暗闇を照らす一陣の闇 作:定則
タッタッタンッタッ…
広いレッスンルームに、小気味良いリズムに乗ったステップの音が響く。
「5、6、7、8っ。それじゃ、今日はこれまで」
「ッ。ハァッ…はい。ありがとうごさいました。明さん」
どうやら、今日のレッスンはここで終わりのようだ。
本日のトレーナーである女性、青木明さんに礼を言って、壁際に置いていたスポーツドリンクを取りに行く。
「コキュコキュ……ふぅ…」
ドリンクを口に含んで、水分と、スタミナ回復に努める。
「ふふっ。お疲れ様、飛鳥ちゃん。それにしても、ここ最近は随分頑張ってるね?」
「ああ、そろそろボクはバースデーライブが有るからね」
飛鳥と呼ばれた少女、二宮飛鳥は、問いに答える。
「ボクがソロで
それに、と一拍置いて、
「頑張らないと、何時までもあの人には追いつけないからね」
「…そっか。飛鳥ちゃんは初めから楓さんが目標だもんね」
「ボクはスカウトされた身だけどね。それじゃあ、そろそろプロデューサーの所に向かうとするよ」
スポーツドリンクを手に持ち、着替える為に更衣室へ向かう。
「頑張ってね。飛鳥ちゃん」
「ああ。ありがとう、明さん」
・・・
トン、トン…
「…?はい、どうぞ」
割り当てられたプロデューサー用の個室でPCと格闘していると、突然扉をノックする音が聞こえてきた。
楓さんは現在仕事でスタジオに居る。飛鳥のレッスンも、終わる時間にはまだ早い。この時間に誰かが来室するという連絡もないはず。
考えても解らないので取り敢えず入室してくるのを待つ。
「失礼します。お仕事中申し訳ありません」
果たして、入ってきたのは武内Pだった。
「おお、武内か。どうしたんだ急に」
「いえ、少しお見せしたいものがありまして」
そう言って武内は、一束の書類を見せてきた。
「…これって、シンデレラプロジェクトの選考書類か?それも、第三選考ってことは、まだ決定した訳ではないんだろ?そんなもん見せてきて、一体なにが…」
唐突に、一枚の書類に視線が留まる。
「…武内、これは」
「…このまま進めば、確実に最終選考も通過するようです」
件の選考書類には、顔写真が貼られていた。その容姿は、『目を引く銀髪に真紅の瞳、透き通る様な白い肌を、漆黒のゴスロリ服で染め上げた少女』。
「神崎蘭子ちゃん、かぁ…」
少し、考え事をする。
「…よし。武内、少し、頼みを聞いてもらえるか?」
「?何でしょうか」
「もし、このまま彼女が合格したら、一度会わせてもらえないか?その時は、飛鳥も同伴で」
「構わないと思います」
「大丈夫そうか。ならもう1つ、こっちは、頼みと言うより相談なんだが…」
「相談、ですか?」
「おう。ちょっと耳を貸してくれ」
…これは少し面白いことになるかもしれない。
・・・
トントン
ノックをして、扉を開ける。
「失礼します」
中に入ると、某碇司令の様に椅子に座し、何やらニヤニヤした様子の我がプロデューサー。
そして、何故か武内Pがいた。
「レッスンお疲れ、飛鳥」
「ああ、そちらこそお仕事お疲れ様。それより、何でそんなにニヤニヤしているんだ?それに、武内さんがいるなんて珍しいじゃないか」
ボクがそう言って彼に目を向けると、武内さんが律儀に挨拶をしてきた。
「二宮さん、レッスンお疲れ様です」
「ありがとうございます。武内さんもお疲れ様です」
さて、挨拶も済んだところで、本題に入ろう。
「プロデューサー、一先ず、質問に答えてくれるかい?」
「…ふふ、飛鳥。一人は嫌か?嫌だよな?」
「…は?急に何を言い出すんだい、キミは」
唐突過ぎるプロデューサーの物言いに、全くもって理解が追い付かない。
ボクがそう疑問を浮かべると、プロデューサーは1枚のコピー用紙を差し出してきた。
「CP第三選考オーディション…彼女がどうかしたのかい?」
「飛鳥はその子を見てどう思った?」
「え、どうって…一目見て独特な印象を与えてくれるね。美穂さんの様に如何にも“カワイイ”アイドル然としていない。あえて言うなら、ボクに近いものを感じる。それに、このゴスロリチックな装い…もしや彼女は所謂ちゅうに…」
「二度目になるけど、飛鳥、一人は嫌か?」
「…あの、だからその言葉の本心が……まさか」
「少し改めさせてもらうな」
「…その子、神崎蘭子とユニットデビューしてみる気はないか?二宮飛鳥」