戦国時代に傭兵1人   作:長靴伯爵

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第一話

 

 

 

 

 MSF 正式名称「国境なき軍隊」

 

 

 国家、組織、思想、イデオロギーに囚われることなく軍事力を必要とする勢力に必要なだけ供給し、そして戦うために生きる者達の理想郷。

 BIGBOSSの称号をもつ伝説の傭兵、「ネイキッド・スネーク」と彼の相棒である「カズヒラ・ミラー」によって率いられ、直接的な戦闘だけでなく、装備開発、兵站・物資調達、訓練など軍事に関わる様々な業務を遂行する組織。

 この組織を構成する人員はボスであるスネークに任務中に確保され、ミラーに説得された者が多いが志願してここにやってくる者もいた。

 

 

 

 仙波利孝(せんばとしたか)は後者だ。

 多種多様な人種が集まるMSFでも珍しい東洋系で26歳。しかもカズヒラ・ミラーと同じ日本出身で自衛隊にいた経験もあった。とある事情から日本を離れ傭兵として紛争地帯を転々としていた時、MSFから派遣されていたリクルーターの話を聞いてMSFに参加することにした。

 同じ母国の者が1人も居なかったカズヒラは仙波の参加に大喜びで、暇があれば彼を連れ出し、演歌を歌い合ったり日本酒や焼酎を飲み交わしたりしていた。

 

 兵士としての能力は上の中といった所だが、格闘戦や近接戦では抜きん出た腕前を持っていた。というのも、仙波は剣道と銃剣道の段位を取得しており、近接戦の心得は既に十分以上に持っていたからだ。MSFに参加してから学んだCQCも真面目さからか弛まぬ訓練で身に付け、その腕前は、スネーク曰く「なかなかやる」所にまで達した。

 

 日本人気質と言うべきか、周りとの和を大切にしているので他のメンバーとの関係も良好だった。ある時、カズヒラの思いつきで剣道を見せることになり、その竹刀を持った姿から何時しか「サムライ」というニックネームで呼ばれるようになったりもした。 今では、有志が仙波を師範として剣道教室を開いており共に汗を流すほどである。

 マザーベースで行われた合同誕生日パーティーの際、どこで手に入れたのか分からないが本物の日本刀を送られたりもした。

 

 

 

 

 

 

 そんな仙波利孝であるが、今はマザーベースの一角で特に何かをする訳でもなく景色を眺めていた。ついこの前まで任務でマザーベースを離れており、数週間ぶりの休みを思うがままに過ごしていた。

 今、仙波がいるのは海上プラントであるマザーベースの中心部、司令部区画の屋上だった。ここにいればマザーベース全体を見渡すことが出来るので、気分転換の時や気が向いた時に仙波はよくここを訪れていた。

 眼下に広がるマザーベース。国家に所属していない独立した組織として、ここまで壮大な施設を持つものはそう無いだろう。雄大とも取れる規模だが、所々クレーンなどが忙しなく動いている区域があった。建設途中ではない。修理中なのだ。

 約1年前だろうか。MSFがここまで大きくなるきっかけとなった事件が起こった。

 

 PEACE WALKER計画

 

 この計画を巡る戦いでMSFは大きく成長していった。仙波がMSFに参加したのは、その戦いの中盤あたりだった。仙波は他メンバーと同様に現場で戦うスネークのサポートに奔走し、また時には自身も現地に向かい戦いもした。

 そして戦いも終息に向かい始めた時、このマザーベース上で大規模な戦闘が行われた。相手は機械。MSFが持つ技術力の総力を上げて作り上げた核搭載二足歩行戦車、メタルギアZEKE。それをMSFに紛れ込んでいた敵性勢力「サイファー」のスパイが乗っ取り、攻撃を仕掛けた。実はそのスパイ、元々パス・オルテガというこの戦いの依頼人(クライアント)だったのだ。

 結果だけ言えば、戦場となったマザーベースの一部プラントの破壊と引き換えにZEKEは鎮圧され、パスは海へ転落し行方不明となった。しかし、このZEKEとの戦いはMSFにマザーベースの損傷以上の衝撃を与えたのは間違いないだろう。件のZEKEは回収されて今もMSFが保有している。

 

「センバ、ここにいたのか」

 

 仙波の回想を終わらせたのは渋く深みのある呼び声だった。そして自分のことをセンバと呼ぶのなら、思い当たる人物は1人しか居ない。仙波は声の方向に向き直り相手に敬礼した。

 

「お疲れ様です、ボス」

 

「お前も任務明けだったな。ご苦労」

 

 葉巻を咥えたスネークは仙波の敬礼に頷くと、お前も吸うか?とばかりに1本の葉巻を取り出した。ビッグボスからの誘いを断るつもりなどさらさらない。仙波は恐縮して受け取ると、手持ちのナイフで両端を切りとり、スネークのライターで火を着けた。芳醇な香りを楽しみ、ゆっくりと煙を吐く。

 仙波とスネークは葉巻の煙を揺らしながら雑談に興じた。

 

「お前はどこの任務だった?」

 

「中東の方で教官の方を。戦闘技術を仕込んできました」

 

「インストラクターの仕事も馬鹿にはならんからな。お前はケンドーも教えているから、教官職の適性があるのかもしれんな」

 

「そう言って貰えると嬉しいです」

 

 そこでスネークは一旦大きく葉巻の煙を吐き出した。その息には溜息が多分に含まれているように感じられ、仙波は控えめに尋ねた。

 

「ボスも忙しそうですね」

 

「ああ・・・。IAEAの受け入れ準備がな。ヒューイの勝手で大慌てだ」

 

「なるほど・・・」

 

 仙波は納得した風に頷いた。

 実は、つい最近IAEA、国際原子力機関から査察の申し出があったのだ。どこで情報が漏れたのか分からないが、ZEKEが搭載している核兵器の存在を嗅ぎつかれたらしい。国家でもない組織が独自に核兵器を保有する。確かに一大事だ。だが、だからといってこちらにも事情がある。状況を鑑みたスネークとカズはこの申し込みを拒否するつもりでいたのだが、ヒューイが独断で申し出を受けてしまったのだ。確か数日後だったはず。

 

 ヒューイとはMSFの開発班の科学者でZEKEの開発者だ。ヒューイ曰く、IAEAに核がないことを確認してもらうことはMSFの為になるとのこと。IAEAからの心象を良くする為にと警備スタッフの武装を解除するほどの徹底振りだ。このヒューイの独断により、今のマザーベースはIAEAの受け入れ準備で大忙しらしい。ZEKEを海中に隠蔽するための作業や警備計画の作成などやることは沢山ある。それを統括するスネークが疲れているのはしょうがないことだろう。

 

「私に何か手伝えることがあればいつでも言って下さい」

 

「そう言ってお前は休まないからな。日本人の真面目さも考え物だ」

 

 仙波は善意で言ったのだが、スネークには割りと真面目に諌められてしまった。何時の間にか2人とも葉巻を吸い終わっており、スネークは吸殻を携帯灰皿に入れた。そろそろ仕事に戻るようだ

 

「お前はしっかりと休んでおけ。休養も兵士の仕事だ」

 

「了解しました、ボス」

 

 颯爽と立ち去っていくスネークを見送り、仙波は再び海を眺めた。

 遥か先にはいつの間にか大きな雷雲が発生していた。どうやら天候が崩れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな、トシタカ。こんなことになってしまって」

 

「気にしないで下さい、カズ」

 

 カズヒラ・ミラーの申し訳なさそうな言葉に、今にも飛び立とうとメインローターを回転させるヘリに乗り込んだ仙波は、自身の装備を点検しつつ事も無げに答えた。今、彼が装備しているのはMSFが支給している防弾ベストや各種支援装備一式にスリングを付属させたAM69と呼ばれるアサルトライフルの低倍率のスコープを装備した強襲支援タイプだった。これから行うミッション、南米の海兵隊基地に潜入したスネークの支援に必須の装備である。そしてサブウェポンとして拳銃のAM D114を装備していた。

 

「基地の主要部隊の殆どはIAEAの査察準備で手が一杯だ。今手が空いている人員の中でボスの支援を十分に出来る人物はお前しかいなかったんだ」

 

「ボスの為です。何も問題ありません」

 

「そのボスからお前は絶対に休ませておけと言われていたんだが・・・これはあとでボスにどやされるな」

 

「これが終わったら飲みましょう、カズ」

 

「そうだな、いい日本酒が手に入ったんだ。一緒に飲もう」

 

 そう言ってカズヒラはヘリから離れて行った。仙波はヘリのハッチを閉め機内での通信のためのイヤーカフスを着けると、身を沈めるように備え付けのイスに座った。すると正面には既に1人座っていた。

 

「よう、サムライ。お前と一緒のミッションは初めてだな」

 

「そうだな。俺もお前も殆ど単独ミッションだろう?」

 

「違いない」

 

 仙波と軽口を交わす向かいの相手は、顔をMSFが支給している戦闘用マスクで隠してはいるが既知の人物だった。MSF内でも相当な腕を持ちメディックとしても有能な傭兵である。噂ではボスにもっとも実力を認められているとも言われていた。だが、立場としては同じMSFの隊員。仙波の口調も砕けたものになる。

 

「お前は今回のミッションについて説明は?」

 

「ボスがチコとパスを救出するためにキューバの海兵隊基地に潜入した。俺達はボスから支援を・・・と」

 

 メディックに尋ねられ、仙波は思い返すように答えた。

 チコというのは先のPEACE WAKER事件の際に共闘したFSLNという革命軍の司令官アマンダの弟である。

 IAEAの査察が行われるという中でスネークが任務に向かったのは、そもそも行方不明だったパスを南米キューバの海兵隊基地で発見したことに端を発していた。この事自体、仙波はこのミッションを頼まれた時に知ったのだが、このパスの発見を知ったチコはあろうことか単身で彼女を救出しようとし逆に捕まってしまったのだ。この2人を救出すべく、スネークは海兵隊基地への潜入を決めたらしい。

 

「俺達に仕事があるか疑問だがな」

 

「お前はあるだろう?ボスはともかく、チコやパスには治療が必要かもしれない」

 

「そうは言うがな。ヘリの機内で出来る治療なんて高が知れているぞ?」

 

 そんな会話をしているとヘリのローターの回転音が一段と大きくなり、機体がふわりと浮き上がった。もうすぐにミッションが始まる・・・と仙波はメディックとの会話を一旦止めて小さくなっていくマザーベースを眺めた。イヤーカフスを通して、ヘリパイロットの通信が聞こえた。

 

『こちらモルフォ。前進します』

 

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