輝夜と取引した事によってよって手に入れたアルタナの結晶
コレを使えば蓮子もまたいつも通りの元気な姿に戻れると確信したメリー
しかし誰かを、大切な人を犠牲にして手に入れたという事を二人の会話で察した蓮子はそれを受け入れる事を拒絶
そうこうしている内に彼女達の前に
松陽と永琳の一人娘である咲夜が姿を現したのだ。
「こうして状況を眺めてみる限り、あなたはその石ころを手に入れる為にその女に私の両親を売ったと見解出来るんだけど、そうなのメリー?」
「……」
「だんまり、か……それはつまり私の言い分を概ね肯定するという事で間違いないと判断してよろしいみたいね」
蓮子を抱き抱えたまま固まって動けない様子でいるメリーに対して軽くため息を突くと、咲夜は着物の裾からスッとあるモノを取り出す。
「まあだからといって、もう別にどうでもいいんだけど」
「!」
裾の奥から事前に用意していたのか、1本の鋭いナイフを満月の光に照らしながら冷めた様子で取り出す咲夜。
これが輝夜を松陽達の所へ案内した報いなのか……と考えながらメリーは蓮子を抱き寄せたまま恐怖で目を見開いていると
「悪いけど、このまま泣き寝入りなんて私の性に合わないのよ……」
その束の間、いつも死んだ魚の様な目をしていた咲夜の目が強くカッと見開いて、手に持ったナイフを素早く投げて来たのだ
すると
「ぐッ!」
「え!?」
ナイフが飛んで行った先はメリー達の方ではなく、一緒にいた輝夜の喉に向かって深々と突き刺さったのだ。
一瞬の出来事にメリーが混乱していると、輝夜は喉元を押さえながら口から微量の血を吐きつつ地面に両膝を突く。
「フ……なによ面白い事でも起きるかと思ったのに……最初っから狙いは私だったって訳……?」
「そらそうよ、ここで私が一番恨んでる相手を選ぶとしたら、他でもないあなたに決まってるでしょ、一等賞当選おめでとう」
「残念ね、あなたにはちょっとした親近感も持っていたのだけれど、でも……」
喉元から来る強い痛みを我慢すると、輝夜は自ら突き刺さったナイフを素手で引き抜く。
すると刺さった部分は瞬時に回復していき、傷の再生を終えた輝夜はニヤリと咲夜に笑いかける。
「こんなちんけなナイフで殺せるほど、私に流れる不死の血はそう安くてはなくてよ?」
「……あなたの身体、やはり私と同じみたいね」
「ええそうよ、私の身体は不老不死、つまりはあなたと一緒」
手に取ったナイフをめんどくさそうにポイッとその場にほおり捨てながら、輝夜は何事も無かったかのように両手を腰に当てる。
「賢いあなたなら察してるでしょうけど、母親は違えど私とあなたは同じ父親の下で生まれた存在、父が持つ不死の力も当然備わっているわ」
「……父親、そう、あなただったのね、父が唯一故郷に残した大切なモノ」
彼女の言ってる事が正しければ、輝夜はつまり咲夜の母親違いの……。
そんな衝撃的な事実を聞いてもなお、咲夜は特に驚く様子を微塵も見せない。
「あなた自らこの星へ来たのも、全ては父親を自分の所へ連れ戻したかったから? 親離れできないとんだファザコンね」
「私からすればあなたがドライ過ぎるのよ、普通両親と引き離れそうになったら必至に足掻くモンよ? それなのにあなたは両親と今生の別れになる時もただこっちを睨み付けるだけって」
「コレから殺す相手の顔をハッキリと覚えなきゃって記憶に叩き込んでたのよ」
刺々しい口調で輝夜に対して殺意を露にする咲夜
しかしそんな中、緊迫した雰囲気の中でどうすればいいのかと困惑していたメリーに抱き抱えられていた蓮子が遂に動き出す
「全く……目が霞んでほとんど見えないけど……どいつもこいつも私を置いて勝手な真似してくれちゃって……」
「蓮子!」
「まあ、元を辿ればこんな事になってるのも私達のせいって事よね、メリー……」
メリーの両腕から残った力を振り絞って引き離すと、アルタナの結晶を手に持ったまま自力で立ち上がる蓮子
目の色は既に失われており、もはや限界の領域に達してしまった彼女は声を出す事さえも苦しそうだ。
「ケジメつけなきゃね……終わらせてあげるわよ私が全部……松陽を、先生をどうにかして連れ戻してアンタ達が納得できるよう上手くまとめてやるわ……」
自分が原因でこの騒動が始まったなら自分で始末をつけるとのたまう蓮子に、輝夜は面白くない冗談だと鼻を鳴らす。
「大層な事を言ってくれるわね死にかけの娘さん、既に目の光も消えて呼吸もままならない状態のあなたにそんな事が出来るとでも思ってるのかしら?」
「問題ないわよ……癪だけどメリーから貰ったコイツを使わせてもらうから」
メリーが松陽と永琳を輝夜に売った事で手に入れたアルタナの結晶を取り出す蓮子。
本当は二人を代償にして手に入れたこんなモノに頼りたくなかったのだが
このまま大人しく死ぬ前にまだ自分がやらなければいけない事が見つかったと蓮子は決心し
「私は……まだなれてないのよ、松陽のいう侍って奴に……己の思想に真っ直ぐに従い、大切なモノを護り抜く……その為に私は……!」
そして覚悟を決めた表情で、蓮子は手に持ったアルタナを思い切って口にほおり込む。
心配した様子で見つめていたメリーが、無事に彼女がアルタナを摂取したのを見た時にホッと一瞬安堵の表情を浮かべるも
「!?」
「ひッ! れ、蓮子ぉ!」
次の瞬間、蓮子の身体からドクン!と強い音が鼓動したと思うと、蒸気のようなモノが湧き上がり始めたのだ。
膝から崩れ落ちてシューシューという音を立てながら、己の身体が内側と外側両方がボロボロと崩れ落ちていくのを感じる蓮子
一体どういう事だ、何が起きたと蓮子が困惑していると、「あーあー」とこの状況下で唯一呑気な声を出す人物が一人
蓮子が飲み込んだアルカナの結晶を持って来た張本人、輝夜である。
「やっぱりダメみたいね、同じ結晶ならイケると思ったんだけど。ま、これもまたあなたの運命ね、受け入れなさい」
「ど、どういう事よ……」
「私があげたアルタナの結晶は私達の故郷、つまり月で取られたモノなのよ。でもあなたってば生まれは地球なんでしょ? だったら必要なのは地球産のアルタナだったって話よ」
崩れ落ちていく身体でなお自分に問いかけて来た蓮子に、輝夜は淡々とした口調で説明してやりながら肩をすくめる。
「ま、要するにあなたの身体の体質上受け入れられるのはこの星のアルタナだけって事、そこに月のアルタナを無理矢理摂取しようとしたモンだから、別のエネルギーを吸収しちゃった事で身体が制御できずに自壊しちゃったの」
「そんな……嘘でしょ……」
気楽な様子ではあるが言っている事はあまりにも残酷な真実
それを聞いて目を見開きながら思考が定まらない状態で、震える声でメリーはゆっくりと彼女に尋ねる。
「あなたもしかしてそれをわかってる上で……私にあんな話を持ち掛けたっていうの……それじゃあ私が先生達をあなたに引き渡したのも全てあなたの手の平で踊らされただけ……」
「いや完全に把握はしていなかったわよ、もしかしたら地球生まれの奴でも適応するかもしれないとは考えていたから、ま、こうして見る限り無理みたいだったらしいけど、ごめんなさいね」
「お前……!」
己の所業に全く罪の意識すら感じない様子でこちらに首を傾げて見せた輝夜に
メリーは初めて心の底から怒りと憎しみが湧き上がるのを感じた。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「……はぁ、カッコ悪過ぎでしょ私……」
「!!」
今すぐにでも落ちてるナイフを拾って輝夜に飛び掛かってその顔を引き裂いてやりたいという衝動に駆られるメリーだったが
そんな彼女を引き止めるかのように蓮子が自嘲気味に力のない笑い声をあげる
砂の様に崩れ落ちていく身体で
「せっかくもう一度やり直せるチャンスだと思ったのにさぁ……あんだけ偉そうな事言っておいてコレとか、三流コントもいい所よ……」
「れん、こ……」
「ねぇ咲夜……あんたそこにいる? ちょっと私の最期の頼み聞いて欲しいんだけど……」
「……」
サラサラと粒状になって消えていく中で、蓮子がメリーを置いてひとまず先に話しかけたのは
ずっと黙って目の前の出来事を傍観していた咲夜であった。
彼女は返事するのを少し躊躇した後、意を決したかのように蓮子に向かって口を開く。
「……いるわよ、なに?」
「……メリーの事をお願い」
遠のく意識の中で蓮子が最期に咲夜に頼んだのはメリーの事であった。
「この子私にベッタリだったから……私死んだらすぐに私を追う様な真似しかねないのよ……だからアンタが止めてやって、それと出来るなら私の代わりにアンタがこの子の傍にいて欲しい……」
「後追い自殺の件は止めてやってもいいけど、あなたの代わりに傍にいるという件は承諾しかねるわね」
「……なんでよ」
「あなたの代わりなんてあなた以外に務まらないって事よ」
不満げに呟く蓮子に咲夜は自分の腕に手を置きながらあっさりと答える。
「私には私にしか出来ない事があるの、あなたにだってそうよ、もし彼女を今後泣かせたくないのなら、生まれ変わってでもしてもう一度彼女の傍にいてやりなさい」
「おいおい随分と難しい事言ってくれるわねコノヤロー……まあでも生まれ変わりか……」
その発想は無かったなと咲夜の提案に蓮子はフッと笑う。
「確かにアンタなんかに任せるより来世の自分自身に賭けてみるってのも悪くないわね……」
生まれ変わりだの前世だの、そういうオカルト的な話は昔から好きだったが半信半疑な所もあった。
でも今はそれで彼女が救われるなら……
例え彼女が一時的な僅かな希望にすがって生きてくれるならそれで……
「……メリー、私の傍にいる?」
「! 私はここよ蓮子!」
彼女が傍にいるかと尋ねると、すぐにメリーは急いで蓮子に返事をする。
蓮子からはもう見えないが、彼女が泣いているのが音で聞こえる
「お願い死なないで! あなたが死んだらもう私には何も残ってないのよ! あなたのいない世界なんてもう生きていけない!!」
「約束するよ、きっとまた逢えるって、だから泣かないで……」
「!」
「次に逢う時は私はもう二度と死に別れない……だから生きていて……」
残っている方の右腕をゆっくりと伸ばして、メリーの顔を触りながら蓮子は優しく語りかける。
「時の螺旋の中であなたがどの時代で生きようと、その時にあなたが変わっていたとしても……私はあなたを見つけられるよ……」
「また逢えるって……」
「地獄の業火に身を焼き尽くされようと、閻魔様を出し抜いて、輪廻の輪を潜ってまた逢いに行く」
我ながらなに無茶苦茶な事言ってるんだと思いながら、蓮子はそっとメリーに笑いかけたまま最期の言葉を彼女に残そうと全力注ぐ。
「だからもう悲しまなくていいんだよ、生まれ変わればあなたの事を忘れてしまうかもしれないけど……あなたと私ならきっと逢える……」
「そんな事言っても……」
「だって私とあなたは永遠の鎖で結ばれてるんでしょ? 再び巡り合えた時は、もう二度と手を離さないよ……」
「蓮子……」
彼女がこれからも生きてさえいてくれればそれでいい
メリーの事を気遣って蓮子が最期に出来る事は、彼女を安心させる言葉を投げかける事だった。
「願わくば次に生まれ変わる時は、先生の言っていた侍になって、誰にも負けない強い力であなたを護りたい……あなただけでなくあなたの大切な世界も護れる位の強いお侍さんに……」
「……」
メリーの嗚咽が聞こえなくなった、無言で自分の話を聞いてくれている彼女に蓮子は安堵の表情を浮かべる。
「やっと泣き止んでくれわね、私とあなた一旦ここでお別れだけど、生と死を超えた境界でもう一度逢いに行く」
「うん……」
「例えあなたが変わっていようと、例え私があなたを忘れていようと、運命の螺旋はきっと巡り合わせる」
「うん……うん……」
「……それまではお互い頑張りましょうか」
暗闇の中で蓮子はただ自分が消えていくのを感じながら
最後の最後にメリーに向かっていつもの調子で見せていたあの頃の笑顔を浮かべ
「夢は現実に変わるもの、夢の世界を現実に変えるのよ……メリー」
その言葉を最期に蓮子の身体はサラサラと音を鳴らしながら砂状になって地面に崩れ落ちていった。
宇佐見蓮子が死んだという現実に、メリーは焦点の定まらない目で、震える腕で彼女であったその砂を反射的に拾い上げようとするも
突然の突風が発生して蓮子だった砂を天高く舞い上げていき、あっという間に見えなくなるほど飛ばされてしまった。
「あ……あ……」
彼女は死んだ、死んでしまったのだという現実を叩き付けられたメリーはたどたどしい声を上げながら両手で頭を抱えてふさぎ込む。
「いや、いやぁ……」
これが現実であって欲しくない、現実じゃダメなんだと自分自身に何度も言い聞かせながら頭を揺すり始めるメリー
「ダメよ、ダメダメ絶対ダメ……!」
「落ち着きなさいメリー……無理もないけどあなたが壊れちゃったら彼女は……」
「蓮子、蓮子、蓮子、蓮子……!」
激しく取り乱し始めたメリーを神妙な面持ちで咲夜が声を掛けながら歩み寄ろうとする
だがその時であった
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「!?」
「なに! これは……!?」
不可解な現象が突然起き始めた。
喉の奥から全力でメリーが声を上げると
突如彼女を中心に次元に切れ目が入ったかのような歪な裂け目が生まれ始める
その裂け目の隙間には無数の目玉がこちらを静かに見据えている。
突然の出来事に咲夜も声を失って驚き
「どうゆう事……アンタ一体何を……!」
輝夜でさえも動揺していると
その裂け目は瞬く間にメリーを飲み込んでいき……
メリーは
この残酷な世界を拒絶し両目を瞑った