戦国時代に傭兵1人   作:長靴伯爵

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第九話

 

 

 

 

 

 織田家に仕えている未来人、相良良晴が清洲城に帰還するまで長秀の屋敷に滞在することになった仙波。長秀によれば相良良晴がいつ帰還するかは分からないらしい。つまり向こう数日間は暇になってしまった。久々に戦闘から解放される貴重な時間で、仙波は長秀に話を通し借りた部屋でゆっくりと過ごす・・・つもりだった。

 

「・・・」

 

「どうした、傭兵。さっさとかかってこい」

 

「仙波殿なら大丈夫です」

 

 目の前には動きやすそうな衣服に木刀を持つ柴田勝家。横を見れば縁側で湯飲み片手に行儀良く座る丹羽長秀。そして野戦服のズボンにTシャツ、唐突に渡された木刀を持つ自分。

 

『どうしてこうなった』

 

 おもわず英語で呟いた仙波は溜息を吐いて頭を掻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 なぜこのような事態に陥ったのか?

 それを説明する為には、昨日、仙波と信奈の会談後の夜にまで遡らなければならない。

 

「長秀か?」

 

「ええ。夜分遅くすみません。勝家殿」

 

「まぁ、上がれ」

 

 夜、清洲城下の別区画にある柴田勝家の屋敷を長秀が訪ねていた。織田家を支える重臣の2人だ。こういう風に片方が片方の屋敷に訪ねることは度々あるので、勝家は疑問も無く長秀を招きいれた。

 勝家の屋敷も重臣である分広々としたものである。勝家と長秀が向かい合っている部屋も質素ながら品のいいものだった。

 

「そういえば、まだちゃんと言っていなかった。よく無事で戻ってきたな。嬉しいぞ、長秀」

 

「この度はご迷惑おかけしました」

 

「お前の帰還を祝って一杯どうだ?」

 

「是非」

 

 運ばれてきた徳利で互いのお猪口に酌をして、酒を汲み交わす。2人は織田家重臣として、それこそ言葉通りの意味で心血を注いできた。そしてこれからも注ぎ続けるだろう。だが、こうやって酒を酌み交わしている間は2人で心身を休めることができる。どちらからともなくアルコールの熱が篭った溜息を吐いていた。

 

「斉藤攻めが始まったが先行きはどうも良くない。これからも我々が頑張らなければな」

 

「はい。我々が力を合わせてこそ、100点満点となります」

 

「長秀の100点が聞けたぞ!今日はいい日だな!」

 

 空の徳利の数も増え、勝家は自身の膝を叩いてあっはっはと豪快に笑った。長秀もにっこりと笑って徳利を手に取り、勝家が持つお猪口に酌をする。

 

「おっと、すまないな」

 

「いいえ。・・・勝家殿、少しお話があるのです」

 

「ん?なんだ?」

 

「仙波殿のことです」

 

「ああ・・・。あの未来人とかほざく男か」

 

 機嫌よく酌を受けていた勝家だったが、長秀が仙波の名前を出した途端急に不機嫌になってしまった。それでもお猪口に注がれた酒をゆっくりと口に含んでいた。その様子にも決して笑みを絶やすことなく、長秀は言葉を続けた。

 

「なぜ彼をそこまで邪険にするのです?」

 

「お前こそなんであいつに肩入れをする?」

 

「私は彼に命を救われたのです」

 

「そういえばそうだったな」

 

 勝家はクイッと酒を飲み干すと、そのままダンッとお猪口を床に叩きつけた。

 

「私には未来人などと法螺を吹く奴を姫様に近づけることが理解できん」

 

「それは相良殿もですか?」

 

「もちろんサルもだ。だが、サルは1度姫様を救っているし、なんだかんだ姫様もサルを気に入っているからな・・・」

 

 普段の勝家なら良晴を信奈が気に入っているなどとは決して言わないが、今は酒で相当緩んでいるらしい。長秀もそれなりに飲んではいるが、まだ十分理性を保つことができる範囲内だった。

 

「傭兵だと言ってはいたが、本当に戦えるとは思えないしな」

 

「仙波殿は斉藤方の兵と戦って私を救ってくれました」

 

「それはおかしな鉄砲があったからだろう?あいつ自身強いかどうか分からん」

 

「・・・なら、勝家殿が仙波殿が強いと分かれば認めてくれるのですね?」

 

「まぁ・・・それなら完全ではが少しは」

 

「いいでしょう、80点です」

 

 勝家も少しポカンとしていたが、長秀は自分の酒を静かに飲んだ。その後、幾つか話し合いをしてから、2人は気を取り直して再び酒を酌み交わした。

 

 

 

 

 

 

 

「ということです」

 

「つまり柴田と戦えと?」

 

「そういうことだ!長秀の頼みだし、お前がどのくらい強いのか興味もある。全力でこい!」

 

 そして今、長秀の屋敷に至る。

 勝家が提示したルールは木刀で有効な部位への寸止めをした方かどちらかを行動不能にした方が勝ちというもの。審判は縁側に座る長秀がしてくれるらしい。

 勝家はやる気に満ち溢れているし、長秀もニコニコするだけで止める気は無さそうだ。仙波は諦めて前もって渡された木刀を数度振ってみた。それなりの重さはあるが、以前マザーベースの剣道の練習で使っていたものと大差は無い。問題はなかった。

 正眼の構えで正対した仙波に勝家は意外そうな表情をした。

 

「構えが様になっているじゃないか、傭兵」

 

「これでも剣道の有段者なんだよ、俺は」

 

「なんだ?剣道って?剣術の一種か?」

 

「そうだ!」

 

 会話が終わるや否や、仙波は泰然自若に構える勝家に素早く切り込んだ。自分では中々いい太刀筋だと思ったのだが、勝家は容易く受け止めた。目の前で木刀同士がぶつかる固い衝撃音が鳴り響く。

 

「思いの他いい太刀筋だな!」

 

「簡単に受け止めてよく言う!」

 

「まだ甘いからだ!」

 

 そういうやいなや勝家は女性とは思えない強い力で神崎を弾き飛ばしたしまった。まさか力で負けるとは思っていなかった仙波は冷や汗をかいて後退する。

 

「力が強すぎだろ・・・」

 

「次はこっちからいくぞ!」

 

 後退した仙波への追撃で勝家は上段から木刀を振り下ろした。咄嗟に仙波も木刀で受け止めるが、あまりの衝撃力に手が痺れ顔が歪んでしまう。それでも、押し切られる前になんとか木刀を受け流した。

 

「この程度か?まだまだいくぞ!」

 

「ッ・・・!」

 

 そこからの勝家の攻撃は凄まじかった。とてつもない膂力とキレのある太刀筋は、織田家猛将に相応しい苛烈な剣戟となり、仙波を襲った。仙波には全くの余裕が無くなり、何とかできるのは木刀で受け止めるだけ。

 しかし、打ち合いが十合目となった時状況が動いた。

 

バキィッ・・・!!!

 

『クソッ!?嘘だろ!?』

 

「南蛮語か?何を言っているかわからないな!」

 

 仙波が驚きで英語で叫ぶのも無理はない。なぜなら、今仙波が持っている木刀は刀身の半分程の部分で叩き折られたのだから。木刀を握っていた腕は痺れ、辛うじて手に保持することしか出来ない。

 

「さぁ、どうする?降参するか?長秀、もう私の勝ちじゃないか?」

 

「・・・どうしますか?仙波殿?」

 

「まだだ。まだ終わってない」

 

 仙波は握っていた木刀の柄の部分を捨てると、逆に地面に落ちた刀身の部分を拾い上げ左手で握った。

左手を前、右手を後ろに、体勢は低く若干前のめりに。

 

「木刀もちょうどいい長さになった」

 

CQC。

近接格闘。

仙波がMSFに入り、ボスであるスネークから学んだ、最強の格闘術。

 

「いくぞ」

 

 戦国姫武将でも捻じ伏せてやる。

 

 

 

 

 

 傭兵の仙波との戦いは(勝家)の勝ちに思えた。

 確かに剣の腕はいい方だった。自慢ではないが私の剣は凄まじい。それを耐えた仙波は長秀が言った通り、実力者なのだろう。正直、ここで仙波が負けても認めるつもりだった。

 

「まだだ。まだ終わってない。木刀もちょうどいい長さになった」

 

 木刀を拾い上げ、見たこともない構えをとる仙波。その姿に私は思わず木刀を構え直していた。

 

「いくぞ」

 

 その瞬間に私は木刀を振り下ろしていた。仙波はだが、気が付いた時には・・・衝撃と共に地面に転がっていた。

 

「え・・・?」

 

「俺の勝ちだな」

 

 首筋に木刀を添えて言う仙波に、私は見上げたままで何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 いきなり木刀を振り下ろしてきた勝家に、仙波の体は自然に動いていた。

 その動きはスネークに叩き込まれ、実戦で磨き上げられたそれ。

 

 木刀が振り下ろされる直前、左手の短くなった木刀で、勝家の手首を押さえ込む。間髪入れずに右手を勝家の両手の隙間から顎に伸ばし、合わせて足で勝家の足を絡め取る。

 そして、瞬く間に地面に叩きつけた。

 

「え・・・?」

 

「俺の勝ちだな」

 

 ポカンと、呆気にとられた表情の勝家の首に木刀を添える仙波。その様子を確認して長秀が口を開いた。

 

「そこまでですね。仙波殿の勝ちです」

 

「ふぅ・・・。なかなか疲れたぞ」

 

「お疲れ様でした」

 

 立ちあがった仙波に労いの声をかける長秀。先程よりも明るい笑顔なのは仙波の勝利を喜んでいるからか。長秀の笑顔に癒されつつ、仙波は屋敷の縁側に座った。そこでやっと地面に転がっていた勝家が飛び起きた。

 

「・・・は!?なんだ!?今の技は!?仙波!?」

 

 訳が分からないといった様子で、勝家は仙波に詰め寄り唾を飛ばすのも気にせずに捲くし立ててくる。正直今は疲れて面倒くさいのでどう誤魔化そうか思案する仙波だったが、この勝家を止めたのは予想外のものだった。

 

「丹羽様!柴田様!」

 

 慌しい足音と共に重臣2人の名前を叫んで少女が屋敷の庭に入ってきた。2人の顔色が変わったのを見るに、彼女は何かの伝令なのかもしれない。そして仙波の予想は的中した。

 

「斉藤方の国人衆が挙兵!稲葉山城に続く道を封鎖しました!」

 

「何!?」

 

「これは・・・30点ですね」

 

「ふぅ・・・」

 

 勝家が驚いて立ち上がり、長秀が静かに点数を付ける中、仙波は溜息を吐いてとりあえず状況を見ることに決めた。

 

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