来た。
突然人里に入ってきたマンドリルに集落中は当たり前だが騒然としている。もちろん本当に攻撃してくることはないが、逃げ惑う住民に近寄って驚かせながら集落の奥へ奥へとやってくる。
俺たちは「知っている」ので突然の事態に驚いたように地面にスケッチブックを置き去りにしつつ族長のテントの方へ向かった。
気の早いマティカなんてもう剣を抜いている。やる気十分なのは実になによりだがはえぇよ少しは落ち着け。
まて、ガトゥーザも弓をキリキリ言わせるんじゃない。こっちは既に精霊の声を聞いているのか聞きやしねぇ!
武器も出さずに落ち着いているメルティーを見てくれ! いやこれは……呪文を構えてるな、よし、全員「命令させろ」で武装解除させてぇ。
とはいえかわいい人間たちの健気なやる気をどうして叱れるだろう。だが、合図をするまではちゃんと待ってるいい子たちだから助かった。
とりあえず諦めてオレはシャルマナが騒ぎを聞きつけるのを待った。
気弱な人間を演じているナムジンは族長に魔物退治を命じられたが嫌がり、シャルマナはそれを肯定する。
シャルマナは次期族長であるナムジンの成長を妨害して、ゆくゆくはこの集落を完全に乗っ取ろうと思っていたのか?
ポギーを倒そうとシャルマナが前へ出てきた時、奥で震えていたナムジンが族長に連れ出され、強制的に戦わされる。
互いに手加減をしているが、ナムジンのへっぴり腰の演技がうますぎて多少変な動きをしても誰も疑わねぇ。
まったくあの幼い子は演技派だな、自分の父親さえ騙しているなんてやるもんだと感心しつつシャルマナの様子を伺う。
呑気にスキを、晒してやがる。
よくよく見ても姿かたちはただの人間の女性そのもの。天使に透視の特殊能力はねぇから目を凝らしたって「正体」なんてわかりゃしねえ。ナムジンはよく気づけたな。
ほどなくしてポギーが倒れた演技をし、ぐずぐずと泣き真似をしていたナムジンに無防備なシャルマナが近づいて褒めようとした。
「今だポギー! 飛びかかれ! シャルマナ、正体を表わせ!」
アバキ草の汁らしきものをふりかけたナムジンと突然のことに驚く族長。シャルマナの身体からは禍々しい紫色の煙がたちこめ、シャルマナの姿が変化する。
皆で顔を見合せ、さらに近づくと巨大な魔物の姿を現した。
現れたのは紫の肌、膨れ上がった巨体、鋭い牙、長い舌。
二本の足は溶けて混ざり、ウミウシのように巨大な触手のようなもので体を支えている。
結構な呪文の使い手に違いねぇ。
こんなにも人間からかけ離れた本性をただの人間の姿に変化させ、立ち振る舞いや身体の大きさの違いからくる違和感さえ乗り切り、恐らく昼夜問わず高度な変化の呪文を維持し続けていたんだからな。
「もう少しで呑気な遊牧民どもを利用し、この草原を我が手に収められたものを……!」
その野心はいただけないな。わざわざ人間に擬態してまで入り込んできた魔物。今まで人に直接的危害は加えていなそうだが、その発言を聞いちゃあとりあえず倒さない訳にはいかねぇよ。
やる気満々で手近な俺たちに襲いかかってくるとは好都合だ! 今の間にナムジンは住人たちの避難を頼むぜ!
「妖精たちよ、力を貸してください!」
妖精たちのポルカを発動させ、妖精に力を借りると視界を覆うほど飛び交う精霊たちも真似して力を貸してくださる。
一気に晴れた視界の向こうで化け物そのものの姿に変化したシャルマナに斬りかかるアーミアスさんの姿が見えて思わず絶叫しそうになる。
シャルマナの本性は巨大なウミウシのような魔物で、その大きさは人の身体とは比較にならない!
いくらアーミアスさんといえど最前線で組み合うには危険すぎる!
ああこんな時魔法使いなら遠くからでも……いや、今の私は弓使い。
遠くからだって攻撃できますとも!
メルティーのルカニが正しく発動した瞬間、少年が風のように走り、シャルマナに斬りかかる。
それを援護するように弓を射てアーミアスさんからシャルマナへの注意を逸らそうとすると、アーミアスさんの透き通る声が聞こえました。
「前衛は俺だけ、マティカは下がってください!」
「そんなの無茶だよ!」
「いいえ下がってください!」
返す刃に斬りこんだ少年がシャルマナを踏み台にし、大きく宙返りして私たちのところに戻ってくる。
アーミアスさんはいつだって私たちのことを一番に守ろうとしてくださる。
だけど。
私たちだって、守られてばかりでは耐えられません!
むしろ肉壁として使っていただければ!
ぜひ、ぜひともこの不肖ガトゥーザ、アーミアスさんの使い捨ての肉壁という栄誉にあずかりたいのですが!
レンジャーに転職した今、いかにも打たれ脆い後衛職ではなくなった今!
パラディンであらせられるアーミアスさんや盾を装備していないとはいえ前衛職バトルマスターである少年より劣りますが! それでも!
ガトゥーザはとってもいい肉壁なんです、結構いけます!
妖精たちのポルカのお陰で守備力も上がっていますよ!
と主張したいのですが!
あぁ、仁王立つように私たちを庇うアーミアスさんにシャルマナの邪悪なる呪文が炸裂しようとして、私はとても間に合わず、急いで回復呪文を口ずさんだその時。
「今です、一斉攻撃!」
呪文はアーミアスさんに届きませんでした。
一体何が起きたのか、一瞬分かりかねて。
「マホカンタ? いえ、パラディンは使えないはず……あ! なるほど! 流石はアーミアスさんです! メルティーは景気よく全部の魔力を解き放ちたいです! 燃えろ燃えろ! 燃やせ燃やせ!」
「なんだか分かりませんが了解です!」
なんだか分かりませんが、アーミアスさんはピンピンしていらっしゃる!
そうですよね、アーミアスさんは麗しくも慈悲深い、この世で最も尊き天使様!
魔物風情があの白磁の肌に傷をつけようなどおこがましいにも程があるんですよ!
アーミアスさんの「命令」に嬉々として飛び込んで剣撃を繰り返す少年の髪の毛を掠める勢いでメラミを連発するメルティーには何やらわかったようなので、これでいいんでしょう!
精霊に照準補助を受けながら私も遠距離射撃を繰り返し、時折こちらにまで届くシャルマナの放つ呪文は何故か半減している様子で、これは好機!
もちろん、最前線で攻撃を受け止め続けるアーミアスさんを注視! させて頂きながら、適切に回復呪文を唱えながら、袋叩きです!
唱えども唱えども邪悪な呪文はアーミアスさんには届かない様子で、「光る盾」がアーミアスさんを守っている様子。
時折杖で殴打してくることと、突風を巻き起こしてくるのは厄介でしたが、それでもいかにも得意そうな呪文を半分封じられていてはシャルマナも分が悪かった様子。
ほどなくして、大きな図体はぺしゃんこに潰れ、脅威は退けられたのでした。
先頭に立つアーミアスさんはそうなっても剣を下ろさず、立ち込める煙の向こうの、シャルマナの真の姿を見極めようとしているご様子でした。
いてつくはどう使って来ない低レベルのミルドラースにスカラ+ミラーシールド+吐息返しで固めたパラティン天使を生贄に捧げて袋叩きにしたの楽しかったなぁ〜 と思い出したので早くリメイク出て欲しい