ここは人間達が集まり生活する人里。
そこにある少し大きめな広場にて、七色の魔法使いことアリス・マーガトロイドが日課の人形劇を人間の子供達に見せていた。
「そして金太郎は見事に鬼をやっつけ、彼等が盗んだお宝や人々を持って帰ることにしました」
あまり他人との接触に積極的では無いし、なぜこういう事をする様になったのかさえ自分でも覚えていないのだが
とにかく子供達が楽しみに来てくれる内はやっておくかと軽い感じで行っているうちに現在に至ったのである。
「お宝を持ち帰った金太郎は村人達に返してあげ、一部は横領して自分の懐に蓄えて、晴れて勝ち組となり毎日女をはべらしてどんちゃん騒ぎします……」
しかしここ最近の彼女が行う人形劇は、何処となく違和感があった。
両手の指で釣り糸を垂らし、人形達を操るアリスの表情はどことなく暗い。
「年月を重ねるたびに金太郎は堕落していきます……鬼を倒したという功績が元で皆から崇め立てられ、その恩を使って人々から遊ぶ為の金を無心し尽くし……気に入った娘を見つければ声をかけて否応なく手籠めにし……その目は徐々に腐りきった魚のような目となり、かつての英雄の姿はどこにもありませんでした……」
そして何より劇の内容にアレンジが施され、児童向けの物語なのに妙に生々しいというかドロドロしている。
彼女の前に座り込んで劇を見ていた子供達も徐々に怯え始めてるのをよそに、アリスは肩を震わせ、衝動的になにかを訴えかけるような話し方で淡々と進め
「その姿と行いははまさしく鬼そのものでした、そうです、鬼を倒した金太郎は、支配欲に溺れていき、己自身が鬼と成り果ててしまったのです……」
アリスの操る人形達はとても可愛らしい見た目なのだが、内容のおかげで逆に禍々しく見えてしまう。
遂には一部の子供達が震えか、泣き始めたにも関わらずアリスは劇を止めようともしない。
「今となってはもうまともに見る事も出来ないほど醜く腐り果ててしまった金太郎……それに耐えかねて彼を最も影ながら支えていた一人の魔法使いは決めました、かつての英雄がこれ以上堕ちないよう、いっそ自分たちで終わらせてあげようと……」
「金太郎は綺麗な月が空に浮かぶ真下で、魔法使いの手によって容赦なく殺されました!! ひゃはははは死ねぇ!!! ざまぁ見なさい! 私を選ばなかった罰よぉぉぉ!!!!」
「なにやってんだテメェはァァァァァァァァ!!!」
「ぶふぅ!!」
子供達に読み聞かせる童話は一瞬にして殺伐とした血生臭い復讐劇
血走った眼を光らせながら片方の人形をもう片方の人形でズタズタに引き裂きながら狂気の笑いを上げるアリス
そしてそれを後ろから思いきりドロップキックをかますのは幻想郷の管理人、八雲銀時である。
人形の舞台と一緒に吹っ飛ばされた彼女は子供達の方に前のめりに倒れると、それが引き金となって次々と子供達は泣き叫びながら四方八方に逃げ惑うのであった。
「いたたた……なにするのよ金太郎! せっかく子供達の想像力を豊かにさせる為に人形劇をやってたのに!!」
「誰が金太郎だ! ガキ供が逃げたのは俺のせいじゃねぇよ! 想像力どころかトラウマになるモン植え付けてるお前が元凶だろうが!!」
逃げて行った子供達を見送るとアリスは恨めしそうに銀時の方へ振り返り睨みつけると、立ち上がって抗議する。
しかし実際子供達が逃げた原因は、後半からラストにかけて自分の感情を混ぜ合わせてアレンジし、恐怖の物語を仕上げた彼女の責任であった。
「近頃人里で苦情が来てんだよ! 頭のおかしい金髪の魔法使いがガキ供におどろおどろしい人形劇を無理矢理見せてて困ってるって!」
「頭のおかしい金髪の魔法使い? やれやれまた魔理沙がなにかやらかしたのかしら、ほんと同じ魔法使いとして恥ずかしいわ」
「ちげーよお前の事言ってんの! アイツも大概だけどお前は完全に常軌を逸してるから! ブレーキぶっ壊してフルスロットルで走り続けてるから!!」
銀時がここに来たのはちゃんとした理由がある。
八雲紫が去ったあと、今の管理人は夫である彼が引き継いでおり、人里で面倒なトラブルが起きればキチンと対応しなければならない。
そして今回のトラブルの解決方法は、全く自分が問題の原因だと自覚していないアリスをどうにかする事だ。
「お前さ、ここ最近いつにも増しておかしくなってね? なんかもう最初会った頃とは全くの別人なんだけど……幻想郷ではお前、一応良識ある方じゃなかったっけ?」
「だ、誰のせいでこんなに苦しんでると思ってるのよ! あの日あなたに襲われ全てを捧げてから! 私の中の歯車は自分でも制御できないほど狂ってしまったというのに!」
「こんな人が見てる中で誤解を招く発言すんじゃねぇ!!! 違いますよ皆さん! 俺は別にこいつからなにも奪ってませんからね! ホントこいつ頭おかしいんですよ!」
「私の心を奪ったじゃないのぉぉぉぉぉぉ!!! いや心だけじゃ飽き足らず私の貞操も……!」
「いい加減黙れテメェはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
野次馬達が様子見にやって来てる中でもアリスの暴走は止まらない、銀時の襟をつかみ上げながら昼ドラみたいな戯言を繰り返し、もはや手に負えない。
必死に周りに向かって叫ぶ銀時だが、自分の襟を掴んだまま足から崩れ落ち、「認知してよぉぉぉぉぉぉ!!!」と泣き叫ぶアリスのおかげで誤解を解くのが非常に難しい方向に
このままでは「幻想郷の管理人」という立場から、「幻想郷のクズ」として今後見られてしまいかねない。
アリスの頭を押さえながら銀時は、いっそ能力を使って彼女を連れてどこかへトンズラしようかと考えていたその時
「ねぇちょっと、お芝居はもうお終いなのかしら?」
「あん?」
抵抗する彼女を銀時が必死に抑え込んでいると、そこへふと、たった一人、この場から去っていなかった一人の子供が話し掛けてきた。
人里では見かけない洋風の服装をし、右手に日避けの為のパラソルを持ち、早く劇を続けろと催促する体育座りの少女
「で? 金太郎の奴はちゃんと死んだの? どんな風に? 内臓とか脳みそとかちゃんとグチャグチャに飛ばしまくったのよね? 簡単に殺さずちゃんとじわじわと四肢をもいで痛めつけるのも復讐劇として当然よね?」
「……なにやってんだ吸血鬼?」
こちらにジト目を向けてサラリと残酷な事を口走る少女、否、彼女は紅魔館の主人にして吸血鬼
レミリア・スカーレットが銀時が気付かぬ間に、餌である人間達がはびこる人里に堂々と乗り込んでいたのであった。
「ちょっとぉ! 離しなさいよ! 私が何したっていうのよ! この私を誰だと思ってるのスカポンタン!!」
「妹にも従者にもゴミ同然に見られてる哀れな吸血鬼」
「聞き捨てならないわね! 泣くわよ!」
「勝手に泣け」
数分後、喚き散らすレミリアを銀時は後ろ襟を掴んで、ズルズルと音を鳴らして人里の中を引きずり回す。
理由は明白、人間に危害を加えかねない恐ろしいヴァンパイアを人里から追い払う為だ。
人間に慣れてる妖怪やそれ以外の種族ならまだしも、無邪気であり残酷という性格に難のあるレミリアを放置するのは幻想郷の管理人見過ごせない。
「あーもう次から次へと仕事が増えてなんなんだよチクショウ……紫に全部任せていた頃が懐かしいよ、つうかあの頃に戻りたい、しがらみもなく毎日ブラブラしてたい」
「ククク、滑稽ね過去の女にまだ未練を残してるなんて……」
「現在進行形で滑稽な醜態晒してる奴に言われたくねぇよ、周りの目を見て見ろ、みんなお前の事を恐ろしい吸血鬼じゃなくて、可哀そうなモノを見る目になってんぞ」
踵を地面につけて精一杯の抵抗するレミリアを連行しながら、そんな状態でもなお嫌味を言ってくる彼女に銀時はけだるそうに返事する。
「つうかアイツ(咲夜)はどうしたんだよ、一応お前の従者なんだろ、一緒じゃねぇのか」
「咲夜なら私を置いてどっか行ったわよ……なんでもこの辺にある寺子屋で働いてる半妖に話があるとかで……」
「半妖……ああ、アイツか……話ってどんな?」
「……私を生徒として預けれるかどうか聞いてみるとか言ってたわ……」
「マジ? 勘弁してくれよ……」
引きずりながらも銀時は普通にレミリアと会話し、彼女の口から色々と情報を探る。
なんでも彼女の従者であり、銀時の実の姉でもある咲夜が、レミリアをとある半妖が開いている寺子屋に預けようと考えてるみたいだ。
しかしなるべくこの吸血鬼を人里に近づけたくない銀時にとっては眉間にしわを寄せる話だ。
「どうしよう私、このままだと人間のガキ供と仲良くお勉強させられる羽目になるわ……そんな事になったもう私の吸血鬼としてのプライドが……」
「安心しろ、そんなプライドはもうとっくの昔にティッシュにくるめて捨ててるからお前、テメーの従者に振り回されてる時点でプライドもクソも無いから」
「いやまだ挽回のチャンスはあるわきっと……いずれ咲夜に思い知らせてやる、それにフランやあなたにだってね……」
「そうかい、期待してねぇで待ってるわ」
腕を組み、また不敵な笑みを浮かべてまた悪巧みを我策している様子の彼女を、銀時は冷めた調子でボソッと呟く。
すると二人がそんな会話をしているのを、ずっと恨めしそうに見つめながら黙ってついて来た人物が……
「なんかその子と随分仲良さげね……私の時よりも楽しく喋ってない? もしかしてこんな小さな子にも手を出そうとしてるの? 私の体だけじゃ飽き足らず今度はロリまでつまみ食いしようとしてるの?」
「おい頭のおかしい魔法使い、いい加減にしねぇとお前も人里に入るの禁止にするぞ」
ブスッとした表情でいらぬ誤解を抱いている頭のおかしい魔法使いことアリスに
銀時は歩くのを一旦やめると、振り返ってしかめっ面で言葉を返す。
「つうかもういいだろマジで、いい加減俺の事を引きずらずに忘れて、とっとといつものクールで知的で面倒見のいいまともな子に戻ってくれよ」
「あのね、これでも忘れようとしてるのよ、でもそうすればする程、私はあなたの事ばかり考えるようになって、それで怒りが込み上げてくるの」
「へー怒りってどんな?」
こうして一緒にいる内に少しは落ち着いたのか、とち狂った叫びもせずにアリスは真面目に銀時の問いに答えてくれた。
「さっきその吸血鬼が言ってた通りよ、あなたはまだ彼女の影を追いかけている。八雲紫、いや、”八雲紫だった存在”を」
「……」
「前に霊夢から聞いたのよ、あなた、暇さえあれば彼女の手がかりを必死に探し回ってるんでしょ?」
アリスの口から予想だにしない人物が挙げられ、銀時は思わず口を閉じて黙り込む。
そしてこちらにそっぽを向いてまた歩き出す彼に対し、アリスはなおもついて行きながら静かにため息をつく。
「私にとってそれが最も腹が立つのよ、失ってもなお、彼女の事を諦めようとしないそんなあなたにね……全くどんだけ想ってるのよ彼女を、張り合ってる私が惨めになるじゃないの」
「……我ながら女々しいとは思ってるよ、ぶっちゃけ、頑なに俺に固執し続けるお前と大差ねぇって自覚もある」
この世界を作った張本人である八雲紫は、今はもうここにはいない。
しかしそうだと言って彼女は死んだ訳ではない、きっとどこか別の場所で生きていると銀時は信じつけているのだ。
例えそれが八雲紫としてでなく、別の姿になっていても、彼女に対する想いは決して変わらない。
「昔初めて会った時、”俺はアイツを拾った”、いや今考えると”俺の方が拾われた”のかね……どっちにしろそん時から俺達は繋がった、誰であろうとぶった斬れねぇ鎖で結ばれてな」
「……」
「まあ、会ったばかりの頃はそんなこと気付かず、別の女と繋がったりしたけども」
「おい」
後頭部を掻きながら一言余計な事を付け足す銀時に思わずツッコんでしまうアリス。
「ま、そんなこんなで俺はまだアイツと繋がっていると確信しているんだわ、だから俺は絶対にアイツを見つける、例えどんな事をしてでもまたアイツを探して拾ってやる、それが八雲銀時として、”宇佐美蓮子”としてやるべき務めなんだよ」
「……宇佐美蓮子って誰よ?」
「……さあな」
意味深めいた事を言いながらも、自分はこれからも彼女との再会を諦める気は微塵も無いと宣言する銀時に
アリスは小首を傾げながら、やはり面白くなさそうな表情を浮かべながら彼の隣を並走する様に追いつき
「いいわ、それなら私にも考えがある、あなたが八雲紫を諦めない限り、私も絶対にあなたの事を諦めない」
「いやそこは諦めてくれよ、頼むから、300円あげるから」
「……だからあなたも絶対に諦めるんじゃないわよ、もう一度彼女に会えることを」
「……へ?」
ぶっきらぼうに言いながらも、僅かに口元に笑みを浮かべ、アリスは銀時の背中を押してやる事にした
彼の目的が叶えば、また自分の想いは彼から遠ざかってしまう、しかしそれでもやはり
やはり彼には彼女が必要なのだと理解している自分がいる。
だって彼は、彼女の傍にいてこそ八雲銀時なのだから
「互いに頑張りましょう、叶うかどうかわからない夢を目指して」
「……はん、精々この銀さんの浮気心を持たせるぐらい良い女になって見せろや」
「ええ、期待して待って頂戴、最後に笑うのは私」
なんとも歪な約束だなと、思わず笑ってしまう銀時にアリスもニヤリと笑い返す。
どちらが先に自分の目的を叶えられるのかという勝負、その勝敗が付くのはまだまだ先の話であった。
そしてずっと銀時に引きずられながら、腕を組んで黙り込んでいたレミリアもまた
「そうね、己の夢、己の野望を諦めちゃったらそれこそ試合終了じゃない……よし、私は決めたわ!」
「近い内! 必ず咲夜を私に従順なメイドにしてやるんだから!!」
「「それは無理だわ」」
「なんでよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
無謀にも拳を掲げて意を決して、絶対にあの畜生メイドを更生させえると宣言を放つ彼女に対し
銀時とアリスは冷めきった表情で、綺麗にハモるのであった。
最近筆のスピードが急激に落ちた私、すみません、今連載している作品をストップさせてる状況で……
とりあえず予定としては
ディズニー×ダンまち
↓
ヨシヒコ×オバロ
↓
ディズニー×ダンまち
↓
銀魂×sao
↓
ディズニー×ダンまちor銀魂×ネギま
と順に書いていこうと思います。
投稿ペースが前みたいに戻ったら、また週3投稿にしようと思います、それでは