カカシの制止を振り切って、ナルトはサスケの修行している森に走った。単純に信じられないという思いがあった。
前回と今回、多少の違いあれど、時間だけ考えるなら修行期間は決して前よりも短くない。以前カカシが写輪眼の使い過ぎでしばらく動けなかった数日間が今回はまるまる修行に使えたのだから、数日分の猶予すらあった。
それゆえ、ナルトの頭の中からはサスケとサクラの修行の成果を疑う余地は発生しえなかったのだが。
あてが外れたというよりは、まったく信じられなかった。
以前の記憶をたどるように、森を駆けて修行場に急ぐ。
かつては、三人で歩いた修行場の森への道へ今度は一人で走った。
酷い落差だ。ナルトは焦りと動揺を抱えているせいか、夜の暗い道にたった一人で立っているような心細さを覚えた。
今でも覚えているあのときの胸の鼓動の高鳴っていく感覚だけが、かつての記憶が幻でないことの証明だった。
皆でやった木登りの修行。僅か一週間前後の短い期間だったが、そのときの風景はナルトの心に鮮明なほど焼き付いていた。
それほど昔ではないはずなのに、振り返ってみると隔てた時間以上にその記憶は遠い気がした。
満月で照らされた修行場に着いたとき、ナルトは咄嗟に音を消して隠れた。サスケが一心不乱に木に登っているのが見えたからだ。
未だに内心で信じきれない思いを抱えながら、サスケの背後の繁みに回り込むと、ナルトは目を凝らしてその姿を眺めた。
―――……………。
しばし、その後ろ姿を観察する。そのサスケの後ろ姿もまた、ナルトにとって懐かしい。あの背中を睨みながら競うように木登りの修行に励んだものだ。どっちがどれだけ高く登ったのか、互いに強烈に意識し合いながら、内心で勝った負けたを繰り返した。
負ければ焦ったし、追いついたり、たまに追い抜いたりすれば、安堵と優越感を感じた。その直後には追い抜かれる恐れで、また焦ったりした。
だが不思議なことに、どっちが早く修行を終えたのか、その結果そのものはナルトの中では大した意味を持つことはなかった。
木を登り切ってその頂点で見上げた夜空がナルトの中にあった小さな全てを吹き飛ばしてしまったのだ。その隣の木には同じようにサスケが居て、一緒になって空を見上げていた。そのとき感じたなにかをナルトは未だ、言葉にする術を持たなかった。
ナルトがやってきたのは丁度よいタイミングだったようで、間もなくサスケは木に向かって走り出した。助走をつけて加速すると、その勢いのまま猛然と木を駆けあがった。勢いに乗って木の頂きギリギリまでを登り切り、そして弾かれるように木から足が離れた。樹皮や枝を蹴りながら下に降りて、しばらく留まって荒く肩を上下にさせる。
その姿を最後まで見て、ナルトはほっと息を吐いた。安堵の溜息だった。
―――なんだ、ほとんど出来てるじゃねーか。
想像してしまったような、全然修行が完了していないなどといった様子はなかった。ちょっとばかり勢いまかせなやり方だったが、木を登り切るという修行の目標まであと少しといったところだ。
安心すると急に腹が立ってきた。動転して急いで走ってきた自分への恥ずかしさを誤魔化していることを理解しながらも、心中でカカシに文句を呟く。
―――カカシ先生め、大げさに言いやがって。まったく。
愚痴は溢したものの、それほど大きな怒りはなかった。どこかで、『そりゃそうだろう』という思いがあったからだ。
もし仮にサスケの修行がまったく進んでなかったとしたら、どのような対処をすればいいのか、ナルトには想像ができなかった。そのような事態そのものが、ナルトにとって有り得ない、妄想するのにも難しい想定だ。それぐらいナルトはサスケの才能を信じていた。
この分ではサスケの修行は今日中に終わるように見えたし、自分の出る幕はないだろう。ナルトはそう結論付けた。
頑張れよサスケ。ナルトは心の中で呟いて、踵を返そうとして、足を止めた。
思わず胸の中心を押さえる。ズキ、ズキ、と内側から針で刺されるような鋭利な痛みにナルトは眉をしかめた。
舌打ちをしたい衝動を我慢する。たまに思い出したように痛むこの傷はナルトにとって楽しいものではない。
理由のない痛みは、理由がないから治す方法もない。それゆえ、痛みが引くまで耐えるしかない理不尽さがあった。なんだってんだ。音を立てないようにゆっくりと木に寄りかかりながらナルトはぼやいた。
痛みはすぐに消えたが、すぐに動く気にはなれず、ぼんやりとサスケの修行を眺めた。
「…………?」
なぜだろう。少し違和感を覚えた。覚えたというよりは、意識に引っかかったという方がより正確だ。それは胸の傷のことではなく、目の先にいるサスケについて。
うすく不定形な、霧のような違和感があった。気を紛らわせるためもあって、その違和感に思考を伸ばしていく。
泥まみれで修行するサスケの姿は見慣れないが、それに違和感をおぼえたわけではないだろう。かつてと同じように懸命に修行に励んでいるようにしかみえない。
敢えてあげるなら、サスケの表情がいつもより苛立っているようにみえた。まあ、楽しい状況ではないしそれはそうだろう。気にする必要はない。そう思わなくもないが、違和感は消えなかった。
理由を内面に潜らせて行く。もうなんとなく、などというぼんやりした意識ではなく、はっきりとした疑問に変わりつつあった。
ふと、前回と大きな違いがあることに気が付いた。
前のときのサスケはもっと楽しそうだった、気がする。ナルトは木登りの修行が終わりに近づくにつれ、手応えを感じ、達成感を覚え、そして手の届く位置にきた目標に心躍らせた。それはサスケも同じだったはずだ。
だが、『今のサスケ』はそうはみえない。
修行が終わりに近づいているというのに、その表情は歪んでいた。その顔には修行の成果を喜んでいる様子はない。
確かにサスケ一人だけ木登りの修行だ。置いていかれている、という状況はサスケにとっては慣れないことだろう。多分、修行の達成はサスケにとって強くなったというよりは、マイナスがようやくスタート地点に行った、そういう認識なのかもしれなかった。
それは残念なことだと思った。
サスケにはもっと自信満々の顔の方が似合う。それこそ腹立つぐらいが丁度いい。
なにより、この修行での成長をもっと喜ぶべきだ、と思った。それはナルト自身の経験から、とても大事なことだと確信していた。あのとき見た空を、サスケにはもう一度見て欲しいと、そう思った。
どうやら、色々やっている内に足元を見失っていたようだった。やるべきことは多いが、もっとも大事な目的が、『皆で前のように笑う』ことのはずだ。
疲れた体が僅かに訴えているのを感じながら、ナルトは完全にそれを無視した。
さて、どうやるか。普通に行って『修行を手伝う』などといってもサスケは絶対に頷くまい。もう少しやり口を考えねば。ナルトはまずはどこかにいるであろうカカシの分身に会うことにした。
満月がもう空を登り切っていた。それを認識したとき、サスケの胸中に浮かんだのは、荒々しい感情のうねりだった。焦燥が、色濃く心を覆いつつあった。
―――ちくしょう。
目の前にそびえ立つ木を睨みながらサスケはそう内心で吐き捨てた。木に刻まれた無数の傷跡がサスケの今までやってきた修行の密度を雄弁に語っていた。
この傷の一つ一つが、サスケのこれまで行っていた修行の成果なのだ。だが、サスケはそれを誇らしいなどとはまったく思わなかった。もっと正確に述べるなら、憎悪していた。
―――たったこれだけが、今の俺の全て。
唾棄すべき現実が目の前にあった。無理をして息も整えずに連続で動き続けてきたせいだろう。満足に動かない体で地面を這いながら見上げる木は、切り倒してやりたいぐらい高く見えた。
―――ちくしょう。
何百回目かの罵倒が、苛立つ内心に浮かんだ。こんなはずではなかった。
なにもかもが、サスケの想像をはるかに逸脱してしまっていた。その混乱した心の中のイメージは、一人の少女を中心にして、まるで嵐のように浮かんでは消えた。あの船上での戦い。そしてその後の自分の修行の現状。『見極めてやる』などと自惚れた己の思考の末路。
あのとき、船の上で無様に這いずりながら、サスケは悔しさを覚えることすらできずに、ただ茫然とその戦いを見送った。
その後の修行でサクラにすら遅れをとり、そして今なお達成すらできていないこと。
認めがたい、そして呪わしい現実。早く『この程度の修行』など終わらせて、さっさと次の段階に入るべきだ。そう思っているのに、現実の方は付いてこない。当初、カカシが想定していた修行期間は一週間だったがサスケはそれを半分以下で終わらせるつもりだった。
それぐらいなら、やってしかるべきだとすら思っていた。しかしそれどころか、修行期間を過ぎても、未だ、第一段階の目標にすら届かない。
それが脳裏を過る度、焦りが抑えきれなくなりそうになる。
精神の均衡の揺らぎ、それがチャクラコントロールに悪影響を及ぼすことをサスケは体感で理解していた。何度も考えないよう、無心になろうと努力していた。だが、疲れた体に精神が引っ張られるように、思考は簡単に天秤を動かすように傾いていく。同じような屈辱を味わったのは幼少期の兄に対してだけ。結局、サスケはそれを克服する機会すら得られないまま、ここまで来てしまった。
なんとか、息を整える。
頬を袖で拭い、立ち上がって木を再び睨む。
こうなったらもっと疲れてやろう。サスケはそう思った。もっともっと疲れ切れば、余計なことを思わずに済む。覚悟を決めるように意識を研ぎ澄ました瞬間、ふと気配を感じた。
「よお」
振り返ったとき、サスケはまた精神の均衡に揺らぎを感じた。
一人の少女が、月光に照らされながら、佇んでいた。
どくん、と心臓が跳ね上がったのを感じた。先ほどからずっと脳内を駆け巡っていた少女が目の前に現れていた。一瞬、幻かとすら、思ってしまった。
サスケはナルトに目を奪われた。朝会ったときと見た目に変化があるわけでもない。しかし月明りの下で初めて見るこの少女には、僅かに妖しい気配が漂っていた。大きな蒼い瞳、月夜を照り返す金色の髪、その表情。陰影のせいなのか、サスケが疲れ切っているせいなのか、目を離せないなにかがそこに宿っているように思えた。
「?」
固まったサスケを見て、少女が小首を傾げて表情を変えた。瞬間、霧散するようにその気配は闇夜に溶けて消えた。サスケは訳のわからない心境を覚えたが、それを考察することなく放り捨てた。
今、一番会いたくない少女が目の前に立っている。サスケは激しい羞恥を感じながら、それでもいまさら無視することもできずに訊ねた。
「……何の用だ?」
自分の声のあまりのか細さに、サスケは驚いた。
たった数日の挫折でこんな風になってしまうのかと新しい発見でもした気分すらあった。もちろんそれを遥かに上回る屈辱が全身を駆け巡っていたが。
「修行を見に来たんだってばよ。そろそろ一区切り付くころだと思ってよ」
少女がそう言った。普段となんら変わらない声音。身構えているサスケを見ても特に気負った様子はなく、そのままサスケが木登りの修行に使った木に歩み寄っていく。
サスケは思わず制止の声を上げようとした。別段見られたところで問題はないはずなのに、この少女にそれを見られることが重大な出来事のような錯覚を覚えた。
だが、それは結局、なにかしらの言葉になることはなかった。
「……ほー」
サスケはナルトの背から目を逸らして地面を見た。数秒後、木を眺めていたナルトが振り返った気配を感じた。
「あと少しってところだな、サスケ」
あまりにも無造作にサスケの内心に踏み込む言葉に、考える間もなく、反射的にサスケは答えた。
「…………なるほど、それが言いたかったことか」
「?」
「修行期限は一週間、そりゃ何か言いたくもなるだろうな」
言ってすぐに後悔するような失言だった。しかも同世代の少女相手に吐くにはあまりに情けない言葉だ。だが吐き捨てた言葉をいまさら無かったことにはできない。
「……………………」
「未だに修行が終わってないんだからな。お前が釘刺しに来なくてもオレ自身が十分にわかってる。カカシとお前が裏でなにかやってるのも理解してる。悪かったな」
止めるべき瞬間を見失った言葉は、暴言ではあったが本心でもあった。
「オレに構うな。安心しろよ同じ班員として任務の邪魔になるような真似はしねえ。………それで十分だろう」
後悔に塗れながら、言い切った言葉を撤回するつもりはなかった。心のどこかで、自分の発言の正しさを信じていた。慣れ合うつもりも同情される気もそもそもなかったはずだ。だから、別に構いはしない。任務で与えられた仕事をこなす、それだけの関係だ。
だが、ナルトの目は見れなかった。そこにあるだろう侮蔑、蔑み、哀れみ、そのどれか少しでもナルトから感じ取ったなら、なにかが折れてしまう気がした。
目を逸らして、ナルトの横を通り過ぎる。とにかくこの場所を離れたかった。修行の場は、適当に変えればいい。
「サスケ」
静かな声だった。今まで一度もこの少女から聞いたことのないほど、大人びた声だった。
思わずなにも考える暇さえなく反射的に顔を向けた。
見上げた先に見えた少女の顔には、想像したような表情は浮かんではいなかった。ただ、じっとサスケの目を見つめていた。元々の顔が整っているせいか、雰囲気から人懐っこさが消えると、途端に怜悧に見えた。
その瞳には何の色も帯びていなかった。ただ透き通るような透明さだけ。
自分の中にあるなにもかもを見通すような瞳。かつて一人だけ同じような目を見たことがあったのを思い出す。
「今日さ、満月だってばよ」
「―――――――――――――――は?」
その口から出たのは思いもよらない言葉だった。ナルトが視線を上げるのに釣られて見れば、確かに満月。いや、知ってはいたが、言われてみると初めて気が付いた気がした。
視線を戻すと、ナルトは未だ静かに空を見上げていた。
「木の葉の里でも星は綺麗だけどさ、やっぱ明かりが少ないと見え方も違うんだよなあ」
「……何の話だ一体」
「せっかく景色を楽しめそうな場所なんだ。任務中でもそれぐらいは観光してもいいじゃないかって少し思ったんだってばよ。ま、オレもそんな余裕今の今までなかったけどよ」
すっとサスケに戻した視線は、やはり怒りは宿ってはいなかった。
「お前の修行の成果も、ちゃんと見た。取るに足らないなんて少しも思ってない」
媚も恐れも言葉には含まれていなかった。そうだからこそ、怒りは沸かなかった。
虚を突かれて毒気は抜かれてしまった。狙ってやっていたとしても脱力してしまった気持ちはもう戻らなかった。
「……どこがだ。未だオレは木登りの修行すらできていないだろうが」
言ってからまた後悔した。まるで慰めて貰いたがってる子供のような発言だった。
「…………んー」
ナルトは少し考えるように上を見た後、木に歩み寄ってそこに刻まれた跡をゆっくりと撫でた。
「この跡は、…………最初の一歩でチャクラを込め過ぎた、だから調節しようとして逆に最後にチャクラが弱くなりすぎてる。あそこの跡は、コントロールはしっかりできてるけど、木の起伏をしっかりと把握できてなかったな。だから配分は合ってるのに弾かれてしまっている」
少女はまるで見ていたかのようにあっさりと答えて見せた。サスケの腕を引くと、木の根元に立たせて同じように見上げさせた。驚いたことに二つとも確かに当たっていた。
顔から疑問を読み取ったのかナルトは笑った。
「わかるってばよ。オレも木登りの修行はお前と同じぐらい手間取ったんだからよ」
「なっ…………」
「嘘じゃない。大体みんな少しオレを買いかぶりすぎなんだよ。……いや大分か。木登りの修行なんてゲロ吐いて必死になってようやく会得したんだ」
「…………」
「でも、今ではあっさり会得できなくてよかったと、そう思ってる。基礎をそれだけしっかりやっておいたら、それは後になってもっと大きな財産に変わってた」
そう言うとナルトは真っすぐにサスケを見た。
「ま、しょうがないから、木登りの修行のコツを一つだけ教えてやるよ。それは」
その顔がイタズラっぽく変わった。
「力を抜くことだってば―――っよ!」
ぼすっと腹を殴られた。衝撃は軽いが、不意打ちだったので思わず咽てしまった。
「て、てめえ……!」
「やーい、あんまり情けない面すんなってばよ!」
身を翻して、スルスルとあっさり木を登っていく。くそったれ、そのコツならもうすでに知っている。サスケはそう思った。ただ、それを実践することこそが一番に難しいのだ。だが、殴られて動揺したせいなのか、力が入っていた体と心は確かに多少、緩まっている気がした。
追い付いてやる。ずっと思っていたことだったが、今まではどこか歪んでいたその想いが、今は明確で爽快だった。まったくもって訳のわからない女だ。太陽みたいに笑うかと思えば月のように静かに諭す様子を見せる。結局、どれが本当の顔なのかわかりはしない。
サスケは助走も付けずに木に足を掛けると、ナルトの真似をするように緩やかに登っていく。張りつめていたときは難攻不落の城のように思えた木は、落ち着いて登るとあべこべに馬鹿馬鹿しいぐらいに簡単だった。
頂点で待っていた少女が伸ばした手を、躊躇いながら掴む。
木の頂点に立ったとき吹き抜ける風を強く感じた。そして、空。
木々の上から見上げた星は相変わらず澄み切っていて遠かったが、ほんの少しだけ近づいて見えた。多分錯覚なのだろうが。
「………登れた」
「おー」
そして零れ落ちそうな満月が当たり前のように頭上に輝いていた。わずかな雲を身に纏いながら浮かぶ月のその陰影ですら、ハッキリと見えた。実感として認識できた気がした。
「………確かに、今日は満月だな」
「だろ?」
なにか考えることもなく、ただ月を見上げるだけだったが、悪い気分ではない。
そうやって、しばらく二人で並んで月を眺めた。
「悪かった……」
サスケは木を降りた後、ナルトに頭を下げた。
「?」
本気でわからなそうな顔をされたので、自分の恥を解説する羽目になった。
「お前に八つ当たりをしたことだ。全面的にオレが悪かった」
言い慣れぬ言葉にやや詰まってしまった。そもそも誰かに謝るなど小さいころ以来ほとんどやったことがない。
手にじんわりと汗がにじんだ。謝罪に対する主導権は当然相手にあって、それはサスケにとっては随分と恐ろしいことに感じられた。だが、そうしなければならない、今は素直にそう思った。
緊張した面持ちでナルトを見た。
ナルトは気持ち悪いものを見た顔をしていた。おい、それありなのか、と思わずツッコミかけた。
「別にいいってばよ、ンなもん気にすんな、オレ等同じ班の仲間じゃねーか」
「………それもすまない」
「なにが!?」
少女は今日一びっくりした顔をしていた。
「オレは班の人間を仲間などとは思ったことがなかった。だから……」
「あーっ、もういいっ! いい! 変なこと気にしすぎだってばよ。悪いものでも食ったんじゃねーかお前」
ドン引きするような顔をされた。許しを請う立場ではあったが、それを差し引いても中々に腹の立つ表情だった。
「このウスラトンカチ女……」
と、思わず呟くと、ナルトは目を丸くした。
「ははは! ウスラトンカチ女か! そりゃいいな!」
そうやってなぜか今度は上機嫌になって笑い転げた。本当に訳の分からない女だ。
しばらくその笑い声を聞きながらなにか反論の言葉をぶつけてやろうと思ったが、その顔があまりに楽しそうだったので、続く言葉はなくなってしまった。
―――なんでもいいか。
そんな風に諦めの気持ちが沸いた。この少女と一緒にいると、なぜだか兄を思い出す。サスケはそれを認めた。性格は似ていないはずなのに、その計り知れないところがどうしてか似通って見えた。