ナルトくノ一忍法伝   作:五月ビー

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24『氷晶霧中』

 ―――九尾にとって時間とは流れの速い川に似ている。怒涛のように流れるそれは、川底を削りながらあっという間にその形を変えていき、絶えず変化し、移ろい続ける。

 

 巨大な山だろうが小さな砂山だろうが、一本の雑草だろうが広大な森だろうが、九尾には同じようなものだ。いつの間にか形を変え、意識せねば記憶に留まることも残ることもなく、その姿を忘却していく。

 

 長い時の中で、九尾は一つの真理として理解していた。存在する以上、いずれ全て朽ちて消えていく。物も、思想も、記憶でさえも。そこには一つの例外もない。

 

 九尾にとってみれば、人間など、時間の川の上を流れる一枚の木の葉に過ぎなかった。区別する間もなく、流され、いなくなる。感傷など抱きようもない、ちっぽけな存在。

 

 時折、九尾を利用しようとする人間が現れることもある。そういう意味では人間を侮るつもりはない。その手の相手には、ときには勝ち、ときには負けた。どちらの場合も、憎悪を持って相手を記憶することもあった。しかし、それもまた結局、長い時間の流れで淡い感情の名残のみを残して、忘却していった。

 

 九尾は決して、人の内面について無知であるわけではなかった。彼は人ならざる化け物としての視点で、交わることはないまま、人間というものを見てきた。

 しかし、これほどたった独りの人間のことを考えているのは初めてであった。

 封印されて有り余る暇を持て余した、というのが理由の大半ではあるのだが。

 

 ―――だが、切っ掛けは、あの出会いだ。出会い、と呼べるものであるかは定かではないが、九尾にとっては、ただの『憎しみの対象に連なる人間』から『うずまきナルトという名の少女』に切り替えさせられた日であった。

 

 『友達』などという理解不能な一言を言い放たれたあの夜から、九尾は、うずまきナルトという少女をずっと観察してきた。

 

 いまもまた、蹲るナルトを見ていた。

 

 わかったことがある。ナルトは、矛盾しているのだ。そしてそれに本人が気が付いていない。

 明るく、真っすぐに理想を信じる心。

 冷たく、冷徹に全てを管理しようと考える心。

 口では希望を述べながら、心のどこかで、それを疑っているのだ。本当にそれが成しえるのか、もしかしたら、不可能なのではないか。そういう、相反する感情。

 

 人間ならだれしも持っているものではある。決して混じりあうはずのない二つが不合理にも心の中で溶け合って渦巻いている、よくある話だ。だが、どうにもナルトという少女の在り方は、その両方の色が余りに深すぎる。曖昧なのではなく、二つとも完全に断絶しているのだ。

 

 まるで、二つの心が存在するかのように。

 

 今はまだ、光の方が強い。しかし、どちらにも傾きうる。

 今、ナルトは沢山の物に激しく価値観を揺さぶられている。九尾にとってはどうでもいいようなことに、重荷を感じ、なおかつ、それらすべてを背負おうとしている。

 九尾はそれを興味深く見守っていた。手助け? 冗談ではない。

 重荷に耐えかねて、切り捨てるのか。

 拘ってきた己の在り方を、諦めるのか。

 それとも―――、別の何かがあるのか。

 

 全てのナルトを取り巻く流れは、この少女の意志一つにかかっている。ナルトはそれに気がついているのだろうか。ナルトは九尾のチャクラという切り札を持っている。その価値をどう思っているかは知らないが、この力を適切に使えば、あの程度の相手は余裕で殺せるはずなのだ。

 それを決意さえすれば。

 

 複雑に絡み合った様々な事象、思惑。それらは結局のところ、ある一つの疑問に行きつくのだ。

 

 ―――うずまきナルトはどう在るのか。

 

 九尾はただ黙って、その答えを待つ。

 

 

 

 

 

 

 太陽が真上を指す頃。

 

「うーん、仕掛けてきたねどうも…」

 

 タズナの家の近くの高台に上ったカカシは、視線の先に広がっている街を見下ろして、小さく呟いた。

 その視線の先では町全体を覆い尽くすようにして、白い霧が広がっていた。それは上から俯瞰していてなお、見渡すことが不可能になるほどの濃霧だ。

 

 おそらく、まだ町の人間ですらこれが異変であることに気が付いてはいまい。カカシですら、一瞬これが忍術であることには気が付かなかった。あまりに広大すぎるからだ。

 波の国は昼頃はかなり暑くなることがあるものの朝はよく冷え込んで、しばしば山裾の方から霧が降りてくる。しかし時間が経って太陽が登り切る頃には十分に気温も上がって、街付近の霧は晴れる。

 

 しかし、この霧が時間の経過で晴れることはあるまい。少なくともこの日一日は。

 霧隠れの術。

 その名の通り霧隠れの忍びがよく使う戦闘法だが、今回のこれはあまりに規模が大きい。街全体を覆ってしまうとは、流石にカカシにとっても規格外。にわかには信じがたい事実も、左目の写輪眼を使って見れば、これが明確に敵のチャクラが込められた術であることがわかってしまう。

恐らく、結界忍術の一種。敵はこの二週間の間に傷を癒すだけではなく、次なる戦いに向けた仕込みをしていたと、そういうことだろう。カカシたちと同様に。違いがあるとすれば、カカシは根本的な戦力の強化を選んだが、相手は自分たちに有利な状況を作り出すことを選択したということ。

 

―――それにどうやらただの霧隠れの術じゃない……

 

 カカシは霧に触れて、手を透かして見た。ただの霧にしては妙に肌寒い。朝の冷え込みにしては度が過ぎるし、空気は張りつめるように『硬い』。これは恐らく乾燥のせいだ。

 見下ろした街全体が、光り輝いて見えた。これは太陽光を弾いているから。

 

 ―――凍霧か。

 

「広域戦か、成程いい一手だ」

 タズナの家は街外れではあるが、この霧は、それすら覆っている。つまり、カカシたちもまた、すでに術中にあるということ。

 そして、ナルトとイナリは今は別行動中だ。合流できるかどうかは、今は判断が付かなかった。

 太陽の光を乱反射して光り輝く街を見ながらカカシは頭を掻いた後、この状況を一言で表した。

「厄介だな」

 

 

 

 

 

 とある場所に座る一人の少年。白い仮面を被り、青と白の忍装束姿。下には複雑な術式が刻まれた結界が引かれていて、その紋様の丁度中心に座している。その手は、どのような忍びでも見覚えがないであろう異質な、左右非対称の異様な印を組んでいる。その印も絶えず変化し、変わり続け留まらない。

 白の呼吸は静かで、まったく腕以外は身動き一つない。まるで機械のように正確に印を組み続ける。

 その他には、周囲に物一つなく。ただ白い壁に覆われている。

 

 ―――そろそろ気が付くか。

 

 白は小さく思った。視界はすでに肉体ではなく、霧を通して様々な場所に広がっている。カカシも、ナルトも、既に視界の中だ。

 近距離、中距離、それでは勝てない。ならば、答えは簡単だ。

 姿さえ見えない距離から一方的に攻撃すればいい。

 言うなればこれはかくれんぼだ。この場所を探し当て、白を見つければナルトの勝ち。できなければ、白の勝ちだ。

 驕りも慢心もなかった。ただ、役目を果たすだけ。そのはずだったが、わずかに不要な想いを走らせる。胸中で小さく呟く。

 

 ―――さあ、ナルト君。始めようか。

 

 

 

 

 

 ナルトは後ろを振り返って、しばらくの間、視界に広がった森を見た。

 

「……………」

 

 陣形を組んでいた影分身体の一体が、体を消して情報を共有したからだった。

その理由は、違和感だった。あまりに霧が深すぎる、と。ナルトの脳裏には影分身体が見た、茫洋と広がる霧の景色と肌寒さの記憶が、浮かんでいた。

 集中してみれば、チャクラを感じる気がする。しかし、それはどうにも曖昧だ。

 わずかな間も空けずに、ナルトは即決した。

 

「イナリ、一旦家に戻るぞ」

「ふーん、一人で戻りなよ」 

 いつもの軽口が返ってくるがナルトは構わずにイナリをひょい、と持ち上げた。

「な、なにすんだよっ」

「いいから、オレから離れるな」

 

 声に真剣さを篭めて言うと、イナリも察したのか、表情を変えた。

 

「………なに?」

 

 その問いは曖昧ではあったが、それの意図することは理解できた。

 

「わかんねえけど、嫌な感じがする」

 

 白と再不斬が、元霧隠れの忍びであることはナルトも知っている。前の知識でも、霧を造る能力があることも覚えていた。危機感は持っていた方がいいだろう。

 そしてそれらの判断とはまったく別のところで、ナルトは直観していた。

 

 ―――仕掛けてきた。

 

 家にはまだカカシがいるはずだ。タズナの仕事仲間を手伝ってくれている漁師たちの時間帯に合わせているので、橋作りが遅くなる日がある。それが今日だ。

 なので、影分身はそちらの方にはない。カカシが居るので必要がないと思ったからだが、軽率だったかもしれない。

 

 ナルトは後悔した。最近チャクラ不足を感じることが多いせいか、節約を意識していたのだが、それが裏目に出た形だ。

 イナリを背負いながら、ナルトはわずかな先も見えない森を走った。チャクラ放出は最小限だが、この程度なら、猿飛の術の応用で問題ない。

 

 それよりも、いつの間にか広がっている霧に気付けなかったことが悔しかった。

 

 この肌寒い霧は、どうにも普通ではない。ナルトは予想が確信に変わっていた。

 影分身を先行させながら、ナルトたちは家に急ぐ。

 敵の攻撃がないが、それはまったく安心には繋がらなかった。

 

 ―――対象が、自分でないってことは、つまり。

 

 カカシがいるし、サスケもいる。焦る必要はないはずだが、焦燥感は消えない。感情ばかりはどうしようもない。せめてイナリにはそれを悟られないように取り繕う。

 未だにピンと来ていないのか、イナリはのんきな様子だった。霧が出ること自体は珍しいことではないらしいので、違和感を抱き辛いのかもしれない。ナルトはあえてそれを訂正しようとはしなかった。

 霧を進み、川沿いを遡り、板張りの通路に着いた。先は見えないが、この先にタズナの家はある。

 イナリが背を降りようとするのを制止しつつ、ナルトは慎重に前に進んだ。

「!」

「えっ!?」

 イナリが大声を上げた。

 半壊したタズナの家が、そこには広がっていた。

 いくつもの木片や、生活用品の残骸とでも云うべき欠片が辺りの水面をゆっくりと流れていく。呆然としたナルトの隙を突くように、イナリがもがくようにして背から飛び降りた。止める暇もなく、自分の家の成れの果てに走っていく。ナルトは慌てて追いかけた。

 

 人の気配は、ない。

 

 タズナの家は無残な有様だった。巨人の張り手でも喰らったかのように二階部分は完全に崩壊してしまっている。下の階は辛うじて壁が残っているものの、大穴の空いた天井の下を、家の残骸の破片が覆っていた。

 水に濡れた外壁を見ながら、ナルトはこれが水遁の術によるものだと理解した。突然の奇襲を受けたのだ。イナリの家族を呼ぶ声を聞きながら、ナルトは手を握りしめて動揺を殺した。

 全員、無事なんだろうか。

 状況を把握するために、多少の体力の消費は仕方がない。覚悟の上でナルトは己のチャクラを広げて周囲を探索する。 

 

 瓦礫の下の隙間、周囲の川、広げられるだけ薄くチャクラを伸ばしていく。

 一分ほど、時間を使う。

 瞑っていた目を開くと額に浮かんだ汗を払う。これだけで少し疲れた。時間が経てばすぐ回復するものの、やはり最近の自分は体力がない。

 とりあえずは、全員ここには既にいない。それがわかった。

 

「イナリ、落ち着け。ここにはもう誰もいない。多分、みんな無事のはずだ」

「落ち着いてなんていられないよ! ここはボクの家なんだぞ! 父ちゃんの写真だってあったんだ! それが、こんな………!」

「……悪い」

 

 少し言葉を切るが、すぐに繋ぐ。

 

「でもゆっくりしてはいられない。今こうしている間にもカカシ先生達は、再不斬に襲われているはずだからよ」

 

 言いながら、ナルトは敵の目的を察した。ナルトとカカシ達を引き離したかったのだろう。敵にとってナルトが唯一の不確定要素。再不斬とカカシの戦いに邪魔になる要素を排除するための行動ということだ。

 やはり再不斬はカカシとの戦いに拘っている。

 つまり逆に考えるなら相手が一番嫌がることは、カカシと自分が合流すること、ということになる。

 カカシ班は班員がはぐれた場合の落ち合う場所を決めていた。一つはタズナの家。そしてもう一つは。

 

 ―――橋だ。

 

 カカシ達はそこに向かっているはずだ。だが確証を得るには、まずは敵の動きを確認する必要がある。

 イナリはどうするか。万が一の護衛対象の避難場所も決めてあるものの、この霧の結界の中でイナリを一人にするのは、恐らくマズイ。

 

 ―――くそ、頭痛ぇな。

 

 考えることが多い。しかも周囲の警戒も続けながらだ。今この場で戦えるものはナルト一人だけ。自分の内側にのみ集中するわけにもいかない。

 イナリは連れて行こう。この霧にどういう性質があるか判らない以上は、そうする他ない。ナルトは決めた。とにかくカカシ達と合流して全員の無事を確認したい、そういう焦りもあった。

 

「……………ナルト姉ちゃん?」

 

 不安そうな声に、意識を引き戻す。見たこともない情けない顔をしたイナリが居た。震える手で、ナルトの服の裾を掴み、不安そうに見上げている。

 ナルトは、とっさに笑った。

 

「なんでもない。ちょっと考え事してたんだってばよ。大丈夫、さっさとタズナのじいちゃんたちのところに行こうぜ」

「………うん」

 

 今までの態度が嘘のような従順な態度でイナリは頷いた。表情から動揺が溢れていた。今、この場でイナリが頼れるのは自分一人なのだ。その自分が焦っていれば、それはイナリにも伝わってしまう。

 ナルトは、焦燥を笑顔の下に隠した。

 昔は必要なかった行動だ。根拠などなくても、絶対の自信が自分の中に満ちていたから。今はもう、努力が必要だ。

 イナリを背負い直すと、ナルトは、橋の工事現場の方角に足を向けた。

 さて、この霧が本当にナルトとカカシを引き離すためのものなら、スンナリとは行けないはずなのだが。

 影分身を周囲に配置して敵への警戒を続けながら、ナルトは移動した。

 そして、それは唐突に、あるいは、当然に、現れた。

 気配はなかった。しかし、前兆はあった。ナルトの感覚は確かに、背後から『何かが集まっていく』のを感じていた。

 

「イナリしっかり掴まってろ!」

 

迫り来るそれを、冷静に屈みこんで躱した。

地面に手を付いて体を反転させつつナルトは背後のナニかに蹴りを回し込んだ。

 硬い感触と、硬い音が響いた。

 

 ―――白!? いや、これは何だ!?

 

 常人なら仮面ごと頬骨が砕けていてもおかしくない威力の蹴りを受けて、それは桟橋から吹き飛び、水に沈んだ。

 同時、周囲から、霧を割いて無数の仮面の忍びが現れた。

 それもナルトの至近距離から、ナルトの分身の陣形の、その内側に、四つ。

 

 ―――なにぃ!?

 

 驚愕は声にならない。まったく気配はなかったはずだ。

 相手はそれぞれ手にクナイを握っている。ナルトは反射的に、足にチャクラを込め、そして背後のイナリを思い出す。ダメだ。猿飛の術は使えない。

 正しい判断を考えている余裕はなかった。

 ナルトは咄嗟に三代目との組手に費やした時間にすべてを託した。

 一撃目は避けた。二撃目も体勢を崩しながら躱した。三撃目は躱しきれず手で逸らし、四撃目の蹴りを捌かずに腕で受けた。

 水面に飛ばされながら、意識を集中。足に水面を感じた瞬間に、チャクラをそこに集約する。激しく水しぶきがあがった。しかし体は沈み込むことはなく、水面を一度、小さく跳ねる。縦に回転してバランスを取ると、猫のように両手両足で水面に着地する。

 水で髪や服が重くなるのを感じながら、ナルトは荒く息を吐いた。

 

「姉ちゃん!」

 

 背後のイナリが悲鳴染みた声を上げた。

 あまり喋っている時間はない。

 

「大丈夫だイナリ。オレが絶対に守る」

 

 短く告げて、ずり落ちかけたイナリを抱え直す。遅れてナルトの影分身が、こちらに集まってくる。イナリを預けるか考えるが、止めておく。

 もう一度やれと言われてもできるかどうか怪しい曲芸染みた動きで、距離を取ることに成功。しかし、喜びよりも、先ほどの蹴りで残った感触にナルトは意識を割いていた。

 硬く冷たい何かの名残を。人の感触ではなかった。

 これは、氷か。

 感覚的に理解。

 しかしどうやって自分の警戒をすり抜けたのか。桟橋上の無数の分身を警戒しつつ、ナルトは戦慄せずにはいられなかった。この術には気配がほとんどない。

 やはり妨害してきたか。しかし、これは予想以上に強固で不可解な防備だ。

 

『降参しますか?』

 

 白は静かに尋ねた。

 

「じょーだんじゃねえ!」

 

 ナルトは吠えた。

 桟橋の白の分身が『薄まった』そうとしか言えない、感覚。瞬間、分身体が消えた。

 ナルトは一瞬だけ大きくチャクラを放出した。周囲の霧は、払いのけられるよりも早く凝固し、分身体を形成する。

 

 ―――なるほどそういう術かッ!

 

 不意打ち気味にナルトの背後から、イナリを狙ってくる。ナルトの分身体が飛びつくように弾き飛ばす。

 抑え込んだ、と思ったが白の分身はナルトの影分身ごと凍り付く。相討ちだ、一体減らされてしまった。

 すぐに気が付く。初めから分身を削ることが目的だったようだ。

 こちらを消耗させようとしている。……恐らく気が付いているのだ。ナルトの自分自身のチャクラへの不安に。

 

 次々と周囲の霧から、分身が現れる。

 

 息を吐きながら、ナルトは眉に力が籠るのを感じた。

 逃げるか? ナルトは一瞬、思案したが、自分のチャクラのこともある。何度も何度も挑戦し直す余裕はない。

 今、この瞬間にもう少し、この術を把握しておきたい。

 

 まず、白はどこにいるのか。この術の範囲はどのくらいなのか。持続時間は。分身を作る以外になにができるのか。知っておくことは沢山ある。

 

 三代目から聞いたことがある。古い忍者は、時として相手の忍術を完全に把握するために一か月以上戦い続けることもあったと。そんな時間はないが、幾つかの方法は利用できるはずだ。

 ナルトの分身と白の分身が互いにぶつかり合う。しかし、最初の一体を除いて、こちらはほぼ無傷で倒しきった。

 一体、一体はさほど強くはないようだ。

 しかし。

 

「おいおい、無限かよ」

『さあ、どうでしょうか』

 

 次々と沸いてくる。

 この術はチャクラを消費しないのか? また数体が霧から生み出される。相手にしていられない。ナルトは、桟橋に上がると霧の中に佇む白の分身を睨んで内心で悪態を吐く。どうやら個体数に上限はあるようだ。

 強引に突破するしかないのか。残されたチャクラを考えると、そうするのが最上に思えた。あるいはこのまま白と戦い続けるか。この結界術を二か所同時に操っているとは考え辛い。ここで白の手を煩わせることによって、結果的にカカシの援護をできるかもしれない。

 

 ―――いや、まてよ。

 

 ふと、ナルトはあることに気が付いた。そういえば、だ。

 

 ―――ほんとうに再不斬とカカシ先生が戦うことを止める必要があるのか?

 

 再不斬はカカシを己の術で仕留めることに拘っている。それは記憶で知っている。確かに、今は相手の理想通りの展開だ。しかし、それはあくまで今現在の視点から見た、理想だ。

 

 未来の結果を踏まえれば、答えは逆転する。

 

 なぜならカカシと再不斬が霧の中で戦った場合、未来の記憶ではカカシが勝っているのだから。ナルトはそれを知っている。もちろん、すべてが記憶通りにはいかないのもわかっているが、付け加えるなら、写輪眼に覚醒したサスケと、前以上に強いサクラという二つの要素もある。

 どちらかというなら、これはこちらにとっても理想的といえるのではないか。

 少なくとも時間はあるはずだ。

 

 ならば、自分がすべきことは本当に合流することなのか?

 いや違うはずだ。やらなくてはいけないこと。やるべきこと。ナルトの頭の中で、それらすべてがゆっくりと組み上がっていく。

 

「イナリ、ちょっと行き先を変更していいか?」

「え? ど、どういうこと?」

「街に行くぞ。多分そこに、お前にしかできないことがある」

 


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