ホラー映画「輪廻」の主題歌・扇愛奈さんの「輪廻」です。
歌詞が思いきりネタバレになるから今まで伏せていましたが
本作の完結がてらに一度聴いてくれたら嬉しいです。
あ、映画の方の「輪廻」も面白いですよ、ホラーの中で一番好きです。
これは”あの頃”から数年の時が流れたもう一つの世界
「おもしれぇ妖怪や景色を描く奴がいるって聞いたんだが、もしかしてオメェの事か?」
沢山の人々が集う都市・東京
活気づいて多くの者達が歩いている所とは程遠い雰囲気の、人気の少ない薄暗いトンネルで
男は彼女と出会った。
「妖怪描いてるっつうからきっと水木先生みてぇな身の毛のよだつ強面の化け物描いてんのかと思っていたんだが」
「……」
「こらまた随分とガキみてぇな妖怪ばかりじゃねぇか」
地面に敷いたシートに座る彼女と共に置かれている絵を見て男はフッと笑う。
「けど俺は絵なんてモンは全く興味ねぇが、こういう非現実的なモンに見えて案外現実にいそうと思える存在を描くっつうのは、結構嫌いじゃねぇよ」
この日本ではすっかり見なくなった森や山が美しく描かれ、そこで妖怪と思われし少女達が遊んでるかのように動き回っているかの様であった
妖怪以外にも紅白色の巫女、人形を操る金髪の魔法使い、9本の尻尾を持つ狐耳の女性などと一癖も二癖もある絵が多く置かれている。その中に何故か毛深いゴリラが1枚描かれているのは不思議だったが
こんな陰気臭い場所で地面にシートを敷いて絵を売ってるとは中々に酔狂だと思ったが
彼女の描く独特で斬新な妖怪や化け物の絵はこういった人気のない場所で売られているからこそミステリアス感があって悪くないと思えた。
すると女性はクルリと長い金髪をなびかせてこちらに顔を上げる
澄んだ瞳でこちらをジッと見つめる彼女の表情は
絵を褒められたことに感謝するかのように男に優しく笑いかける。
「……ありがと、実はこの子達は私が夢の中で見て来たモノなの」
「へぇ、コイツは驚いた、お前さん夢でこんな奴等と会ってたってぇのかい?」
「ええそうよ、彼女達と出会ったあの時の夢は、これだけの時が流れてもなお忘れた事は無いわ」
「そりゃ忘れられねぇだろうよ、こんな面白そうな連中ばかりに会ってたら嫌でも頭に残っちまう」
夢の中で見た光景、彼女がシンプルにただそれだけを描いていたのだ。
普通ならば思い出す事さえ難しい夢の中身をここまでリアルに描いている事に男は女性に感心する。
「けどお前まともに食っていけてるのか? こんな薄暗いトンネルの中じゃ買う客なんかいねぇだろ」
「あら私の事心配してくれるの? でもお気遣いなく、案外物好きな客はどこにでもいるモンなのよ、例えばあなたみたいなのとか」
「へ、悪ぃが俺は別に買うつもりなんざねぇよ、ただ珍しかったから冷やかし程度に見に来ただけだ」
男はヘラヘラしながらそう言った後、彼女と視線を合わせる為にスッとその場にしゃがみ込む。
「それとそんな絵を売ってる変人だって有名なお前さんのツラを拝みに来たってのもある」
「酷い人ね、そしてそんな変人に会う為にわざわざやってきたあなたも相当変わっているわよ、自覚は無いのかしら?」
「ねぇな、基本的に俺がいる所は変人揃いだし、その中にいる俺一人だけまともだと常々思ってるから」
「そう考えてる時点でもう手遅れよ変人さん」
全く自覚のない変わり者の男に対して変わり者の女性はくすくすと笑うと
周りに置かれているの中の絵の一枚をスッと彼に差し出す。
「久しぶりに人と話せて面白かったわ、暇つぶしに付き合ってくれた礼にあげるわ」
「ああ? だからいらねぇって……誰だこのガキ? コイツだけどう見ても妖怪にも見えねぇ普通のガキにしか見えねぇんだけど」
「彼女の名前は宇佐見蓮子」
突然差し出された愛想の悪そうな少女の絵を見て、男はそれを受け取りながら顔をしかめていると
彼女が懐かしむ様に目を瞑りながらその絵に描かれた少女の名を呟く
「彼女は夢の世界の住人じゃない、この世界にいた唯一の私のお友達だったの」
「へーコイツが……なら尚更貰う訳には行かねぇだろ、オメェの唯一の友達だろ、大切にしてやんな」
「……裏を見て頂戴」
「裏?」
そんな絵を渡されても困ると男が絵を突っ返そうとすると、不意に彼女から裏面の方も見て欲しいと言われたので
宇佐見蓮子という少女が描かれた絵を引っくり返して裏を見てみると
そこには腰に木刀を差し銀髪天然パーマの空色の着物を着た男の後ろ姿が描かれていた。
「彼は蓮子と対を為す存在、そして私が見ていた夢の中で私の夫となってくれた男なの」
「……夫なら後ろ姿じゃなくてちゃんと前向かせて描いとけよ……」
「実を言うとここん所最近忘れかけていたのよ、夫の顔だけじゃなくて他の事も……でも」
その絵をジッと見つめながら呟く男に対し、女性はどこか安らぎを得たかのように安堵に満ちた表情を浮かべる。
「あなたの顔を見れたおかげでまた思い出せたわ」
「ったく、しばらく会ってなかったからって旦那のツラ忘れんじゃねぇよ」
「冗談よ、夢から覚めて何年経とうと、私があなたを忘れる事なんて絶対に無いわ」
彼女がそう言うと死んだ魚のような目をした男ははぁ~と深いため息を突き、懐からスッとあるモノを彼女に差し出した。
「ほらよ」
「あら、フフ」
それは手の平サイズの握り飯
ぶっきらぼうに突き出されたそれを見て彼女は吹き出しそうになりながらも、両手でそれを大事そうに受け取る。
「なんというか、いきなりコレを出されるとは思ってもいなかったわ」
「ここに向かおうとする時に藍に呼び止められて渡されたんだよ、受け取った時は完全に忘れてたが、久しぶりにお前のツラ見て咄嗟に思い出した」
「相変わらずね……藍は元気?」
「俺が主人になっても変わらず口うるせぇ奴だよ」
彼の話を聞きながら彼女は握り飯を一口食べる。
男もまた手に持ったもう一つの握り飯を食べ始めながら
「長い事待たせちまったな……すぐに迎えに行こうと思ったのに随分と時間かかっちまった」
「あなたが謝るなんて気味が悪いわね、そこは「来てやったぜコノヤロー、文句あんのかコラ?」ぐらいで丁度いいのよ、らしくない真似されると何か企んでるんじゃないかって思っちゃうじゃない」
「何それ、はるばる遠くから来てやった俺に対してまさかのダメ出し? 言っとくけど俺マジで頑張ったんだからね? 姉貴と母ちゃんと一緒に散々お前の事を探しまくったんだからね?」
「そうそう今の感じがあなたらしくていいわ」
謝ってやったのにと男が軽く彼女を睨み付けながら握り飯を食べ終えると
彼女の頬に付いていた米粒をヒョイと手に取って自分の口にほおり込む。
「ったくまた口元にご飯粒なんか付けやがって……」
そういや昔もこんな事あったな、思わず男はフッと笑ってしまいながら
「また会えたな、メリー」
「初めましてよ、銀さん」
これが二人の出逢い。
かつて人であった化け物
かつて化け物であった人。
別れ、繋ぎ、そしてまた別れた二つの線が三度目の交りをしたその瞬間
この物語はこれにて完結する。
「おい、ちょっと醤油取ってくんない?」
しかし物語はほんの少しだけ続く、それはなんて事のない日常で用いられる言葉からだ。
とある人知れぬ秘境の地にひっそりと佇む古い作りの屋敷にて
銀髪天然パーマの男が死んだ魚の様な目で話しかけたのは、ちゃぶ台を挟んで向かいに座る一人の女性だった。
マエリベリー・ハーン
れっきとした人間であり見た目からして20代。
その外見とは裏腹にかつてはこの幻想郷を取り仕切る管理人として、人間を始め妖怪からも避けられている極めて不可思議な大妖怪でもあったのだが……
今は極々普通の人間としてここの生活を送っている
そんな相手と同じ部屋で同じ食事を取るこの男は当然彼である。
そして彼が醤油取ってくれと言ってから数秒の間を置いて
「自分で取りなさい」
「んだよ、前はスキマでひょいとかけてくれたのに、倦怠期ですかコノヤロー」
男に悪態を突かれてもなお黙々と食事を取りつつ彼女は男に向かって目を細める。
「なにお前、ひょっとして怒ってんの? 今度はなんだよ」
「……」
「一人で勝手に地底に行って、そこで地底の連中と飲み騒ぎしてしばらく帰らなかった事は謝っただろ?」
「……」
「命蓮寺の僧侶とまたアリスの時の様な事故を起こした時は土下座までしたじゃねぇか」
「……」
「ああきっとアレだな、3日前の高杉と天子の結婚式に、俺とヅラと坂本で式場に盛大なゲロをぶちかまして……」
一体どれ程心当たりがあるのか手当たり次第に自分がやってきた事を言い始める男に。
メリーは手に持ったお箸とお茶碗を置いて呆れたような表情を浮かべていた。
「……あなたとは随分と長い付き合いなんだし、私が今何を考えているのかピタリと当てて欲しいわね」
「長いと言っても今のお前は紫じゃなくてメリーだからな、新婚みたいなモンだろ俺達」
「やっぱりあなた、女性に対しての接し方を勉強してきなさい」
空気も読めないこの男にイラッと来ながら、メリーは彼の顔にジト目を向けた後ふぅとため息を漏らし
「まあいいわ、実を言うと今私はあなたに言うべきかどうかずっと迷っている事があるの」
「ああ?」
それを聞いて男が首を傾げると、メリーはさっきまで不機嫌そうにしていたが急にコロッと表情を変えて
「でもこの際だから言う事にするわ、どうせ遅かれ早かれ言う事になるだろうし」
「なんだよ勿体ぶりやがって、言いたい事あんならさっさと言えよ」
口の中にモノを詰めながら銀時がけだるそうにそう答えると
メリーはそんな彼ににっこり微笑んで
「この前突然体調が悪くなったから永遠亭でお義母さんの所へ行ってきたの、そしたら……」
「「あらビックリ、あなたのお腹の中に私の孫がいるわ」ですって」
「ぶうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
その告白に男は思わず口の中に入れていたモノをテーブルにぶちまける。
男の名は『八雲銀時』。
妖怪でもなく人間でもなく
千年以上生き、不老不死の身体を持つ不思議な侍にして幻想郷の二代目管理人
そして
彼はもうすぐ父となるのであった
輪廻と夢を超えて幸せを掴めた二人の物語は
これにて本当におしまい
これにて本作は完結です、2年以上こんなロクでもない連中の珍道中に付き合って下さってありがとうございました。
ここまで長くなるとは思いませんでしたが無事に完結出来て私としても感無量です。
それではまたどこかで