闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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43話 信仰心

 マティカはいい子だ。きっと俺の悪い癖である贔屓癖が出ているがそんなことは今更だろ。

 

 マティカのお陰でリッカたんを一週間ぶりに存分にペロペロした。リッカたんの成長日記の効力で麻痺していて気づかなかったがリッカたん欠乏症で俺の体は蝕まれ、結構やばかったらしい。もう少し遅ければ俺は手遅れでその辺で野垂れ死にしていた可能性がある。リッカたん欠乏症で。

 

 なにしろリッカたんが普段よりもきらきらして見えたくらいだからな。普段もかわいいし、普段も最高にペロい健気ないい子だけどな! 割増だぜ? リッカたんが俺の存在を認識して話しかけてくれる、その事実に俺の方が昇天しちまいそうになったレベルだ。

 

 昇天させるのは俺の方なんだけどな、リッカたんは俺にとって天使なんだぜ! 間違いない。

 

 ……まぁ、リッカたん欠乏症ってのは流石に半分は冗談で。普通に失血がやばかったらしい。腹が減るわ、ふらふらだわで最悪だった。てか俺天使じゃねぇか。なのに人間並みに食ってどうするんだと思ったぜ。何も残さないのに。まあ血が足りてなかったんだな。

 

 待てよ、リッカたんの監修している料理を……普段より多く食べられたってことだよな? どうせこうなるならウォルロ村でリッカたんの手料理を味わっていた頃に食べたかったぜ。

 

「ダーマってどんな感じのところだった?」

「白い柱が立ち並ぶ神殿、と言った外観でしたね。高い階段があったので……ちょっと登るのは大変かもしれません」

「へっちゃらだよ!」

「えぇ、そうでしょう。俺も見習わなければなりませんね」

 

 今回の件でひしひしと感じたが、天使は案外その能力に頼りすぎているんだよな。自然と飛んでいけば大したことはないとか考えそうになっていたが、……俺に邪魔な翼はないんだと、理解しきれていないとかマジか?

 

 空を飛ぶことよりも、人間たちと話せる方がよっぽどいいのによ!

 

「では、行きましょう。一応俺に掴まってくださいね」

「はい!」

 

 で、俺は授かった力というのは……ただでさえ敬虔すぎるくらい神及び天使に対しての、いや、天使に対しての幻想を強化するものだということを失念していた。

 

 そびえ立つダーマ神殿の前で、俺はメルティーとガトゥーザに拝まれ、マティカに純粋無垢なキラキラした目で見られるハメになるのだった。

 

 とりあえずキメラの翼の安価さと手軽さについて詳しく話したかったのだが、マティカがダーマ神殿に向かって駆け出した方が残念なことに早かった。

 

 

 

 

 

「大神官が不在ですか」

「大神官様がいないならこの混み合いも納得ですね……」

「どれくらい待ったら帰ってくるのかな」

 

 とはいっても、こんなにたくさんの人々が待っているのです。そんなにすぐに帰ってくるのでしょうか。アーミアスさんもご存知でなかった様子で考え込んでしまわれました。

 

「知識の上ではダーマ神殿の大神官が理由を公表することもなく休むということはダーマ神へ仕える最高地位の神官としてありえない事だと記憶しています。しかしほかの神官の様子から見るとそのような性格の方ではないようですね」

 

 えぇ、不真面目な方が神に仕える神官になるだなんてありえないと、我ながら不真面目な僧侶ではありますがそれくらいは分かりますとも。

 

「……ひとつ、心当たりがあります。場所を移しましょう。これからの旅の目的と、大神官の行方両方に関わりがありますから」

 

 少し考えた素振りののち、アーミアスさんはそうおっしゃると宿屋の方へ向かわれます。

 

 ……もしや、もしかすると。ダーマ神殿にて職業を変えたいという私たちの願いを叶えたのちも私たちをアーミアスさんの旅へ連れて行って下さる意思があるという事でしょうか?

 

 あぁ、私は魔法使いになることが出来ればそれだけで良いと思っていました。しかし今はそもそも存在しないと思っていた信仰心が燃え上がり、慈悲深い天使様の手助けが多少なりとも出来ているのであれば最上の喜び!

 

 俄然やる気が湧いてきましたとも、もちろんアーミアスさんがいらっしゃる時点でやる気もマジックパワーも十分ですとも!

 

 と、浮かれているのが分かったのか、表情一つ変えずにメルティーにせっかくすり切りいっぱいあった魔力を少々奪われたのですが。

 

「アーミアスさん、もし、その、旅の目的が。天使様としてのご使命であるのでしたら私たちの目的よりも優先していただいた方が宜しいのではないでしょうか。兄の口なら塞ぎますが」

「もしそうであったとしても、これまでも危険な旅でありましたのに、俺を助け、共に歩んでくださったのに約束を無碍にすることは決してありませんよ、メルティー」

「そんな、なんて、もったいないお言葉!」

 

 メルティーに喋るなと厳命されるまでもなくアーミアスさんの意向なら従いますけどね!感動に崩れ落ちるかと思いきや、むしろ直立不動になったメルティーは続けて言いました。

 

「しかし私はもう僧侶になりたいとは思っていないのです。僧侶よりも、私が目指すべき道が見えたのです。ですから、少なくとも、私のことはどうかお気になさらずに!」

「……え?」

 

 今、なんと? 幼い時から自分の境遇に涙し、その信仰心をどんな立場でも貫いてきたではありませんか。……いやしかし、天使様の御前にして、力を使っていただくことの出来る立場。それを考慮すればその方が確かに良いのでしょう……か。

 

 ええ、転職すれば経験はリセットされますし、きっとメルティーが見つけた目指すべき道はより素晴らしいものなのでしょうから。

 

 ……それであれば、私はかたくなに魔法使いとして大成したいと願っているのが少々、問題なのでは? 今、願いを叶えれば僧侶がいなくなってしまいます。アーミアスさんに不都合なのでは?

 

 ……、…………。

 

 私が魔法使いになったとして、願いが叶って、夢の通りの力が使えるようになるのは魅力的です。それに魔法使いは無力ではありません。非力な体がもっと非力になりますが、圧倒的な魔力は魔物を討ち滅ぼす矛となることでしょう。

 

 えぇ、お役に立てないわけではありません。

 

 どちらにせよ、大神官様が不在なのです。結論を出すのはあとでも同じでしょう。

 

「少々、情報収集がてら聞き込みに行ってきますが……みなさん。どのようなことがあっても、俺のことは考慮しないでほしいのです。俺はあなたがたの理から外れた存在です。本来視認すらできない、そんな存在です。俺の一番の願い、幸せはあなたがたの幸福。であれば、あなたがたがわがままであったほうが、嬉しいのです」

 

 考えていたのをご覧になっていたのか、アーミアスさんは私の方を見て、そう仰りました。

 

 あぁ。心は当然、それで決まります。

 

 どんな存在よりも美しく、麗しく、気高く。優しく、慈悲深く、汚れなき存在。使命を遂行するお姿はまさに神々しいとしか言えません。私には想像のつかないほどの年月を、きっとその身を削って人間へ向けてくださる天使様。

 

 そのお役に立てるように進むことこそがお導きなのではないでしょうか。

 

 ええ、それがただの自己満足にすぎなかったとしても、ただ、アーミアスさんは微笑んで許して下さるとまで感じます。この身、未だ未熟ではありますが。それでもお仕えしたいと心より感じたのです。

 

 彼の歩みを止めることはもちろん致しません。私よりも小さいはずの、広い背中を見送って、私はより良いプランを考えるためにベッドに飛び込もうとして、メルティーに散々、魔力を吸われることになったのです。

 

 聞けばメルティーは攻守を意識して賢者になりたいとか。元気いっぱいにバトルマスターへの夢を語ったマティカは肉弾戦をさらに特化させるつもりでしょう。

 

 ……これ、本当に転職しないのが最適解なのですね。メルティーが賢者になるのには時間がかかりそうですが。

 

 ああ。それならば従いましょう。導き出した相応しい道へ。しかしながら私には信仰心は……。

 

 いえ、あるではありませんか。神へではなく、アーミアスさんへの溢れる想いが。とりあえず今日のお祈りは神へすることにいたしますが。

 

 アーミアスさんをこの世に遣わせたことへの感謝を。

 

 しかしながら神は、神は、助けてはくださらない。それを思い知った僧侶に先はあるのでしょうか。

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  • 幼少期、天使(異変前)時代
  • 旅の途中(仲間中心)
  • 旅の途中(主リツ)
  • if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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