戦国時代に傭兵1人   作:長靴伯爵

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第十話

 

 

 

 

 

 清洲城の広間には柴田勝家、丹羽長秀を始めとした織田家重臣が集まり、新たに挙兵した国人衆への対策会議が開かれていた。

 現在、斉藤方と交戦状態にある織田家の方針自体は固まっている。この国人を撃破して、斉藤方への攻勢を継続することに変更は一切無い。問題は、その方法である。

 

「ここは一気呵成に攻め込むべきだ!時間をかけてしまえば、他の国人衆も同調してしまう!それに斉藤方に時間を与えては逆にこちらが不利になるぞ!」

 

 勝家が膝を叩いて声高に主張するのは強硬論。今ある兵力をもって一気に国人衆を制圧してしまい、そのまま斉藤方を攻め立ててしまおうというのである。理屈があっているのだが、そう簡単にいかない理由があった。

 

「勝家殿、現在の我が方の兵力に余力はありません。無理に攻め立てて兵を失えば、斉藤方への攻勢がままならなくなります。10点です」

 

 静かな様子で勝家を諭すのは長秀。彼女の言うとおり、織田家が動員できる兵力は多くない。今川義元との戦闘、これまでの斉藤攻めの影響がいまだ色濃い。しかも街道を封鎖した国人衆の主力は森の古い城を根城にしており、力押しでは相応の被害がでるのが確実だった。

 なれば・・・と長秀は静かに慎重論を主張した。

 

「国人衆を調略しましょう。時間はかかりますが、上手くいけば味方も増えます。50点の策ですが・・・」

 

「しかし!国人衆がこちらにつくとは思えん!」

 

「やってみなければ分かりません」

 

「それはこっちも同じだ!」

 

 強硬論と慎重論を二人以外の重臣達もそれぞれぶつけ合うが、結論に至る訳ではなく最後は信奈による決断が求められることになる。しかし・・・。

 

「姫様は・・・?」

 

「いらっしゃいません・・・早く来て欲しいのですが・・・」

 

 気分屋のきらいがある信奈は時折、会議に出席にしないことがある。結局、この日信奈が広間に現れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 長秀が会議に出席することになったので、仙波は自由な時間を使ってこれからのことをよく考えることにした。

 

 屋敷の人に頼んで準備して貰った油と布切れ、竹ひごを使い、今まで酷使していたAM69を分解して綺麗に整備する。引き金付近の細かい部分や布切れで拭い、銃口から竹ひごと布を通していく作業は、仙波にとって無意識のうちに出来るほど慣れ親しんだものだ。こうして作業しながらだと逆にしっかりと思考を巡らすことができた。

 

 これからどうするか?目的は?手段は?

 

 未来に戻る算段を見つけるのが一番の目的だ。だが、それに関する手掛かりが一切無いのが現状である。未来に戻るための算段の手掛かりを見つける・・・キリが無いことになる訳だ。個人の力で出来ることには限りがある。そもそも今は長秀のお陰で何も不便はないが、食料や資金の調達手段など様々なことで検討が必要になってくる。

 様々な選択肢があり、それを一つ一つ吟味し取捨選択していく。

 最善となるのは・・・やはり・・・。

 

「やっぱり、それが最善か・・・」

 

 カシャン・・・という音と共に分解されていたAM69を組み立てた。幾つかの動作点検をしてどこも問題がないことを確認できれば整備は終わりである。仙波は溜息を吐いてAM69を壁に立て掛けると、西日が差す縁側に出た。長秀と勝家が屋敷から出て清洲城に向かったのが昼過ぎだったから、結構な時間が経ったことになる。余程、真剣に考えていたらしい。後は、長秀が帰ってくるのを待つだけだった。

 

「暇・・・だなぁ」

 

 いつもの癖でポケットから煙草を取り出すが、もう3本しか残っていない。もう分かっていることだが、煙草の代替品も見つけなければならない。これに関しても今後の行動指針に入れ込むしかなさそうなので、仙波は寂しそうに煙草をポケットに戻した。

 

「ただいま戻りました」

 

 そうこうしている間にようやく長秀が帰ってきた。仙波を見て微笑みはするが、その笑みには何処か陰りがあった。どうにも事態は芳しくないらしい。

 

「大変そうだ」

 

「ええ・・・。20点の事態です」

 

「さっきより10点下がっているな・・・」

 

 長秀はゆっくりと座布団に座ると、愚痴のように先程までの会議の様子を語っていくと、仙波の予想よりも織田家の状況はだいぶ切迫しているように感じられた。積極的に動いても、慎重に動いても、事態は悪化していくいくばかり。こんな状況のことこそジリ貧というのだろう。

 

「問題はやはり時間と兵力か」

 

「はい。迅速に少数で制圧できるにこしたことはないのですが・・・」

 

 しかし、織田の兵は弱兵として名高い。数と鉄砲が揃えば他国の兵と互角に戦えるが、視界が悪く射線が遮られる森での戦闘になれば苦戦は必須だった。長秀たちの会議が紛糾するのも無理はないだろう。

 だからこそ、長秀には悪いが・・・。

 

「・・・俺ならいけるか」

 

「はい?」

 

「丹羽、俺を雇わないか?」

 

「え・・・?」

 

仙波にとって最善の策が打てるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 兵の動員は既に始まっているが未だ行動の指針が決まらない織田家では翌日も清洲城広間では会議が行われていた。昨日と同じ重臣達が集まる中、2人だけ追加された人物がいた。勿論、長秀の後ろに座る仙波である。重臣達が仙波に訝しげな視線を投げかける中、勝家だけは1度鼻を鳴らしただけで、否定も肯定もしなかった。

 もう1人は、信奈である。今日は最初から広間の上座で会議の様子をつまらなそうに眺めていた。

 会議はやはり強硬論と慎重論で紛糾したが、長秀の一言が転換点となった。

 

「提案します」

 

 飛び交う言葉を貫くように長秀の言葉が広間に響いた。1度喧騒が止み、信奈も僅かに反応を見せる中で、長秀は真剣な目で言った。

 

「この件は依頼しましょう」

 

 その瞬間、会議に参加していた勝家以外の重臣達が一斉に反対した。

 

「長秀殿!お気は確かか!?」

 

「これは織田家の戦!他の者の手を借りるなど!!」

 

「織田家の面子に関わりますぞ!!」

 

 ただこの喧騒の中で、勝家は腕を組み長秀ではなく彼女の背後にいる仙波をジッと見ていた。恐らく、既に察しはついているのだろう。

 長秀は反対の声を一切無視し、信奈に直接発言した。

 

「姫様、この国人衆の鎮圧には少数による迅速な対応が求められます。しかし、我が方にはその条件に合う戦力はありません。20点です」

 

「デアルカ。それで万千代。誰に、何を依頼するつもりなの?」

 

「仙波殿に、国人衆城主の捕獲を、です」

 

 まどろっこしいことが嫌いな信奈に対し、長秀は単刀直入に言い放った。信奈が、他の重臣が仙波に注目する中で、更に長秀は言葉を重ねる。

 

「仙波殿を雇い、我が家臣としたいと思います」

 

「ふ~ん。で、利孝。出来るの?」

 

 信奈が問いかけを受けて仙波は長秀の隣に進み出た。

 この長秀の提案は昨日二人で話し合って決めたことだ。元々、仙波は信奈に自分を売り込むつもりだったが、長秀は待ったをかけた。信奈に雇ってもらえば、他の重臣からの反感を買う可能性があり、仙波の提案は多数の反対に押し切られるかもしれなかった。ならば、あくまで長秀の提案する作戦を長秀が雇った兵が実行するとなれば反発は少ないはずである。

 

「依頼されればその達成のために全力を尽くします」

 

「出来る、とは言わないのね」

 

「お待ち下さい、姫様」

 

 ここでようやく沈黙を保っていた勝家が口を開いた。

 

「敵陣の真っ只中にいる将を1人で捕獲するなど正気の沙汰ではありません」

 

「何?反対するの?」

 

「時間の余裕がほとんどないならばすぐにでも攻め込むべきです・・・!」

 

 勝家の言うことは正しい。だからこそ、長秀は腹案を提案した。

 

「ならば、仙波殿の行動と平行して城を包囲しましょう。仙波殿が失敗すれば攻撃を開始し、成功すればその兵力で斉藤攻めを行えばいいでしょう」

 

「どう?六」

 

「まぁ・・・それなら・・・」

 

「利孝?」

 

「はい」

 

 信奈は仙波にとってもっともなことを問いかけてきた。

 

「あなた、傭兵よね?報酬に何を求めるの?」

 

「丹羽の家臣として織田家に付くことです」

 

「なんのために?」

 

「未来に帰還するため為の手掛かりを探すために」

 

「正直ね。そういうのは嫌いじゃないわ」

 

 重臣達がヒソヒソと話す中で信奈は楽しそうに鼻を鳴らすと立ち上がって宣言した。

 

「利孝に任せるわ!刻限は3日後の夕刻!六達も兵を率いて包囲陣を敷きなさい!ただ・・・」

 

 信奈は意地悪い笑顔を見せると付け加えて言った。

 

「利孝が万千代の家臣になる件は保留よ。この戦に勝利したら認めてあげる!」

 

「はい」

 

「なら、すぐに準備しなさい!」

 

 信奈が広間から出ると重臣達も出陣の準備をすべく足早に退出していく。長秀と仙波もその人の波と共に清洲城から出て屋敷に向かった。その道すがら、長秀が心配そうに仙波に尋ねた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「敵地への潜入は俺がいた組織の十八番だ。俺も何度も経験している」

 

「ですが・・・」

 

「これを成功させれば晴れて丹羽の家臣になれる。必ず成功させる」

 

 仙波はニヤリと笑って見せるとすぐに頭の中を切り替えた。

 今の自分の装備と能力。

 そして予想できる敵の戦力。

 刻限までに作戦を成功させるための戦術。

 

 弾薬の補給が望めない以上戦力低下は免れないし、敵に対する未知の部分も大きすぎる。考えることは山ほどあり、無意識のうちに仙波は周りの音があまり聞こえなくなるほど集中してしまっていた。

 

「・・・御武運をお祈りいたします」

 

 だからこそ、頬を染めた長秀の小さな言葉には気付くことができなかった。

 

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