微エロあり(なし)
二話連続投稿ですのでそれも注意。
猿飛木ノ葉丸は三代目火影の孫である。
開祖猿飛サスケから始まり、木の葉最強にして最高の忍とまでいわれた猿飛ヒルゼン、その系譜に連なる血統の持ち主。
とはいえ木ノ葉丸は今まで自分の血など気にしたことはなかった。火影の孫とはいえそれで何か特別な忍術が使えるわけでもない。しかし、忍者アカデミーに通うようになって他の同級生たちと自分を比べるようになって、ふと思った。
どうも木ノ葉丸という忍者は他とは違うらしい。
他人から受ける態度が、どうやら普通ではなかったらしいことを知った。
頭を下げて、丁寧な言葉で、態度で、自分に接する大人たち。
曰く火影の孫だから。
曰く最強の一族の血を継ぐものだから。
曰く三代目火影は素晴らしい人だから。
木ノ葉丸は最初、自分は特別なんだと思った。でもすぐに違うことに気が付いた。
特別なのは、自分の祖父と自分の血であって、誰も木ノ葉丸自身を褒めてはいないこと。
頭を下げるその視線の先は、自分ではなく、その後ろに見える自分の祖父に向けられていること。
木ノ葉丸は火影の孫であって、それ以上でも以下でもない。
誰も自分を見ていない。
先生も、友達も、親も、そして祖父でさえも。
自分は特別などではなかった。
木ノ葉丸、と、誰も呼んではくれなかったのだ。
抜き足、差し足、木ノ葉丸は慎重に火影邸を進んでいた。
――最近、ジジイの様子が何かおかしい。
木ノ葉丸は怪しんでいた。火影の仕事で忙しいのはわかっているがそれにしても最近の三代目の様子は木ノ葉丸の目から見て少し変であった。
仕事しているとき以外でほとんど家で見かけないのだ。加えて普段なら教えてくれるのに家政婦に居場所を聞いても言葉を濁されることが多くなった。
あやしい。
そして、極めつけはここしばらく三代目が女の子と一緒に歩いている姿をよく目撃されているらしいこと。
三代目の妻、木ノ葉丸から見て祖母が亡くなってからずいぶんと経っている。今でこそ人格者として知られる三代目であるがその性根がスケベジジイであることを木ノ葉丸は知っていた。
――ジジイ浮気してんじゃねーのかコレ。
緊張から喉を鳴らしつつゆっくり注意深く進んでいく。
外の喧騒がある程度聞こえるものの、家の中は静まっている。
静かに。静かに。
ドアの前にたどり着いた。
物音は聞こえない。しかし、今日は午後まで火影邸に居ることはすでに確認済みだ。中にいるはずである。さっそく調査すべく、木ノ葉丸はドアノブに手をかけた。中を覗こうとドアノブを回したところで、微かに声が聞こえることに気が付いた。
女性の声だ。
どくん。木ノ葉丸の心臓は高鳴った。
ドアノブから手を離し、扉に耳を当てる。
「………りだって、……んなの」
「……言わずに、………やれ」
――ジジイと、誰だコレ?
若い女の子の声だ。いったい何をしているのだろうか。目を閉じて耳を澄ます。
「……や、……かんねーよ」
「……だ口叩くな。しっかり集中…ろ」
段々と聞こえてきた。どうやら部屋の中には二人だけしかいない模様。
――まさか。いや、まさかそんなわけねーってコレ。
「いや、でかすぎるってばよ。そんなの入んねーってばよ…、いや、むり、まじでむりだって。………あ、うわ」
「いいから集中しろ、ワシの触っている箇所に意識を集中するのだ」
「でかいって、むりぃ……、なんでそんな元気なんだよジジイ……」
「元気云々ではない。ようは慣れじゃ。意識を楽にして受け入れろ……」
「いや、何か変だってばよ……、こんな修行ほんとにあんのか? 痛いだけだってばよ……」
「サボろうとするな、これはお前からやりたいと言ったことだろうが」
「わかってるけど、いや、やっぱなんか変……、う、あ」
思わずドアから耳を離す。
「なにをやっているんだジジイコレぇ!!!!!」
木ノ葉丸は大きくドアを空け放った。太陽の日差しが窓から注ぐ執務室。
その中央では目隠しをした女の子が胡坐を組んでいる。そしてその額に手を当てている自分の祖父である三代目火影。
意味不明な光景。
「………なにやってんだマジでコレ!」
「それはこっちのセリフだ。さっきから何をやっておる木ノ葉丸」
三代目が呆れたように告げた。どうやら木ノ葉丸のことは既に把握していた様子で慌てることなく対応。
「な、何だってばよ?」
目隠しされていた女の子の方は驚いたようで戸惑った態度で周囲に顔をあちらこちらに動かしている。
少女が胡坐を崩して目隠しを取ると、青い瞳が露わになる。眩しそうに細めた瞳がつ、と木ノ葉丸に向いた。自分より何歳か年上であろう女の子だ。金色の髪に人懐っこそうな表情。にい、と頬が吊り上がる。狐のように目を細めた笑顔。
「おー、木ノ葉丸じゃねーか」
女の子らしくない砕けた口調にちょっと驚く。「な、なんでオレの名前知ってるんだ?」
「え、あー」
女の子は困ったように三代目に視線を向けた。
三代目は軽くその頭を叩いた。
「……ワシが教えたのだ。家族の話をしたとき見た目についても言ったのを覚えていたのだろう」
「おーそうそう」
「……………」
「どうした、木ノ葉丸」
「…………………別になんでもねーよコレ」
しばらく木ノ葉丸は黙った。
「で、何してたんだコレ」
胡坐を組んでその額に手を当てて、さっぱり意味のわからない光景だ。
「お前には関係のないことだ」
三代目が突き放すように告げる。
「なんだよそれ!」
「じいちゃん、そう言う言い方はよくねーって。ちょっとした修行だってばよ。頭にチャクラを流し込んでもらって自分以外のチャクラを感知する修行、て言ってたってばよ」
「馬鹿者。忍者が容易く修行について教えてはならんと言っただろう」
「木ノ葉丸はいいだろ別に。他人じゃねーから」
「そういう問題ではない………」
頭が痛いと言わんばかりの溜息。
それを気にした風もなく金色の髪を揺らしながら伸びをして体を解している。
それを両方とも視界に入れながら、木ノ葉丸は我慢しきれずに叫んだ。
「ズルい! ジジイはオレになんて修行を付けてくれたことなんか一度もないのに!!」
「……お前には講師をしっかりつけているだろう」
「あんなの違う!! ズルいぞこれぇ!!」
悔しくなって何度も地団太を踏む。どうして孫である自分ではなく、この女の子に修行を付けているのか、木ノ葉丸にはそれが不条理に思えた。木ノ葉丸よりもずっと三代目と親しそうな態度もその思いに拍車をかける。
「いいか、忍者とは……」
三代目が何か言いかけたが、それを手で遮られた。憮然とした表情で女の子を見ている。数瞬見つめ合い、そしてしょうがなさげに口をつぐんだ。
そのまま女の子は木ノ葉丸に歩み寄ると、膝を折って視線を合わせた。
「なんだ木ノ葉丸、強くなりてーのか?」
青い瞳に押されながら、木ノ葉丸は頷いた。
「……なりたい」
そう言うと、女の子は破顔した。
「そうか! よっしゃじゃあオレが修行つけてやるってばよ!!」
「へ?」
「オレのとっておきの忍術をお前に授けてやる! この忍術でオレは一度火影を倒したことがあるんだ。それを教えてやるよ」
火影を倒した忍術。木ノ葉丸はその言葉に強く興味を引かれた。
「お、オレにそれを教えてくれ!!」
「もちろんイイってばよ」
にっこり笑顔。よく笑う女の子だ。木ノ葉丸はそう思った。ふと、頬の猫髭のような斜線に目が行く。
――そういえば。
火影を倒した。随分最近、同じ言葉を聞いた。その人物の名を教えてもらったはずだ。確かその人物も同じ特徴をしていたような。
「お前、もしかして、おいろけの術のうずまきナルトって名前じゃ……」
「お、オレを知ってんのか?」
「し、知ってるぞコレ!! オレ、お前に憧れてたんだ!」
「おーそうかー」
「オヤブンって呼ばせてくれ!」
「………………フフフ、いいぞ」
「じゃあ今から教えてくれる忍術って……」
「もちろんおいろけの術だ……」
「おおおー」
さっきまで癇癪を起こしていたことなどすっかり忘れて木ノ葉丸は喝采を上げた。女の子、うずまきナルトの手を引っ張ると意気揚々と部屋を引き上げる。早くその忍術を教えて欲しかった。
「――いや、ちょっと待て」
それを呼び止める声。三代目火影だ。
木ノ葉丸は振り返った。
「なんだジジイ」
「いやお前ではない。ナルトにだ」
――むか。
「?」
「お前、女の子だろうが……」
どこからどうみても女の子だ。木ノ葉丸は首を傾げた。
「それがどうしたんだってばよ」
「開き直るな。女の子がそんな忍術を使うんじゃない」
二人の間の空気が急速に冷ややかになっていく。
「なんだそれ。関係ないってばよ」
不機嫌そうな声。
「百歩譲って女の子が使うとしても、それを他人にしかも子供に教えるなどと、不健全極まりない。やめろ」
木ノ葉丸は口を挟んだ。
「おいジジイ邪魔すんなコレ」
火影をも倒す忍術を教えてもらえるこの機会を逃すわけにはいかない。木ノ葉丸は意気込んだ表情。それをなんとも言えない顔で見る三代目。
「ナルト、わかっておるだろう………………」
「……いや、別に前から使ってたんだろ? 問題ないって」
三代目は静かに重々しく、腹に響く声で言った。
「ナルト、これよりお前はその忍術を使うことを禁止とする」
「な、ふざけんな!! これはオレの魂の忍術だってばよ!」
ナルトが発する怒気にも一切の揺らぎを感じさせない涼しい顔で、三代目は続ける。
「破ったら、そうだな、男物に変えてやった下着を女物に戻すことにする」
「なあっ、それは汚ねーぞジジイ!」
「そんなに女になる忍術を使いたいなら何も問題あるまい。わざわざ男物のアレを着る意味もないだろう?」
「それが大人のやり方ってやつなのか」
ナルトは無念の表情で唇をかみしめている。木ノ葉丸は何のことかわからないが今、ナルトが押されていることだけはわかった。
「いやとにかく教育衛生上その忍術はよくないからやめろと言っているだけだ……、ワシもこんなセクハラじみたこと言いたくはないわい」
「わかったよじいちゃん。今日のところは従ってやる。だけどオレは諦めねーぞ」
ナルトは話は終わったとばかりに振り向いて、木ノ葉丸を連れて部屋を出ていく。
「それに、手がないわけじゃない」
そう小さくこぼして。
火影の顔岩がある位置から近い林に移動した二人。
黙って付いてきた木ノ葉丸はここでようやく口を開いた。
「オヤブンどうすんだ?」
ナルトが木ノ葉丸に顔を向けた。そこにはイタズラ小僧のような笑顔が広がっていた。
「じいちゃんが言ってたろ? オレは術を使うなって。でもオレが教えちゃいけないとは言ってなかっただろ?」
「あ!」
「オレは不当な脅しによってこの忍術を使えなくなっちまった。だから木ノ葉丸、お前にこの忍術を受け継いでほしいんだ」
真剣な表情。真っすぐに木ノ葉丸を見つめてる視線。それが木ノ葉丸にとって嬉しかった。思わず大きく、頷く。
「オッス!!」
「いい返事だ。よし、じゃあ始めるぞ!」
そして修行が始まった。
まず最初に躓いたのは基本中の基本のことだった。
アカデミーに入ったばかりの木ノ葉丸にとっておいろけの術に欠かせない変化の術を扱うのはとても難しかった。外見を変化させるこの術は繊細で、想像力を精緻に働かせなくてはならない。さらに人に化けるのはもっとも難度が高い。まともな人型になるのも簡単ではなく、修業は難航した。
しかし、集中できない理由はその難しさゆえではなかった。
「どうした木ノ葉丸、さっきよりも悪くなっているぞ。もっと想像力を働かせるんだ」
「――うん」
木ノ葉丸は頷いたが、その声には戸惑いの響きが色濃くあった。
「いいか、ボンキュッボン、だ。ハリとムチムチを同居させなきゃダメだぞ」
「う、うん」
頷く。どうしてか頬が熱くなる。恥ずかしさがこみ上げてくる。
「お前が思い浮かべる理想の色っぽいねーちゃん、それを掴みあげて表現するんだ」
「………」
言われた通り意識を集中する。胸が大きくて肉付きのいい美人な女性。わかる。そういうのは理解できる。想像もできる。しかし、だ。
木ノ葉丸は薄目を開けた。目の前には、自分よりも数歳年上のくノ一の少女。髪の毛は無造作に伸ばしてはいるものの、健康的な可愛さのある女の子。そんな少女が真剣なまなざしでこちらをじっと見ている。
それを目の前にして、エッチな妄想をする。
――なんか、すごい恥ずかしいことなんじゃないのかコレ……。
今更ながら、木ノ葉丸はそう思った。初めにおいろけの術を教えられたときはそんなこと考えなかった。ただ自分のできることをやろうとそう思った。今でもその気持ちに偽りはない。
だが、自分はすごいイケナイことをしているのではないか、そんな考えが浮かんでくるのを振り払えずにいた。集中は乱れ、術は失敗する。それを繰り返している。
「どうした? また乱れてるってばよ」
「うんごめん……」
木ノ葉丸が謝ると、ナルトは不思議そうに首を傾げた。
――オレがへんなのかコレ?
「がんばれってばよ! やればできる!」
「う、うん」
集中、集中。
ボンキュッボンの大人の女性。黒髪で、胸が膨らんでて、お尻が大きくかつ締まっていて、それで……、木ノ葉丸は余計な雑念を捨てて想像を続ける。
想像まではできる。後は印を組んで、それを作り出すだけ。
それを目の前の少女に見せるのだ。
そう思った瞬間、やはり頬が熱くなり、集中力は霧散する。想像はちりぢりになり結果はもちろん失敗。見るも絶えない物ができあがる。
「―――オヤブン、もう止めよう」
木ノ葉丸は言った。
「何かヤバい扉を開きかけてる気がするぞコレ。なんでか知らないけどすごい恥ずかしいんだ」
「木ノ葉丸………」
ナルトは真剣な表情で木ノ葉丸に歩み寄るとその肩に手を置いた。
「お前はどうして強くなりたいんだ?」
「え? それは……」
認めてほしいからだ。木ノ葉丸という存在を、火影の孫ではなく自分自身を、見てほしいからだ。
「もしお前の決意が本物なら、聞いてほしい。オレの師匠の言葉なんだけど、忍ってのはよ、忍び耐える者のことなんだ」
「! 忍び、耐える……?」
「そうだ。忍び耐える者。どんなに苦しいことがあっても、どんなに辛いことでも歯を食いしばって耐えて、前に進んでいく。それが忍だってさ。……オレもそう思ってる」
「………」
「確かにこの忍術は恥ずかしいかもしれねえ。普通じゃできない忍術だ。だからこそ、意味があると思う。恥ずかしいかもわかんねーけど、それを超えて、この忍術を使いこなせ。お前なら、それができると信じてる」
「オヤブン、オレが間違ってた……オレやるよ、この忍術を極める」
「おう!」
木ノ葉丸は目を強く見開いた。もう迷いはなかった。
そこからの成長は著しかった。想像さえブレなければあとはチャクラのコントロール次第。羞恥心は消えなかったものの、それすら力に変え、木ノ葉丸は一心不乱に術に取り組んだ。
今まで近道ばかり探してた。火影になるために、早く認めてもらうために。
木ノ葉丸の名前を呼んでもらうために。でも、それが違うってことが今わかりかけてきていた。
――数時間後――
「………はぁはぁ。ふぅ。…………はぁあああああああ!」
印を組み、チャクラを練る。
「―――おいろけの術!」
ぼんっと音を立てて、煙が上がる。想像は完璧だった。後はそれを現実に作り上げて見せること。手ごたえはあった。煙が晴れ、自分の姿が露わになった。スラリとした手足、突き出た胸。お尻。そして会心のセクシーポーズ。
決まった。奇妙な確信が胸を叩いた。
目の前で真面目な表情で木ノ葉丸を観察する、ナルト。
その固い表情が、緩んだ。
「よしっ、成功だ! 完璧だってばよ!」
その言葉を聞いたとき、叫ばずにはいられなかった。元の姿に戻るなり、雄たけびを上げた。
「やったあああああああ!!」
自分の力で初めて成し遂げた成果。それを確かに感じていた。両腕を挙げて天を仰ぐようにして、歓喜した。
どん、と胸に衝撃が走った。
「うわ!?」
「よくやった木ノ葉丸!」
ナルトが飛びつくように抱きしめてきていた。
まっすぐ自分の目を見てくるこの瞳。わけもわからず、どうしてか涙が溢れてきた。それをナルトに気が付かれないように拭いながら、木ノ葉丸は笑った。
「オヤブン、ありがとう!! オレわかったよ! 近道なんてないんだって!」
「おう、やったな。でももうオヤブンじゃねーな」
「――え?」
「だってよ、お前はもう俺のおいろけの術に並んだんだ。だからもうオヤブンじゃない」
木ノ葉丸は目を丸くして、すぐに笑った。
「じゃ、ライバルだな、ねーちゃん!!」
この後木の葉に最強のエロ忍術使いが誕生したとかしないとか言われるときは言われたそうだ。
おわり。