銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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この歪な世界の真実


#73 境界

幻想郷に朝が来た。

 

銀時の選択によって、もしかしたら二度とこの世界に来る事の無かった朝が

 

 

「全ての発端は、マエリベリー・ハーンが宇佐見蓮子の死によって、現実に対して強い拒絶反応を示した事が始まりだったわ」

 

ここは人里から遠く離れた永遠亭

 

その庭で席を設けて椅子に座りながら語りかけるのは

 

この世界の真実を知る数少ない人物、八意永琳であった。

 

「大切な人を助けられなかった己への怒り、悲しみ、憎しみ、哀れみ、そういった負の感情が一気に押し寄せた瞬間、彼女の眠っていた力が暴走したのよ」

「……その眠っていた力ってなんだったんですか?」

「眠る力よ」

「……は、はい?」

 

永琳に紅茶を淹れて上げながら話の聞き役になっていた鈴仙は、彼女の言った事に混乱した。

 

眠っていた力が眠る力?

 

「まあ正確に言うなら、辛い現実から離脱して自分の思い通りの世界に入り込んで眠る、つまり己の夢の中に閉じこもる力よ」

「ゆ、夢の中ですか? もしかして私達が住むこの幻想郷って……」

「彼女自身が生み出した夢の世界よ、ここは正に彼女が望んだ理想の都、幻想で作られし世界なの」

 

ここが八雲紫、否メリーが作った夢の世界……?

 

という事は今まで何も知らずにここで生きていた自分達は一体どんな存在なのだろう……

 

鈴仙の表情に不安と恐怖があるのを察すると、永琳は彼女が淹れた紅茶を一口飲んだ後すぐに口を開く。

 

「夢の世界といってもここもまた確かに存在する世界よ、現実の世界との鏡合わせ……並行世界と呼称した方がわかりやすいわね」

「すみません全然わからないです……ただこの世界は決して全てが偽物な訳じゃないという事で良いんですか?」

「ここにあるモノは全て本物よ、偽物なんてありはしないわ。少なくともメリーにとってはね」

 

 

鈴仙はふと自分の人生を思い出す、かつては月で生まれそこで育ち、やがて色々あってこの地球に逃亡して、そこで永琳と出会いこうして師弟関係を結んだ状態で共に住んでいる

 

「メリーは私達を造り上げた訳ではなく、元の世界とまるっきり同じ世界をコピーしてそこへ逃げ込んだという訳ですか?」

「そんな感じかしらね、ただ完全なるコピーではないの、例えば私はこっちの世界じゃなくてメリーや蓮子がいた世界の住人だからよくわかるんだけど」

 

テーブルに頬杖を突きながら永琳はちょっとずつ理解出来ている弟子にクスッと笑いかける。

 

「私達の世界には近藤勲という道場の跡取り息子がいた、人間のね。けどこっちの世界での近藤勲は天狗という妖怪だったわ、見た目や性格やゴリラ度は完全に瓜二つなんだけど、根本的に違う部分もあるのよ」

「ゴリラ度ってなに……? まあつまり、ここは歪みに歪んでいる世界なんですねここは……」

「メリーにとっての歪な願望が、この世界を元の世界とは全くの別物にしようと躍起になっていたのかもしれないわね」

 

歪んだ世界、それがメリーが望んだ理想郷だったかどうかはわからないが

 

少なくとも辛い現実から逃げたかった彼女は、最初はこの夢の中を隠れ蓑にしてふさぎ込んでいたのであろう

 

「誰だって眠れば一度は夢を見るもんでしょ、彼女はその夢の中を永く永く彷徨える力を持ってしまった。長い時を生きる為にその身を妖怪とし、誰であろうと立ち向かえるほどの強い力を欲し、その結果彼女の中に生まれたのが八雲紫という大妖怪よ」

「夢の中だからそれを実現できたって訳ですか……でもどうして長く生きようと願ったのでしょうか、その蓮子って人が死んでしまったのだから、もうさっさと死んでしまいたいとか思わなかったんですかね?」

 

意外とキツイ事を言ってのける弟子に永琳は思わず吹き出しそうになってしまっていると

 

二人の下へ一人の女性が長い黒髪を垂らして歩いて来た。

 

「わかってないわね、彼女は信じてたのよ、宇佐見蓮子と最期に交わした約束を」

「あら姫様、二日連続で早起きするなんて珍しいですわね」

「寝てないだけよ、夜中妙に寝付けなくてずっと起きてたの」

 

そう言いながらけだるそうにやってきたのは蓬莱山輝夜

 

「きっと宇佐見蓮子が生まれ変わってもう一度会いに来るのを確信していたんでしょうね、彼女なら絶対に約束を破らないって」

「そこまで信頼できるって凄いですね、ちょっと怖いですが……」

「あの時のメリーは正気じゃなかったでしょうしね、少なくとも彼と会うまでは」

 

彼女は永琳と向かい合う様に席に着くと、急いで紅茶を彼女にも淹れる鈴仙

 

「メリーが能力を開眼した時、私と妹、あなたの娘の咲夜も一緒に巻き込まれて境界のスキマに吸い込まれてしまったのよ、あの時は焦ったわ本当に、いきなり訳の分からない世界に放り込まれて」

「それは私達も驚きましたわ、けど私達は誰かさんのおかげで月での軟禁生活を強いられていたので、そう簡単に抜け出せませんでした」

「棘のある言い方ね……けどしばらくしたらやって来たじゃない、よくもまあ月の民を出し抜いてメリーの創り出した異世界なんかに潜り込む事出来たわね」

「道を切り開いてくれのは松陽です、この世の理に干渉できる力を持つ彼であれば、メリーの夢の中もまた彼の力の範囲内ですから」

 

輝夜と咲夜はあの時、メリーの力に巻き込まれて長い間異世界を彷徨う羽目になる。

 

しかしそこに現れたのは、彼女達の父である八意松陽であった。

 

「でもまさか娘二人の行方を捜しに単身で異世界に行くとは思いませんでしたわ、まあその時は私もお腹が膨らんでいたので追うに追えない状況だったんですけどね」

「ええ! お師匠様妊娠なされてたんですか!? もしかしてその時お腹の中にいたのが!」

「ご察しの通り、姫様と咲夜の弟よ」

 

さっきから色々ととんでもない話ばかり聞かされて驚きっぱなしの鈴仙が慌てて問いかけて来ると

 

永琳はあっさりと自分のお腹を軽くさすりながら答える。

 

「あの子を産んだ後すぐに私も松陽の後を追いかけたけどね、中々時間がかかったけどメリーの創った世界を見つけて、赤子を連れたまま大冒険よ」

「異世界に一家全員集合ですね……その後どうなったんですか?」

「その世界で出来た知り合いの女性に息子を預けたわ、坂田ネムノって名前の山姥の妖怪にね」

「ちょ! 連れてきた息子さんを山姥に預けたんですか!?」

 

大切な我が子をそんなあっさりと他人に、しかも妖怪に預けるとはどういう事だと鈴仙が不思議がっていると

 

永琳は眉間にしわを寄せ気難しそうに

 

「私の傍にいたらあの子が危なかったのよ、だってあの頃は人々が激しい勢力争いを繰り広げていた時代だったし、突然現れた素性の知れぬ子連れ狼の私なんか、胡散臭過ぎてしょっちゅう周りから警戒されてたり襲われそうになったもの」

「確かにお師匠様って時代関係なく常に胡散臭い見た目ですもんね……」

「あら言うわね鈴仙、後で尻に全力タイキックかましてあげるから覚悟しなさい」

「すみませんでした勘弁して下さい!」

 

永琳をジロジロ見ながら思わずポロッと本音を出してしまう鈴仙に彼女はにっこり微笑んだ後

 

輝夜の方へ振り返って話を続ける。

 

「でもやっぱり血の繋がった子と別れる事は身を引き裂かれるぐらい辛いものでしたわ、父であった松陽と離れ離れになってしまった姫様のお気持ちもあの時痛い程よくわかりました」

「フン、別にアンタに共感なんてされても嬉しくないわよ……」

 

永琳の事をジロリと軽く睨みむと輝夜は不機嫌な表情で目を逸らす。

 

「アンタが私の所へ来たのは自分の赤子を山姥に預けた後だったのね、全く……父親と二人暮らししてた所に水を差しに来るなんて」

「いやその父親は一応私の夫なので」

「まあアンタの存在はうっとおしかったけど……あの頃は私にとってほんの一瞬の間の幸せな一時だったのは認めるわ」

 

永琳が輝夜で再会した時には、もう松陽は彼女と共に一つ屋根の下でひっそりと暮らしていたらしい。

 

だが異世界に来て遂に父と暮らす事が出来たのも束の間、輝夜に思いもよらぬ事件が起きた。

 

「でもそれからしばらく時が流れると、父は私達の前を去ってしまったわ、しかも不死の源であるアルタナエネルギーを全て私に託し、人として生きる事を決めて……」

「仕方ありませんわ、姫様の身体はあの時はもう月のアルタナエネルギーが欠乏していて満足に動く事も出来ませんでしたから、かつての蓮子と同じように」

「……私のせいで夫が死んでしまう事に、あなたは私を責めるつもりは無いの」

「子のためなら親はいくらでも命を捧げる覚悟は出来ている、私はためらいもせずにそれを実行した彼を誇りに思っています、姫様を責めるのは筋違いもいいとこですから」

「……」

 

自分を責めるつもりは毛頭ない、むしろ夫の行動には誇りすら覚えると自信満々に笑顔で答える永琳に

 

輝夜は複雑な表情を浮かべてはいるがやっと彼女の方へ振り向いた。

 

「父はその後多くの妖怪退治に参加して、やがては武家の位を手に入れてそれなりの地位を築いたと聞くわ。そしてその時出逢ったのがあなたの息子であり私の腹違いの弟の坂田銀時……」

「運命だったかもしれませんね、己の父とは知らず拾ってくれた恩を返す為にあの子も随分と妖怪相手に暴れ回ったと聞いております」

「な、なんだかすごい偶然ですね……まるで本の物語みたいです」

 

 

輝夜と永琳の話を聞く中で、鈴仙がそんな事をぼやいていると、不意に「ん?」と永遠亭の方へ振り返る。

 

「何やら誰かの声が聞こえますね、お客さんでしょうか? 私ちょっと見てきます」

「簡単な診断ならあなた一人に任せるわ、私はまだしばらく姫様と話してるから」

「あ、はい!」

 

永琳にそう言われると鈴仙はそそくさと庭を後にして永遠亭の玄関へと駆けて行った。

 

「……松陽は彼が己の息子だと気付いてたんでしょうかね」

「気付いてたわよきっと、だってアンタの息子、アンタそっくりじゃないの」

「あた、そんなに似てるでしょうか?」

「性格も見た目もクリソツよ、娘の方もね」

 

ちょっと古い表現を使いながらハッキリと断言すると、椅子の背もたれに身を預けながら輝夜は静かにため息を突く。

 

「父は……私を庇って人として逝ってしまったけれど、幸せだったのかしら……」

「幸せでしたわきっと、なんなら今度本人に話を聞いてみたらどうですか?」

「はぁ? バカ言わないでよ、もうとっくの昔に死んでしまったのに今更話を聞ける訳……」

 

悪い冗談をいう永琳によしてくれと輝夜が苦笑しながら一蹴していると

 

ふとこちらに歩み寄って来る足音が聞こえた。

 

「お師匠様! お師匠様に会いにお客様がお見えになりました! あ、お師匠様だけじゃなくて姫様にも用があるとか!」

「私に? 一体何処のどいつ……あれ?」

 

いきなり鈴仙がスッとんで来たと思いきや、その後ろからはどこか見覚えのある姿をした女性が

 

確か永琳はよく彼女と二人で話をしていると聞いた事がある、

 

だが自分は彼女とは挨拶ぐらいしかした覚えは無いのだが……

 

「すまないお邪魔させてもらうよ、一昨日、永琳と話してた内容がどうも気になってね」

「……あなた確か人里で寺子屋の教師をやっている半妖の……」

「上白沢慧音だ、こんな朝っぱらから会うのは初めてだな、蓬莱山輝夜」

 

やって来たのは永琳がよく話し相手になってもらっている慧音だった。

 

突然現れて、しかも自分に用があるらしい彼女に怪訝な様子で輝夜は首を傾げていると

 

永琳は彼女の方へクスッと笑って

 

「ほら姫様、さっきの話を聞いてみたらどうですか?」

「は? 何を言ってんの? どうして彼女に父の……」

 

 

 

 

 

「あぁすまない、実は私も一昨日永琳に伝えられたばかりであまり自覚は無いんだ、それにその頃の記憶も無いしな、たまに夢でおぼろげに思い出す事はあるんだが……」

「……え?」

 

困惑している輝夜をよそに慧音もまた急に首をひねって思い出すような仕草を取り始める。

 

その行動と言動に輝夜は目を細めて彼女をジッと見つめると、慧音は口元に小さく笑みを浮かべながら

 

「確固たる根拠はないが、永琳が言うにはどうやら私は」

 

 

 

 

 

「輝夜、君の父の生まれ変わりの様だ」

「はいィィィィィィィ!?」

「パパと呼んでくれても構わんぞ」

「呼べるかァァァァァァ!!!」

 

ここに来てまさかのとんでもないカミングアウトを聞かされて、席から転げ落ちかける程驚いて見せる輝夜。

 

今明かされる衝撃の真実

 

 





松陽の能力はずっと前から決めていたんですが結構ヤバいですね

まあでも、東方のキャラにはもっとヤバいのが沢山いるから大丈夫ですね、うん。

次回は解明編・後編です

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