ナルトくノ一忍法伝   作:五月ビー

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50『藪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ意識を失ったまま、手ごろな木の下に寄りかからせている少女に視線を向ける。

 おそらく、いや間違いなく、これはあの赤髪の少女の物だろう。

 それぞれのパーツが辛うじて繋がっている状態のそれをナルトは慎重にバックパックにしまった。

 もはやこの眼鏡が役割を果たせるとも思えないが、一応預かっておこう。

 ナルトは最後に一度だけ辺りを見渡して見切りをつけると、これ以上小瓶を探すことは諦めた。

 呪印云々はナルトの個人的な推測にすぎない。

 それだけを根拠にあまり時間を浪費しすぎるわけにはいかないだろう。

 ナルトは仲間とは異なる視線を二つ、感じ取っていた。

 もう仙道を閉じたとはいえ、いまのナルトの感覚は通常以上に鋭敏になっている。たとえ気配を消していたとしても、これぐらいの隠密ならば見逃すことはない。

 一人は当然、だれだかわかっている。音忍三人組の最後の一人だ。

 押し殺そうとはしているが、強い動揺を隠しきれていない。

 もはや戦意はないようなので、ナルトは見逃すことにした。向かってこないなら戦う理由もない。

 もう一つは、よくわからない。

 気配を消す能力に関しては、あまり高くないように感じる。

 その人物の周りだけ小動物の気配が少ないし、木々の枝等にもそれらしき痕跡が残っている。匂いや音まではわからないが、五感か索敵能力のどちらかが優れている者ならば、きっと見過ごすことはない程度にはあからさまだ。

 なんというか、一見かなり杜撰な隠れ方に思える。

 だが、ナルトが引っかかったのはそこではない。

 この人物からは、ほとんど感情の起伏を感じないのだ。

 雑な隠密技術から感じる印象に反して、この忍は恐ろしいほどに冷静だ。

 周囲の痕跡を探っているナルトに対してわずかにも心を揺らすことなく、ただじっと淡々と観察し続けている、ように感じる。

 気色が悪いほどにちぐはぐだ。

 まるでわざと自分をナルトに見つけさせようとしているかのように。

 ナルトのその思いつきはただの直感にすぎなかったが、しかし同時に強い確信があった。

 この眼鏡がここに落ちていたのは偶然ではないのかもしれない。

 ナルトがあの小瓶を探して周辺を探索するのを見越して、あえてこの場所に証拠を残したのではないか。

 そんな想像がよぎる。

 そうであると仮定するならば、たぶんこの気配の主は大蛇丸ではない。

 あの男がこんな小細工をするとは思えないからだ。

 もちろんナルトの理解の及ばぬ理由でそうしている可能性もなくはない。けれど、ナルトたちを相手にしてわざわざこんな持って回った方法を選ぶのはやはり考え難い、気がする。

 

「…………………………」

 

 そこをあえて気まぐれでしてきそうな気もしてきた。

 うだうだ考えても答えは出ない。

 大蛇丸の思考を読み切ろうなどとしないほうがいい、どうせいまの自分程度の頭ではできっこないからだ。

 ナルトはその線の考察を早々に諦めると、もう一つの心当たりを思い浮かべた。

 どちらかといえばこういう細かい手を使ってきそうな男に一人心当たりがある。

 数時間前にようやく視界と感覚から消えてくれたあの男。

 薬師カブトだ。

 ナルトは嫌な臭いを嗅いだときのような表情で顔をしかめた。

 音忍のあの焦りようを考えると、割と当たっていても全然おかしくない。

 正直にいえば、関わりたくなかった。

 強いてさらに要望をいうならば、大蛇丸共々、金輪際木の葉に立ち入らないでほしかった。

 現実逃避に近い妄想が頭を流れていき、そして全然どうにもならない現実に戻る。

 ナルトはしばし気配をうかがったが、やがて開き直った。

 

 ──ま、べつに関わらなくていいか。

 

 ここに隠れている奴がだれであろうと、そしてどんな意図を持っていようと、ナルトには関係ない。

 もはやナルトたちは試験突破のための天地の巻物は揃っている。だれであろうとあえて関わる必要はなく、その義務もなければ義理もない。

 隠れていたいならそのままにしてやればいい。

 サスケとサクラの二人に警告だけはしておいて、それ以外のことは状況が変わったら考えよう。

 わざわざ藪をつついて蛇を出す必要はない。

 そう結論付けたとき、ナルトはもう一人、この場に今後の処遇をどうしてやるべきか考えてやらなくてはいけない人物がいることに気が付いた。

 ボロボロに傷つけられた赤髪の少女のことを。

 傍目からでもその怪我の深刻さが伝わってくる。

 見える範囲の腕や足の具合だけで判断しても、戦闘はおろか、日常生活にもしばらくは支障が出る状態だと断言できてしまう。

 もしかすると命に関わる怪我かもしれない。

 試験の期間は残り五日もある。

 放置していればこの少女がその間、生き延びられるとは思えない。

 関係ないといえば関係ない。

 しかしこれからどうするにせよ、一度助けてしまった以上は、ただ放置することはできない。

 ナルトたちだけでもなんとか応急処置ぐらいまではできるだろう。

 けれど、最善の答えはそうではない。

 だれにとって幸か不幸かわからないが、ナルトの思考はその可能性に辿り着いてしまっていた。 

 もしかすると、治療にもっとも最適な人物が今ここにいるかもしれないということに。

 ぐっ、と眉が額の中央に寄った。

『それ』を実行しても、なんにせよろくなことにならないことはわかっていた。

 けれど思いついてしまった以上は、その責任はすべてナルトの手に委ねられてしまっていた。

 助けるのか、助けないのか。

 最善を尽くすのか、あるいは妥協で済ませるのか。

 そんな単純な二択ではないことはわかっていながら、ナルトは結局、思考に張ったクモの巣に囚われるように口を開いた。

 

「────おい、そこに隠れてるやつ。今すぐ出てこいってばよ」

 

 返答はなかったが、それの代わりに近くの木々がガサガサと音を立てた。

 サスケとサクラが警戒するように身構えた。

 すぐに姿を現せない相手に業を煮やしたようにサスケがクナイを取り出すと、悲鳴のような声が聞こえて、さらに音が大きくなった。

 果たして慌てて転がり出るように現れたのは、ナルトの想像通りの人物だった。

 灰色の髪に特徴的な丸眼鏡、ヒョロリとした線の細い体型の男。

 相変わらず小物然とした雰囲気に顔に焦りを滲ませて、頭に葉っぱを付けたまま藪から転がり出てくる。

 

「待った! 降参!」

 

 そう言って、薬師カブトは緊張したような息を吐くと、少し頬を引き攣らせながら笑みを浮かべて両手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 カブトさんっ、とサクラが驚いたようにそう叫んだ。

 思わぬ登場人物に、敵対すべき相手かどうか迷うようにバックパックに手を触れている。

 

「なんでここに」

「────なんで、だって?」

 

 カブトは面食らったようにそうオウム返しすると、呆れた様子で首を振った。

 

「あれだけ派手に争っていながら、その理由をボクに尋ねるのかい?」

「そ、それはそうですけど」

「とはいえ、他の忍はキミたちの争いを察知したらボクとは逆に離れていったようだけどね。出来れば、ボクもそうしたかったところだけど」

 

 サスケとナルトに視線を向け、それからナルトたちが移動させた、並んで横たわっている音隠れの面々に視線を向ける。

 

「ボクのせいで彼らとキミたちに余計な火種を生んでしまったようだからね。ボク程度になにが出来るかわからないけれど、……見過ごせないと思ったんだ」

 

 そのせいで同じ班の二人には見捨てられてしまったけれど、とカブトは自嘲するように呟いた。

 かつてのナルトなら素直に感動していたであろう、演技臭さをまったく感じさせない実直なしゃべり方だった。

 ちらり、とサクラがナルトに視線を向けてきた。

 カブトの仲間の気配はしない、そういう意味を込めて、ナルトは小さく頷く。

 サクラはその瞳にあった疑惑を消して、バックパックから手を離すと、力が抜けたように呟く。

 

「……なんだか随分忍に向かない性格ですね」

「はは…………、ボク、一応キミらの先輩だしね。それに結果的にボクの出る幕はなかったみたいだから、ぜんぜん意味はなかったけどね。まぁ、それならそれでそのまま見つからずに立ち去りたいところだったんだけど」

 

 そこで再びナルトに視線を向ける。

 あはは、と情けない声で力なく笑うと頭の後ろをぽりぽりとかいた。

 

「ボクの拙い隠密がナルトさんに見破られてしまって、いや本当に情けない限りだよ」

「……………………」

 

 口先だけの虚言にナルトは苛立ちを隠した。

 カブトは一切真実を言っていない。けれど、おそらく嘘も言っていない。

 ただ、都合のいい様に言い換えているだけだ。

 ナルトたちの戦闘が目立ったのは本当だが、カブトがこの場に居る理由はそれとは関係ないだろうし、余計な火種云々は、元々この男が狙って作り出したもののはずだ。

 あれも虚言、これも虚言。

 この男の言葉には真実がない。

 ナルトは自分がカブトに苛立つ理由がもう一つわかった。

 自己嫌悪だ。

 この男を嫌悪するたびに、どうしても自分の今の振る舞いを顧みざるを得なくなってしまうからだ。

 木の葉の仲間に、ましてや同じ班の二人にすら己の内心を偽っている自分自身の姿を。

 ナルトはそんな自分の行動を決して好ましくなど思っていなかったが、そんなことがなんの免罪符にもなりはしないこともわかっている。

 だからこそ、こんなことを平気な顔をしてやり続けられる目の前の男が厭わしい。

 やっぱりこいつは嫌いだ。ナルトは八つ当たり気味にそう思うことにした。

 

「あ、一応言っておくけどボクは、巻物は持ってないからね」

 

 カブトが思い出したように付け足した。

 

「証拠はないけど、そんな重要な物を持っていたら仲間がボクを見捨てるはずないし、説得力はあるでしょ?」

 

 ははは、と先ほどのように自虐的に笑う。

 聞いた人間が思わず毒気が抜けてしまいそうになる気の抜けた笑い声だった。

 

「というわけで、できれば無駄な争いはせずにボクを見逃してくれると────」

「アンタ、怪我の治療とかってできる?」

 

 話の流れをぶった切ってナルトはたずねた。

 できることは知っているのでこれは単なる認識のすり合わせに過ぎない。

 

「ん、…………ああ、まぁね。ボクの育ての親は医療忍者だったから、普通の忍よりは多少は出来るとは思うけど」

「えっ、カブトさんって医療忍者なんですか?」

 

 医療忍術の習得難度を知っているサクラが驚いた様子で聞くと、カブトは首を横に振って否定した。

 

「いや、ボクはそんな大層なものじゃないよ。実はボクはあまり出来が良い方じゃなくてさ。ま、多少の心得があるだけだよ」

「だったら悪いんだけど、アイツの応急処置、してくれねーか?」

 

 ナルトがそう言うと、カブトは初めて気が付いた様子で赤髪の少女に視線を向けた。

 

「あの子のこと?」

「ああ」

「…………よく、事情はわからないけど。いいよ、それぐらいなら」 

 

 戸惑った様子ではあったがカブトは頷き、少女に近づいた。

 少し真剣な顔になると、呼吸を確認してから、服の上から体に触れる。

 脈でも取ろうと思ったのか腕を持ち上げたそのとき、少し動きが止まり、目を見開いた。

 

「…………これは」

 

 そう言ってわずかな時間沈黙したのちに、ナルトたちに振り返った。

 

「ボクに処置を任せてくれるなら一つ聞いて欲しいんだけど、付き添いは一人ぐらいでいいんじゃないかな。気が散るし、服とかも脱がさなくちゃいけないかもしれないからさ」

 

 少しその態度に引っかかったが、言っている内容自体は真っ当な要望だったので、ナルトたちはそれに従った。

 ナルトは、二人に自分が残って見届けると告げた。

 自分が言い出したことだからそれが自然だろう。見ているだけなら大した知識のないナルトでも困ることはないはずだ。

 サクラはすぐに了承して、周囲の警戒をしていると答えた。

 同じ流れでサクラがサスケにもそれを促すと、特に異論を挟むことなくサスケも少し離れた場所に歩いて行った。

 先ほどから少し気まずい空気が流れていることを知ってか知らずか、サクラが上手く間に入ってくれたのでナルトはどこかほっとした気持ちで内心胸を撫で下ろした。

 去っていくサスケの背から視線を切ると足元の少女とそこに跪いて診察しているカブトに視線を戻した。

 どうしてか、この少女の赤い髪を見ていると、無性に胸の傷がざわついた。

 

「傷は、深いのか?」

「いいや、そうでもないよ。あ、いや、それはちょっと違うかな。確かにこの子の傷は深かった。けれど、もう治りかかっているよ」

「え?」

 

 治りかかっている? 

 そんなはずはない。いくら忍の身体は回復能力が高いとはいえ、骨折や切り傷がわずかな時間で治癒するほどのものではない。

 できるとするならば、自分のような人柱力ぐらいのものだ。もちろん、ナルトが知らないだけでそのような能力の忍がいてもまったくおかしくはないが。

 しかしそうだとするならば、わざわざナルトがカブトを呼んだ意味はなんだったのかという話になってしまうだけれども。

 カブトは治りかかっているとは言ったものの、その診療はとても丁寧だった。傷口を水で洗い、そして消毒をしてから包帯や湿布を患部にそれぞれ処置を施していく。

 

「……………………」

 

 声や態度に出したつもりはなかったが、カブトはナルトの疑問に先回りするように呟いた。

 

「治りが早いとはいえ、しっかりと処置しておいた方が身体への負担は少ないし、そうした方がもっと早く治る」

「……そうか」 

「それに、いくら身体が丈夫でも、怪我をしているのに誰も気にしてくれなくて、放っておかれたまま何もしてもらえなかったら、辛くないわけじゃない」

「──────―」

 

 その言葉を聞いたとき、ナルトは反射的に拳を握った。

 古い記憶が、意識の底から浮かび上がってくる。

 視線を反らし、足元の雑草にそれを彷徨わせる。

 思考が纏まらずに落ち着かない。

 ナルトは意識をリセットするために、わずかな間だけ目を閉じた。

 警戒はしていたつもりだった。何を言われても動揺するつもりなどなかった。

 なのに、この男の正体を知っていてなお、その言葉に一瞬、心が揺れてしまった。

 やはり、この男は嫌いだ。

 

「キミがこの子を助けたい理由はわかるよ」

「……………………?」 

「キミもわかっているんだろ。なにせこの子はキミと同じうずまき一族なんだから」

「うずまき、一族?」

「────あれ、もしかして知らなかった?」

 

 カブトはナルトを見上げながら、余計なことを言った、とばかりにパシリ、と口を手で覆った。

 ナルトは想像だにしなかった情報に、再び動揺が首をもたげた。

 脳裏にドスが言いかけていた言葉を思い出す。

 この子はナルトと同じだと、そう言っていた。

 同じとは、同じ一族、という意味だったのか。

 

【…………………………】

 

 横目にナルトを観察しながら口元を抑えていたカブトは、躊躇うように、あるいはもったいぶるように、ゆっくりと喋りだした。

 

「かつて火の国の同盟国であった小国の『渦の国』。その隠れ里であった渦潮隠れを支配していた一族のその末裔、それがキミたちだ」

 

 渦の国、渦潮隠れ、どちらも聞いたことがない。

 真偽が判断できない情報に踊らされるべきではないことはわかっている。けれど、いまカブトが嘘をついていると判断することもできない。

 

「けれど、もう滅んだ国なんだけどね」

「……………………」

「ボクはうずまき一族は、赤い髪と、強い生命力が特徴だと、いつか医学書で読んで、それで知っていた。だから、すぐにこの子がそうだと気が付いた」

「……………………赤い髪」

 

 カブトの言葉を裏付けるものなどなにもない。けれど、ナルトはそれが事実なのだと、心のどこかで認めてしまっていた。

 この子の髪を見ると自分の心が落ち着かない理由、それがそれだけで説明できてしまうからだ。

 

「それに、これは言うべきか判らないんだけど」

 

 そうカブトが呟いたとき、ナルトはそれ以上この男の言葉を聞くべきじゃないと直感した。知るべきではない。喋らせるべきではない、と。

 

「うずまき一族にはもう一つの特徴があるんだ」

 

 光の加減で眼鏡が反射して、カブトの表情はわからない。

 

「彼らがもっとも得意とした忍術、それが」

 

 カブトはナルトにだけ聴こえるような囁く声で、こう続けた。

 

「────封印術なんだよ」

 

 

 





 Q 『NARUTOの世界で強くなるとどうなるの?』

 A 『ランクが上がり、より上のレート帯の相手とマッチングするようになります。なおランクに上限はありません』

 追記『一度上がったランクは如何なる方法でも下げることはできません。ご了承ください』
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