闊歩するは天使   作:ryure

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94話 友達

 エルシオン学院、売店の前にて。

 

「とてもお似合いですよ、マティカ。すっかり大人びてしまって。俺は、嬉しくてどうにかしてしまうかもしれません……」

「わわ、わ、嬉し泣きしないでアーミアスさん!」

「健やかな成長こそ俺の喜びです。制服姿、似合ってますよ」

「アーミアスさんも! すっごく似合ってる!」

「おや、ありがとうございます。じゃあ、はぐれないように行きましょうか」

 

 「転入生」は、周囲の囁きに気づく素振りを見せずに同じく転入生の少年となにやら話している。売店で買ったばかりの制服にズボンまで身を包んで、嬉しそうに微笑む。「転入生」の一挙手一投足が注目され、さり気なく手を止めた人々はその微笑みを受けて目が離せなくなる。

 

 気づけば「転入生」は周囲全ての視線を集めていた。薄曇りのような色の巻き毛、星を宿したように輝く夜の瞳、雪のように白く滑らかな肌、そして彫刻のごとく整った美しい顔……「天使のような」と表現するのにふさわしい美貌に、聖歌を歌うにふさわしいアルトの声。

 

 「嬉し泣き」している姿はまさしく、天使の慈悲のよう。

 

 一体、理事長はどんなツテで彼、あるいは彼女……一応追記しておくと、「転入生」はズボンの制服を選んでいた……のような人間をこんな辺境の地に連れてきたというのか。

 

 連れ合いの金髪の少年は周囲の視線に気づいていて、すべてから警戒するように「転入生」の手をぎゅっと掴んでいる。彼らの背には使い込まれた形跡のある剣があり、エルシオン学院に入学するに相応しい試験を正しく受けているのが伺わされた。

 

 はてさて時期外れの転入とは彼らの正体は自分で学費を賄う流れの冒険者か、いやそれにしては若すぎる。金髪の少年より、「転入生」の方が歳上に見えたが、それにしてもふたりして冒険者としては若すぎる。

 

「いけない、手が冷えています。校舎のどこか、暖炉のあるところで暖まらせてもらいましょうね」

「うん。おれ、早く教室がみたいな」

「分からなければ理事長に聞いてみましょう。俺たちがどこのクラスに振り分けられたのか……同じだといいですね」

「きっと一緒!」

 

 そんな会話をしながら、仲良さげに歩いていく姿をそこにいた人間は魅了されたようにぼうっとした目で見送った。

 

 程なくして我に返った生徒たちはやがて追うようにして校舎に入っていったが購買の人間など役目がある大人たちはそうするわけにもいかない。

 

 どこからともなくため息が聞こえ、しかしながらこの学院は全寮制なのだからこれから接点を持つことも、「転入生」と同じ時間を過ごすことも出来るのだ。あの、「天使」のような少年と。

 

 好き勝手な噂はすぐに広まる。

 

 曰く「彼」はどこかの名家の子息で、やんごとない事情で学生の年齢の侍従をつけて転入してきたのだとか。いやいや、「彼女」は年齢に見合わぬ名うての冒険者で学費が貯まったので時期外れに転入してきたのだろうとか。

 

 はたまた理性を吹っ飛ばして「転入生」は天から落ちてきた天使様に違いない、学院に保護されたのだと理屈の通らない主張する者までいた。

 

 時同じくして、少年たちの様子を伺っていた若い男女が、「転入生」周囲にきた、魅了され頭がぼうっとしてしまった人間たちから片っ端から話を聞き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、俺に割りあてられた部屋を占拠していた彼ら。なんだか制服を着崩していましたね。斜に構えたいお年頃なのでしょうか……幼き人間のそういうところも可愛らしく感じますが、彼らは校舎内で見当たりませんでしたね」

「おれ知ってる! 不良ってやつでしょ。せっかくこんなにいい学校に入って、たくさんお金も払わなきゃならないのに不真面目にやるのは損だと思うな」

「マティカは非常に合理的で真面目ですね。彼らには彼らなりの事情や主張があるのでしょうが……。しかし……誘拐事件が起きているというのに教師の目の届かないところにいるのは危険です。複数人で行動しているとはいえ、昼間とはいえ。何が起こるかわかったものではありませんし、探しましょうか」

「うん!」

「しかし、ひとりで事足りましょう。マティカは受けたい授業があれば受けてきてもいいのですよ?」

「今のアーミアスさんは制服を着ているから、ここの学生だと『犯人』も考えると思う! だから、ひとりで行動するのは危ない……かも」

「確かに、その話だとマティカもひとりで行動していただくのは危険ですね。俺の心配までしてくださって嬉しいです。じゃあ一緒に行きましょうか……おや、噂をすれば……」

 

 寮の部屋にたむろしていた彼らが友達と喋りながら外に出ていくのが見えた。

 

 結果的に俺たちは世界中を巡る旅をしている訳だがそれすなわち新しい場所で新しい人間に出会う訳で、幼き人間のパワーを浴びて健康になって仕方ねぇぜ。あっち見てもこっち見ても可愛くも愛しき、今を生きる人間たち……。

 

 こうしちゃいられない。マティカの言うとおりの「不良」で、大人に反発する年頃の幼き人間の場合、何か知っていても伝わっていない可能性もあるしな。

 

 俺としてはわざわざ寒い外に行くんじゃねぇ、風邪ひいたらどうすんだとか、反対に寒さをものともしない健康で元気な人間の様子を見れて幸せが限界突破しちまった! とか言いたいことも沢山あるが、まぁそんなのはどうでもいいんだ。

 

 マティカの手を引いてゆっくり後を追いかけつつ、さてどうやって話しかけるか。直球に聞くのは流石に怪しいよな?

 

「おれがあの人たちのオトモダチになりたいって話かけてみる!」

「おや、助け船を出されてしまいましたね。どのような話題を出せばいいのか迷っていたのですよ」

「えっとね、あぁいう雰囲気の人たちとは結構話したことがあるから……ちょっと遅れて合流してくれる? アーミアスさんのこと、同じ街から来た転入生なんだって紹介する」

「分かりました。何かあったらすぐに大きな声をあげてくださいね」

「流石におれがいくら小さくても剣を持ってるバトルマスターになにかしてくることないと思う、あの手の人たちそういうことには敏感だし!」

「そういうものなんですね」

 

 元気よくマティカが駆け出して行くのを見送った。

 

 入れ替わるようにピンクの光がくるくると回って現れ、俺の前にサンディが妖精の姿を現した。

 

「上手いこと潜り込めてよかったじゃん、アーミアス。事件あるところに女神の果実アリって言うし! 事件解決しつつ、女神の果実を探すんでしょ?」

「えぇ、もちろん。サンディは今回も『捜し物』を?」

「そういうカンジ。でも流石にここにはなさそうカモね」

 

 なにやら水面下で探し物をしているのは知っていたが、いい加減短い付き合いでもねぇんだ話してくれたらいいのにな。ま、無理に聞き出すこともないか。

 

 俺は自称人間大好き天使だが、人間じゃなくとも、上級天使からの命令じゃなくとも付き合いの長い人以外の頼みを聞かないほどの偏屈じゃねぇんだけどな。

 

 ま、人間以外から見れば俺ってド級のロリコンであり倫理終わったショタコンというか、他種族に妙に傾倒するド変態だろうし、……メンタルにクるから考えるのやめとくか。

 

 さてそろそろいいかもな。マティカが歩いていった方向に行くと、……何だこの空気。

 

 別に剣を抜いているわけでもないのに物々しいというか。なんかしたのか? 仲間の中でも特に幼く健気でかわいいマティカに限って……いや……あんまり変わらねぇわ。

 

 俺に快く手を貸してくれるってだけで百点満点通り越して五千点の最高に優しくていい子たちなのは間違いないが、少し、すこーしばかりブレーキが必要なお年頃。信仰に篤く、敬虔すぎてちっとばかり過激派……神様には俺も会ったことがないが、「天使」なんて実態はコレなんだからもっとラフに接してくれても良いのになんて思うような……。

 

「マティカ、どうしたのです?」

「ふ、増えたぞモザイオ」

 

 なんだ、俺の顔を見て怖がっているってのか。幼き人間たちを怖がらせるのは本意じゃないが、ちょっとは俺も師匠みたいに気迫が身についたかな。そんなわけはない。この薄味顔のナヨッとした男が怖いものか。そんなことはずっと前からわかっているが。

 

 でも怖がらせたくないから努めて人畜無害そうに笑っておく。

 

 マティカに釘付けだった不良たちは俺の方を見て少し安心したようだった。絶対なんか物騒なこと言ったわ。マティカそういうところある。俺には想像もできないところでスイッチが入り、さっきまで幼さ全開、庇護欲しか掻き立てられない少年がなんか普通に大人が凄むより怖くなる。

 

 ここは俺が幼き人間たちに優しいことしか言わないことでバランスをとるか。

 

「あっ……あー……アーミアスさん、来たの。間に合わなかったや。じゃ、幸運な君たちは今日からおれのオトモダチって訳だね!」

「?」

「アーミアスさんもこの人たちとオトモダチになりたいんだよね?」

「えっと……、まず。どういう状況ですか?」

「せっかくエルシオン学院に入ったし、ここで出会ったのもご縁だからオトモダチになりたいな! ってお話してたんだよ」

「なるほど」

「なんかね、その時に度胸試しに誘われたんだよね! 夜に二階の守護天使像のおでこに触るっていうやつ!」

「度胸試しですか。他のものならあるいは怒られましょうが、天使像なら別に構わないでしょう」

「そうなの?」

「俺から見てもただの石像ですよ、あれ。当代の守護天使の名前がわかるくらいしか機能はありませんし」

「そうなんだ! 気兼ねなくていいね! じゃあさモザイオとそのオトモダチ! 今日の夜に集合ね! 楽しみにしてるから!」

「俺も行ってもいいですか?」

 

 なんだか分からないが、マティカが一方的すぎる。ここで俺も存在感をアピールして転入生は怖くないと分かってもらわないとな。

 

 唇を青くしてマティカを見ている……のはやっぱり絶対なんか言っただろ。もしかすればマティカは彼らよりも年下みてぇだし舐められて軽く脅したのかもしれない。安心させるようにモザイオの両手を取って包み込むようにして温めながら目を覗き込むと、やっと彼の頬に赤く血の気がさした。

 

「あ、あぁ、別に度胸試しがひとりがふたりになったって変わんねぇし……」

「ありがとうございます。それにしてもこんなに冷えて。みなさんも寒そうです。敷地内に保温の呪文はかかっているようですが……今日はもう寮に戻って休んでしまったらいいのですよ。もし問題なら俺から先生に体調不良の旨、連絡しておきますから」

「い、いい! いいから! ほら行くぞお前ら!」

 

 やんわりと手を振り払われ、去っていく彼らを見送る。

 

 しまった、いきなり距離を詰めすぎたか……あるいは、初対面なのに「年上ムーブ」をしてしまって疎まれたか。しょうがねぇだろ俺からしたら老衰寸前の頑張った人間も産まれたてのヨチヨチの赤ん坊も大して変わんねぇし。

 

 「度胸試し」で会ったら今度は「後輩」らしく接するとするか。

 

 ……後輩らしくってなんだろうな。師匠や上級天使に接するみたいな態度か? 俺ってとにかく外ヅラ良くして隙あらば人間のところに行きたがっていたから別に下級天使同士の会話だろうとオムイ様相手だろうと態度変えてないんだが。

 

 ま、まぁ、いいか。さっきみたいに「お母さん」みたいなこと言わなきゃいいんだ。

 

「とりあえず、モザイオさんたちと仲良くなればもしかすれば学生しかしらない事情を聞き出せるかもしれませんね。マティカ、お疲れ様でした。……差し障りなければ俺が居ない時に仰った内容をお聞きしても?」

「えっとね、天使像がアーミアスさんにとってただの石像だって話を知らなかったからちょっと怒っちゃった……」

「なるほど。マティカは非常に敬虔ですね。心の拠り所は人それぞれですからね」

 

 そうかそうか、マティカはある意味悪くなかったのか。なら、まぁ、気にしないでおくか。心の中で脅したのかと思ってごめんな。




ハッサンとかヤンガスとかグレイグとかを見たらそのあまりのイケメンぶりに嫉妬が止まらなくなるような好みをしているアーミアスが自分の面の価値に気づく日は来ないし、もし無理やり気付かせても口では人間の価値観を尊重しつつ内心えぇ……という感じ
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