闊歩するは天使   作:ryure

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93話 制服姿

 そこは一面の雪景色。

 

 一昨日まで過ごしていた一面の緑の世界から一転して、ここは凍える雪の世界のよう。

 

 何を思ってこんなところに学校を建てたのでしょう。

 

 もちろん、春は来るのでしょうが……冬の季節が厳しすぎやしませんか。

 

 環境はともかく名門校だとか……生家メロイドギーネに金がまだ残っていれば私もここで青春を過ごしたのでしょうね。ま、唯一の娘を家から出して逃げられてはいけないのでそうはしなかったかもしれませんけど。

 

「さ、さ、寒!! 寒いよメルティー姉ちゃん、お願いあっためて」

「私の火力じゃうっかり燃やしてしまいますけど、いいんですか少年」

「ほらマティカ、俺の外套を着てください。オレは寒さには多少強いですから」

「今火力調整を完璧に習得しました。私が歩く焚き火です。私が生きている暖炉です。どうぞ暖をお取りください。アーミアスさん、どうかどうか外套を着てください」

「天使界は上空にあるので寒さに関しては本当に平気ですよ。でも、メルティーのご厚意であたたかいのは本当に助かります」

「気休め程度にフバーハ掛けておきますね。精霊にアーミアスさんを温めていただけるよう頼みます」

「なにかさっきから肩が重いと思ったら……」

「精霊が鈴なりです。最初に乗っていたズーボーさんは他の精霊に埋まっています」

「なにか潰れたような小さい声が聞こえるような気がしたと思っていたんですよ……」

 

 吹き付ける吹雪に震え上がった少年がアーミアスさんの外套の下にすっぽり収まっているだけでも腹立たしいのに、チェインメイルに身を包んだアーミアスさんが外套を脱いでしまわれたら……見ているだけでも寒いです。

 

 大丈夫だとはおっしゃいますが、それはそれ、これはこれ。

 

 本当に平気でいらっしゃっても信徒としてできることはしなくては。そう、お役に立てるならなんでも。

 

「地図によればエルシオン学院はもう少し北ですね。代わり映えのしない白い景色で合っているか不安になりますが……あまり到着が遅くなるようでしたら、ルーラで戻って日を改めますしその時は天気を見て移動しましょう。慣れない環境ですから今日は無理をせずに行きますよ」

「方角についてはガトゥーザにお任せ下さい。なんなら先導させて頂きます」

「有難いことですが俺が先頭に立ちます。人間が低体温になるのは本当に怖いですからね。方角だけ教えてください」

「はい、では……」

 

 ひとかたまりに団子のようになり、ゆっくり進んでいきます。

 

 魔物もあまりの猛吹雪で外にいないのか、私たちしか世界にいないような錯覚まで覚えながら。

 

 ふくらはぎまでしっかり埋まりながら、炎を絶やさぬように杖を握り。反対の手は兄さんの手袋をしっかりつかみ、その兄さんは少年の肩に手を乗せ、少年は両手をアーミアスさんの腰に回しています。

 

 アーミアスさんはフルフェイスの兜を被っていらっしゃるので時折目元を覆ってしまう雪を払い落としながら、言葉通り寒さを感じさせることなく私たちを先導してくださりました。

 

 不敬ながら、天使様の住まう場所……つまりアーミアスさんの故郷を一目見ることができたら、と思わなくもなかったのですが。

 

 高山が冷えた場所であるように、天使様が住まうほど高い場所となれば人間の脆弱な身体では到底耐えられないのかもしれません。きっと空気も薄いのでしょうし、だからでしょうか。そんな人間にとっては厳しい環境から地上に降り立ったアーミアスさんが人ほど眠ることもなく、疲れを見せることも少なく、私たちを庇ってお辛い状況のはずでも笑顔を見せて……あぁいえ、このような詮索そのものも不敬なことなのかもしれませんね。

 

 天使様は人と形が似ているだけ。人間の物差しで比べるべくもない神聖な存在なのですから。

 

 アーミアスさんはお優しいのでそうは感じさせないように振る舞われていますが、弁えなければなりません。アーミアスさんのお役に立てるようにいい感じの炎を維持し、エルシオン学院に着いた暁には服を乾かす大役を買って出なければ!

 

 

 

 

 

 

 

 こぢんまりとした「寮」にて。四人もいれば窮屈だが、まぁ人の耳がなさそうなのは幸いだろ。

 

「あれよあれよと正体不明の探偵のお仲間扱い。学生が行方不明になっているだとか、不穏ではありますが。この歳になってから学生扱いとは。もしかして私たちも制服を着るのですか」

「二十歳を越えてから名門校の制服を与えられても胸が踊る前に困惑が勝ります。学問に年齢は関係ないといえど、とうに嫁に行っているような、子どもがいてもおかしくない年齢の女の制服姿とは……」

「なんかおおきいよコレ」

「ふふ、ブカブカですねマティカ。多分俺のサイズだからですよ。マティカのサイズの制服も買って差しあげます。あのふたりも必要そうですかね?」

「要らないんじゃないの。アーミアスさんはあのふたりより年上なのにセーフクは嫌じゃないの?」

「はぁ、天使の服も一種の制服のような、いえ民族衣装と言った方が実態に近いかもしれませんが制服的でしたし。少なくとも見た目年齢は違和感ないので嫌というわけではありませんよ。人間の勘違いに乗っかる形になってしまいましたが、『探偵』として生徒に扮するならそうします。部外者のままでは探索するのも困難でしょうし」

 

 リッカたんがここのブレザーとスカートを履いてくれたらマジペロい、なんて思ってないからな!

 

 そんなの……そんなの……俺はもうこのブレザーを脱がない。同級生シチュで「おはようアーアミス」してくれるクラスメイトのリッカたん(幼馴染)(入学時から同じクラス)(席は隣)と考えただけでペロッペロすぎて動悸が……あまりにも良すぎて星になってしまうだろうが!

 

 人間は素晴らしい。制服の概念を考え揃いの衣装で幼き人間の中でもさらに守るべき年の頃の人間が集団生活を営みながら学習し、時に切磋琢磨し成長していく場を設ける……?

 

 圧倒的天使得。完全に俺得。ここが地上の楽園ということか。どこでもいいから人間がひとりでもいればもうそこが俺にとっての幸せの国なんだが、それはそれとしてだな!

 

 本物の「探偵」とやらが到着したらまずいかもしれないが、その時は誠心誠意詫びさせてもらう。今はどこかにあるかもしれない女神の果実の捜索のためだから仕方ないな、よし!

 

「さて、まずは設定から考えていきましょうか」

「設定、ですか?」

「マティカと俺は見た目的に編入生ということに致しましょう。容姿は似ていないので、単に同じ町から来たとでもしておけば知り合いでも変ではないでしょう。

メルティーとガトゥーザは遥々遠い街から来た俺たちの護衛ということにして、架空の保護者に俺たちがきちんと到着したことや問題なく馴染めているかを確認するために到着後も学院にしばらく残ったというていでいれば『知り合い』であっても不自然ではありませんよね」

「なるほど。つまり、架空の保護者に雇われたので、暫定的にアーミアスさんが雇い主のような扱いで護衛任務に着いていたという扱いですね」

「そうです。そうであれば学校について保護者が聞きたがっているということで聞き込みもできるでしょう。ですが、確か校長が言っていましたが……部外者かつ大人では多感な学生たちは話したがらないかもしれませんね。

なので、ふたりは寮母や先生など『大人』をメインに話を聞いてもらいたいのです。並行して女神の果実を捜索してもらいますが、あのように目立つものであればわざわざ意識せずとも問題ないでしょう」

「そうですね。精霊にもお願いしておきます」

「頼もしいです。それでは、俺はマティカと制服を購入してきますので。メルティー、ガトゥーザは……問題なければ単独行動でも構わないですが、ふたり一緒の方が不便がないでしょうね。任せます。

落ち合う場所はこの部屋で。それでは」

 

 さぁ、マティカにピッタリの制服を買ってやって、近所のお兄さんというポジションのつもりでウキウキ学生変装の時間だ。

 

 兜を被ったままだと怪しいよな? 色んな授業があるだろうし、きっと戦闘に関するものもあるだろうが……ま、まぁ制服を着ていれば編入生にしか見えないだろ。

 

 間違っても人間たちの楽園……もとい学校に天使が編入してくるわけないしな!




エルシオンが共学で良かった
メダ女が女子校なばかりに星の数ほどイレブンが女装させられているのを見た
似合っていた
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