戦国時代に傭兵1人   作:長靴伯爵

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第四話

 

 

 

『まず話をしないか?お互いに分からないことが多いだろう?』

 

「・・・」

 

 話しかけても全く警戒を解かない女性に、仙波は内心溜息を吐いた。食料調達から帰ってきら、いきなり脇差を向けられた状況。対処するのは簡単だが、捕虜なら兎も角助けた相手からそうされるのは虚しいものがあった。

 

『いきなり武器を構えるのはやめてくれないか?』

 

「あなたは何者です?なぜ南蛮語で話すのですか?」

 

『南蛮語?・・・ああ、そうだった』

 

 彼女の言葉で仙波はやっと自分が英語で話していることに気付いた。日本を離れてからずっと英語を使っていた為、無意識の内に英語で話していたのだ。

 

「すまない。これでいいか?」

 

「一体あなたは何者ですか?今の南蛮語は?それにこの状況は・・・私の家臣は?」

 

「一から説明する。その前に武器を下ろしてくれないか?おちおち調理も出来ない」

 

「・・・分かりました」

 

 魚が数匹釣らされた釣り糸を掲げて見せると女性はゆっくりと脇差を鞘に納めた。しかし、警戒は全く解いておらず厳しい視線を向けてきている。仙波は背負っていたAM69を揺らして位置を直すと焚き火に近寄り、彼女の向かい側に腰を下ろした。

 

「仙波利孝だ。君は?」

 

「織田家家臣、丹羽長秀です」

 

「織田家?家臣・・・?」

 

「まさか、織田家を知らないのですか?」

 

「いや・・・そんなことよりまずは状況を説明しよう」

 

「・・・分かりました。お願いします」

 

 礼儀正しく正座に座りなおした長秀を見て、仙波はどこから話そうかと思案しながらAM69を置き、サバイバルナイフを抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチパチッと火の中で枝が爆ぜ、細い枝に串刺しにされた魚が火で炙られていく。

 魚が焼ける香ばしさに合わせて香辛料の匂いも加わっているのは、魚の臭みを消す為にカレー粉を使ったから。カレー粉は調味料最強。以前、女傭兵の誰かが言っていた。

 

「・・・そういうことでしたか」

 

 仙波の説明を聞き終わって暫く沈黙を保っていた長秀がようやく口を開いた。手持ち無沙汰で、焼かれている魚を見ていた仙波は長秀の様子を窺う。

 

「姫様のご命令も完遂できず・・・多くの家臣も失い・・・0点です」

 

「0点?」

 

「いえ・・・。貴方に謝らなければならないようです。命の恩人に先程のような刃を向けた非礼。まことに申し訳ございませんでした」

 

「いや、そこまで気にはしていない。頭を上げてくれ」

 

 長秀は地面に手を付き深く頭を下げるが、仙波はすぐに頭を上げさせた。今の仙波が最も重要視しているのは今後の方針を決めることだ。

 

「これからどうするつもりだ?」

 

「姫様の下に戻ります。まずはこのことを・・・お知らせ・・・しないと・・・」

 

 そこまで言った時、不意に長秀の体が揺れた。危うく火の中に突っ込んでしまいそうになる所に、仙波が慌てて焚き火を飛び越え受け止める。

 

「あれ・・・私は・・・?」

 

「緊張の糸が切れたのか、単に栄養不足か。熱は無いみたいだが。魚を食べて寝た方がいい」

 

 長秀に額に手を当て体調を確認した仙波は、自身の上着を地面に敷きなおしてその上に座らせた。火の通った魚を取り上げると長秀に渡した。

 

「なぜ・・・ここまで手助けして頂けるのですか?」

 

「死に逝く者が残した最後の願いだ。・・・どうも断りきれなくてな」

 

「本当に・・・貴方は何者なのですか?」

 

「しがない傭兵だよ。詳しくはまた明日だ」

 

 そう言って仙波はAM69を取り上げ洞窟の入り口に座った。仙波自身、色々と考えたいことが多かった。

 

 

 

 

 

 一夜明け、仙波と長秀は森の中を歩いていた。

 食事と睡眠をとった長秀はある程度体力を回復させており、彼女はすぐに移動することを希望した。しかし、仙波にしてみればまずは状況分析と行動方針を決めたい所。2人は妥協案としてゆっくりと前進しつつ、道すがら話し合うことになった。仙波が先導して、長秀が後に付いて行く。

 

 

 道中、長秀から聞かされた話は仙波の戸惑わせるのに十分すぎるものだった。

 

 彼女が話してくれた内容を掻い摘むと、彼女が所属する織田家その当主織田信奈は大名同士が闘争を繰り返す乱世を天下布武の名の下に平定する戦いの真っ最中。現在、隣国である斉藤家と戦闘状態にあり、織田家重臣である長秀も一族郎党を率いて戦闘に参加していた。だが、何度目かの戦闘で斉藤家に付いた国人衆の奇襲を受け敗走。仙波が出くわしたのはその時だったらしい。

 

織田家、斉藤家、天下布武。

 

 明らかに日本の戦国時代の単語。絶対に自分が生きていた1975年ではない。それに自身の記憶にある戦国時代とは異なる部分も多い。織田の大名は男で信長だったはずだ。

 

(タイムスリップにパラレルワールドだと・・・?出来の悪いSF小説じゃあるまいし・・・)

 

 頭を抱えたくなる仙波だったが、後ろからくる長秀の声で辛うじて思いとどまった。

 

「昨日の続きです。貴方は何者なのですか。それが分からなければ信用しきれません。3点です」

 

「3点?昨日も言った通り、傭兵だ。ただ・・・今は何年だ?」

 

「・・・永禄10年です」

 

「俺は少なくとも400年以上先の時代を生きていた・・・はずだ」

 

「・・・未来から来たと?」

 

「俺の姿や装備を見たら分かると思うが・・・」

 

 仙波がチラリと後ろの長秀の様子を窺うと、思ったよりも疑いの視線は緩かった。

 

「疑わないのか?」

 

「疑いはありますが・・・一概には否定できません。50点です」

 

「一刀両断に否定されると思った」

 

「貴方の装備は私が見知っている物と全く違います。それで少しは信憑性があるかと。それに・・・」

 

 長秀はそこで1度言葉を切ると、衝撃的な一言を発した。

 

「私は、貴方と同じように未来から来たと言う人物を知っています」

 

「何?」

 

 まさかの展開に仙波は思わず足を止めて長秀に向き直った。彼女の顔は真剣そのもので、嘘を言っているようには全く見えない。

 

「本当なのか?」

 

「はい。その人物は信奈様の下に居ます」

 

「なら、俺にもそこに行く理由が出来たな」

 

 怪訝な表情になる長秀に、仙波は少し頬を緩めた。例え絶望的な状況であっても行動の指針が定まれば少しは気が楽になるものだ。

 

「その未来から来たという男に会えば、何か分かるかも知れない」

 

「そうかもしれませんが・・・しかし・・・」

 

「それに頼まれごとを途中で投げ出すのは職業柄苦手でね」

 

「分かりました。それではよろしくお願いします」

 

 長秀は持っていた薙刀を携え頭を下げようとするが、仙波は待ったとばかりに手を差し出した。キョトンとする長秀に仙波は言う。

 

「お互いに力を尽くすんだ。ここは握手でどうだ?」

 

「あくしゅ・・・?あくしゅとはなんでしょうか?」

 

「・・・握手を知らないのか?」

 

 ちなみにではあるが、日本に握手の文化が入ってきたのは幕末から明治にかけてであって長秀が知らないのは当然だった。

 

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