悪魔の店   作:執筆使い

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最近の悩み:道具と話のアイディアが出ねぇ。仮に思いついたとしても、大抵が前にやった話と物凄く似た系統の道具という...頭のボキャブラリーが乏しい私にとってはこれがキツイ。こういう時にひねり出せる人って凄いなぁ、って思う今日この頃。





第94話

 

 

 

 

 

 

「楽しいわ♪ 楽しいわ♪」

 

 

大きな大きなお屋敷。豪勢で立派なお屋敷。少女はそこら中を走り回る。くるくると回りながら少女は屋敷中を駆け回っている。

 

 

「キャッ!? 痛たた...」

 

 

走り回りすぎて、ドン、と勢いよく本棚にぶつかってしまった。はしゃぎ過ぎたと自分自身で反省して、ぶつかった先に視線を向ける。すると、痛みで泣きそうだった顔はパァッと明るくなった。

 

 

「知ってるわ! いつも読ませてくれていた!! 面白い話を私に読ませてくれた」

 

 

本棚を見ながら少女は明るい調子で喋る。

 

 

「知ってるわ! いつも一緒に寝かしてくれた!! 私を抱いて一緒に寝てくれた」

 

 

ベッドを見て、少女は明るく喋る。

 

 

「知ってるわ! こうやって、いつも幸せだった! 幸せってこれなんだって、きっとそうなんだって思ったの!!...」

 

 

 

 

少女は明るいお屋敷の、明るい一室で幸せを手繰り寄せようとしている。自分の昔を振り返りながら、ある事に気付いた彼女は後ろを振り返った。

 

 

「...ねぇ、店員さん。お願いを聞いてもいいかしら?」

 

 

「ええ、何なりと」

 

 

少女の質問に、何もないところからの登場を以って答える店員。彼は頭を垂れながら少女の願いに耳を傾けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜SP94 暖かいもの〜

 

 

外は雪。はしゃぐ少女は初めて味わう感覚に驚いている。腕を大きく広げて搔き集める。そして上に放り投げる。夜空にいっぱい広がるのを寝転びながら眺めていた。

 

 

「雪ってこんなにも冷たいのね! そして綺麗! ねぇ、貴方が知っている遊びを一緒にやりましょう」

 

 

店員は優しく雪を掴み取り、丸めながら言う。

 

 

「では、雪合戦でもしましょうか」

 

 

雪合戦、という言葉に興味を示し、早く遊びたいからとルールを教えるようにせがむ。それに対し、店員は慌てない、慌てない、と落ち着かせながら簡単なルールと遊び方を教える。

 

ルールを説明し終え、手始めに少女はえい、と投げる。力の加減が出来なかったのだろう。あられのない方向に飛んでったそれを見て肩をすぼめる店員。少女は可愛らしく頰を膨らませている。

 

 

「むーーっ...」

 

 

「ハハッ、もう少し弱めに、よーく狙ってやらないとわたしには当たら──」

 

 

店員は、最後までセリフが言えなかった。顔面に見事なまでの真っ直ぐなそれが当たったためである。少女はすぐに機嫌が直ったようだ。今度は思い切り口を開いて笑い、頰に溜まっていた空気を思い切り吐き出す。白い息が黙々と夜空を登っていた。

 

 

「やってくれましたねぇ...では、私もちょっぴり本気を出しますよ」

 

 

「わー! 逃げろーー!! あはははははは!!」

 

 

両手に雪玉を持ち、躱したり投げたりを繰り返す2人。単純で、素朴で、誰もが知っている、誰でも出来る遊び。

少女にとって知らない世界の知らない遊びであるそれは続いていく。幸せそうに、刻一刻と...

 

 

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....................

 

............

 

 

「店員さん。店員さん」

 

 

「...何でしょうか?」

 

 

「今日はありがとう。私と一緒に遊んでくれて。私を動けるようにしてくれて」

 

 

「...」

 

 

「私、楽しかった。最後にこんなに遊べて。最後に誰かと一緒に居られて」

 

 

「...貴方の願いは、これで良いんですね?」

 

 

「ええ。ずっと一人ぼっちで居るよりも、最後に誰かと一緒に遊べる方が私にとっての幸せ」

 

 

「では、代金を頂きますよ」

 

 

そう言って

 

 

 

 

 

男は正体を現す

 

 

「ねぇ、店員さん。最後に、私を抱きしめて...そう。それで良いわ。外は寒いから、こうしていたいの」

 

 

男は答える

 

 

「それ以上、私に感謝の言葉を言わない方が良いですよ。憎んでしまって構わない。人形の死や、他人の死にすら笑みを浮かべてしまうような残酷な悪魔なのですから」

 

 

悪魔は笑いだす

 

 

「いいえ。いいえ。貴方は世界で一番優しい人よ。だって──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その右手がゆっくりと、心の臓だろう場所へと入り込む。

ゆっくりと、ゆっくりと、引き抜かれ、時間の流れが遅くなっている。

ゆっくりと、ゆっくりと、暗くなっている。夜なのに、それ以上に暗くなっていく。

雪が静かに、静かに、振り積もっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しい優しい店員さん。一人ぼっちだった私を動かして、一緒に遊んでくれた店員さん。夢の様な時間を過ごさせてくれた店員さん。貴方は一番優しい人。世界で一番優しい人よ。だって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──こんなにも 暖かいもの

 

 

 

 

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....................

 

............

 

 

「ノコルタマシいはあとやっつ」

 

 

物言わぬ人形を抱きかかえながら、店員は空を見上げる。

 

 

「世界で一番優しい人...ハハッ、何もわかっちゃいないですねぇ。願ったからそう振る舞っただけ。私は世界で一番他人を殺している悪魔ですよ。今までも、これからもずっと...」

 

 

目に、雪が入ったのだろう。

 

 

「ずっと...」

 

 

ぼやけた黒色が目一杯広がっていた。

 

 

 

 

 







幕間の物語【魔力人形】



昔、昔、屋敷には人が住んでいた。夫婦と娘の三人、そして何人かの使用人。
ある日、少女が死んでしまった。使用人は悲しみ、夫婦はそれ以上に悲しんだ。
夫婦は、呪いを始めた。少女が好きだった人形を贄に、大切なものを戻そうと準備に取り掛かる。
使用人を、周りの人を、訪れてきた人を、兎に角、兎に角捕まえて、準備を整えた。


失敗した。残ったのは、儀式の影響で膨大すぎる魔力を内包してしまった少女の人形のみ。膨大すぎる魔力は誰一人近付けず、彼女を縛り続けた。意思を持っていても、動く事が出来なかった。指一つ。まぶた一つ。



何十年、何百年と待ち続けた。何度も、何度も願い続けた。



そしてある日を境に──



屋敷の寝室。ベッドの上で、人形はずっと瞼を閉じている。笑顔を浮かべながら、ずっと瞼を閉じている...





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