライスだと認識出来んのよ! 煙吹くわ囁き声聞こえるわ! それでいてこんなにも威圧感あるのに一切臭いがしないのが逆に怖いわ!」
更に収まらない程の大きなオムライス(呪)を軽々と持ったままお妙は笑顔を崩さず、頬を引きつらせてゆっくり後ずさりしていく霊夢の方へと歩み寄って行き
「さあこれが私の感謝の気持ちよ、霊夢ちゃんまだまだ食べれるんでしょ? 沢山あるからいっぱい食べなさい」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! その悪魔を持って笑顔のままこっちに近づかないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
笑顔ではあるが絶対に逃がさないという強い覇気をお妙から感じた霊夢は金縛りにあったかのようにその場で動けなくなり
段々と距離を縮めて来るお妙に必死の形相で悲鳴を上げるしかないのであった。
そんな光景を間近で見ていたレミリアは霊夢でさえも怯えるお妙を見て自分も彼女にボコボコにされた事を思い出して、また激しい恐怖感を覚える。
「よりにもよってどうしてあの女の弟を攫ったのよ咲夜の奴……あんなの人間じゃないわ、妖怪でも人間でもない怪物よ……」
「まあこれに懲りたらお前も二度とこんな悪さを企もうとしない事アルな」
「……」
いつの間にか自分と同じくお妙から距離を取って離れていた神楽にそう言われて
すっかりお妙の事が恐怖の対象としか見られなくなったレミリアは素直に頷くのみであった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「まあ大変、私の作ったオムライス食べた霊夢ちゃんがあまりの美味しさに伝説のスーパーサイヤ人みたいになっちゃった」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 誰かカカロット呼んで来てぇぇぇぇぇ!!!」
霊夢が庭で悲鳴を上げてる一方、八意咲夜は厨房にてめんどくさそうに料理を作っていた。
「住む家がボロボロにされた上に食事まで用意しろとか無粋な客も良い所だわ」
「いや家壊したのはアンタでしょ」
けだるそうにしても手慣れた感じで料理を作っていく咲夜に、お手伝い役として彼女の補佐を買って出た新八が隣からボソリとツッコむ。
「ていうか大丈夫なんですか? さっき姉上がいつの間にかこっちで料理と呼べないクリーチャーを創造して庭の方へ行ったみたいなんですけど」
「庭にいるのはそちらの巫女と大食い妖怪と、お嬢様だけでしょ、誰が被害に遭おうと私には関係のない事だわ」
「いやお嬢様はダメだろ! 一応アンタあのロリっ子吸血鬼のメイドなんだろ!」
「え、そうでしたっけ?」
「自分の設定忘れてんじゃねぇ!」
とぼけた感じでレミリアがどうなろうが知ったこっちゃないといった感じで、お妙の事など気にせずに料理を作る事だけに集中する咲夜。
野菜を包丁で刻みながら新八が流石にレミリアが不憫だと思う様になっていると
「ねーねー、私もお腹空いたんだけど、「人間丸ごと焼き・ミディアムver」まだー?」
「そんな料理作る訳ねぇだろ! ていうか調理場の上に乗るなや!」
いつの間にか自分が使っている調理場の上に、レミリアの妹であるフランが足をバタつかせながらヘラヘラ笑いながら座っているではないか。
どうも彼女、新八がここに誘拐された直後から、何かと彼に声を掛けたがる。
恐らく他の紅魔館の連中よりも反応が面白いせいであろう
「つうか邪魔だから庭の方にでも遊びに行って来てよ! 今頃姉上の殺戮兵器によって凄い事になってる筈だから!」
「殺戮兵器!? 何それ! それでお姉様の首がグルグル回って最終的に千切れたりとかしちゃってる訳!?」
「なんちゅうバイオレンスな事を言いながらキラキラと目を輝かせてんだ小娘! ちょっとぉ! 咲夜さんと美鈴さんもこの娘っ子に言ってやって下さいよ!」
「いやーアハハ……」
純粋無垢な笑顔を見せつけながら、物騒な展開を期待した眼差しを向けて来たままこちらに身を乗り上げるフラン。
新八は同じく厨房にいた咲夜と、何故か調理中の彼女の肩揉みを担当している美鈴に声を掛けるが、美鈴の方は申し訳なさそうに苦笑を浮かべ
「残念ながらこの館に仕える私達からは彼女に強く言えないんですよ、フラン様はお嬢様の妹君であられますし、機嫌を損なわせればうっかりピチュられる事だってあり得ますし、だから正直あなたがそうやって対等な感じでツッコミを入れられるのを凄いなと感心しているんですよ」
「いや僕の場合立場上誰であろうとこういうテンションでツッコみをしないといけないという哀しい宿命に囚われてるだけなんで……」
相手が誰であろうと常にこういうテンションでツッコミを入れなきゃいけないという、ツッコミ役としてのプライドがあるからこそ新八はフランであろうと誰であろうと容赦なくツッコめられるのだ。
フランと仲良く出来ている様子の新八をちょっと羨ましそうにする美鈴だが、新八自信としてはいとも容易くなんでも破壊できる吸血鬼とは距離を置きたいのが本音だ。
「ていうか美鈴さんはともかく咲夜さんの方は主にズケズケと言えるじゃないですか、こっちの金髪娘にも言ってやって下さいよ」
「知ってますかフラン様? 鳩はベトナムでは「チンポコ」と呼ばれているんですよ」
「へぇ~、ベトナムってどこ?」
「なんで今このタイミングでトリビア言った!? しかも酷ぇ下ネタの! そういう「言う」はいらねぇんだよ!」」
死んだ目をしながらフランに丁寧かつこの状況下でもっともいらん知識を与える咲夜。
銀時の姉だと聞いてはいるがやはり彼女も何考えてるかよくわからない節がある。
新八が厨房でひたすら周りにツッコミを入れているその頃
図書館ではパチュリー、魔理沙、そしてアリスの三人の魔法使いが珍しく揃っていた。
館そのものはすっかり壊れてしまったが、幸いにもパチュリーの拠点であるこの図書館だけは無傷で済んだ様子である。
「で? どうして私の城に盗人魔法使いとメンヘラ魔法使いがいるのかしら?」
「細けぇ事言うなよパチュリー、せっかく遊びに来てやったんだから」
「あなたね、館を無茶苦茶にした連中のお仲間のクセに、よくもまあそんな事をヘラヘラしながら言えるわね」
「だから細けぇ事気にすんなって、ところで「ギン肉マン」の単行本がある場所ってどこだ?」
「細かくないわよただの正論よ正論! しかもこの期に及んでまだ私のジャンプコレクションを奪うつもり!?」
椅子に座りながらテーブルに足を乗せてジャンプを読み始めた魔理沙に、この部屋にあるモノ全てを大事にしているパチュリーは再び追い出してやろうと立ち上がる。
「さっさと出て行きなさい! キン肉バスター食らわすわよ!!」
「いや病持ちのお前がそんな技やったら死ぬだろ。心配しなくても私はこの館のメイドの料理食べたらちゃんと帰るって、美味いんだろ?」
「まあ美味いのは確かね……ただあのメイド、どうも愛想が悪い上に何考えてるかよくわからないから私は苦手だわ」
だったらさっさと庭に行って食って来いと魔理沙を睨み付けながらパチュリーが答えると
「そんな事言っちゃダメよパチュリー」
「?」
そこへ不意に一緒に座っていたアリスが静かに語りかける。
「お義姉さんはきっとあの人と同じく感情を表に出すのが苦手なだけなのよ。しっかりとお義姉さんの目を見て理解しようと努力すれば、きっとお義姉さんの事をわかる事が出来るはずだわ」
「そうね、でもまず私はアナタの事が理解出来なくて困惑しているわアリス」
「まさかとは思うがお前の言っているお義姉さんというのは咲夜の事じゃないだろうな?」
「当たり前でしょ、私のお義姉さんは彼女一人よ」
咲夜の事を義理の姉と呼ぶアリスにどことなく違和感を覚えるパチュリーと魔理沙
この館に彼女が来た時から思っていたのだが、どうもアリスの様子が変だ
何が変って彼女のまるで銀時と夫婦になってるかのような口ぶり、そしてずっと大事そうに抱き抱えている西洋の人形だ。
「さっきからずっと怖くて聞けなかったけどこの際だから尋ねるけど、あなたが抱えてるその人形は一体何?」
「人形? おかしな事言うわね私は人形なんて抱えてないわ、私が抱えてるのはあの人と私の愛の結晶であるこの子だけよ、そうでちゅよね~上海ちゃん」
「……ごめんなさい今日色々あって私疲れてるみたい、私が唯一自分と同格だと認める魔法使いがなんか以前とは別人になってる様な……」
「いや別にお前が疲れてる訳じゃねぇよ、今のアリスは誰からどう見てもヤバいから」
猫撫で声を出しながら大事そうに持つ上海と名付けられた人形を高く掲げながら朗らかに笑うアリス
そんな彼女にパチュリーは顔を右手で覆いながら自分が正気なのかどうか混乱していると
魔理沙がポンと彼女の肩に手を置いて、正気じゃないのはアリスの方だと優しく諭してあげる。
「なんでも事の発端は八雲の旦那と一夜の過ちを犯しちまったからみたいなんだ、まあ実際ヤッちまったかどうかはわかんねぇけど。それっきりアリスの奴、旦那の事を意識しまくりでよ、終いには妄想と現実の区別が出来なくなっちまった」
「恋愛経験ゼロだから急な展開に脳が対処しきれなくなり暴走したって所かしらね……妄想を打ち消す魔法とかあったかしら?」
「そんなモンがあるのかは私も知らないが、出来れば早い内にそれをアリスに掛けて欲しいぜ……」
上海人形をあやしながら「良い子でちゅね~」と赤ん坊口調が定着しつつあるアリスを見て
同じ魔法使いとして本気で心配になってきたパチュリーと魔理沙
普段はいがみ合う三人だが、流石に長年の知り合いがこんなヤバい状態になっているのを見過ごす事は出来ない。
「ていうかその八雲の旦那って人が原因なら直接本人を出せばうまく解決してくれるんじゃないの? その人何処行ったのよ」
「あぁ、そういや姿見てねぇな、ちょっと前に庭で見かけたけどそれっきりだ」
アリスがこうなった原因が銀時にあるならここに呼びつけて彼に対処させればいい
そう思ったパチュリーだが魔理沙曰く、彼はもうここにはいないらしい
「ったく一体どこ行ったんだか……」
「奥さんの所よ」
「へ?」
魔理沙が文句を呟いている所へ口を挟んだのは、上海を両手で優しく抱えたアリス。
「ここに来る前に私あの人と会ってたのよ、その時言ったの「そろそろ約束の時間だからカミさんとの約束守りに行く」って」
「約束を守る……? どういう意味だ?」
「さあ、私なんかが知る訳ないでしょ」
首を傾げて尋ねる魔理沙に、アリスは思わずフッと笑う。
「けど絶対にやり遂げようと決心している顔だったわ、きっと本当に凄く大事な約束なのよ彼女との……」
「やっぱり私じゃ、彼女には敵わないわねぇ……」
銀魂がいよいよ終わるらしいです。
正直終わりが見えなかったからコレ今年中は続くんだろうなと思ってたんで驚きました。
という事でこちらの作品も残りカウント5です。
最後までお付き合いして下されば幸いです