『あれ? こんな話あったっけ?』
『ここ、少し...というか大分違ってませんかねぇ』
といった箇所があるかもしれません。ご了承ください。
「時間です」
嗚呼...俺は...
「さよなら」
...出来れば、もう少し...生徒達の側に...
ザッ!!
ー鵺野鳴介 享年二十五歳
死因:心臓発作ー
カランと鳴るはドアの音
コロンと鳴るはベルの音
悪魔の店には何でもあります
お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます
はてさて、今日のお客様は?
〜SP41 黄泉帰り〜
「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか? お客様」
「(喫茶店...? 俺は確かあの時死神に...)」
「ええ、お客様が想像している通り、どうやら死神に魂を抜き取られたみたいですねぇ。運の悪い事に」
「!? 今、心を...」
「あー、違います違います。心を読んだ訳では無く、経験からですよ。小五ロりじゃああるまいし、お客様のプライバシーは余り覗かない主義ですので」
「...悟りじゃない、そう言いたいのか? だったら一体何者だ?」
「...うーーーーーーーむ、そうですねぇ。何せ知っているかどうかマイナーな部類ですので、見た所お客様は教師のようだ。多分知っておいでのようですので、敢えてこの名前で呼ばせて下さい」
店員は自らの名前を白紙に書き、自己紹介をする。
「稀代の錬金術師、名前をサン・ジェルマン! そしてこの店はデザイア! どんな願いも思いの儘!! お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げましょう!!」
わざとらしい動きで身振り手振りする店員。
「改めて聞きましょう...本日はどういったご用件ですか? お客様」
男は暫し沈黙し、そして答えた。
「...悪いが、今の俺には望みも、願いも無い。後腐れも無く死んだんだ」
嘗て、自らの恩師を守ろうと妖によって過去に戻った。だがしかし、結局過去は変える事が出来なかった。
嘗て、望みの通りの場所となるクダ狐によって家族を見た。だがしかし、それは幻想である。
嘗て、自らの手で死者を蘇らせた。冒涜だとわかっていたそれは...彼は神に叫んだ。
「...『貴方は善行を積み、幸せの絶頂で死ぬ事が出来た。これ程素晴らしい人生は存在しないだろう』と、言うのでしょうねぇ」
店員は黒い靄を出現させ、映像を映し出す。
「!? これは」
多くの人達が悲しんでいる光景がそこには映っていた。
「所詮、1人よがりの考えですよ。本人はそれでいいかもしれない。だが周りはどうなる? 早くに会えぬ悲しみを知らなかった彼等は癒える訳ないでしょう」
「...そんなものを見せて何になる? 言っておくが、俺は生き返りを願ったりはしないぞ」
「私も、諦めはしませんよ。プロですからねぇ」
店員は笑い出す。
..................................
....................
...........
「ふむ...あれから一週間経ちましたが、まだ首を縦に振りませんか」
「プロなんだろ? 俺ばかりにずっと構っていて良いのか?」
「ご心配無く。
「...」
「どうして、頑なに拒否するのか理由を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」
「本当に何もないからだ...望んだ所で、本当に手に入るとは限らない。お前の言う願いや要望を叶えるのだって、何かしらの代償を払わなければならないんだろう?」
「だから、残酷な代償を引いてしまったからもう2度と、というわけですか」
「それに...今はあいつらも俯いているが、いずれきっと前に進む事が...!?」
『あぎょうさん』
『さぎょうご 』
『いかに』
「どうやら、そうも言ってられなくなった様だ...このままでは、お客様の大切な人達が死ぬでしょう」
「...っ」
「...ええ、確かに貴方様の言う通りでしょうねぇ。ですが...嘘だけはつかないで欲しいものだ」
男は正体を現す
「誰かの為に生き、自らの為に願い、日々を送る...それが人間の特権だ。だからこそ聞こう」
男は答える
「もう一度、大切な者達の側へ居たいか? もう一度、大切な者達を命を変えて守りたいのか?」
「俺は...俺は...
本当は生きたい! まだ生徒達の側に居たい! 大切な皆の側に居たいんだ!!」
「...そう言うのを待ってましたよ」
「だが、生き返るには相応の代償があるのだろう?」
「ええ、普通ならですが」
悪魔は笑い出す
「私は人をいとも容易く生き返らせる事が出来ません。それを可能にする知識と力量はそれこそ充分に備わっていますが、神の許可なくしてそれを行うのはちょっとばかし厳しいのです(適当な神を捕まえて脅せばその限りではありませんが)」
「神の許可...まさか!?」
「お客様は本当に悪運が強い。
悪魔は、瞬時に魔方陣を教師の足元に出現させる。
「お代は...そうですねぇ。ここに居た記憶としましょう。持っていても別に良い事などありませんし」
「生き返れる...というのか?」
「勿論、100%でございます」
悪魔は呪文を唱える
「...どうせ忘れるだろうから、一つだけ聞かせて貰っても良いか?」
「何でしょう?」
「何故、ここまでする? どう考えても可笑しい。結局、骨折り損では無いのか?」
「ああ、言い忘れてました。それはですね...」
..................................
....................
..........
「ぬ〜べ〜はもう死んでこの世には居ないんだ! 2度と俺達を助けてくれないんだ!!」
「うそ」
男は黄泉から帰ってくる
「この世には目には見えない闇の住人がいる」
男はゆっくりと歩み出す
「奴らはときとして牙をむきお前たちを襲ってくる」
カツン...カツン...
「俺はそんな奴らからお前たちを守るためなら」
カツーン...カツーン...
「地獄の底からでも蘇り、かならず•••来る」
教え子を守る為、彼は再び現世へと戻った。
..................................
....................
..........
「...これで、良いのでしょうか? 臨時のバイトさん」
それは女性であった。嘗て、山奥で自殺した女性...とある教師によって一時的に蘇り、そして短い間であったが生きる実感を再び味わった。
「あの人には恩があります...恋人と別れ、自暴自棄で死んでしまった私に励まし、生きろって言ってくれた。涙を流してくれた...」
「ご苦労様でした。短く、辛いバイトを」
「きっと...私は地獄に堕ちるのですね」
「それが代償です...死を覆してしまったので」
「...ありがとうございました。本当に...」
女性は消えた。きっと、成仏したのだろうと、自らあの世へ向かったのだろうと...
「...相変わらず、私は否定派ですねぇ」
魔界での修行時代...師は1人、弟子は2人いた。
「最も、それはお互い様の様ですが」
片方は悪魔、もう片方は死神...2人は仲が大変悪かった。それこそ犬猿のそれである。
考え方も、好みも、性格も反対である。故に喧嘩ばかりであった。
ーー人は幸せを迎えた後、醜くなるんです。だったらそうなる前に終わらせた方が良いでしょう! 何故それがわからない!!
ーー阿保か! 人は生きていく中で良くも悪くも変わる事が出来るのが良いんだろうが! それをテメェの基準で勝手に終わらせるだと? ふざけんじゃねぇ!!
喧嘩ばかりであった。
ーーなぁ死神...幸せってなんだ?
ーー成る程、等々頭がおかしく...
ーー違ぇよ!...俺は生まれてこの方、そういったのを余り感じた事が無いんだよ。
ーーみたいですね。
ーー答えってあるんだろうか? 幸せってのは本当に見つかるのか? って、俺が考えている理想は本当は違うんじゃないのか...そう不安になるのさ
ーー...
ーーお前の幸せは何なんだ? いつの間にか自分で聞く羽目になったよ...お前はどうなんだ?
ーー変わりませんよ。人を幸せのままに殺すのが死神である私のそれですから
ーーそうか...
「あの時、言いそびれてましたが、私も見つける事が出来ましたよ...決して元に戻る事のない幸せを...自分だけの幸せを...」
幸せは、失った瞬間に傷となる。
傷は、永ければ永いほど歪んでしまう。
最早、彼の傷は元に戻らない。幸せが戻らないのだから...
「だからこそ、私は死ぬ訳にはいかない」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...
−オマケ(蛇足)−
昔...まだ戦前の日本。昭和10年頃、悪魔に弟子入りした人間が居た。
家族を知らず、過酷な環境に生きてきた彼にとっての幸せは、狂気であった。
特に好きだったのは赤色と白色と青色であった。
悪魔は気付いていたが、敢えて止めずに彼に望む知恵を与えた。
2年後のある日、彼は悪魔に襲いかかった。自らの幸せの為、利用していたものを殺しにかかった。
だが、忠告を破った彼は顔と言葉を失ってしまった。悪魔は殺しはしなかった。閉じ込めた筈だった。
脱走した男は悪魔から逃げる為、決して外せない仮面を被り、決して悟られない様に精神を削り、ただ幸せを満たすだけの殺人鬼と化した。
喋る言葉は質問のみ
赤と答えれば、血まみれになる
白と答えれば、血を抜かれる
青と答えれば、水に沈められる
最早、彼の本名を知る者はいない。唯一解っているのは、彼の名字の頭文字「A」だけである。